ありきたりといわないで
誤字脱字には十分注意しているつもりですが、もし誤字脱字などがありましたら報告していただけると幸いです。
あまり描きなれていないので色々と読みにくいところもあるかもしれませんが、精進していきたいと思っています。
暇つぶしにでも読んでいただけると嬉しいです。
慣れない重さと大きさのビジネスバッグが、私に現実を突きつける。
手に持っているビジネスバッグは男の人用なので持ち手のところが凄く持ちにくい。
ビジネスバッグはケチらないで新しいの買えばよかったって何度思ったことか!
でも最大の敵はビジネスバッグじゃなくて、ヒールだ。
ヒールなんて履きなれてない所為で、叫んでゴロゴロ転がりまわりたいくらいきつい。
足全体の痛みがそろそろ無視できない状況になりつつある。
しかもそこに天敵である、動きにくくて快適さとは無縁のスーツが加わるんだから恐ろしい。
色が黒いから太陽の光は吸収するし辛いのなんのって。
移動するときは普通の靴とジーパン、着替えやすい恰好のほうがいいかも。
会社の近くに来たら着替えればいいよね。
げんなりと人が行き交う街中でうなだれている私の名前は江戸川 優といいます。
某眼鏡の少年とは何の関係もない、しがない田舎者ですとも。
これだから都会は、なんてぶつくさ八つ当たり気味に呟きながら立ち止まって天を仰ぐ。
「(う~あ~……なにこれ、凄くあっづいんだけど)」
ビルの隙間から見える雲一つない快晴は、今の私にとっては泣きたくなるくらい憎いあんちきしょうだ。
体中が水分を要求してる。特に喉とか口の中とか。
乾物の気持ちがわかる一歩手前ってところかなぁ。
「(にしても、完全に就職活動を侮ってた)」
友達から就職活動が大変だと聞いてはいたけれど、まさかここまでとは。
あんまり器用なほうじゃないから勉強と就活を一緒にやる自信がなくて勉強を優先してたんだけど話だけでも聞いておくんだった。
次々に就職を決めていく友人たちに焦り始めたのは5日前。
まずは就職を支援している短大の就職課や公共機関を利用したんだけど、結果は――――言うまでもない。
受かってれば、今こんな恰好してないもん。
「(ここは絶対大丈夫って言ってた就職課のおばさんが最後には神社でお祓いを受けてきなさい、だもん。ついてない以前の問題だよね……面接練習だって一発だったのに)」
はぁ、と盛大なため息と一緒に肩が下がる。
うう。朝から歩きっぱなしだった所為で足は重いし、何十社も会社回ったけど全部落とされるし、本気で一回お祓い受けてこようかなぁ……?
「そういえば、お昼ご飯もまだだっけ」
気づいてしまえば物凄く何か食べたくなってきた。
美味しいミートソースのパスタでもいいし、野菜とキクラゲが入ったラーメンも捨てがたい。
ああ、ハンバーグとかもいいなぁ。
脳裏をよぎるお昼ご飯候補にうっかりよだれをたらしそうになった。危ない危ない。
今にも泣きだしそうなお腹を二、三回撫でてから気合を入れなおす。
(目標!食べ物のあるお店!目指せ!安い・美味い・早い!!ついでに美味しいデザートがあると文句なしの追加点!!)
えいえいおー!と心の中で自分を叱咤激励?して、棒切れを通り越して電柱のようになった足に鞭を打って歩き出す。
でも、うん……現実ってやっぱり甘くない。
そんなの親が事故に巻き込まれて死んだり、テストで山を張ってたのに外した時とかに思い知ったけどね。中学生、高校生、大学と何度、数学のあんちくしょーに泣かされたかッ!!
数学なんてヤマが当たらない限りどーにもならないよ。
「(せっかく、色々応援してもらってるのに……なんで私って要領悪いっていうか頭悪いんだろ)」
高いビルや無機質な色のコンクリートに囲まれた、息苦しい灰色のジャングルで飲食店を見つけるのはとても難しい。
ビジネスバッグの中には地図なんてない。
目標の会社にはタクシーの運転手さんやらおしゃべり好きのおばさま方に教えておらってどうにかたどり着けていたんだけど……周りには忙しそうに速足で歩くビジネスマンやらビジネスウーマンしか見当たらない。せめて、コンビニがあればいいんだけど、コンビニがありそうな雰囲気はまるでない。
「前途多難すぎる……うぅ、もっとしっかりしないとなぁ」
脳裏をよぎるのは数々のネタ、もとい失敗談。
昔から抜けてるせいで普通の人はしないらしい失敗が多かった。
友達はそんな私を心配したりどうしようもないなーなんて言いながらも色々手伝ってくれたんだよね。
私から言えば皆がすごくしっかりしてるだけだと思うんだけど。
「(応援してもらってるんだもん、頑張らないと)」
大丈夫、私はついてる!
特に人間関係は、うん、ついてる。他は色々不足してるかもしれないけど。
にしても、難儀な世の中だなぁ。
友達には恵まれてるし、親が亡くなったとはいっても祖父母がちゃんと育ててくれた。
今はもう育ての親の祖父母も亡くなったけど、高校の先生が凄く姉御肌?で色々アドバイスや手続きをしてくれたから大学にだって行けた。……奨学金という名の借金はあるけど、仕方ない。
他にも近所の人にもよくしてもらえていたのに、私は何も返せないまま就職すらままならないこの現実。
うぅ、ホント申し訳ない。
「(学生の時はそれなりに大変だったけど、楽しかったなぁ。うぅ、すっごく戻りたい)」
大きな大きなため息を吐いて、足元に置いていた鞄を手に取った。
何だか私を追い越していく人たちが皆、すいすいと前に進んでいくような感覚に陥った。
自分なりに“止まってはいけない”と思って足を前に動かし続けてみても、結局は止まったままで。
って、うわー……私、今まで人様に迷惑しかかけてないような気がしてきた。
「ハローワークに通うより新しい求人誌買って特攻した方が確実かも」
鞄から取り出した求人雑誌を握りしめる。
表紙にでかでかと書かれている煽り文句が、ものすごく憎たらしい。
雑誌からしたらとんだ八つ当たりなんだろうけれど、それにしたって“これで決まり!”なんてと軽々と表紙に書くものじゃないと思うんだよねッ!
ぐぬぬぬ、編集者に会う機会があったら絶対ぜーったい!
「(私が総理大臣並みに偉くなったら文句言ってやる!)ふ、ふふふふふ……!」
暑さと疲労と空腹のトリプルダメージで思考が普段以上に支離滅裂になってる気がするけど、もう知らない。
大体なんでビルばっかりなの!喫茶店の一件くらいあってもバチはあたらないとおもう!
この時の私がもうちょっと冷静だったら、人が行き交う道のど真ん中で拳を握りしめて笑うなんてしなかったんだけどね。要反省だね、うん。毎回学習しないけど!
太陽光でジリジリ焼かれていた私を現実に引き戻したのは全身に感じた衝撃。
手が、熱い。
小さくて硬い何かが掌に刺さって地味に痛いのと、何故か凄く熱い。
あと体に感じる異常は、お尻がジンジンして……やっぱり痛いってことくらいだ。
えーと、もしかして私、電柱か看板にぶつかった?
チラチラと周りの人たちが尻餅をついてるらしい私と正面にある“何か固いもの”へ向けられていた。
勿論、周りなんてまるで見えていなかった。
数秒経ってから自分が尻餅をついた無様な格好でポカンと口を開けていることを自覚する。
「(あれ、もしかして私ってば今、民衆の面前で間抜けにも尻餅ついてる…?)」
じわじわこみ上げる羞恥心と闘いながら恐る恐る周囲を見渡す。
つい先ほどまで私のことなんて眼中にもなかったように歩いていた人達がチラチラ視線を送っていました。
でも、その対象は私ではないらしい。
全くじゃないけど私のことはちらっと視界に収めてすぐに別のモノへ向けられている。
だって、視線が地面に座り込んでる私に向いてないのだ。
「(なんか、ずいぶん大きかったしもしかして看板とか電柱にぶつかった?)」
恐らく私が激突したのは大きなものだ。
それが看板や電柱でないことを祈りながら天を仰ぐ。
顔を上げた私は、こうしてベタで使い古された感じの出会いを果たしてしまったのである。
最後まで読んでくださってありがとうございます!
次も最後まで読んでもらえるように頑張ります!えいえいおー!