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正し屋本舗へおいでなさい  作者: ちゅるぎ
九死に一生を得る、迷子
18/83

洒落にならない遭遇3

 今の時期、森で野宿したら確実に凍死します。



                        By 北海道

.







 起きたのは、わかった。     でも、それだけです。








 



 夢とほとんど変わらない暗闇なのに、おどろおどろしいあの声も音も聞こえなかった。



 なんだか、静まり返っているのが不気味で仕方なくて無意味にそわそわする。


 落ち着かないのはきっと、さっきまでいろんな意味で賑やかだった場所から、突然静まり返った場所に戻ってきたからだと思う。

さっきまではあんなに怖かったのに、いざ目覚めてみると今度は現実の方が怖いと感じるんだから変な話だよね。いや、どっちにしてもこの森自体が怖いんだけどさ。

なんだよ、自殺の名所って!私救助される確率ものっそいないじゃないか!とかなんとか心の中でブツブツ言いながらチュンを撫でていて、少し驚いた。




「……?チュン、どこ見てるの?」



「――――――――……」



「いや、あの、流石にちょっと切な……あ、れ?」





 チュンがじっとある一点を見ていることに気づいて、何気なく視線を向けてみる。

自慢じゃないけど横断歩道は何となく2度見してから渡ります。

 

 その先にあるのは確かに暗闇だった。

真っ暗で、おそらく出ているはずの月の光も届かない陰鬱いんうつとした森に光っている何かが見える。

最高級のガラス細工を見てるのかもしれない、と一瞬考えた。

でも、流石に地上から単独で浮いているガラス細工や宝石は見たことがないから、違うんだろう。





「チュン、アレはなんかよくわからないけど……綺麗だねー」





 思わずこぼれ落ちた独り言は、やっぱり独り言で終わった。

チュンはただ、じっとその赤い綺麗なものを見ている。

私もそれにつられて闇の中に浮かび上がる赤いモノを眺めていると、それがほんの少し近づいてきたような雰囲気を感じ、思わず目をこすった。



 くしゅ、ともくしゃ、とも言えない、生きた草を踏む音が一定の間隔で4回響いて、跡形もなく空気に溶ける。



この、綺麗な赤の持ち主は動物なのだ!と、頭のどこかで告げられた。

げ体験は初めてです!ってそんなお馬鹿なことを行っている場合じゃなくなったのは、ほんの数秒前のこと。


いやね、背後にね、なんか、いるっぽいんですよねー!!あは、あはははははっ!!


冷や汗と冷や涙(ひやっとして出てくる涙って感じです。うっかりでちゃったんです、普段は強い子だと思います、私)と悪寒を引き起こしてくれたのは多分、昨日うっかり何度か目撃してしまった黒い人影。


 後ろを確認したわけではないんだけど……奴と出会った時にバビビビッ!っと来た感じが似てる。嫌な方向に。

爽快さとは真逆の位置にありそうなこの感覚はそうなんども経験できるようなものじゃないこと位、理解し始めていますとも。現在進行系で経験しちゃってるからね!


黒い影が突如出現する直前、ずっと赤く綺麗なモノを見つめていたチュンが、甲高い、それでいて緊急事態を知らせるような鳴き声を挙げた。

よく、例えで“まるで火がついたように子供がなく”とかあるけど、ソレの鳥バージョン。





(チュンは、教えてくれてたのかな…、もしかして)





体中の羽毛を逆立てて、怖いのかプルプル小さく震えている癖に私より何十倍もちっちゃな体で私を守るように“何か”に向かって鳴き続けている。

 なんだかもー、それを見たら悪寒とか恐怖とかそんなんどーでもよくなって、とりあえずこの可愛すぎる生き物を優先的に考えることにした。私には須川さん印のお守りがある。それに、塩だってある。明日の夜には意地でも着く予定だから、塩だってちょっとくらいなら使えるんだよ、大事に使ってたからね!




「ありがとう、チュン。ここに隠れててね…一応、水浴びはしたから汗臭くはないと思うけど…居心地悪かったらぴょーいって飛んでってくれてもいいし」



「チッ?!チチチチチっ!!!」



「はいはい、大丈夫だよ。怖いっちゃー怖いけど、チュンがいるし、おちおち死んでらんないよ。まだケーキも大福もお腹いっぱい食べてないし、新しく出来たクレープ屋さんの評価もまだしてないからね」




 チュンを握りつぶさないようにそっと両手ですくい上げて、とりあえず、安全そうな懐(というか服の間)にいれた。

少しばかり、乳に鳥独特の爪が食い込んで痛こちょばしいけど、我慢できないほどでもないしチュンもチュンなりに体を落ち着ける位置を見つけたらしい。





「ちゅん!」



「か、かわええ…!!もしここを無事に出られたら写真撮らせて!かわいすぎる」



「ちゅんちゅんちちちちっ!!」



「へ?ああ、そういえばそうだったねー…………?あれ、なんかさっきのいなくなってない?」






 チュンに叱られて視線を戻せば、そこにはもう、なにもいないようだった。

とりあえず、寝袋から出て、その上に座り込む。

一通り周りを見たけど、さっきのザワザワくる感じは全くない。




「見間違い、って訳じゃなさそ……うっ!?」




 変だなー、と呟きながら寝袋に潜ろうとした私の耳に、ぶちゅり、ごりゅ、という生々しい音が聞こえてきた。

はじめに聞こえてきたのは、何か適度に柔らかいものの繊維を無理やり引き裂いていくような音と骨のように硬い何かに当たってそれが一旦止まる音のようにも聞こえる。

 ごくり、と私が生唾を飲むのを確認したように、バリバリと硬いモノを豪快に噛み砕く音が聞こえた。






 ぎ ゅ わ ぁ  ぁ あ ぁ あ あ ぁ !!






 擬音にするなら、多分、これが一番近い。

怒号にも似たものすごい衝撃波のようなものが私がいる一体の空気を震わせた。

無意識に握り締めた寝袋と、胸の間でぶわっと羽毛を逆立てているチュンの存在を感じながら私は、身動きひとつ取れないまま固まっていると、四方八方から―――――…あの、黒いのと同じ気配が現れる。


 ひゅっと喉を空気が通って、私はそれっきり息をひそめる。


かつてないほどに緊張していると今の私なら言い切れる。

黒いのに、バリバリと何かを捕食しているなにかに気づかれないように必死に気配を消そうと意識する。

心臓の音が頭の奥で聞こえているのに、気配にだけは過敏になっている様な気がした。



 何かを食べるような音は、絶え間なく、黒いのが増えるに従って感覚が短くなっている。


多分、捕食しているなにかは、あの気味が悪い黒い人影を喰ってるんだろう。

どんなゲテモノ食いでもアレは食べたいとは思わないと思うんだけど……たぶん、ものっすごく悪食なのか飢えているのかのどちらかだろうと見当をつけた。もちろん、証拠なんてなにもない、ただの思い込みだけどね!













バリンボリン豪快に骨ごと噛み砕くような音が聞こえてから、どのくらい経ったのかはわからない。







 でも、確かに何かが終わったのだと私は気づいた。


それは音が変わったせいでもあるし、黒いのを見た時の悪寒がナリを潜めたからでもある。

ごくり、と乾ききった喉を潤そうと体が無駄な努力を実行したけど唾液なんて出るはずもない。

喉どころか口の中自体が、カラッカラのサハラ砂漠か鳥取砂丘並に乾燥してるんだから。


 はー、はー と自分の浅い、それでいて緊張し切ったような息遣いが耳障りだった。


米神や背筋を伝う冷や汗も不快で、明日の朝、歩く前に水浴びを使用と心に誓う。

 多分、こんな状態でも私が気を失ったり、気が触れたりしないのはチュンのお陰だ。

自分より小さな生き物の存在があるから、私は自分を保っていられる。…ギリギリで火曜サスペンス劇場の説得景色並みに崖っぷちにいるけども。




ぱた、と何かが落ちる音がする。


パタパタ、と連続してナニカ――――……液体が、草の上におちるような……――――― 音が聞こえる。

そして、同時期くらいに耳と意識に飛び込んできたのは、さくっさくっと草を踏む人ではない重さの何かが近づいてくる音だ。




かろうじて手の届く範囲が、うすらぼんやり見える状況でこれは怖い。とても怖い。非常に怖い。



どう、しよう。

なんの解決策も浮かばない私は、ただ、冷や汗を流しながらそんなことを考えて―――――――――……暗闇に、意識をさらわれた。











これが私にとって人生初となる失神でした。とーぜん嬉しくない。








.

 や、やっと書き終わった…二日目の夜のお話です。

次は三日目の朝!の予定。

あー、早く終わらせたい……!



ここまで読んでくださってありがとうございました!


PS.

お気に入りがまた増えていました…び、びびでばびでぶー!!(驚嘆の意)

あの、ほんとにありがとうございます。が、がんばんべー!!

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