きっかけは七つ不思議
定番の七不思議。
自分の通っていた小中高にはなかったです。
…いいなぁ、七不思議。
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視える事ができるようになってから私は、どんなものにも二つの顔があることを知ったのです。
サラサラの黒髪をゆるく8:2で分けた彼は私を見て“判った”らしい。
独特の存在感がある人は“こちら側”の人間が多いことを私はこの一年で学習していたから、彼もきっとこちら側なんだろうと思った。多分、彼も同じように感じたんだと思う。
確信を持ったのは眼鏡の奥にある瞳を見た時。
少し見開かれた切れ長の瞳を見ていると何故か“水”のイメージがポンっと頭に浮かぶ。
お寺みたいな苗字の彼は綺麗な小川のイメージだった。
ちなみに、須川さんは花と文字が、雅さんは香りのイメージで浮かぶらしい。
個性が出るんだと山神様(白吉、通称シロの元上司。不法投棄された森の神様)が教えてくれた。
山神様と持参した供物を摘みながら、何でお菓子とか料理で浮かばないんだろうねーなんて話をしたのは記憶に新しい。
ついでにいえば、報告した時の須川さんが顔を手で覆って「貴方をあの森に放り込んだのは間違いだったのかもしれません」と深い溜息と共に零していたことも、ピチピチした思い出です。
互いにじーっとお互いを観察していると、隣にいた靖十郎が居心地悪そうに体を捩った。
いつの間にか私の背後に移動していた彼は食堂の喧騒に掻き消えてしまうくらい小さな―――でも、近くにいた私にはバッチリ聞こえる位の声で呟く。
「オレ、苦手なんだよなァ。生徒会長。なんか、暗いって言うか冷たいっていうかさー…」
「(まぁ…性質的に水だしね、彼)そう?真面目そうだし、何か面白そうだよ?ああいうタイプって実は面倒見がいいか、極端に悪いかのどっちかだし」
「やっぱ優って変だと思う」
「靖十郎に変って言われたの今が初めてだけど、“やっぱ”ってことはどっかのタイミングで俺を変だって思ったってこと?」
「いや、あー……で、でもさ。変わってるっていわれるだろ?」
「い、いわれ………ないこともないけどさ」
斜め前から封魔のものらしき物凄く呆れ果てた視線を感じる。
でも、大人な私は美しいスルーを決めたった。ふふん、大人の対応だってできるんですよ!
…残念だったのは、私と靖十郎が会話している間に眼鏡の生徒会長さんがどこかへ行ってしまったことだけど、そのうち会えるような気がするのですっぱり諦めた。
寮に入るみたいだし、情報収集は学校が終わってからでも出来るし。
……いや、別に言い訳とかじゃないからね。違うから、うん。
◇◇◆
昼食を終えた私たちは談笑しながら教室へ戻った。
移動中も私に向けられる視線が減ることはなくて、何だか更に増えたような気がする。
多分、目立つ靖十郎に加えて色んな意味で人の目を引く封魔が居るからだと思うんだけど。
封魔と靖十郎のやりとりを聞くのは面白いし、注目されることにも慣れて気にならなくなってきたから意識することをやめることにした。
それに潜入調査一日目で名前呼びできる年下の男の子がいるっていうのも有難いしね。
「そういえば、結局怖い話聞けなかったなー」
「怪談聞けなかったくらいで肩落とすほど落ち込むのはお前かオカルト好きくらいだよなぁ。封魔、お前なにか知らね?」
「ああ、そういや『栄辿七つ不思議』って知ってるか?」
「七つ不思議って……学校によくある七不思議のことだよね?」
「そ。まー、毛色は違うがな」
ふっと脳裏に浮かんだのは赤い光。
短く点滅する光を感じて、私は意識の片隅で“繋がってる”存在に向けた。
繋がっている先にいるのはチュンとシロ。
私が今“使役”しているのはチュンとシロだけなんだよね。
本当のことを言うと使役してるっていう言い方は嫌。
確かにに一方的に呼び出す感じはあるけど、向こう側が少しでも渋ったら帰すって約束を勝手にした。
そもそも私と彼らの間にあるのは山神様曰く上級の契約らしい。
下級契約は呼び出すだけ、中級は実態化も可能、上級は術者の能力にもよるけれど実体化ができる上に強力な守り神(言い方を変えると守護霊)になることもできるんだって。
シロとチュンに危ないかもしれない、と言うことを伝えてから私は話を切り出した。
「その、封魔の言う七不思議ってどんなの?」
「俺が知ってんのは『閉ざされた焼却炉』ってヤツ」
「オレも『咲かない花壇』なら聞いたことある」
「『焼却炉』と『花壇』?もっとベタな“動く人体模型”とか“目が動くベートーベン”って感じのだと思ってた…ソレ、この学校限定の怪談だよね?」
私の問いかけに二人はそういえばそうだよな、とそれぞれ納得してた。
むしろ今まで気付かなかった方が凄いんだけど…と言いかけたところで靖十郎が突然動きを止める。
苦手なものに遭遇して全身で警戒している犬みたい。
うーん、高校生には不適切かもしれないけどなんか可愛いです。頭撫でたら怒るかな?
「靖十郎?何か見え……――――― 眼鏡の生徒会長さん?」
「ッ!この話はやめやめ!!そろそろ江口の授業始まるぞ!」
「あ、数学の先生?もしかして凄く怖い先生、だとか?」
授業が始まる前に聞いた話はこっそり机に書いた。
コレは数学の合間にノートの片隅にメモして、後できちんと用意した記録用のノートに書き写せばいいよね。須川さんと会うのは寮の消灯時間が過ぎて部屋に見回りしに来た時になる。
学校で会えてもこーゆー話はできないし。
真面目な顔を装って黒板に書かれていく文字をノートに写す。
数学も算数も嫌いだったけど、数学担当の江口先生はかなり厳しい先生らしくて居眠りをしている生徒や授業を聞いていない生徒を徹底的に当てるらしい。
一応ノートをきちんととって先生が横を通った時わからないところを質問して問題を解けば授業をちゃんと聴いてるアピールはできると思う。
そんなことを考えながら私は、シャープペンで隠せるような場所に聞いた『閉ざされた焼却炉』と『咲かない花壇』と書いてノートをめくる。
白紙のページに黒板に新たに書き込まれた文を書き込むべく、手を動かした時のこと。
「(え……?)」
空気が変わった。
慌てて視線だけを教室内に巡らせて不自然じゃない程度に周囲を見回す。
――――― 変化どころか変わった様子は何もない。
隣の靖十郎は頭を書きながら問題文に向かっているし、前の席にいる風魔は背中しか見えないからわからないけど多分、起きてる。
天井や廊下側も“視て”みたんだけど、教室内に異常はなかった。
気のせい、だったんだと無理やり言い聞かせ用途した私は開け放たれた窓から聞こえてくる聞きなれた鳴き声にハッと視線を向ける。
(チュン?!やっぱり何かあったんだ…ッ!)
窓の外……森の方からピチチチッという鳴き声と共に羽音を響かせ一直線に私の元へ飛んでくるソレは、雀と呼ばれる生き物に見えるはずだ。
チュンの姿や鳴き声は普通の人間でも認識することができる。
警戒・警告しているときの鳴き声は主である私と霊力の高い人間にしか聞こえない。
(須川さんに連絡して!お願いっ)
チョコンと窓の枠に止まったチュンは、クリクリした黒くつぶらな瞳を目を私に向ける。
指示を出すと心得たと言わんばかりに二、三度羽ばたいて何処か―――――恐らく、須川さんがいる場所――――へ飛んでいった。
元々、送り雀という妖怪であるチュン(命名私)には危険が迫ると知らせてくれる、という便利な能力がある。最近は簡単な指示が通じるようになった。なんでも、伝書鳩ならぬ伝書雀として日々私の役に立とうとしてくれてるんだって。
「(須川さんに知らせが行ったら取り敢えずは待)……き?」
ほっと胸をなでおろした私は視線をノートへ向けようと、した。
でもなぜか私は素直にノートを見ずに、もう一度窓の外へ視線を向けていた。
今思えばこの瞬間からもう既に始まっていたんだろう。
ううん……私達がこの学校に足を踏み入れるずっと前から。
―――――――― 私の両目は確かに“黒”を映し出した。
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ちょこっとだけホラー要素入れてみましたー。
よし、寝よう。誤字脱字変換ミスなどがあれば活動報告などで教えていただけると幸いです。
見直しても気づかないことって多々あるんです…ぐすん