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正し屋本舗へおいでなさい  作者: ちゅるぎ
九死に一生を得る、迷子
21/83

洒落にならない残り物

 今日の晩御飯は鮭のクリームスープパスタ。


生魚は食べられないけれど、火が通ると大好物に変身する不思議。

 若干、ぐろてすく?な表現があります。

苦手な方は見なかったフリをするか、読み流すか、読まないかしてください。

よろしくお願いいたします。

.








 後は猿っぽいものがいたら完璧なんだけどな、と思いながら足を動かす。









 どういう順番で出てくるのかは覚えてないけど、犬と猿とキジで連想するのは美味しそうな名前の太郎さんのこと。今いるのはキジじゃなくて雀だけど、気分はまさしく鬼退治に向かう太郎さんだ。

ちょっと待って……この場合、鬼にあたるのはやっぱり、上司のあの人だろうか。


うわ、どうしようこれ勝てる気がしないんですけど!


太郎さん、ちょっと私には荷が重いんですよ。この、えーと、お、鬼退治?

言い換えれば下克上……つまり、上司退治っちゅーことになりますよねー!

これが童話だったら確実にお話崩壊だ。





「ちゅん?」


「くぅん?」



「大丈夫だよ、無茶な鬼退治なんかする勝負師的なプライドとかはないからダメだと思えばしっぽ巻いて逃げ出すよ!チュンは頭の上に乗っけて、ワンコは全力で付いてきてね!っていうか、足の速さからして…君が先陣を切ることになるかもだけど」




「わふっ!」





 なんの話をしているのかわかっているような、反応に少し驚いた。


チュンだけじゃなくって、この白ワンコもか!

さ、最近の野生って凄い。斜め45度位をぴょーいといってるよ……うぬう、侮り難し。




 今の私は一人と一羽じゃなかった。

一人と一羽と一匹、と行った具合に増えている。

言わずもがな、1匹というのは茂みから出てきた大型の真っ白い犬のことだ。



 顔面をべろべろ舐められただけじゃなくて歯が当たっていた時はこのままカジカジやられるのかと思ったけど……――――――― 結果は、五体満足。

顔も体も欠けることなく、こうして歩いて余計なことも考えられるくらい元気だ。






「にしても…この森にいる動物って基本、弱肉強食の極みだったりする?餌だって少なさそうだし」







 何より、あの、黒いのが居る。

他にも怖くて不気味な黒いモノを“喰って”しまう、まだ見たことのない“ナニカ”もいるのだ。


 小さな時は、闇や夜が怖かったけど大人になるに連れて恐怖はなくなった。


でもこの森に来て私の中で“闇”や“夜”というものの概念が変わっていたらしい。

ううん。らしいっていうのは正しくない。

 だって、そんなの初めて闇の中で…あの、夢を見た時から分かっていた。





「(夜や暗闇が怖くなくなったのは、きっと私が大人になったから。いい意味でも、悪い意味でも自分をごまかすことが上手くなって、納得させるのが、諦めるのが、上手くなったてたんだなー…子供の頃なんてあんまり覚えてないけど)そもそも、子供の頃に夜とか暗闇が怖かったのって、自分の知らない“ナニカ”がいるような気がしてた…ってこと?」





 他に思い当たる節がない。

寝る前に、部屋の隅っこや押入れ、トイレが怖いと思ったのはたった一人で、その見たことのない“ナニカ”に食べられたり、痛いことをされるかもしれない、怖い顔で自分を睨みつけているかもしれないと思ったからだと思う。

大人と一緒にいて安心できるのは、子供の頃は“大人”っていう存在は特別で、オバケなんてやっつけられるくらいに強い存在だったからだ。


 


 水の音をBGMにして、歩きながらぼんやりと考える。


ゴールが近い。

多分、あと3時間も歩けばたどり着けるだろう。

気が緩んでいたことは確かで―――――もうすこし、周りを見ておけばよかったと心から思った。

目の前にある、できれば見たくなかったそれを視界にいれた瞬間、歩くという動作の途中で止まる。





「と、とりあえずチュンは目を瞑って、じょーそーきょーいく?的によくなさそうだからね。あと、ワンコさん、匂いを嗅いだりしないよーにね。あとかじってみたり、振り回したり、お気に入りの玩具のごとく銜えて歩かないように!」



「…ちゅん、ちちち」


「…わふん」





 ものっそい、あきれ果てた視線を頂戴した。

誰がそんなことするか!と言われているような気がするけど、き、気のせいだよね?!


視線の端、歩きやすい道の端っこに落ちていたのは……肉片的な何かでした。


赤グロい何かと一部、肌色の、何かに喰いちぎられたような、物体はかなり、あれだった。

できるだけ視界と意識に入れないようにして歩く。

多分、もう少し行けば滝も終わるはずだから、川岸に戻ってそこを歩けばいい。

この森に入るのを決めた時点で、なんとなーく嫌~な感じはあったんだけど、やっぱりダメだ。




「私、ぜーったいこの森と相性悪いよ……なに、この見たくもないモノのオンパレードぷらすカーニバル的な森を上げての不気味な大歓迎の仕方ッ!森の神様には悪いことしてない、筈。そ、そりゃー、森の中で焚き火とかお魚焼いたりとかしたけど、食べなきゃ死んじゃうし、火がなきゃ飲水もご飯も食べられないもんね。うん、神様だってわかってるはず!日本の神様は長生きしてるもん」





 きっと人間についても知ってるはずだ、生きていくのには美味しいご飯が必要で、ご飯を食べるには火と水がそれなりに必要だってことも!

そう考えると、ただ単に私の運が以上に悪いだけ?うわー、やだなぁ。でも、昔からクジ運とか異常に悪かったし。ああ、ガラガラとかもそうだったなー。

席替えとか生活に反映しないものは何か結構いいところ行くんだけど…むーん。





 この時の私は、すっかり忘れていた。

昔から友達やら先生やら知り合った色々な人に言われ続けて、相変わらず学習しない私。







ぐにぃ、と生理的に受け付けない感覚が分厚いはずの登山靴から伝わってくる、感覚はできれば今後、一生味わいたくないものです。






 何かを踏んだ体制のまま、踏んだものを確認する勇気がでなくて硬直して、たっぷり数十秒。


意を決して恐る恐る足を持ち上げ、そっと普通の地面に足を下ろした。

足の下にあったものと“目があった”瞬間に私は自分でも信じられないほどの動きでソレから離れた。

ビタッと情けなくもひっついたのは、一歩間違えば足を踏み外して滝に真っ逆さま。


 慌てて木から離れ、ソレや滝のそばから離れた。

……四つん這いでね!こ、腰が抜けたんだよ!好きで赤ちゃん時代に帰ろうとかそーゆー特殊な心境だとかってわけじゃないよ!ほ、ほんとだよ!!





「ど、どどどどどどどう、ど、どうしよう!わ、わわ私ふ、ふんじゃ、踏んじゃった!の、呪われたり祟られたりしたらどうしよぉおおぉお!!ごめんなさいぃいいいぃぃい!」






見えたのは、喰い千切られた顔だった。


 覚えているのは見開かれた眼球と上唇……鼻は、食いちぎられてしまったらしく、見当たらなかった、と思うんだよね。いや、ほんとに一瞬っていうか数秒しか見てないから完璧には覚えてない、というか覚えていたくないんだけど。


 ソレがあったのは、深緑色のこけの上。


薄暗い森の中で肌色と目の白目部分がぼんやりと浮かび上がっていた。

所々、赤黒い何かがついていて、その白い部分をふちどるように髪の毛のようなものや赤みの強いピンクがかった筋肉のようなものも見えた。黄色味がかった白いモノは、たぶん、人の脂肪、だろう。





「う、ううっな、なんでこんなとこにあんなのが落ちてるのさー!食べるなら食べるできれいに食べなさいよー!ばかあぁぁぁあっ!や、やっぱり熊なのかなぁ、熊なのかな…っ?!」





 いい年して半泣きになっている私にチュンが心配そうに頭から降りて膝の上から見上げているけど、撫でる余裕はなかった。

じわじわと足元からせり上がってくる恐怖に耐えられなくなって、本格的に涙がたまり始めた。

う、歳をとると涙腺が崩壊し始めるって本当だったんだ…。


 ぎゅ、とどうにか掌を握り締めて、せめてもの抵抗に唇を噛んだ。


感情の三分の一は恐怖…だと思う。

でも、残りの殆どは嫌悪感や罪悪感、あとは、すごくモヤモヤしたあんまり、抱きたくない感情。




「(どうして、こう思い出させるような自体になるかなー…自殺の名所なら死体があるってところまでは納得できるけど、食い散らかされてるなんて聞いてないし想定もしてなかった)」






 本当に勘弁して欲しい、そう思ったところで誰に伝えるべきなのかも、誰にどう伝えたらいいのかもわからないから余計にもやもやする。

 見なかったことにしたくて川のある方に視線を向けた。

滝はもう終わっているけれど、川岸をあるけるような状況じゃないのは一目瞭然だ。

ゴロゴロした大きな石と流れの早い激流。

歩けるようなスペースがない上に、もし足でも滑らせてしまえばそれっきり。


 あの、道を歩くのが目的地へたどり着く為には一番確実だってことくらい分かっている。

だけど……それを考えた瞬間、足が竦んだ。

座っているから傍から見ればわかりにくいだろうけど、立っていればその場に倒れているか膝が笑ってまともに立ってられないような状態だろう。





「っ…うひゃあ!?な、ななな…っ」



「わぅん!」



「ちょ、まッ!へぶっ?!」




 落ち込んでガックリと地面に両手を付いたのを見計らったように、生暖かい舌が私の顔を舐め上げた。

ビックリしているのをいいことに舌で私の顔を味わうように舐めまわす犯人は言うまでもない、白い犬だ。

彼は舐めまわされて地面に倒れ込んだ私を見下ろしてどこか満足気な顔をしている。

 それ以上何もせずに、そっと私の横に伏せた犬を見て―――――――…思わず苦笑。





「心配、してくれた?」



「わふ」


「ちゅん!」




「そ、っか……ごめんね。ありがとう」




 ぎゅ、と大きな白い塊に顔をうずめると、犬の上に移動していたチュンが私の頬に柔らかい体を擦り付ける。伝わってくる温度や生き物のにおい、自分以外の心臓の音。

体の力が抜けて、さっきまで確かにあったもやもやした感情が跡形もなくなくなっていた。










 もう少しだけ、空元気でもほんのちょっとの、元気を取り戻すまでどうかこのままで。







.

 進んでいるのか進んでいないのか…書いていくうちに分からなくなっていく不思議。

なんじゃこれー。


 ここまで読んでくださってありがとうございました!

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