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正し屋本舗へおいでなさい  作者: ちゅるぎ
九死に一生を得る、迷子
11/83

洒落にならない野宿 3

 目指せ!せくしーしーん!!




     と、掲げている時点で多分、自分は痛い人。











  私を悪夢から救ってくれたのは、弱い筈の、強い存在。













 


  私の悪夢を終わらせてくれたのは、悲鳴でも恨み辛みの声でもなかった。


小さな、本当に小っちゃくて、うっすら聞こえただけなんだけど意識するとそれはしっかり私の中に入ってくる。


チチチチチ、という可愛らしい鳴き声は少しずつ、苦痛に満ちた音を消していく。


完全に聞こえなくなったわけじゃないけど……でも、親しみやすいその鳴き声にうっかり泣きそうになる。

夢の中だから、泣くことはなかったけど、でも泣きたいくらいほっとした。


 じんわりと体の末端が温まっていく。


いつの間にか、冷たくなっていた指に安心感と血液が巡り始めるのを感じて深く、息を吐いた。

 まだ、頭の片隅に悪夢の余韻が残っている。

絶対に普段の生活では聞くことができない沢山の声は頭の奥底で、反芻して安心感や血液と共に全身にばら撒かれていく。





(手…震えてる)





 カタカタと震える手をぼーっとしたまま観察していると、小さな音がした。


たき火の消えた洞窟の中は外と変わらない暗さで、夢の中みたいに真っ暗だった。

濃淡すらない完全な黒い空間に少しずつ、呼吸が浅くなっていく。


 そんな中で、聞こえてきた音のは枯葉が擦れ合う、独特の軽い音。


枯葉なら、寝袋の下に敷き詰めてある。

そこから聞こえてきた音なら聞かなかったことにしてすぐに寝ることができるのに、音が聞こえてきたのは明らかに“外”だった。




「ッ……!!」



 近づいてくる、そうわかった瞬間に私はあわてて両手で口を押えてた。

私だって、こんなことをしたって相手に息をする音が聞こえなくなるとは思ってない。


 音は微かに、でも少しずつ近づいていた。


カサカサと自分の足音を極力消そうとしているような、そんな印象を覚える足取りだった。

私は体をゆっくりゆっくり ――――― 音を、たてないように細心の注意を払って ―――――― 体を丸めていく。


 視線は、外につながる唯一の入り口に固定されたままだ。


視えないのはわかってる。

でも、どうせ目を閉じたところで広がるのは変わらない暗闇なんだから、少しでも相手の隙を見て逃げ出せる用意しておいた方がいい。

 ガチガチとかみ合わない歯が音を立てているのに気づいて、私は指を歯の間に挟んで音を止めた。




(気づかないで、そのまま、行って…ッ!!)




 お願いだから、と入り口をにらみつける。


鼻の奥がつーんと痛んで、瞳に涙が溜まっていくのがわかったけどそれを拭う余裕がない。

余計な音を立てないように細心の注意を払って、息を殺した。





(あ、れ……?ちょっとま、って。音が、増えてる…?)





 増えている、音に戦慄する私を放置して、音は増えていく。


沢山の音はいたるところから聞こえてきている。

それらが目指すのは、この洞窟なのかもしれないと考えた瞬間、頭の中に不安が一気に噴き出した。





「(これやばいよね!?どーかんがえても私、危ない感じだよね?!たしかにこの洞窟は寝るのにちょうどいいけど、集会と集合地点には向かない!幹事っ、いるならしっかり場所決めくらいしとけっ!幹事がいないならいいだしっぺ!もっとわかり易くていい場所あったでしょ?!なんでよりによってここなの!怖いってば!私が怖がっても出るのは涙と鼻水と奇声くらいだって考えりゃわかるでしょ!私より馬鹿だなーっていわれても知らないんだからね!弁解もフォローもしてあげないんだからっ)」





 怖すぎて、なんだかもー腹立ってきたんですけども!


いつの間にか体の震えは止まっていたので咥えていた指を歯の間から外す。

来るなら来い!と八つ当たり気味に入り口をにらみつけていると、足音が一斉に止まった。





「(あ、あれ?も、もしかして私の開き直りが通じた?)」





 それはそれでいいんだけど、緊張と不安がじわじわと戻ってきた。

戻ってこなくてもいいってば!どっかに帰れ、恐怖心!!

ぎゅっと手を握りしめた私の耳を大きな咆哮が突き抜けていった。







「(は……?)」





今のは、なんだ。



 あっけにとられて思考を放棄した私の耳に、今度は悲鳴とも絶叫ともつかない声や唸り声、怒号のような音が次々に飛び込んでくる。

何かの動物が喧嘩というより死闘を繰り広げているらしい。

生々しい音がひっきりなしに聞こえてくる。



 いったい、なにがどうして私の寝床の前で決闘なんぞ始めたのかはわからないけど、今のところは安全だ。


敵が自分の目の前にいるんだから、脇役かつ雑草的な私に構っている暇なんて微塵もない筈だし。

よそ見してる間に相手にカプッとやられちゃ堪らないもんね。

最終的に生き残ったのがお腹一杯になってどっかに行ってくれればとりあえず、日の目は拝める。



……動物は好きだけど、野生の掟に首を突っ込む度胸も覚悟もないもんね!



 もし外にいるのが犬っぽいのだけじゃなくって、熊っぽいのとか、荒ぶった鹿っぽいのとか馬っぽいのとかだったら間違いなく彼らの夜食になる。

私はこの森を抜けて、見つけた野草のお茶で美味しい練りきり食べるって決めたんだから死ぬわけにはいかない。どうせ死ぬなら美味しいモノ全部食べて存分にゴロゴロしてお風呂入って、昼寝してる時にして欲しい。


 相変わらず聞こえてくる生々しい争いの音をBGMに、ついさっき見てい時のことを思い出した。






「(あの時のって、雀の鳴き声……だよね)」





 雀といえば、枕元にいるはずの怪我をした雀くらいしか思い当たる節がない。


っていっても、所詮は夢の話だから枕元の雀が助けてくれた~なんてお伽噺的展開にはならないのが現実だ。

色々と想像力豊かな私でも現実と夢の違いくらいは認識できる!

……ときどき、寝ぼけて美味しいものと枕を食べちゃうことがあるけど。




「(でも、仕方ないと思うんだ。だって両手で抱えられるくらい大きくて美味しそうな豆大福が目の前にあるんだよ?!食べないなんて人間じゃないよ)」




 他にも食べ損ねた美味しいモノシリーズについて考えを巡らせていた私の耳に、再び雄叫びが飛び込んできた。



 反射的に反応したことで我に返る。

いや、すっかり忘れてたけど外ではサバイバルな戦いが……って、妄想してる場合じゃなかった!

慌てて意識を“外”に向けると、唸り声も悲鳴も、物音もなにもしなくなっていた。

 何もない、暗闇と重い静寂が広がっているだけでさっきまで“何か”がいた形跡も、きれいさっぱり消えている。






「………………ねよう」






多分、今日はもう何も起こらない。


外に出て確かめるというのは、ちょっとした自暴自棄。言い方を変えれば、自殺行為。

そもそも、明かりが全くないから何があっても真っ暗で視えないから、朝にならないと何があったのかなんてわからない。……朝になっても何があったのかわからない可能性がものすごーくあるけど、それはそれだ。






「おやすみー」






 あったことも見たこともない神様はきっと、私に寝ろっていってるんだ。

もごもご小さくつぶやいて私は寝袋に潜ってようやく深い眠りについた。





 






◇◇◇ 










 目を覚ました私は、昨日作っておいたお茶を飲んで喉を潤して直ぐに外へ出た。



 寝床を後にする前に、雀を診たけど気持ちよさそうに眠っていたのでそっとしておいた。

元気になるまで一緒にいてほしいけど野生の生き物なんだから、とっとと治して森から出ていくのが一番だと思う。ここ、住むには向かないからね。


 外に出た私は、とりあえず昨日の夢だか現実だか全く判別がつかない時のことを思い出して周囲を確認してみた。






「やっぱり何にもない、か。動物っぽい足跡も、人間っぽい足跡も、毛も血の跡も……むむむ。夢の中で夢みてたってこと?」





そんな器用なマネができるなんて今まで気づかなかったけど、と少しだけ真面目な顔をしてみる。

いや、誰も見てないんだけど、雰囲気ってやつだよ。うん。


 独り言を呟きながら、探索と調査をやめて目的の川に向かう。


 昨日の罠に魚がかかっているかどうか確認して、居たらお持ち帰り、居なかったら罠を回収して今日の夜泊るところの近くに仕掛ける。

 次に、川で体を洗う。

正確に言えば、汗とか泥とか汗とか汗とかを綺麗さっぱり洗い流して、ついでに身に着けてた下着を洗って鞄にぶら下げて歩く。


 いや、あの、恥ずかしいよ?!ちゃんと人並みの羞恥心くらいあるよ!?

でもいいじゃないか!ここ人なんていやしないんだから!下着が乾くのを待つ暇があったら先に進んで少しでも早く森から出られるように歩く方がいいに決まってるじゃないか。美味しいご飯だって食べられる確率が上がるんだもん、こちとら必死だ。





「つ、つべたい……!!う、うぅうー……でも、我慢できない温度じゃない……夏でよかった。冬だったら確実に死んでたね」






 裸足になってそのまま服も脱ぐ。

どーせ誰も見てないんだし、相手は魚だ。跳ねて服が濡れるのは勘弁してほしい。

滑りやすい川底の石に気を付けながらゆっくり進んで罠を覗き込む。






「!いたーーーー!!!しかも3匹!うわぁ、おいしそー!塩焼きにして食べよう!うん。あ、あとこの近くで山菜も探そう。きっとある!ある筈だ!!」





 きゃっほー!と思う存分喜んで、私は先に水浴びを済ませることにした。

魚は一度は言ったら出られないような罠を作ってあるのでご飯を食べ逃すなんて危険性はない。

だったら早く身支度を済ませるに限る。






「魚が食べられると思ったらなんか水の温度も気にならなくなってきた!いよぉーし、今日も頑張って歩くぞ!明日にはつけるように真ん中よりちょっと上までいってやる!」





綺麗な水の流れる川で、成人した女が独り言を豪快に言いながら素っ裸で水浴びしてるこの状況こそ、たぶん異常だ。しかも、場所が自殺の名所として有名な森の中。





「………独り言、ひかえようかな」











 冷静になった時、ふと自分の現状を思い出してうなだれた。

私、山を下りるころには立派な野生人になってるかもしれません。

うぅ……腰に葉っぱとか巻いてたらどーしよう。














 気が付くまで、もうすこしだけ…―――――――――――――








.


 ここまで目を通してくださってありがとうございます。


作者としては頑張ってホラーを書いているつもりなんです。でも、あとで読み返すとどーしようもない三流ホラー?になっている罠。


あれー?(冷や汗

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