きっかけはお昼ご飯
新キャラ登場で怖い話にたどり着ける気がしない罠。
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遠足で言うと今は“遠足のお知らせ”というプリントを貰ったところかもしれない。
昼食を受け取る為の長い列に並びながら、何気なく周囲を見回してみる。
ざわざわと蠢く集団は、見渡す限り見事にむさくるしい青少年達ばかり。
彼らの目の前には大量の皿や食べ物。
ついでに言えば彼らの服装も自由すぎるもので大体が白いYシャツ姿なんだけど、Tシャツの生徒や上半身裸の生徒も居る。
…その中でも群を抜いてすごいのがパンツ一丁でカレーやらラーメンやらを食べている生徒だよね、やっぱり。肌色率が彼らによって10%は上昇してるもん。嬉しくない。
ちなみに、自分が行っていた学校は共学だったのでこのような壮絶な光景は見られなかった。
いや、日常風景になっても嫌だし。
「(カオスだ…男子校って、本当にカオスだ)」
「おばちゃーん、こいつ編入してきたばっかなんだ。サービスしてやってよ」
「おやまぁ、随分可愛らしい男の子が入ったねぇ。靖君も可愛いけど君も可愛いわぁ~…エビフライとデザートおまけね」
「!あ、えっとありがとうございま…うわ、あの、そんなにご飯いらないですって!その半分で十分どころか十二分ですからっ」
日本昔話のように山盛りにされているのに気づいて、ストップをかける。
なんとか危機一発のところでご飯山盛りの刑から逃れた私はホッとしながら、長いようで短かった列から離れて靖十郎の隣に並ぶ。
靖十郎は私のお盆に乗ったご飯の量を見て心配そうな顔で、そっと自分のお皿を差し出される。
「お前、ほんとにそんな量で足りるのか?俺が言うのもなんだけどそんなんだから成長しないんだぞ?」
「……ご心配ありがとう…気持ちだけ、ありがたく受け取っとく。授業中に食べ過ぎで動けなくなったら大変だし」
「そうか?腹減ったら言えよ?購買もあるし、何か喰おうぜ!」
「靖十郎、一体これだけのご飯はどこに行ってるんだ。お腹ぺったんこだし」
「は?いや、ふつーだろ。これくらい」
「異常だよ、この量は」
何せ私の成長期はとっくの間に終わってるんだからね!とは言えずぼそっと吐き捨てる。
食べても太る心配しなくていいなんてズルい。いや、心配してくれたのは嬉しかったけどさ…女の子にそれは行っちゃいけないよ。確実に敵に回すから。
お姉さんからのアドバイスです。…いえないけど。
ふっとまるでお母さんみたいになってきている靖十郎の将来を心配していると、彼は丁度良い昼食スポットを発見したらしく人懐っこい笑顔で私を誘導する。
食堂の一番奥、隅っこに存在している食事スペース。
扇風機がさり気なく置かれているそこは中々快適そうで自然と口元が緩んだ。
「あそこ、扇風機もあるし良い場所なんだよ!ラッキー、空いてるじゃん」
「座れなくもないけど、誰か座ってるよ」
そう、6人用のテーブルには先客がいた。
先客といっても1人だけなんだけど……そこには紅柄色に黒い文字入りのTシャツを着て猛烈な勢いで食事をしている不良チックな体格の良い青年が。
髪は地毛なのか、染めているのかはわからないけど赤みを帯びた髪は威嚇してるのかオシャレなのかわからないツンツンと重力に逆らってる。耳には赤い石(ルビー、みたいな感じの)のピアス、首には同じ赤い石がついたネックレス。
「(ぶっちゃけ、怖いんですけど…っ!!!)」
「アイツなら大丈夫だって。不良っぽく見えるけど良いやつだし、俺のダチだから……よ!ここ、座るぞ!」
「あ?んだよ、お前か。つか、大体いっつも此処に座ってんだろーが…何を今更」
「わりぃわりぃ。優がビビってたから一応な…ほら、な?大丈夫だろ?取って食われやしねぇーって!早くこっちこいよ!」
来い来いと手招きする靖十郎に私は恐る恐る近寄って、すぐ横に腰を下ろした。
目の前にはもごもごと口を動かしたまま私を見つめる不良青年が。
いや、怖いよ!ヤクザの下っ端くらいなら余裕で目で殺せるからね。グラサンでナイフのようなその視線を隠し…いやいや、グラサン着用したら冗談抜きで頭かマフィアのドンだ。
椅子に座っても腰が引けている私を暫く観察していた(睨んでる?)彼は、唐突に大きな手を私に伸ばす。エビフライを口に加えていた私はよけることもできず、ぎゅっと目を瞑った。
ん、だけども。
伸ばされた大きな手は、私を殴ることなくガシッと頭を掴んでぐるんぐるんと撫で…るっていうか首を取る気なんじゃないだろうかと思うくらいに回された。
あれ、遠慮のえの字も見つからないんだけど、迷子かなー。
「ぉごふっ!?!むご…ッ、ちょ、なにすん…っ」
「赤洞 封魔、お前の前の席。ま、好きに呼べ」
お前撫で心地良いな、とか何とか良いながら私の頭を撫で繰り回し、満足したのかニヤリとチンピラも逃げ出してしまいそうな笑顔を浮かべて、食事を再開した。
ちらりと彼の横を見ると空になった丼が3つ、大皿が2つ積み重なっているのに目の前には大盛りのカツカレー。その横には牛丼が1つ控えていた。
「(なんってーか物凄い食欲ですね、おっかない)」
何が怖いって彼の家のエンゲル係数と顔。
こんなに食べる人が家にいたら破産しそうだなーとか考えてつつ私も途中でお皿に還ったエビフライを口に運び直す。
エビフライを食べ、取り敢えずむしゃむしゃとキャベツの千切りを食べながらふと自分の前に座っているといっていたことを思い出す。
「(確かに、見覚えがあるような…ないような。私の席の前っていってたっけ?)」
席に座る時に目があったような気もするけど、うーん、あんまり覚えてないや。
ぶっちゃけ、私は人の名前と顔を一致させるのが苦手なんだよね。
すっごくわかりやすい特徴があればすぐに覚えられるんだけど……須川さんバリの美形とかね。
そういえば、初めは何で覚えられないんでしょうかねぇ、なんてちくちく嫌味を言っていた須川さんも私の物覚えの悪さが付いたらしい。
今はもう静かに私の肩(といっても大体頭)を叩く位です。
あ、オプションで深い溜め息と物凄く可哀相なものを見るような生暖かい視線も付いてくる。
お得な気がするような言い方をしてみたけど、やっぱりちょっとムカッとするのは此処だけの話だ。
ま、それは置いておくとして、この封魔という青年は以外に面白かった。
なんっていうか、外見とは違ってさり気ない気遣い屋さんらしい。
靖十郎がお母さんっぽいなら、封魔はお父さんっぽい。
あれだ、昔ちょっと悪でしたーみたいな感じの経験豊富な父ちゃん。
何故か、それを言ったら二人に物凄く怖い顔でそれぞれに肩をつかまれて凄まれた。
傍から見たら確実にカツアゲだったと思うんだよ。
隣のテーブルの生徒がガン見してたし、ボソボソと私のみを案じる声が聞こえてきたから。怖すぎる。
そんなひと悶着はあったものの、エビフライ定食(エビフライがものっそい美味しかった)を食べ終えて、主食といっても過言ではない甘味に手を伸ばす。
大福が最後になるように洋菓子と和菓子を交互に食べていた時、自分にひとつの視線が向けられていることに気づく。
「封魔?えーと……食べたいなら自分で買ってきてよ?エビフライは一匹くらいなら考えたけどコレはダメだから。命差し出すの同じくらいダメだから」
「……なぁ、お前甘いもん、好きなのか?」
「好きだけど、いくら封魔が怖い顔でおどしたって譲れないね、うん。ヤクザに絡まれても大福とシュークリームは守るって墓前に誓ったんだから」
「大福がいけるとなると餡子も大丈夫そうだな。嫌いなもんは?食えないもんは?」
「ははーん。嗜好調査をして気を引こうったってそーはいかんよ。口んなかに入れちゃうもんねーだ」
「いや、お前ら二人とも会話かみ合ってないから。つか、食いすぎだろ」
靖十郎のツッコミに私はケーキの刺さったフォークを突きつけた。
何だか咄嗟に「甘味王がどうの」って力説した記憶があるけど、何を言ったかまでは覚えてないんだよねー。どーにも甘いものの話になると歯止めが効かなくなるっていうか…反省反省。
そうして暫く靖十郎と会話していると、突然肩を掴まれる。
ぐっと思いもしない方向に引き寄せられて腰がゴキッと鈍い悲鳴を上げた。
「えっと、何?封魔。腰がアレなんだけども」
「お前、舌は肥えてるな?」
「は?あー、まぁ…甘味に対してのみだけど」
好みはあれど一通りの甘味を食べてるから味はわかる方だと思う。
専門家とかみたいに詳しい評価は出来ないかもしれないけど、ちょっとした人よりはわかるんじゃないかなーって思うんだよね。
ぼーっとしている私とあっけにとられている靖十郎の間に、封魔はものすごい爆弾を落としてくださりました。ちくしょーう。
「じゃあ決定だ。優、お前は今日から俺のもんだ」
真面目な顔で高らかに宣言した封魔の目はマジだった。
あまりの迫力にちょっと引き気味だった私は一瞬彼の言ったことが理解できずにいたんだけど、隣にいた靖十郎が素っ頓狂な声を上げたことではっと我に変えることが出来た。
ありがとう靖十郎。迫力に負けて首を縦に降るところだったよ!
「ちょ……はぁ?!おま、自分で何言ってるのかわかってる?どうーゆーあんだーすたん?」
「俺専属だから誰にも渡さん」
「いやいやいやいや!ちょ、封魔、何を真顔で危ない発言かましてんの!?俺に何させる気!?」
物凄いだらだらと冷や汗とも脂汗とも付かない汗が流れ、妙に顔が熱くなった。
なんだこの年下の癖に滲み出るエロスは!!本当に高校生!?
と思わず心の中で猛烈なツッコミをいれながら、首を必死で横に振った。
このエロスな雰囲気に呑まれたら終わりだ。何かが終わる!!人生的なものが。
「何、だって?そんなのきまってんだろ―――――――― 味見役だ」
「――――――……はい?」
「そーいやお前今日きたばっかだったか。俺ァ、将来パティシエになるのが夢で色んな菓子作んだよ。でも、ここの連中ときたら何でも“美味い”っていいやがるからな……だから舌の肥えたやつを探してたっつー訳だ。さっそく今日プリンかなんか作るから感想頼むわ」
思わずそう言うことなら紛らわしい、それでいて誤解を生むような発言をするなと私と靖十郎が情け容赦ないツッコミを入れたのは言うまでも無いと思う。だってありえねーと思うのですが。
ま、こんなことがあって私と靖十郎、封魔の3人は妙に仲良くなって、今後色々とあったりなかったりする…んだけど、ソレはまた別の話。
封魔の所為で妙な疲労感を抱えて脱力感に襲われたけどなんとかトレーと皿を返却し、給食のおばさん方に丁寧にお礼をいって座っていた席に戻る。
途中、食堂内の自動販売機で飲み物を買ったんだけど、さり気なく調査を開始した。
今回の仕事をするにあって、大まかにでも学校で起こっている“事件”の詳細を調べて置こうと思って色々探してみたんだけど結局何もわからなかった。
だから、最後の頼みの綱ってことで、須川さんに聞いたんだけど……結局何一つ教えてくれなかったんですよ。ひどいですよね?!だって散々死なないようにって準備させておいて肝心要の危険についてはなーんにも教えてくれないんだよ?!
あれだ、ジャングルに装備だけバッチリにしてなんの予備知識も与えず放置するようなもんだ。
勿論、ちゃんと抗議した。
抗議したんだけど……彼は神々しい笑みで“自分の足で調べてこそ修行ですよ”と切り捨てた。
だから、これから私は現場であせくせと情報収集を行っていこうとおもいます!
封魔は知らなくても社交的で顔が広そうな靖十郎なら一つや二つは知ってるんじゃないかなーって下心もある。
「そういえばさ、この学校に怪談とかある?俺さ、そーゆー話し大好きなんだけど」
「怪談?あー…そーいや、自己紹介の時に言ってたよなー。封魔、お前何か知ってる?」
こういう時のコツはあくまで緊張しないでサラッと話を降ることとタイミングだ。
突然すぎだろうがなんだろうが会話が途切れている時に切り出すと大体ノってくるんだよね。
どうやらそれは女限定じゃなくって男の子も同じみたい。
靖十郎が何かを思い出そうとしながら、何気なく封魔に話を振った。
「心霊とかそんなんなら俺の幼馴染が詳しいか。……真行寺院 禪っつーでかくて古い神社の息子なんだよ。ま、そーゆー経緯もあって怪談とかに詳しいんだよ。ちょっと頭が固いとこあるけど悪いやつじゃねぇし……会ってみてーってんなら紹介してやってもいい」
「(怪談好きな上にお寺の跡継ぎ…となれば結構な情報持ってそうだよね。なんか、意外と早く状況把握できそうかも)マジでいいの?なら、会ってみたい!」
「あー、真行寺院かぁ。オレ、あんま得意じゃないんだよなー…っと、噂をすれば」
寮の部屋の鍵だと思われるもので遊びながら口を尖らせた靖十郎はガシガシと空いている方の手で、自分の髪をかき混ぜる。気まずくなったりすると髪をくしゃくしゃにする癖があるらしい。
万人受けしそうな彼が人を苦手だという人物に興味とほんの少しの不安を感じ始めていると靖十郎が突然、ビクリと身体をすくませた。
「(って、なにこれ。凄い、澄んだ霊力――――― 流石、古い神社の跡継ぎだけあるわ。洗練され浄化しつづけた湧水みたいな霊力っていうのかなー?だいぶ神経質そうだけど)あ、あの眼鏡の?」
私の目が捉えたのはすらっとした、背の高い、硬そうな空気を纏った男子生徒。
なんっていうか、同じ年代だったら多少躊躇してたり構えてしまったりしていたかもしれない。
ま、生憎私は成人してるから「へー」って思う位で……っていうのは建前。
正直言えば、身内(というか上司)にこれ以上ないってくらい怖い人がいるから図太くなったんだと思うんだよね。日々弄られ、宥め透かされ、いいように手のひらで転がされて生きている感じです。
この出会いがいいのか悪いのかなんてわからないけど…この時はやっぱり何も知らなくて。
暢気に“今回の仕事は案外うまくいくかもしれない”なんてなんの根拠もない自信を持っていた。
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やっぱり進まない。
これでも大分削りました。
カツオから削り節くらいには薄くなってるはずなんです。
怖い要素…一体どこで入れたらいいやら。
もしかしたらこのお話、大幅改訂するかもしれません。うん…