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正し屋本舗へおいでなさい  作者: ちゅるぎ
九死に一生を得る、迷子
10/83

洒落にならない野宿 2

 そういえば、数年前、ホラー小説を書いてて半ば憑りつかれていたってことがありました。懐かしいなぁ…。


原因は多分、ネットで見まくっていた心霊写真及び映像。

霊感?そんなもの微塵もありません。


注意:ちょっと、生々しい(流血的な意味で)表現があるので苦手な方は◇◇◇から下を読まないことをお勧めします。大丈夫だよーん、とおっしゃる方はずずずいーっとお読みください。






.







  何かが争い、食い合う音を聞きながら堕ちていく…―――――――――――












  もともと、辛気臭くて陽の光が届きにくい森だったのに、どーしてこういう時だけ色がつくんだと文句を言いたかった。




 だって、お日様が真上に上っても殆ど光を取り入れなかったのに、沈みかけて異様に赤い夕陽だけは取り込むってありえないと思う。いや、あっても私は許したくないね!凄く気味悪いから。

薄暗かった森は、燃えるような赤に近い橙色に染められ、黒みを帯びた木や枝、葉……土に至るまで、まるで血液をばら撒いて乾燥させたような色になっている。


 わかり易いのは固まりかけた血、ってところだ。

ほら、うっかり包丁で切ったりとかカサブタが生乾きの時の色。

それが濃淡の違いこそあれど、容赦なく一面に広がってるんだから不気味だと思う。実際、不気味だし。







「すずめー……おまえもこんな物騒かつ不気味極まりない森の中で大変だったね。私と違って空飛べるから自由自在なんだろうけど、鈍くさかったからカプッってやられちゃったんでしょ?大丈夫だよ、私、生きた鳥は捌いたことないし、捌く予定もないから安心してね」






 サラサラの羽毛(まさしく羽毛だ。うん)を指で撫でながら、私は一生懸命話しかける。

正直、自分で何を言ってるのかはわからないけど、こんな音のない森で弱ってくのは自分だったら勘弁してほしいもん。多少、なんか色々よくわからなくても音はあった方がいいと思うんだよね!



 両手でしっかり雀の体を包んで、私は足早に夕日に照らされた道なき道を歩く。

少ししか歩いていなかったこともあって、私は比較的早く寝床と決めた場所にたどり着いた。








「……なんだろう、何の変哲もない洞窟もどきなのに凄くほっとする」







 やっぱり、すっぽり収まる程度に狭くて寝るのに適した暗さだから?

首をかしげつつ、そっと雀を入り口付近、一番やわらかそうな土の上に置いて、そそくさと寝袋を広げた。

勿論、というか寝袋を広げる下には川辺に行く途中に集めた綺麗な落ち葉や葉っぱを敷いてある。

高そうな寝袋を好き好んで汚すなんて庶民代表の私にはできないんだ。

 クリーニング代とか結構高いしもったいないもんねー。




寝袋を広げて、その横に鞄を置いてからタオルを敷き、ペットボトルとつい先ほどむしった薬草を用意する。適度な大きさの石を見つけたので、鍋に汲んでおいた川の水を少し使って汚れを流す。

それから適当な石を同じように綺麗にしてからゴリゴリ薬草をすり潰せば一応完成だ。






「うわ、なんか薬っぽい匂い!昔の人の知恵ってすごいなぁ……私なんかよりも頭使ってるんだろうなぁ」





 

 教えてくれた近所のおじいちゃんおばあちゃんに感謝しつつ、肝心の雀を土の上からそっと持ち上げる。


よしよし、まだ生きてるな。偉い偉い。

親指の腹で頭をなでなでしてから、怪我をしている所にペットボトルの水をかけて傷口をきれいにする。

本当は飲み水のことを考えると川の水を使いたかったんだけど、煮沸消毒もしてないのであきらめた。

 傷にばい菌が入って飛べなくなったら、雀だって悲しいだろうし。


傷といっても、雀の羽だから、そんなに広範囲じゃないから直ぐに傷口は綺麗になった。







「えーと、このできたてほやほやのすり潰した薬草をぺちょっと乗っけて…―――なんか、鶏肉に香草練りこんでるみたいな気分だなー…――――― んでもって、包帯でくるくるくる~っと」







 見よう見まねで包帯を巻いて、救急セットの中に入っていた小さなはさみで包帯を切り、ほどけないように結べば完成だ!

痛々しい傷跡は白くてやわらかい包帯の下に隠れたし、出血もあらかた止まってたから後はこの雀の根性に掛けるしかない。


 よしよしと仕上げに頭を軽く撫でて、綺麗なタオルの上に乗せる。

タオルは3枚あったから2枚は洗って使いまわせばいいし。






「にしても、真っ赤だなぁ……ここが自殺の名所じゃなかったら素直に感動もできるのに」





 そもそも、だ。

私に霊感なんて特殊なものはないと思う。

今までお化けを見たこともなければ、金縛りにあったことだってない。

嫌だなって思う場所はあったけど、周りの人も同じように感じてたし私が特別って訳じゃなかった。


 黒いのが視えたのは、間違いなくこの森が特殊な場所だからだとおもう。

ほら、よく怪談とか番組の体験談再現みたいなのである心霊スポットにいって不思議な体験をしたり怖い思いをしたりする、アレだ。

 あれって、霊能者の人とかが言うには“たまたま”お化けとかと波長があって、うっかり視えちゃったのよ~ってな具合らしいし、今回見えたのはそんな感じのものだと私信じてる。






「超能力とか霊能力とかあったらいいなぁ、とは思うけどソレはソレ、これはこれ。実際に視えちゃったうのは嫌だなー……お目覚め一発、怖いお化けのドアップとか無理だもん、ほんとに。トイレの上やら下から髪の毛ぶわぁぁぁぁああ!!みたいなのも無理。すっごく無理」







 ないない、と思わず首を横に振った。


盛大な独り言だけど、ほぼ一日、超有名な心霊スポットかつ自殺の名所に放置されれば独り言や愚痴の一つや二つや三つは言いたくなる。

 幽霊怖い、的なことをボヤキながらマッチを取り出してよく乾いた枯葉を乾いた枝の上に置いていく。

それからマッチで火をつけて、フーフーしながら火が消えない程度に大きくなるのを待った。


 キャンプファイヤーとかは小学生の時にやったし、キャンプの経験もあるけど新聞紙やら燃えやすい紙、燃料を駆使してたから、枝と落ち葉だけっていうのは初めての試みだった。

最悪、タオルを小さく切って燃やすことも考えたんだけど…やってみるもんだなぁ…。

そうそう、マッチって偉大だ。

火打石とか棒を擦り合わせて火を熾さなきゃいけないなんてことになってたら確実に色々諦めてたもん。







「このお茶、結構おいしいかも。緑茶よりのハーブティーみたいな感じ?色も綺麗だし、うん。いけるいける。あー……きっと練りきりのお供に最適だ。無事にこの森から出られたらこのお茶で練りきり食べよう。そうしよう、もうこの荒んだハートを癒せるのは練りきりさんしかいない」







 お茶と共に本日の食事、カロリーメイトをゆっくり時間をかけて食べた。


その後、できることは寝ることだけ。

つまるとかつまらないとか以前にものすごく疲れてたらしく、寝袋の上でごろんと転がれば数分で眠気に襲われた。


 ぼーっとしながら、雀の様子を確認して、あくびと共に目を閉じる。








 小さな洞窟の中から視えた景色は、闇に染まっていた。

光は勿論、虫の鳴く声も聞こえなくて、夜さえも溶けてしまっているような暗闇。

寝床にしている洞窟の中は、たき火のお蔭で僅かに明るい。







 だからこそ、私は眠りに落ちるまで“本当に”恐怖するということを知らずにいた。

















◇◇◇















  私はどちらかといえば、よく夢を見て、夢を見たことを覚えている方だった。







 内容はいつも空想と創造、もしくは願望が私の中で膨らませたり縮ませたりしたもの。


大体カラーで、声もついてて味もするし、痛みのようなものも感じられた。

流石にコントロールすることは難しかったけど、小さなころはコントロールもできたから、寝るのが楽しくて楽しくて!……その所為で、友達からは「優ちゃんは良く寝るね~」と言われ、大人からは「寝る子は育つっていうからきっと大きくなるわね」なんて言われた。

 言っておくけど、縦にはあまり育たなかった。横には……うん、もう何も言わない。



とにかく、寝るのが好きだった私はそれなりに夢のバリエーションだって知ってる。



 怖い夢だって、見た。

誰かが死んだり、殺しあっていたり、憎み合っていたり、お化けがでたり、幽霊に襲われたり、呪われていたり、なにもなくなっていたり。


でも、それはあくまでも夢でしかない。










(な、に……?これ。こんなの、しらない)










 夢の中は、真っ暗だった。



真っ暗ではあったけれど、そこには音と温度がある。


これは別に珍しいことじゃない。

普段よく見る部類には入らないけど、声や温度だけの夢だってあったから。








(これは…――――だれ?)







 強烈な、感情が私に流れ込んでくる。

夢の中の中心はいつも“私自身”なのに、この日の夢は違った。



“私”の見る「私自身の夢」なのに、“私以外”の「私じゃない誰か」の夢をみている。







暗闇の中で、たくさんの声が聞こえてくる。



どれもこれも「苦しい」とか「悲しい」とか「辛い」だとか、挙句の果てには「憎い」「許さない」「殺してやる」「道連れに」などと物騒極まりない色に染まっていく。




そして、最後には 生々しい音と共に噛み砕かれ、啜られ、引き千切られ……断末魔の叫びと助けを求める声を残して消えていく。




 知らない、私の中にも存在するかもしれない……深い感情。


生々しい他人の声や感覚を借りて私はそれらをただ、傍観していた。





 正直なところ、「私」には害なんて、ない。






でも、ううん……だからこそ、怖かった。




自分の夢を、自分の頭を、自分の心をじわじわ乗っ取られていくような恐怖。

私が知らない私ですらない、明らかな他人に浸食されていくような感覚は、どうしようもないくらい怖かった。





(醒めて…醒めてっ、醒めろ…ッ!!なにこれ、こんなの知らない!気持ち悪いッ、醒めろってばっ!!)





 何度も何度も呪文みたいに、馬鹿みたいに繰り返した。


その間、ずっと『何か』が“何か”を食らう音だけが響く。


まるでお腹を空かせた動物が夢中で、肉を喰い千切り、骨を噛み砕き、溢れだした血液を舐め、啜る音。


命を、食らいつくす音に私の夢は支配される。















  もう、聞こえるのは痛みに呻く生き物だったモノが発する音と、まだ辛うじて繋がっている誰かの必死に助けを乞う、報われない声だけ…―――――――――――












.


























 ここまで目を通していただき、ありがとうございました!

うむむ。ちょっとホラー(ホラーか?)っぽさが出てきたような出てきてないような、微妙な所に突入です。



雀かわいいよ、雀。

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