表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
正し屋本舗へおいでなさい  作者: ちゅるぎ
日常語り ‐ 初夏 ‐
27/83

正し屋本舗の事務のお仕事。

 正し屋での日常篇です。

.











 あの“自殺の名所に不法投棄事件(命名:私)”から3日が経った。










 ぼやーん、と座り心地も寝心地もいい来客用のソファに腰掛けて紅茶を啜る。

コーヒーは飲めないから緑茶か紅茶をよく飲んでるんだけど、正し屋にはお茶(高級な玉露とか抹茶)かコーヒー(豆を挽いたやつ。須川さんはインスタントを飲んだことがないらしい…私もないけど。苦いから)の二種類しかなかった。

信じられないことにココアもなかったんだよね。冬にココア飲まないなんて人生の60%は損してると思う。

 冬はココアだ。

牛乳とちょっとの水、ミルクココアは大さじ5で砂糖は気が済むまで。

空気の入れ替えをしてる時に飲むのが冬のお気に入りだ。

清々しい空気と甘いココアは幸せすぎる。






「ふはー……ミルクティー美味しい」





 基本的に甘いものが好きな私だけど、アイスティーは砂糖なしで飲む。

入れるときはガムシロップ3つとミルク2つだ。

これで丁度いいんだけど友達はみんな顔をしかめて「あまっ!」とか「ありえないんだけど」とまぁこんな感じで私の味覚を貶す。ひどい。

 砂糖なしといえば、お茶もそう。

煎茶とか焙じ茶、玄米茶なんかは間違ってもいれない。

抹茶ラテとかになれば甘いの好きだけど、それとこれとは話が別なんです。





「今月は……鬼灯ほおずき祭りだっけ。んー、鬼灯の形のランプとか可愛いだろうなー……あ、あとは置物とか。それと関連する甘いもの、だよね。どんなのがあるんだろ、和菓子なら多少想像はつくけど色々あるっていうし……洋菓子店もあるみたいだからそっちも期待できるよね。須川さんに色々聞いてみようかなぁ」






 今、正し屋にいるのは私一人だけだ。

須川さんは野暮用とやらで外出中だし、チュンもシロも出払っている。


 上司様曰く、チュンは“夜泣き雀”っていう妖怪で悪いモノの気配を知らせてくれる『怖いのホイホイ』らしい。なんでもあるじの私に近づく“悪意あるもの”や“悪い性質”のものにいち早く気づいて知らせてくれるんだって。

……確かに、不法投棄されたあの場所で危ないところでいつも助けてくれた。

あの声は夢に囚われていたり恐怖で動けなくなったり怖気付いた時、叱咤激励して必死に悪夢の淵から私を呼んでくれた大切な存在だ。

 正し屋は安全だと知っているらしく寝るときは必ず戻ってくる。

そして私の部屋にあるタオルの上で丸くなって眠るのだ。始めは私の横で寝ようとしてたんだけど、うっかり潰しちゃいそうだったから頼み込んで妥協してもらった。


 でも、代わりに私のベッドで眠る存在がある。

白くてモフモフのシロだ。

あ、正式には白吉しろきちっていうんだけど、通称はシロで固定。

元々は狛犬だったらしいんだけど、色々とびっくりな展開を経て今は“犬神”っていう神様になった。

神様っていっても本当に最近なったばっかりだから、神様の中でも新社会人な立ち位置らしいんだけど力は強いらしい。

 でも、本当に普通より大きくて賢い大型犬なんだよねー。パッと見。

彼を人に喩えるなら『礼儀正しい世話焼きな侍』ってとこだ。

自分より弱い子供や女性には、基本的に交友的だし、自分に対して好意を持つ相手には同じように礼儀正しくしている。私には甘えてくるし時々悪ふざけもするけど、物凄く優しい。

須川さんに対しては……なんていうか、物凄く尊敬しているみたいなんだよねー。

人間くさいところが可愛いと言ったら、須川さんは神妙そうな顔で私の額に手を当てて「熱はありませんね」っていいやがりました。ひどくない?!ひどいよね?!



 そんなシロとチュンは私を置いて須川さんと一緒に野暮用を片付けにいってしまった。



 『正し屋本舗』は小粋というか小洒落た雰囲気の建物だ。

ぱっと見た感じは、知る人ぞ知る!小料理屋みたいな感じで霊能力の“れ”の時も感じられない。


軒先には祭りのある月に合わせた照明が吊るされて、小さな鹿威しみたいなのもある。

そこで手が洗えるように柄杓もあるし、水は山から水を引いてるんだって。

冷たくて、飲んでも大丈夫な澄んだ水だ。


 引き戸を横に引けば、まず須川さんが生けた花が出迎える。

木製の衝立を左にいけば事務所。

右へ行けばお手洗いがあるんだけど、そこまでの廊下も小さな発見があって面白いんだよね。

格子窓の向こうに見える景色が切り取ったみたいに綺麗なんだって、縁町の人たちが教えてくれた。


 衝立が置いてある奥へすすめば、居住スペースがある。

広い居間にキッチン、お風呂場、お手洗い、庭に通じる縁側のある部屋、あと物置と須川さんに禁止されている“入ってはいけない部屋”。

二階に通じる階段を上がれば私の部屋と須川さんの部屋、めったに使うことがないという空部屋が三室。

本当に広いんだけど、不思議と居心地はいい。





「って、もう2時?!うわ、頑張らないと」





 時計が告げるのは後1時間ほどで上司様が帰ってくるという事実。


彼曰く“修行”私からすれば“鬼の所業”だった例の事件が終わったあと、仕事の説明を受けた。

 まず任されたのは書類の整理。

ものすごい量の書類を仕分けするのに丸2日かかった。

昨日と今日は膨大な書類をデータとしてパソコンのデータにして残すこと。

ちなみに仕事で使うパソコンはインターネットに接続されていない。

本当にデータの保存及び保管の為に使っているのだ。

おかげで直接、パソコンに触れない限り情報の漏えいはない。

インターネットができるパソコンは私の部屋と居間にあるから不便じゃないしね。





「(だけど、須川さんがパソコン全くできないっていうのは意外だったなぁ。携帯ももってないし)」





 なんでもできそうな須川さんだけど、彼にはある意味致命的とも言える欠点があった。


電子機器をまるで扱えないのだ。

正確には扱うことすらできない、だけど。

 自動車や家の電気とか冷蔵庫っていう比較的規模の大きいものなら大丈夫らしいんだけど、繊細だったり小さかったりするものは全滅。触れた瞬間に故障してしまうらしい。

須川さんはずーっとそんな生活を送っていたから不便には感じないらしいんだけど、私が携帯を持っているのを見て自分専用の携帯を開発するべきかどうか悩んでいた。

結局は携帯が無くても会話はできるので(思念を飛ばす?とかすごいことを言ってた。実際携帯みたいに聞こえるからびっくりなんだけど)問題ないか、と思いとどまったみたいだけど。




「眼鏡かけた男の人って機械とかどんとこい!なイメージだったんだけど……」




 ブツブツ呟きながらパソコンに向き直り、データ入力をすることにした。

その間流すのはお気に入りのアーティストが歌う曲だ。

アップテンポだけど、何処か和風で爽やかなところが気に入ってる。

もちろん須川さんの許可は得ているので問題なし。

電話だって滅多にならないしね。


 基本的に依頼人はまず『正し屋』宛てに手紙を出すか、最寄りの霊能力者に相談する。


 手紙の場合は須川さんが直接相手に会いに行ったり来てもらったり、そのまま手紙でのやりとりをして適切な場所を紹介。紹介料はもらうけど、そんなに高くないし紹介される霊能力者が受け取る料金も法外な額じゃないから一番安心で安全な方法だ。

 最寄りの霊能力者に相談した場合は色々ケースはあれど、対外彼らの手に負えない依頼になっている。

料金はそれなりに発生するからはじめに相談した霊能力者が“善い”霊能力者であることにかけるしかない。

あとは、飛び込みのお客様だけど……だいたい縁町の人か須川さんの知人だから、留守にしていても対応できる。

応接室でのんびりお茶をして須川さんが帰ってくるのを待てばいいのだ。







 ぐいっとお茶を飲み干して机の引き出しから飴玉を一粒口に放り込む。

さーて、サクサクお仕事しちゃいましょうかねっと。







.

 無難にまずは、雑用編です。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ