洒落にならない拾い物
今まで道で目撃した落し物シリーズ。
大型ハサミ、消火器、マフラー(電柱にまいてあった)、アレな本、おじいちゃん。
びっくりしたのは大型ハサミ。
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拾い物には縁があるといった人に聞きたい、拾った後の処理はどうしたらいいのかと。
私は、どうにか自分の身長の半分は確実にある犬を、岩の上に移動させることに成功した。
どうやったのかは必死すぎて覚えてない。
潰れる!プルプルしながら思った私は悪くないと思おうんだよね。
あと、浮力がなければ偉業は成し遂げられなかった、とだけ言っておく。
で、ついさっき犬は川の水で毛にこびりついていた血や泥、汚れなんかを流し終わったところ。
びっくりしたんだけど、灰色だと思っていた毛色は純白でした。
そーとー汚れていたみたいで、何度も何度も洗ったよ……犬用シャンプーゥゥウゥゥウ!とか思わず叫びそうになったのは内緒だ。ふふ、ほんと大変だった。
「傷は大分塞がってるみたいだけど、ここまでしたら最後まで手当しないと」
なんの為に汚れを落としたと思ってるんだ!第一目標は手当て!!
だ、第二目標は乾いたモフモフの毛を少しだけ撫でさせてもらうことだけど…それはいつでもできるような気がするんだ。
ザッパザッパと川の水をかき分けながら川岸に戻って、当たりを見渡すと、少し離れたところにお目当ての薬草を発見した。
それを必要な分だけむしり取って、荷物の中から包帯を取り出す。
勿論、ゴリゴリすり潰す用の石も確保した。
「水から出るとやっぱり、水が冷たく感じるけど……冬じゃなくてよかった」
流石に冬の川に入る勇気はない。
白い犬の傍にいくと、チュンが私の手にあるものを見て嬉しそうに囀り始める。
チュンのさえずりをBGMにして私は治療っぽいものを開始することにした。
ゴリゴリ薬草をすり潰して、傷口に乗せる。
その上からぐるぐると包帯を巻いて完成なんだけど……何せこう、大きいものだから大変でした。
なんとか巻いたけどね!御陰で凄くお腹すいたよ、だって朝から肉体労働だもん。
手当を終えた犬を抱えて、寝心地の良さそうな草の上にチュンが使っていたタオルを敷き、その上に横たえてから罠を仕掛けた場所へ向かう。
チュンは私の頭の上で周囲を警戒中です。
「どれどれー?あ!いるいる~……やっぱりこーゆ場所の川にいる魚だから捕って食べる人居ないんだろうなー…だから警戒心が皆無、と」
ふんふんと鼻歌を歌いながら前日に編んだ魚を入れるための籠で魚を掬いあげていく。
昨日は3匹だったけど、今日は7匹もとれた。
5匹は焼いて、2匹はお味噌汁にしようと思う。
ご機嫌な私の頭の上にいるチュンも、私に合わせているのか嬉しそうに囀ってくれる。
近場で焚き火をして、魚を焼いたり魚と野草のお味噌汁を作ったりして食事を終えた。
7匹の魚のうち、焼いた2匹を犬の前に置いて、頭を撫でてから出発。
お腹はいっぱいになったし、撫でた頭はふかふかで気持ちよかったし、ばっちり元気になった。
た、たたた単純なんじゃないよ!ただちょっと切り替えが早いだけだし。
◇◆
現在地は恐らく、地図で確認する限り、中間地点とゴールの間。
理由は、地図に書いてある滝が隣にあるので間違いない、と思うんだよね。自信はないけど。
今歩いているのは川岸だから、大きな岩や小石がごろごろしているから、歩くには相応しくはないんだけど…昨日森の中で死体さんとたくさん遭遇したから流石に、歩きたくなかった。
滝を登るわけにはいかないから一度、森に入って川岸を歩けるような道になるまで歩かなきゃいけない。
崖を登るくらいなら、多少気は乗らなくても森を行く方が確実だ。
……こんなとこで死んだらそれこそ死んでも死にきれないし。
絶対ヤだよ、黒いオバケになってもの暗い森の中徘徊するのは。断固拒否する。
「うー……足が話せたら間違いなく奇声を発してるよ、この痛みと疲労感は就活中の極限状態に似てる。生きてる人間の代わりに死んだ人間と、コンクリートジャングルの代わりに鬱蒼とした自殺の名所の森でしょ?ほんっと中々いい勝負だとも思う。なんの勝負なのかもわからないんだけども」
「ちゅん…」
「チュン、お願いだからそんな慰めないで。わかってる、もう痛い人間だってことくらいわかってるから。もーこれはどうにもならないんだよ、思いついたこと口にしてないと色々埋まんないの。就職するのも大変だけど働くのも大変なんだね……山の中に放り込まれる研修するとは思わなかったもん。魚介系の加工するところなら海に放り投げられたのかな?」
「ちゅん!ちちっちちちちち!!」
「な、なに?」
頭の上にいたチュンが、森に入って30分ほど歩いた辺りで突然飛び立ち、数メートル先にあった腰掛けられる大きさの岩の上にちょこんと止まる。
自然の中にいるのを見ると(例えそこが自殺の名所でも)やっぱりチュンは野生の雀なんだなぁ、と思う。
毛づくろいを始めたのを見ると、ここで休もうと言うことらしい。
昨日もこんな感じで時々、休憩するように示してくれた。
いやー……山道って歩いてるとだんだん感覚がなくなってくるんだよね。
だからついつい、時計を見ることを忘れるんだ。ついうっかり、ね。
散歩は好きだけど、物騒極まりないところを徘徊する趣味はないんです、本当に。気づいたら変なところにいたことは何度かあるけど!
「うわ、もう4時間歩いてたの?!チュン~、ありがとう。ええと、お水のむ?」
「ちゅんっ!」
「ちょっと待ってね~……はい、どうぞ。ふー……結構高くなってきたね。下から見ても大きい滝だったけど、1時間近く経ってもまだ滝の上まで到着しないなんてびっくりだー」
独り言をつぶやきながら、ペットボトルに入れたお茶もどきで喉の乾きを潤しながら改めて周囲を見回す。
相変わらず、苔の生えた木々は相変わらずだし、苔絨毯的な地面、朽ちかけた木や無造作に転がる岩や小石。所々、落ち葉が落ちていて……どよーんとした雰囲気を醸し出してなくて、木もれ陽なんかが挿し込んでたら、神秘的でいいんだろうなぁ。
「自殺の名所じゃなくって、もーっとこうなんかいい感じの場所だったら……極上の和菓子を出すお抹茶飲めるお茶屋とか甘味処とかあってもいいよね!あ、そうだ!これだったら抹茶系の洋菓子とかも合うかも。ああ、いやいや、ここはやっぱり大福とかそういう感じのがいい」
ぶつぶつ呟く私の横で、心無しか呆れたように私を見ているチュンと目があった。
大丈夫だよ、チュン!凄くお腹すいててもチュンだけは食べないから!
ぎゅ、と拳を握り締めて力説するとチュンは何故か私から距離をとって小さな体をふるふる震わせて明らかな警戒態勢をとっている。えええー・・・なんでー。
休憩時間は10分に決めたのでまだ余裕がある。
何をしようか考えてると、草がガサッと音を立てた。
普段なら気にしないような音でも、この森にいた所為で“音”に敏感になってるらしい。
咄嗟に振り向いたのはいいけど真後ろだったから腰がグキッていった!
ぐすん、と心の中で涙を流しつつも揺れた草に視線と意識を集中させる。
ふ!私にだって緊張感くらい存在してるんだよ。
じっとみてると、草の無効で何か――――…白いモノが見えた。
黒じゃないことにホッとしたけど、新手かもしれないと考えた瞬間、口元がひきつる。
オセロの幽霊とかいろいろ突っ込みどころがありすぎる。
ちらっとチュンをみるとチュンも草の茂みを眺めたまま動かない。
それに倣って私もそっと視線を戻す。
「チュンやっぱり、なにかいる……よねぇ?」
「ちゅん」
「へ、返事してもらいたくなかったな~……なんて」
目線も意識もそらせないまま、声を潜めてぼやくけどチュンは知らんぷりで茂みを眺めている。
緊張感も、未知のものに対する恐怖も限界に近くなったその時――――…それが姿を現した。
「れ?お前……あの時のでっかい犬!おまえ、怪我大丈夫?結構血ィ出てたし、あんまり動かない方がいいと思うよー。この森じゃお肉なんて手に入らないだろうし」
「……ちゅん」
「え?チュン、その反応はなに!?わ、私間違った?!」
雀に呆れられる私って一体…?
思わず遠い目をした私の元に茂みから半身を出した大型犬が、のそのそと近づいてくる。
警戒している様子は、不思議なくらいになかった。
なんていうか、よく人に慣れたゴールデンレトリーバー的な感じ?
一応、野生のはずなんだけど……なぁ。
「どうしたの?」
とりあえず、しゃがみこんで犬と目線を合わせる。
大型犬だけあってしゃがみこめば十分目を合わせられる位大きい。
……なんか、犬相手にあれだけど凄い敗北感。切ない。
「わぅん」
「(うわ、なんちゅー可愛いらしい鳴き声を出すかな、その図体で!)う、か、可愛い……じゃなくって!そうじゃなくって、おわ!?」
ポサポサと近づいてきた犬は、しゃがみこんでいる私の体にその大きな体を寄せてグリグリと胸の当たりに顔を押し付ける。
まるで、お気に入りの毛布に顔を埋めているような、そんな雰囲気だ。
しゃがみ混んでいた私はあっけなく尻餅を付く。
で、気が付けば、目の前には白い犬の顔があってベロベロと顔中を舐められていた。
とりあえずは食べられる心配だけはしなくてよさそうだけど、犬の唾液でベタベタになってます。
須川さぁあぁあん、これ、ちょっと想定外なんですけどぉぉおお!!
洗顔石鹸!洗顔石鹸かもしくはこれに類似するものを所望しますっ!
うわあ、歯!歯が当たってる!
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白いもふもふワンコに懐かれる、の巻(笑
ちなみに、大型犬ではゴールデンレトリーバーを愛してます。
基本的には中型犬が好き。うちのワンコも雑種です。
ここまで読んでくださってありがとうございました!かんしゃー!




