洒落にならない山登り
本当は続けてアップしたかったのですが、仕事やらなにやらが重なって全く書けなかった……む、無念!
…閉話とか、はさんでもいいんかなー……はさみたいなー……
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私の知らない、知らなかった世界は想像してたよりもずっと近い場所にあったらしい。
おあずけを喰らってる犬もきっとこんな気持ちなんだろうな、と火をじっと睨みつける。
川で水浴びをした私は、魚を無事に確保した。
それから、寝床にしていた洞窟の入口付近で火を熾し、魚を焼いている真っ最中だ。
じじじじじ、と実に美味しそうな音と共に枝にさした魚が焼けていく。
荷物の中から取り出した塩で味付けして、川辺で見つけた野草は魚一匹と一緒に鍋の中。
潮汁もどきでも、お腹が一杯になるのはやっぱり汁系だよね。
ぐーと主張するお腹から聞こえてくる音に、空腹感が加速して行く。
生焼けの川魚は食べたくないからものすごく我慢してるけど、やることはもう殆ど済ませた。
荷物はまとめたし、お茶のストックも作ったから問題ない。
後は本当にお腹を満たして元気よく歩き始めるだけ。
昨日は変な時間に目が覚めて、変な夢?を見たけどそのあとはぐっすり眠れたので体力的にはなんの問題もないし、あとは川沿いに頑張って歩けばいいだけなので気楽と言えば気楽だ。
なんの目印もない森を不安まみれのまま歩き続けるのは、体力的以前に精神的にきつい。
一人で山を移動するのは、想像以上に精神力がいる。
しかも私の場合、知らない場所にぽーいっと投げ出されて予備知識どころか心構えすらできてない。
そんな山の中で必要最低限のものをうまく活用しながらゴールを目指すっていうのはかなり、大変なことなのだ。いや、楽しんでるっていえば楽しんでるんだけど。
「あ、そうだ。包帯かえるよー、おいで」
「チュンっ」
「地味に賢い雀だよね、偉い偉い」
タオルの上にいる雀は逃げる気配もなく、わさわさっと近づいた私を不思議そうに首をかしげつつ、素直に包帯がある方の翼を差し出すような姿勢をとってくれた。
人差し指で頭と人間でいうと頬っぺた(鳥で言えば耳のところ)をもしょもしょ撫でてから、取り出しておいた包帯と魚と薬草をとってくるついでに採取した昨日の薬草をすり潰したものを用意する。
「……あれ?何か傷跡がさっぱりないんだけど」
「チチチチ」
「いや、あの、答えてくれてるのはわかるんだけど何言ってるのかまではわかんないんだ、ごめん。えーと、それで、羽の方は良い感じなの?」
「チュンッ」
「元気そうだし大丈夫っぽいね。一応包帯は巻いておくけど、明日見て大丈夫そうなら包帯は取るから、一足先にこの森から出て仲間と合流してね」
「………」
ぷいっと明後日の方向をむいた雀に思わず首をかしげる。
何か凄く人間らしい仕草で拒否された気がするんだけど、気のせいだよね?
でも、ま。白い包帯が痛々しいけど元気そうだし一安心と言えば一安心だ。
「そういえば、雀……君、餌は?」
「チチチチ」
「カブトムシとかバッタとかカエルとかコオロギとかゴキブリとかは大丈夫だけど、芋虫系と毛虫みたいなのとか蝶々および蛾は心の底から無理だからね!ミミズなんて有益虫だってわかっちゃーいるけど無理にも程があるってもんだし、自分でどうにかできそう?」
おそるおそる確認すると、彼だか彼女だか不明な雀は「任せておけ!」的な勢いで鳴いた。
ほっと胸をなでおろして手当を済ませた私は、雀をどうやって運びながら山登りをするか考えつつ、焚き火に向き直る。
香ばしく、とても美味しそうに焼けているのを確認して、ついでに鍋の方も味見。
うむむ、なかなか美味しい。野草が魚の臭みとかうまい具合に消してくれたみたい。
川魚じゃなくて海魚だともっといい感じになるんだろうけど、ここは川だから流石に海の魚は泳いでないもんね。うぅ、美味しい焼き魚食べたくなってきた。
もぐもぐとすかさず魚にかぶりついた私にならって、雀もぴょんっとタオルの上から飛び降りて地面へ降り立つ。
そのままトトトっと跳ねたかと思えば、おもむろに地面をつつき始める。
ああ、うん、餌ですね。私の嫌いな類の餌を食べていらっしゃるんですね。了解です。
さっと雀から目をそらして目の前のご飯に集中する。
昨日は朝ごはんを食べたっきり、カロリーメイト1本だけだったからかなりお腹が空いてたらしい。
よくよく考えると、お腹すいてて当然だよね。
もぐもぐ咀嚼をしながらふと、昨日の黒い影と夢のことを思い出した。
森を歩いているときに見た黒い影は確かに、人の形をしていた筈だ。
頭もそうだけど手足だってそれらしいものがあった。
まじまじと見たわけじゃないけど、あれは確かに人だの形をしていたと言い切れる。
「(でも、夢に出てきた殆どは獣みたいな、唸り声だった)」
人の唸り声を聞いたことはないけど、あれは間違いなく獣の唸り声だ。
悲鳴や絶叫は“人”のモノで間違いなかった。
でも、その発生源はおそらく獣で間違いないだろう。
「(喰い、荒らされてた…とかだったら私も危ない、よね。まさか日本で動物に頭から食べられるかもしれない心配することになるとは)」
たははーと食べ終わった魚の骨をパラパラとそのへんに散蒔いて(有機肥料だ!)、鍋を川で洗えば即出発できる。
リュックを背負って立ち上がった所で、下から雀の鳴き声が聞こえてきた。
どうやらご飯を食べ終わったらしい。
「お前、どーしよっか。流石にリュックの中に入れるのはダメだろうしなぁ」
しゃがみこんで、雀を見ると雀も当たり前だというように鳴いた。
もしかしたら私の言葉をわかってるんじゃないだろうか。
何か言葉でも話すんじゃないだろうかと雀を見つめていると、雀は羽ばたくマネを始めた。
「ちょっと、だめだよ!一応まだ怪我人…いや、怪我鳥なんだから!あーと、うーんと、肩はあれだし……よし、ここでいいか」
「チュンッ!チチチチチ」
「あててて。もしょもしょダメだって!こちょばしい…ッ」
頭の上に雀を乗せてみたんだけど、雀は嫌がる素振りも無く嬉しそうに鳴き出した。
流石に頭の上でフンとかはしないと思う。しないといいなー。
いろんな意味での恐怖心を胸に、私は立ち上がる。
歩いてる最中に落っこちたりしないよね?
はじめはヒヤヒヤしながら怖々歩いていたけど、すぐに頭の上の存在にも慣れて順調に歩いていた。
川辺を歩くか川辺に近い森の中を歩くかで少し迷ったものの、結局川が見渡せる範囲で森の中を歩くことにした。川が見えなくなったら、また川辺に戻ってそこから歩けばいい。
そう決めてからは、随分気楽に山登りができた。
「んにっしても、雀すずめーって呼ぶのも味気ないよね。貴重すぎるいらない体験を共にしたことを踏まえて親しみを込めて“チュン”って喚ぶことにしたよ。ほら、チュンチュン鳴くし、響きが可愛いと思うんだよね。呼びやすいし」
「チチチチチッ、チュンチュンッ」
「ごめん、抗議されてるのか喜んでるのかさっぱりわかんないよ…頭の上だから見えないんだ」
頭の上で寂しそうに鳴くチュンに話しかけながら、ただひたすら獣道を進む。
ある程度まで登ってきたのか、徐々に傾斜がきつくなってきたけど、昨日ぐっすり寝たおかげで体力はある。
精神的にもチュンがいてくれるからまだ大丈夫。
逆に言えば、いなかったら今の私はかなり極限に近い状態だっと確固たる何かを持って言い切れる!
いや、何かってなんなのかはわからないんだけども。
頭の上にいるチュンに話しかけながら、4時になるまでは歩くと決めていたのでそれまでは頑張ることにした。時々、5分小休憩や飴を食べることで疲れをやり過ごしながら進もうと決意したのは確か数時間前だったと思う。
実際、岩っぽいものや倒れた木を跨いだり登ったりしたけどそれなりに順調だった。
“それ”を見てしまうまでは。
「……す、須川さんのばか……!!」
地面に手をついて項垂れた私はここで初めて、入る会社を間違えたと心から思った。
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やっとうpしたのになんだろうこの短さ。無念すぎる。
行き当たりばったりにも関わらず、目を通していただいて本当に嬉しいです。ありがとうございました!
PS.お気に入りがまた増えていました。すっごくすっごく嬉しいのに、なんだか申し訳ない気分で悶々です。精進します、ええ、頑張りますとも!