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正し屋本舗へおいでなさい  作者: ちゅるぎ
潜入?!男子高校
41/83

きっかけは協力者

 生徒会長はクールな眼鏡だといい。

ちょっとヘタレな眼鏡でもいいけど、指導とか指揮とか取る人はやっぱりクール系で眼鏡だと思う。いや、裸眼でもいいんですけど…でも…(エンドレス)

.







 舎監室がある棟に生徒はあまり近づかない。



用事がある時や行事の時とか必要に応じて近づきはするけれど、どうせなら自分の部屋や友人と話している方が気楽だし楽しいんだって。

 これを聞いたのは、自分の寮がわからなくてウロウロしている時に偶然会った三年生の生徒から。

偶然にも私の生活拠点になる『夜桜寮』の人らしい。

ちなみに生徒の間で正式な寮名は恥ずかしいから「山」「夜」「雲」と呼んでるとか。

確かに一文字だったら何かの暗号みたいだけどわかりやすい。






「にしても、噂にゃ聞いてたんだけどマジでちまっこいなー。靖十郎より10cmは低いんだろ?」





 ぐりんぐりんと頭を回されながら、コンプレックスをピンポンされた。

そりゃ女だからね。でも平均よりちょっと低いくらいで極端に小さいってわけじゃない、と思う。周りがでかすぎんだよ。何食べたらそんなに成長するんだ!






「どーせチビですよ。両親のどっちかが低身長だったんじゃないですか」



「だったって、お前なー。自分の親のことだろ?」



「小さい頃に事故でなくなったので写真と育て親だった祖父母の話でしか知らないんですよ。その祖父母も亡くなってますからね」



「そ、う…なのか。悪かったな」



「随分前のことだし心の整理もついてるから特に気にしてないんで大丈夫です。あの、先輩……少し気になってることがあるんですけど、いいですか?」



 


 バツの悪そうな顔から一転して、なんだ?と話題の転換に乗ってきてくれた。

気にするなって言われても気になるよねー……ほんとに気にしない人もいるけど、数少ないし。高校生位だったら上手い話の逸らし方とかもわかんないはず。

 安堵の色を滲ませた少年とも青年とも言えない年齢の“先輩”を視て私は覆わず苦笑して、これから尋ねることを考えた。

聞きたかったのは、屋上から飛び降りた生徒のこと。

確か3年の生徒だった筈。

もし、この先輩が飛び降りた『松下』っていう子の友達だったらかなり気まずいけど、仕方ないよね。

須川さんも情報は多いほうがいいって言ってたし、ゲームとか漫画なら確実に同級生から情報収集はお約束だしね。





「3年D組の松下って先輩なんですけど……知ってますか?」



「今日、飛び降りたやつだろ?俺は直接話したことはないなー。ただ、あんまいい噂はなかったぞ?カツアゲ紛いのことして遊ぶ金工面してたらしいし、何度か補導されたこともある。ああ、そうそう俺達の寮には『生徒会長サマ』が居るから不良まがいの連中はいないから安心しろ」



「不良かぁ……封魔の顔みなれちゃったからあんまりビクビクはしなさそうです。封魔の顔初めて見たとき、うっかり『どこの組みの所属ですか?』って聞きそうになりましたもん」





 怖かったなぁ、と遠いところを見てつぶやけば大爆笑した先輩にバシバシ背中叩かれた。

男の子のノリがわかんない。果てしなく謎だ。

それから私は先輩の後を歩きながら、どうにか情報を引き出すことに成功した。

途中で別の先輩とも会って、彼からも色々情報をもらえたんだよね。

表情の変化とか色々気を付けながら見てたんだけど、軽口を交えながらだったこともあって先輩達もアレコレ聞く私に気分を悪くした様子はなかった。

 それだけじゃなくて、面倒見がいいのか話しをしたかっただけなのかはわからないけど、私が聞いたこと以上のことを教えてくれたりもして本当に助かりましたとも。ただただ感謝です、ハイ。


 先輩達の話をまとめると、松下という生徒は典型的な不良と呼ばれる生徒だったみたいだ。

問題児だけど手を付けられないほど酷いってわけじゃなくて…『何となく』不良と呼ばれるようになったって感じなんだよね。

きっと、自分の思ってることを口に出したり表現するのが苦手で、どうしていいのかわからない不安とか苛立ちが外に出たパターン。こーゆーのは正し屋としていろんな人と関わってく内に何となくわかるようになった。

 その感情や有り余ったエネルギーを悪い方向じゃなくて良い方向…例えば自分の好きなこととか、夢だとかに向けられるようになっていればいろいろ違っていたんじゃないかと思う。






「(でも、もうどーしようもないんだよね……せめて成仏してくれればいいんだけど)難しそうだなぁ」



「ま、悪いことだけじゃねーって。確かあの部屋ってクーラーついてたよな?」



「流石にテレビはないみたいだけど、冷蔵庫とかそーゆーのはあった。去年、三寮祭の打ち合わせであの部屋つかったんだけど…ある意味、校長室よりすげーわ」



「先輩…えーと、一体なんの話ですか?」




 自分の思考にがっぱりはまっていた私は慌てて軌道修正を図った。

どうやら心の声がこぼれ落ちてたらしく、こぼれ落ちた言葉は聞いた先輩たちは直ぐに“部屋”のことを言っていると思ったんだそうで。






「部屋って、えーと、コレですか?」



「そ。ソレのこと――――今日編入してきたばっからしいし知らないのも無理はねぇけど……俺なら物置で寝たほうがいいわ」



「同感だな。いくら年下とはいえ、オレもご勘弁願いたい。はー、ストレスでこれ以上縮まねぇよーに封魔とか靖十郎とかで発散しとけよー。アイツらなら色々気ィ回してくれるはずだ」



「先輩たちはあの二人のことよく見てるんですね」



「まぁな。封魔はあんなナリしてるけど気持ちのいいヤツだし、靖十郎は弄っても面白いし真面目な話もできる。ふざけるっていったって限度も節度も引き際だって分かってるから、ついつい…な?」



「ん。俺らの寮は他の寮より先輩後輩っつー垣根は低いから、だいたい他のやつでも性格が分かれば面倒みたり見られたりって感じ。お前もなんか悩み事があったりしたらちゃんと言えよ?ただでさえ、ちまっこくて気付くのに時間かかるんだからよ」



「ぎ、牛乳飲んで頑張ります…色々絶望的ですけど」




やっぱりこの身長が目立つのか!と項垂れた私を先輩たちは楽しそうに茶化し、励ましながら私に色々吹き込んでくださった。

 ちなみに、私の部屋が分かったのは貰った鍵についてる部屋番号を見たかららしい。




「じゃあ早速質問しますけど、同室の相手っていったい誰なんですか?すっごく怖い、とか」



「怖いっちゃー怖い部類だろうな。さっき話しただろ?『生徒会長サマ』だよ」





 生徒会長、でポンっと頭に浮かんだのは髪を8:2に分けた生真面目そうな眼鏡の美男子。

水の性質を多大に持った良くも悪くも高い霊力を持った“こちら側”の人間。

切れ長の瞳はキンっと冷えた川水か井戸水みたいで夏にピッタリだ。


 だけど、残念ながら私にとって彼が同室であることは拷問というかかなり危機的状況です。

鋭い人が同じ部屋だと、本来の性別がバレる危険性がかなり高い。

元々うっかりしてる私だからこその不安がいっぱいある。

特に仕事で見回りをしたあとなんかは色んなものが一気に緩むからホントに危ないと思うんだよね。

気をつければいいのはわかってるし、実際言うのは凄く簡単だ。


 だけど、夜の見回りの後って“力”を使うからすっっっっごぉく疲れる。


なんていうかなー、全身全霊をかけてぐったりする感じ?

だから注意力も散漫さんまんどころか皆無になるし、必要最低限のことだけしかする気力が残ってない。例えばお風呂に入って、服を脱いでそのまま爆睡とかもよくあった。今でもある。





「(でも、彼が潜入調査に協力してくれるんだよね?ってことは依頼をこなすっていう観点から見るとそーとー動きやすい筈。あれだ、生徒会長ってだけあって優秀です!ってオーラがもやんもやんしてたし。でもなー、気軽におしゃべりとかできなさそうなんだ……どーしよう、延々と説法とかされたりしたら。あと、朝と夜のBGMがお経とかかなり遠慮させて欲しい)」



「ま、がんばれ!お前ならできる!」



「なんかこの緩~い感じであの生徒会長をどーにか柔らかく……いや、それはないか。とにかく頑張れ」





 黙り込んだ私の肩を叩いた先輩達は爽やかに親指を立てた。

多分うっかり涙目になった私は悪くないと思うんだ。

それに気づいた先輩たちはポケットから飴玉とかガムとか色々くれて少しだけ気分が上昇した。

 だって大好きなレモン味の大玉飴だったんだよ!




「ま、何かあったら俺らとか他の奴に相談しろよ?同じ寮の奴らなら絶対相談に乗るから」



「編入生だからわからないこともあるだろ、遠慮なくそこらの人間に聞け。基本的にこの高校、気のいいやつが多いから。まー、関わらないほうがいいのもいるけど、大体見りゃわかるし、靖十郎と封魔にくっついてりゃ病院送りになることはないだろ」




 なんていうか、ものすごく前途多難だ。

先輩たちは中庭に行くらしく、私を寮の入口まで案内してくれた。

お礼をいってぶんぶん手を振って見送ったんだけど何か苦笑されてしまったよ…なんでだ。






◇◇








 私が寮の中でさ迷う覚悟を決めた時、バツが悪そうな靖十郎が声をかけてくれた。


なんでも急にトイレに行きたくなって脱走したけど途中で私を放置してたことを思い出したらしい。

とりあえずまっ先にお腹の具合は大丈夫なのかって聞いたけどモノっすごい勢いで気にするなって力説された。大丈夫ならいいんだけどさ。





「んで、ここがオレの部屋。もし生徒会チョーと同じ部屋にうんざりしたらいつでも避難してこいよ?」



「避難っていったって……同室の人に迷惑かかるでしょ」



「封魔と同じ部屋だっていってなかったか?」



「聞いてない。毛ほども聞いてない!でも、同じ部屋だから仲よかったんだ?」



「まぁなー。話してみると結構いいやつでさ、何かと話すようになったんだよ」





 なるほどなるほど、と歩きながらいろいろな話を聞いた。

封魔とした無茶なこととかテストで黒点をとって古風にも廊下に立たされたこととか、成人して社会人なんかしている私からすると凄く青春してるなぁ…って感じ。

若い子に囲まれてると時々テンションについていけなくなるっていうか、居た堪れないっていうか、すごく切なくなる。もっと楽しんでおけばよかったなーとか思うんだよね。当時は自分なりに楽しんでたんだろうけど。


 そうそう、靖十郎から聞いて量での生活について少しだけ判った。

まず、部屋の中の家具は基本持ち込み自由。

一番多いパターンはトイレ・シャワー・簡易システムキッチンつきの2人部屋。

三人部屋は寮に5つしかなくて、1人部屋はさらに少なく1寮につき1部屋。

んでもって、その一人部屋に住めるのは各寮の寮長だけ。

これを聞いてようやく自分が1人部屋を使う訳にはいかない理由を知った。

 編入したてで一人部屋に入った日には『私は特別ですよー』と口外して歩いてるようなものだってことだ。





「靖十郎、でもさ、部屋があるのってここで最後だっていってたけど、351号室なんてなかったし…部屋も277号室で終わりなんじゃない?ほら、部屋ここで終わりだし行き止まりだもん」



「だよなー、普通は。初めにわかりにくい、っていったろ?目立つし慣れれば何てこと無いんだけど……此処が351号室。オレらは時々『生徒会長の間』とか言うこともある」





 不思議そうな顔をしている私を見た靖十郎は苦笑しながら、ある部屋の前で歩みを止めた。

廊下の突き当りにある、ルームプレートも何もないドア。

他の部屋とは作りが違うそのドアに気づいてはいたけど、まさかこれが生徒が生活する部屋の入口だとは思わなかった。

 …頑丈で大きな扉は妙な威圧感があるから、てっきり会議室とか相談室とかそーゆー感じの普段使ってない部屋だと思ったんだよね。


 靖十郎は少し躊躇ためらった後、ドアを開く。

ドアの隙間から顔をのぞかせると5m位の廊下があってその奥には高級感あふれる扉がドーンと存在感を醸し出していた。

扉の上に張り付けられている金色のプレートには確かに『351』と書かれている。

 





「こ、此処なんだよね…?」



「おうとも。あーと、その……悪い、オレここまででいいか?オレの部屋にくるならメールしてくれりゃここまでくるし、飯の時にはメールするからさ」



「あのさ、いくら生徒会長だっていってもこの部屋はないと思うんだ」



「元々この部屋って勉強部屋だったらしいんだよ。ま、オレら勉強は大体大広間でやってるし先輩達もこの部屋使わなくて結構長い間放置されてたのを生徒用に改造したらしい。ま、今は広いからってんで第二の生徒会室みたいになってるって封魔がいってたっけか」



「へぇ…部屋に帰っても仕事って何だか完全に仕事中毒みたいになってるんだねぇ」



「部屋に帰った時にのんびりしなくていつするんだって話だよな!オレ、ココだけの話生徒会チョーってロボット的な何かなんじゃないかと思ってたりするんだよ」





 ロボットはさすがにないだろ、と笑う私に靖十郎はガッと肩をつかんですぐにわかる、と意味深なことを言い残して自室へと戻っていった。

…うん、不安しかないよね!

割合的には不安8割、後悔2割ってとこだ。



 よいしょ、と手にもっていた荷物を抱え直して私は扉の奥へ進むことを決めた。

正直、回れ右をしてそのまま舎監室にいる須川さんに帰宅したいという嘆願書でも突き出したいけどそーはいかない。たはーと自分の情けなさやら諦めの悪さにため息をついてどうにか扉の前まで歩く。

なんていうか、もっと普通の部屋だったら緊張感も格段に違っただろーに、と思う。

間近でとびらをかんさつしていた私はインターフォンがあることに気がついて、緊張がピークの山頂付近まで登っていくのに気がついた。

よーするに、この部屋に足を踏み入れる覚悟がまだ出来てないんだよね。




「(普通に部屋に入るのにも緊張するのに、何でこう特別仕様な部屋をチョイスするかなぁ…誰だよ、この部屋に私を入れる気にさせたのは!!いや、須川さんだろうけども)」




 気分は初めて跳び箱を飛ぶのに、練習も何もなしぶっつけ本番で7段。それも沢山のギャラリーに見られてのチャレンジです!みたいな感じ。

私はとりあえず、チャイムを押そうと手を伸ばす……んだけど、何度も触れる直前で挫折。




「(ふぬおぉお、物凄い緊張するよ!!なにこれ!緊張しすぎて息がしにくい!)」




 普段なら緊張はしないんだろうけど、これは初めて任された依頼。

出来るだけ失敗したくないのに、初めてのルームメイトは協力者であるだけじゃなくて色んな意味で影響力がある人間。

…ちょっとでも馬が合わなかったりしたら最悪な事になりかねないんじゃないかって思うのが人間の性というもの。いっくら私が緊張感がなくて、人から呆れを通り越して感心されるくらい鈍感な人間だとはいっても流石にこれはキツイ。





「(うなぁぁあぁあ、震えるな指ぃいぃいいぃ!!気をしっかり持って、自分!!大丈夫、私ならやれる!そう、きっとやれる筈なんだ。大丈夫、この扉の向こうにはオアシスが広がっているはず…!!信じろ、自分の何かを…っ!!信じ…)信じ…………って、やっぱり駄目だぁぁああぁぁぁぁ!!」



「――――――何が駄目なんだ」




「何ってそりゃこのピンポーンを押す勇気がでないってことだよ!!だってこれ緊張しない方が無理…っ、無理すぎるってば!!大体さ、自分を信じろって自分の何を信じろと?不運なところ?だって不運くらいしか自信を持って他人にお送りできるものが無い…って、アレ。これかなり痛くね?かなーり痛いよね?人としてっていうかいろんな感じで……うっわ、何か自分の未来どころか明日も霞んで見えな――――――――――って、今なんか声っぽいものが聞こえたり聞こえなかったりしちゃった、り…?」




 気配がする、背後から。

思わずギギギギ、と油が切れたブリキの玩具みたいなぎこちない動きで首と上半身を回す。

振り返るとそこには見覚えのある制服があって、ゆっくりゆっくり視線を上へ、上へ向けて行けば……ものっそい綺麗な顔の男の子が、おもいっきり無表情のまま私を見下ろしていた。

きらりと光る眼鏡と冷たい視線や空気はまるっきり不審者を見る時のそれだ。








 お、終わった…!ごめんなさい、依頼人のみなさんそれから須川さん。

今たしかに私の何かが終わりました!撤退したい!できれば全速後退して引き篭りたいです!!

まさか盛大に独り言をこぼしているところを見られる羽目になるなんて思ってもみなかったよ…!






.

 寮へ潜入しました。

次は…多分、晩ご飯とか。その次くらいには夜の潜入調査……になるといいなぁ。


ここまで読んでくださってありがとうございました!

誤字脱字変換ミス及び文章に妙ちくりんなところがありましたら教えてくださると大変に助かります、ハイ。

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