きっかけは自室
自分も高校の時に寮で生活していました。
その経験は……まるで小説に反映されていませんけれども(ボソッ
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今、私の前に蛇に睨まれた蛙がいたら全力で蛇を説得してやろうと思います。
蛙さん、あなたの気持ちはよーくわかるよ!
綺麗な顔の生徒が私をおもいっきり無表情で私を見下ろしている。
逆光でキラリと光る眼鏡と、その奥からビシバシ向けられている冷たい視線と空気が私の全てを凍らせる。
彼は私を見下ろして5秒ほど黙っていた。
漫画やアニメだったら背景は確実に猛吹雪で私の体は氷に包まれてる筈だ。
目の前にそびえ立つ生徒―――――――もとい『生徒会長サマ』は抑揚の無い、事務的な口調でもっともな事を口にした。
「此処で何をしている」
「(ひぃっ!喋った!)す、すいません!…あ、あの、えーっと…そのちょっとシュミレーションを…ですね…」
「名前は」
まるで首筋に氷の刃を突きつけられているような緊張感と悪寒。
綺麗な顔をしているだけに物凄いプレッシャーというか威圧感というか恐怖も倍増です。
……年下なのはわかっているんだけど、どうしても敬語になってしまう。
「え、江戸川 優です」
「江戸川…――――?あぁ、正し屋の方ですか。失礼しました…僕は真行寺院 禪と申します」
「は、はい!宜しくお願いします」
宜しくお願いしますと自然に頭を下げられて、慌てて頭を下げた。
頭を下げながら、羞恥心とか情けなさにいっそのこと気を失ってしまえ!と念じてはみたものの、そーそー都合良く倒れることもなく込み上げてくる居た堪れなさと戦うしかなかった。
昔のドラマとか漫画とかだったらヒロインは呆気なく気を失ったりするんだけど現実はそんなに甘くない。
私なんか力の使いすぎ以外に倒れたことなんてないもん。
だから、私にできることはただひとつ。
目の前の彼が先ほど見た私の失態を忘れてくれる事を願うだけだ。
――――――――…勿論、彼に対してしたお辞儀が90度に近いものだったのは言うまでもない。
◇◇◇
私がこれから1ヶ月間寝食を共にするという相手は、年下とは思えないほど礼儀正しく有能な生徒会長さんでした。
部屋へ入る前に記憶から抹消して欲しいと思う失態を晒した私は、部屋の中にいます。
ああ、そうそう……部屋っていっても、学校の施設とは思えないほどに広くて高そうなオーラを発する家具に囲まれた部屋の一室だったりするんだけども。
私はまだまだ人生の勉強不足だなーと何処かショートしている頭で考えたんだけど、チョット恥ずかしいので口には出していない。
途中まで案内してくれた靖十郎は真行寺院君が実費でこの部屋を作ったっていってたんだけど……心の底から今、私は彼に問いたかった。
「…真行寺院君ってもしかして物凄い大金持ち?」
「いえ、普通だとは思いますが?」
「そ、そっか…普通、かぁ…」
彼の普通って一体どんなだ。
と、私は部屋を見渡して心の底から思った。
部屋が広いのは元々大人数が集まる部屋だったからっていうのはわかる。
(でも、ここまで内装がすごいなんて聞いてません!!)
部屋自体を見渡せばシンプルで無駄のない、洗練された空間だと思うだろう。
でも、私は騙されない。
何度……なんど、須川さんの衝撃ショッピングに付き合ったと思っているのだ!
この恐ろしくしっぽ巻いて逃げたしたくなる衝動は年収と同じくらいの品々がポンポポーンと置かれている証拠だ!だって怖いもん!あの棚とか机とか椅子とか触れない!
下手に動けないとか、心と体を休める以前の問題だと思う。
「部屋といっても3分の1のスペース…つまり此処は準生徒会室として使用しています。使用するのは主に学校に関する相談や校内で処理しきれないもの、又、書類などは全てこの部屋にあるので生徒に聞かれては不味い事や学園祭などの行事についての打ち合わせはここで行なっているのですが、今回『正し屋』さんに依頼されている一切もこの部屋を本部として使っていただくことになっています。完全防音なので安心して話ができ、鍵も付いているので口外しない限り他の生徒に話が漏れることはありません。盗聴などに関しては『正し屋』さんが手を加えてくださったので安心できるでしょう―――――――…部屋はこちらです」
「は、はい」
教科書を読んでるみたいな、噛むことも言い淀むこともなく長ゼリフを言い切った彼にうっかり拍手しそうになったけど耐えた。
靖十郎とか封魔なら乗ってくれそうだけど、まだ生徒会長サンはまだ様子見です。
もーちょっと仲良くなったらうっかりを堪えなくても良くなりそう。
生徒会長さんの仕事部屋らしい部屋の印象は優良会社の応接室。
ソファやテーブルがあって、テーブルの上には一輪挿し用の花瓶に活けられた桔梗とカスミソウの花。
その奥には校長室にあるような立派な机があって、パソコンや書類、電気スタンドといったものや他に必要な雑貨などが置かれている。
…でも雑多な印象を受けないのはなんでだろう…私のデスクとは大違いだ。
そんなことを考えながら、出口とは違う扉に向かって歩いていく彼の後を追う。
コンパスの差があるので気持ち小走りになってしまうのは仕方がない…物凄く複雑だけど。
それにしても、と自分の前を歩く年下の彼を見上げる。
(最近の高校生は発育がいいよね……何を食べたらこんな風に大きくなるんだろ?)
靖十郎だって小さいとは言え、彼だって私よりは背が大きいしこれから伸びるんだろう…多分。
聞いてみたら1~2ヶ月に1センチは伸びてるっていってたし。
タイトルを付けるなら『恐るべし男の子!』だね。
私なんか小学生の時にぐいーんと伸びてソレっきり。
中学に入って初めての身体検査では身長が2センチも縮んでそれっきり変化はなくなった。
ちなみに友人らには“幻の2センチ”と呼ばれている。
「ここが――――……?どうかしましたか」
「は!?す、すいませ…!なんでもないです…ちょっとぼーっとしてました」
「そうですか。では、どうぞ」
ちなみにずーっと真行寺院君は無表情のまま。
自分よりもかなり落ち着いた雰囲気だからつい忘れそうになるが彼は年下だ…何と言うか物凄く居た堪れない。彼には出会い頭からあまり人に見せられないところばかり見られている気がする。
忘れてくれないかなーと思いつつ、部屋の中に入って私は目を疑った。
仕事部屋みた当たりから「もしかして?」とかって思ってたけど、予想にたがわぬ充実っぷりだ。
この充実っぷりは私の一人暮らし時代よりもかなり素晴らしいことになってる。
まず、少し大きめのシステムキッチンと両サイド左右の壁には何とも寝心地がよさそうなベッド。
箪笥は勿論あるし、本棚も完備。
冷蔵庫も机もテレビもついているしエアコンもばっちりだ。
室内には後2つドアがあったんだけど、その片方はお風呂と脱衣所兼洗面所、もう片方はトイレらしい。
「えーと…これ本当に寮の部屋?何か普通はもっとこう…」
「父の知人に頼んだらこのようになったんです。不便ではないので戻しませんでした」
「なるほど」
確かに不便はなさそうなので私はあっさり納得した。
でも、これだけの装備を充実させちゃうっていうのはすごいと思うんだよね。
分からない事があったら聞いてください、といわれたので荷物について訊ねると食事をしている間にはこの部屋に届くとのこと。
「(うん、寝る時サラシを巻きっぱなしじゃないといけないこと以外は何とかなりそう。着替えするところもあるし、ちゃっちゃと着替えちゃえばこっちのもんだよね…大丈夫、きっと何とかなる)」
「そろそろ食堂へ行きましょう。朝食は朝7時30分、夕食は6時です。夕食に遅れる場合、朝食後寮監の先生か食事を作ってくださっている方の誰かに申し出るようにしてください」
廊下を歩きながら、他にも外泊届けの出し方や外出の仕方を教えてくれた。
面倒だけれどちゃんと紙を提出しなければいけないらしい。
まぁ、当然といえば当然だけど…何かあったら困るし。
ちなみに夕食の時間が決められていて、遅れる申請をしなければいけない理由は夕食時にあっさり解決することになるのだけれど、食堂へ向かうために廊下を歩く私はまだ分からずにいたのだ。
…で、食堂に行くまでに敬語で話すのをどうにかして止めさせないとまずいと思うんだけど誰か上手い切り出し方知りませんかね?
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うpするまでに一度書いていたものが消えました。ふっ…(遠い目
ここまで読んでくださってありがとうございます!次も早めにうpできるように頑張ります。