洒落にならない解説と上司様
真相と解説もどきが盛りだくさん。
伏線もどき全部拾えるかなぁ……orz
ちなみに除霊や浄霊方法は、実際にある道具などを都合よく解釈して登場させているので本来の使用法とは全く異なっていることもあります。
また、除霊方法や呪文(読経なども含む)もそれっぽいものを並べたり組み合わせたりしています。
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彼が現れた瞬間、私の体の震えは不思議なくらい、あっさりと止まった。
じわじわと指先に血液が行き渡って指先が暖かくなってきた。
ガチガチと噛み合わなか歯も、力の入らなかった足腰も普段と変わらない状態に戻ってくる。
自分以外の人がいるだけでこんなにも違うものなのかと驚いたけど、いつの間にか咆哮や絶叫が止んでいるのはきっと須川さんがこの場所にいるからだ。
須川さんが、本物と呼ばれる部類の霊能力者であることは、店長の黒山 雅さんから聞いている。
全てを話してもらったわけでも、過去の功績を伝えられた訳でもなくて、ただ一言『 須川は本物だぞ 』とだけ。
そこらの、もしくは一般人や素人が思い描くペテン師とは違うことだけは覚えておけと小声で告げられて、戸惑いはしたものの素直に首を縦にふった。
本物の霊能力者というか、普通に霊能力を持っている人にもあったことがないから比較はできないけど、数珠とかよくわからない神棚っぽいところの前で「おまえさんは誰なーん?」とかって聴いたり、「はっ!」とかやりながら御払いするのは違う、ってことだろう。
「す、須川さん…?なんで、ここに」
「地図上での当着地点はここですからね。10分ほど歩いたところに旅館がありますから、今夜はそこでゆっくり眠れますよ。温泉もありますし、料理も美味しいのできっと気にいるでしょう」
「いや、温泉とご飯は大変に有難いんですけど……えーと、あの、助けに…きてくれた、んですか?」
「貴重な従業員ですし、ここからは優君ではまだ太刀打ちできませんから」
相変わらず柔らかい口調と声のトーンだったけど、まとっている雰囲気は別人だ。
いや、私も須川さんのことはあまり知らないし一緒にいた時間も短いんだけど、質問するのに身構えてしまうような雰囲気じゃなかったことだけは確か。
でも、今は……ピリピリしてるんじゃなくって、んーと、なんか威圧とかそういう感じで凄く、居心地が悪い。
「太刀打ちって……もしかして、この犬っぽいのを倒す、んですか?」
「義務のようなものです。放っておけばいずれ堕神という大変力の強い怨霊になります。そうなってしまえば、倒せる人間はかなり限られてしまうので完全な落神になる前に退治しなければならないんですよ」
「怨霊って……確かにちょっと恐い目とモヤ~っとした体ですけど、あんまり怖い感じはしないですよ?いきなりガブッて来るわけじゃないみたいですし」
ほら、おとなしい!と指を指すと心底呆れたようなため息で返された。
犬は須川さんを警戒するみたいに低く唸っているようだ。
いや、もしかしたら須川さんの後ろにいる私ごと威嚇してるのかもしれないんだけど。
とりあえず、いつまでも座り込んでるわけにはいかないと足腰に力をいれて立ち上がる。
お尻と服を叩いて汚れを落としながら一応周囲に目を配る。
須川さんが現れてから、静かになったことには気づいていたんだけど森にいる黒いモノの動きが完全に止まっていることには気付かなかった。
まるで強力な接着剤で見えない紙に張り付けられてるみたい。
ゴキブリホイホイとかネズミ取りみたいな感じで。
「鈍いのか鈍くないのか全くわかりませんね、優君は――――― そもそも、後ろにあれだけの思念の塊があるにも関わらず、半神がここまで堕神になる手前まで成長したこと自体が異例ではありますが」
「……すいません、あの、よくわかんないんですけども。堕神っていうのが怖いオバケになるのは理解しましたけど、半神?ってなんですか。あれ、でっかい犬のオバケじゃないんですか?」
「半神は放っておくと堕神とよばれる怨霊になります。この半神が神格化するにはいくつかの条件が必要で、9割は確実に神になれず怨霊と化します。堕神になってしまえば、半分とはいえ神と等しい力をもっていますから非常に強力です」
先ほど説明しているのでここまでは大丈夫ですね?と念を押されて私はなんとか頷いた。
ふと、悠長に説明なんてしてもらっても大丈夫なのか聞いてみたんだけど、あっさり「術で足止めしてるので30分は確実に持ちますよ」と返された。
なんか……いつの間に!って感じ。
霊能力者っぽい所を見られると思ったのに、勿体無い。
「この半神と呼ばれる存在は強い霊力を持っていますが―――――――…実害はありません」
「へ?そ、それじゃあ退治しなくてもいいんじゃ…?」
「そうです。高い霊力を誇っていても、力を具現化できないので半神自体は殆ど無害なんですよ。なにせ力を使えなければ我々の住むこちら側にはなんの影響もでませんから。ただし、この半神の高い霊力を狙って、力を欲するモノ――――――― 所謂、妖怪や霊といったモノたちは問題です。何せ、半神を喰ったモノは強い力を得られますからねぇ…いろいろな欲の為に力を欲しがっている輩を引き寄せてしまう。それも大量に、ね」
「もしかして、あの犬を食べようとして集まってきたのが…あの黒いの、ってことですか」
ええ、と首を縦に振った須川さんは半歩後ろで呆然と森を眺める私に目を細める。
二泊三日も山を徘徊してたので、盛大に髪はボサボサだし寝不足で顔色も酷いのはわかるんだけど…なにもそんな顔しなくても!一応水浴びはしてたんですよ?!
ちょっと悔しくてムムムっと睨みつけると、彼はふっと口元を歪めた。
すいません、その「ああ、もうどーしようもないな」みたいな反応はいくら鈍い私としても傷つきます。
「負の感情の塊であるアレらが、力を手にしてしまえば確実に被害者がでるでしょう。自業自得と言えるような人間はまだしも、なんの関係もない者が巻き込まれることも多々あります―――――…私たちは、そうなるのを防ぐ為に見つけ次第退治するんですよ」
「で、でも半神の元ってやっぱり犬なんですよね?須川さんが言い聞かせたら言うこと聞くんじゃないですか?ほら、自分より強いものには服従するっていいますし!」
「残念ながら私にはできません。私が得意なのは占術と除霊、霊の服従および使役ですから」
「いやいや、服従ってまさしくじゃないですか!」
「ああ、説明が足りませんでしたね。私ができるのは“人霊”限定なので、動物霊や妖怪と行った類はあまり得意ではないんです。祓うことなら得意なのですが、契約もしていない力の強い動物霊を従えるのは些か……すみません」
美形の上司に苦い微笑を浮かべて、申し訳なさそうな声色で謝られると…逆に申し訳ないような気がしてくるから不思議だ。反射的に私の方こそすいません、と頭を下げていた。
あ、あれ?私この人に森に放置されて死にかけたんだよね?あっれー?
思わず首をかしげた私はふと、チュンの鳴き声が聞こえなくなっていることに今更気付いた。
頭の上に、チュンはいない。
周りにも飛んでないし、地面にもいない。
飛んでいったのかもしれないと空を仰ぎ見ていると須川さんのため息が耳に飛び込んできた。
呆れられるのは慣れてるからいいとして、ため息に色気が満載ってどういうことだ。
けしからん、私にもその色気をください。お願いします。
「夜泣き雀なら、貴方の胸ポケットの中です」
「うわ、ほんとだ!い、いつのまに…?!チュン、大丈夫?」
「ちちちっ」
ポケットの中から顔をのぞかせはしたものの、須川さんを見ようとは決してしなかった。
それどころか怯えるようにポケットの中へ潜り込んでいく。
ちょっとくすぐったい感じもするけど、ほの温かいのでよしとする。
「さっき、チュンのこと…なんとか雀っていってましたけど、新しい雀の種類ですか?」
ポケットの上から優しくチュンを撫でて、顔を上げると目を丸くした美人が私を凝視していた。
信じられないものを見たような反応に思わず腰が引ける。
「まさか、とは思っていましたが……本当に気づいていなかったとは」
「そんなに有名な雀なんですか?!うわ、どうしよう……野鳥の会とかに訴えられないかな?」
「今までこういったものとの関わりがなかったことを考えると不思議ではありませんが、まさか、この山に普通の雀がいると思っていたとは」
「普通のじゃないってことはやっぱり貴重なんですねっ!?」
「違います」
ざっぱりと切り捨てられた。
び、美人なだけあって中々やるな!結構なダメージです。
うぅ、美人に嫌われるのと呆れられるのと突っ込まれるのは切ない。
私がこっそりダメージを受けて項垂れていると、スラスラと出来の悪い生徒にモノを教えるように説明された。
この森で、意志を持つ生き物が“正しい”形でいられるのは水の中と土の中意外は稀であること。
生き物の気配がしないのは、あの世に近い場所であり『生と死の狭間』と行っても過言ではないほど特殊な場所だからだそうだ。
だから、あの森で出会ったものはことごとく死んでいたか、本来のものとは別のものであるか、あちら側に近い存在であるかの3択らしい。
「えーと……つ、つまりー?」
「優君が連れている雀は、夜泣き雀という妖怪ですよ」
「よーかい、って……いや、でも私は須川さんみたいに霊能力とか霊感とかないですし!!妖怪だったらきっとこんなに懐かないですよね?!あと、あと、さ、触れないし!つかめないし、み、み、みみミミズとかも食べないだろうし!」
「妖怪も食事くらいしますし、個体によっては触れることも可能です。ただ本来なら、夜泣き雀のような妖怪は滅多なことがない限り人には慣れません。知り合いに妖怪の類にモテる人間がいますが、あくまで助力を申し出たり話しかけたりまとわりつく程度でした。契約しているモノは例外としても、契約も見返りもなく行動を共にするなんて少し考え難いですね」
ふむ、と腕を組んでマジマジと私の胸ポケットにある膨らみを見つめられて、私もつい、ポケットの中のチュンに視線を落とす。
相変わらずふかふかしくってクリクリした目が可愛い。天然の癒やし系だ。
へらぁとだらしなく崩れた顔のまま頭を指で撫でてやると嬉しかったのか小さく鳴いた。
こうして考えると異常な人懐っこさかもしれない。
鳥を飼ってた友達がいたけど、ここまでではなかった気もするし。
「今はもう契約を結んだ形になっているようですが、それにしても異常ですね」
「契約って私、チュンと話しとかしてませんけど」
「貴方がその夜泣き雀に名を与え、それをこの雀が受け入れた時点で契約は成立して……ああ、なるほど。優君、貴方はその雀の他にもこの森で名を付けたモノがいましたね」
「へ?この森でっていうと…シロのこと、ですか?」
「襲ってこなかった理由がそれでしょう。生き残っていた件に関しては、偶然が重なった結果だと思いますが……これも縁なんでしょうね」
ちらと唸り声をあげて須川さんを睨みつけている大きな獣を見る。
夜を固めたみたいな底の見えない闇を纏って、赤い宝石みたいなギラギラした瞳の生き物。
私がシロといた時間はとても、短かった。
でも、確かに私の傍に寄り添うように着いてきたり、私を彼なりに守ろうとしてくれて。
「須川さん、お願いがあります」
「おおよその検討は付きますが、一応聞いておきます。なんでしょうか?」
「私をどうしてこの森に不法投棄したのかはわかりません。はじめは須川さんにあったら一から十までちゃんと説明してもらって、どうしてこんなことをしたのか問い詰めようと思ってました。でも、説明なしの不法投棄の事も、死体とお化けがゴロゴロしてる怖い森でサバイバルさせたことも、リュックの中にお菓子がはいってなかったことも追求しないし、許してあげます!だから、代わりにシロを助ける方法を教えてください」
「私としては、別に許してもらわなくても構わないんですが――――…そう、ですね。説明もせずに放り出したのは流石にやりすぎだったと反省しています。私にも色々思うところがあるのでその点について追求されないのは魅力的ですし、条件を飲ませていただきましょう」
そうと決まれば、と私の肩をポンッと叩いて、手の平をシロらしき大きな獣に向ける。
完璧といっても過言ではないほどに整っている須川さんの顔には、ひどく楽しそうな満面の笑み。
キラキラしたオーラが惜しげもなく振りまかれていました。
「(あ、あれー…?)」
ヒヤッとした汗が全身から吹き出したのを自覚する。
肩から背に移動した大きな手の平と何かを押し出す時に発生する鈍い音が体を襲う。
想像以上に強かった力に突き飛ばされた私は、足踏みを二、三歩した後大きく姿勢を崩した。
ポケットからチュンが転げ落ちるように飛び出したのを目にして、初めて表情筋が引き攣る。
でも………時、既に遅し。
私はシロらしき獣が纏う強大で底知れぬ闇へ、頭から突っ込んでいた。
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お、終わらなかった!(なんてこったい!
うぬぬ…次こそは……ッ!!
ここまで読んでくださってありがとうございました。
次もできるだけ早くうpできるよう、頑張ります。