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正し屋本舗へおいでなさい  作者: ちゅるぎ
潜入?!男子高校
32/83

きっかけは口裏合わせ

 男子校編は…男まみれ。

実際にこんな状況だったら多分泣ける。

.







 緊張しすぎると空腹感がどこかへなくなってしまうらしい。









 変な感じがする。


 校舎に近づくに連れて、なんだか凄く変な感じがひたひたと迫ってきているような気がした。

校門と後者を繋ぐ道は広い。

大人が広がって歩いても20人は歩ける位のスペースがある。

近づけば近づくほどに増していく違和感に、私は中央付近で足を止めた。




「(別に変なものはない筈なんだけど…見た目は普通の学校だし。大きいけど)」




周囲を見回してみるけれど、広いグラウンドのような土でできた道と石を堺として植えられている芝生と桜の木。

広さがあるから圧迫感みたいなのはないし、見晴らしは文句なしにいいと思う。

正面だけをみると男子校とは思えないキレイさだ。

ドラマや小説、漫画で呼んだ男子校って落書きがいっぱいで、なんかうっすらどんよりしてるイメージだったから驚いた。





「――――― どうか、しましたか?」



「なんか、変な感じがするんですけど……よくわからなくって。気にしないでください。えーと、まずはどこに行くんですか?」



「校長室です。そこに協力者を集めて貰ったので、口裏を合わせます。こういうことはきちんとしておかないと後で不具合がしょうじますから」



「それを覚えなきゃいけないんですよね?…か、簡単でわかりやすくって覚えやすいのをお願いします」



「そのつもりですよ、優君はすぐにボロをだしてしまいそうですから」




 反論できない言葉にうっと言葉に詰まった私を置いて須川さんはずんずん進んでいく。

慌ててその後を追いながら徐々に強くなっていく違和感に眉をしかめる。

どうやら、違和感の元は校舎の中か奥にあるみたい。

 強化ガラスが張り巡らされている玄関から足を踏み入れて、まず学校の正面玄関ホールなのに物がなさすぎることに気づく。

花瓶や置物を置くスペースも棚のようなものも凹凸もあるのに、なーんにもない。

額に飾られた肖像画や絵画もない。



 キョロキョロしつつ、どうにかはぐれないように須川さんの後ろを歩いていると廊下の窓から庭が見えた。かなり広い。広さはちゃんとしたサッカーができそうな位。

木もあるし、芝生もいい具合だ。後はベンチがあるくらいで噴水とかはないんだけど、十分すぎるほどいい景色だ。木は紅葉の木みたいだから秋になれば物凄く綺麗な中庭に変身するんだろうなぁ。




「優君、空いている口を閉じてください。着きましたよ」


「!は、はい」




反射的に口を抑えて初めて自分が口を開けていたことに気づいた。

なんで本人が知らないのにずーっと前を向いて歩いてた須川さんが知ってるんだろう。

背中に目でもあるのかな?……これ以上人間離れしなくてもいいと思うんだけど。




「何を考えているのかまではわかりませんが、挨拶はきちんとしてください。基本的に私に習って礼をする程度でいいです。ああ、発言は控えてくださいね?話がれてしまいますから」


「脱線するの確定なんですか」


「確定です」




 短いやりとりの後、須川さんが動いた。

コンコンとノックの手本のようなノックをして、中から校長先生らしき人の声。

入室の前に名を告げるとこちらから開ける前に勝手に扉が開いた。

 扉が開いて直ぐに満面の笑みを浮かべた校長先生がいたことから、校長先生が自ら扉を開けて私たちを出迎えてくれたらしい。



 それなりの値段がするであろう絨毯にスリッパで上がる。

このスリッパもよくある叩けばいい音が出そうなものじゃなくって、高級感あふれるスリッパと喚ぶには申し訳ないような代物だった。

殺風景な正面玄関に二足分ちょこんと置いてあったんだけど……どうやら正解みたい。

 室内は私立高校の校長室らしい作りで派手すぎない、どちらかと言えば安定感のある上品な感じ。

立派なデスクに応接用のソファとテーブル、壁には歴代の校長の肖像画を飾るための額縁が並んでいる。

3枚目に今、目の前で須川さんの手を握って戦々恐々としながらも嬉しそうな顔をした校長先生の顔がずばーんと飾られていた。





「(あ、教頭先生だ。あとは…えーと?)」





 見覚えのある細身で心配症っぽい顔をした教頭がソファの後ろの辺に控えていた。

で、問題はその隣で嫌味のない笑みを浮かべている白衣の男の人。

雰囲気からして須川さんと同じくらい。

柔らかそうな玉蜀黍とうもろこし色の髪に温かみのある茶色の目をした、美形さんがいる。

多分、保健室の先生なんだろうけど……女の人じゃないんだね。残念。

まぁ、優しそうだからいいんだけどさ。





「いやぁ、外は暑かったでしょう、どうぞソファにお掛けください」



「ありがとうございます。ここへ」


「あ、は、はい」




 促されて恐る恐る須川さんの隣に腰を下ろす。

ふっかふっかのソファに後ろに転がりそうになったけど背もたれがしっかり支えてくれた。

いい仕事をしたな、背もたれよ。

 ふかふか具合に驚いている私をよそに、校長先生が教頭先生からボードをテーブルの上に乗せる。

丁寧にボードへ張り付けられている紙には今回の潜入調査に対する学校側からの受け入れ体制について書かれていた。




「えー、あの後すぐ学校に戻りまして先生達と話し合った結果なんですが、鍵のかかる部屋を一つ校舎と寮に用意させましたので、好きに使ってください。それから必要な物品に関しては昨日の内に部屋へ運び込んでいますので。明日にはリストをお渡しできると思います。あとは提示していただいた条件のとおり教員には何も話しておりません、知らせたのは保健医の白石しらいし先生だけです」



白石しらいし あおいです、どうぞよろしく」




 白衣の男の人は白石先生というらしい。

うん、覚えやすくてよかった。





「では、彼は後で主にプール授業やここでの生活、体育などでの着替えについて彼女と打ち合わせをしていただきます。決まり次第我々にも固まった設定を聞かせてください」



「わかりました、じゃあカルテも作っておきます」



「そうしていただけると幸いです。では、彼女に協力していただける学生は決まっていますか?」



「ええ、もちろんですとも!いやぁ、実に適任だと思いますよ。成績は優秀ですし生徒を統率する力もあるので多少のことなら冷静に対処してくれるでしょう。前任の生徒会長に変わって推薦によって一年で生徒会長になったんですが本当に優秀でして……必ずや須川先生のお役に立てることでしょう。彼には、あらかじめ説明はして本人・ご両親共に快く快諾してくださっています」



「成る程…分かりました。彼とは後で話をさせて下さい」



「そうおっしゃると思いまして生徒会室で待たせてあります。あー…それで、ですね……江戸川さんのことなんですが、女性が男装して在学している事がばれたら大変だということは?」



「十分承知していますし、万が一、外部に漏れたとしてもその時の対処は考えてあるので問題ないと思いますよ。縁町えにしちょう近郊でもウチの名前は効きますから」




 それなら安心だ、と豪快に笑う校長の後ろに控えていた教頭が心底安堵したように胸をなでおろしているのをバッチリ私は見た。ひゃっぱり校長先生より教頭先生の方が心配してたみたい。





「では早速ですが私は依頼人と共に協力してくれる生徒と直接話をしてくるので、そちらも話を進めてください。1時間ほどで戻る予定です」



「わかりました」




 頷いた私を見届けた須川さんは、依頼人と共に校長室から出ていった。

残されたのは私と白衣を身にまとった白石先生の二人だけ。

どうしたらいいのかわからなくて動けずにいる私に気づいたらしい白石先生は楽しそうに笑って、まずは座ろうか、と話を切り出してくれた。




「じゃあ、二度目だけど改めて自己紹介。俺の名前は白石しらいし あおい――――――― 生徒には白石先生だとか葵先生だとか、まー、葵ちゃんなんて呼ぶやつもいるけど、個人的には葵先生って呼んでくれるのが一番嬉しいかな」



「は、はい!ええと、私は江戸川 優です。男子校ってやっぱり名前で呼び合うんですか?」



「んー、人によりけりだなー。呼び捨てで呼ぶ奴やらあだ名付ける奴やら、大体がノリって感じ?教師はやっぱその先生による。俺は普段好き勝手呼んでるけど、規律厳守~な先生がいるときは苗字で呼ぶ。あとはその場の雰囲気に合わせてやれればなんの問題もないよ」



「はーい。ええと、プール授業ってやっぱり見学ってことになりますよねー…」



「そうなるだろうね。流石に男物の水着は無理だし、もしそんなことしたら確実にバレるからさ」





 その言葉に私はガックリうなだれる。

プール!夏といえばプールなのに入れないなんて!!

仕事中だっていうのはわかってるけど楽しそうにプールで泳ぐ人を指くわえてみてるだけなんて悔しすぎるじゃないか!!…それに、プールの見学って暑いし。

彼は私の落ち込みように苦笑しながら、どこからか取り出した紙にさらさらと何かを書き始める。

それをのぞき込むと、少し角張った時でプール授業を回避する為の言い訳が単語で書き出されていた。





「ありがちなので塩素アレルギーだけど…これじゃあ見学も出来ないしちょっと面倒だから却下か。後は事故にあって傷跡があるって言うのと水恐怖症っていうのがあるんだけど…どっちがいい?」



「うーん…事故の方がいいかな、と。そうすればサラシを巻いてても誤魔化せるだろうし…水恐怖症ってどんなのだか想像、つかないですし」



「OK。じゃ、適当にでっち上げて置く。傷は前ってことにして置いた方がいいな…万が一着替えていて背中見られた時の言い訳がし易いから…よし。で、次は健康診断なんだけど、一応身長と…血液型とかかいてくれるかい?書きにくいだろうけど、体重も…あ、この付箋貼って隠していいからね」





 こんな感じで和やかに会話をしつついくつかの必要書類を書き上げた頃にはあっという間に時間が経っててビックリ。うーん、話してると時間が経つのは早い。

 保健室から持ってきたカルテに全て記入し終わってペンを置いた瞬間に校長室の扉が開いた。

扉の向こう側には須川さんと校長先生、教頭先生の3人だけ。

生徒会長さんは連れてこなかったみたい。

 戻ってきた須川さんは葵先生からカルテを貰い、一瞥した後納得してくれた。

葵先生がコピーを取りに行って、コピーしたてのカルテを受け取り再び確認してから私に「正し屋へ戻りますよ」と仕事モードの顔で告げる。


 慌てて立ち上がり、須川さんの隣に立って一緒に挨拶をしたあと玄関へ向かう。


いくら休みで生徒がいないからといっても全く誰にも見られないという保証はないから、用事が済み次第帰るという話はしてあったみたい。

 ま、道のりが分からないだろうからって葵先生がわざわざ玄関までの道案内をしてくれた。

歩きながら話して、彼は『正し屋』を知っていたこと、学生寮の常勤として舎監の先生とは別で寝泊りしていることや、須川さんと同じ歳であることが分かった。





「うーん、やっぱりこの学校広すぎるとおもいませんか?……って、須川さん?」



「私は白石先生に確認しておきたいことがありますので、先に車に戻っていてください」




「?はーい」





 笑顔は普段通りなのに妙に不機嫌そうな須川さんに首を傾げつつ私は職員用の駐車場へ向かった。

なんっていうか、少し怖い感じ。なにかあったのかなー?

車に着いて5分位で須川さんが戻ってきたんだけど、葵先生とどんな話をしたのか教えてくれなかった。

 帰り道は葵先生と決めた設定のことを詳しく話したり予行練習をしつつ、途中で商店街で夕食の買出しをしたり和菓子屋さんに寄って貰ったり、十二分じゅうにぶんに寄り道を楽しんでから正し屋へと帰還した。













これから知らない沢山のことが私を待ってるんだろうな、と思った男装初体験の日










.

ストックがストックの役割を果たしていないことに気がついた今日。

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