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大地の宝石  作者: 森宮 スミレ
〜第一章 埋もれた小石〜
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祭り 1


 マリオス候補生達は時に、他人が思わぬ行動をして、周りの者達を驚かせているものである。

 ここでも……

「何読んでんだ?」

「んぎゃっ!」

 図書室の棚の傍に立ち、本に夢中になっていたセリアの後ろから、ひょいと腕が伸びた。思わぬ所から声をかけられ、いきなりの事にセリアは奇妙な悲鳴を響かせる。幸い、授業後で緊張の解かれた生徒達の雑談で、その声は掻き消されたが。


 取られた本を奪い返そうとセリアは背を伸ばすが、なにせ身長差があるため全く届いていない。

 本を取り上げたイアンの手の中にあるのは、小難しい数学書。手に残されている幾つかの教科書や参考書から察するに、課題にでも必要なのだろう。後ろから見た背中が本に集中していたので、年頃の娘らしく恋愛小説でも読んでいるのかと思ったのだが。


 少しがっかりしたようなイアンが、仕方ないか、等と呟きながら本を返す。

「用事は済んだか?」

「うん、一応」

「じゃ、行こうぜ」

 本を借り終え戻って来たセリアと連れ立って、イアンは早速温室を目指した。





 あの事件以来、マリオス候補生達は何かとセリアに構っていた。というより、見ていなければまた何かやらかしそうで、危なっかしくて放って置けないのである。それに、彼等と同様に国を想う彼女と接するのを楽しんでもいた。


 セリアが、助けられたお礼に何かさせてくれと強く懇願してきた時、候補生達が出した提案はこれからも温室に顔を出す事だった。そんな事で良いのかとセリアは驚いたが、候補生達は強く頷き、言葉を変えるような事はしなかった。

 その為、候補生達とセリアの親密度はぐっと上がり、それに比例して女生徒方の妬みも上がる。当然なにかしら行動に出したい彼女達だったが、セリアは最近候補生達と行動を共にしているので、以前のように隙が無い。その事も彼女達の怒りに拍車をかけていた。


 そんな周りの考えなど知る由もなく、セリアは親しい友人ができた事を素直に感謝していた。


「それでは、行政が成り立たなくなってしまう」

「貴様の案では、なんの解決にもならない」


 温室の扉を開けた途端に響く言い争いの声に、セリアとイアンも顔を見合わせる。とはいえ、流石に慣れてしまったのか、セリアは以前のように動揺したりはしない。

 中を覗けば、案の定ランとカールが向かい合って対峙していた。その横ではルネが静かに見守ったり、花の世話をしていたりを繰り返している。気にしても仕様がないと取っているのか。


「セリア。出来れば君の意見も聞きたい。良いだろうか」

 良いだろうかと聞きながらも自分の資料を手渡してくるランだが、セリアは何も言わずそれを受け取る。

 以前はセリアが入って来ても議論に夢中で気付きもしなかったランが、今は自分から意見を求めて来る。それだけ距離が近付いたといえるのだろう。

「これなら……」

 早速三人での議論に突入した。


 慣れとは恐ろしいもので、最初こそ驚いたが今はこの状況が当たり前になってしまった。今までこの二人の論争に口を出そうなど、イアン達でさえ考えた事もなかったのに、セリアはそれをすんなりとやってのけたのだから、驚きだ。普通の生徒なら、恐れおののいて近付きもしないだろうに。


「三人共、一回休憩しない?」

 いつの間に外へ出ていたのか、ルネが紅茶の入ったティーポットとカップを持って温室へ戻って来た。散々論議して少しは満足したのか、三人は差し出された紅茶に嬉しそうに手を伸ばす。しかし、それで議論が止まる筈もなく、結局お茶をしながらも論戦再開となった。

 やれやれ、とルネが肩を落とすが、全く気付いちゃいない。


 尚も続けようとするかに見えたラン達だが、取り敢えずは決着がついたのか、カールが去った事で議論は終結となった。

 セリアも何処かすっきりした顔になっている。


「お疲れ様。セリアはこれからどうするの?」

「あっ、うん。借りた本を置きに寮に戻るね。課題もあるし」

 両腕に抱えてる本を見せるとルネは納得した様子である。紅茶のお礼を言うと、セリアは脇目も振らずにそのまま温室を後にした。残された候補生達、特にイアンは少し落胆した様子である。

「折角、祭りに誘おうと思ったんだけどな」

「残念だが、あの様子では仕方ないだろう」








 今は寮の自室で課題をこなしている筈のセリアだが、何故かその足は校門へ向いていた。

 寮への帰り道、偶然耳にした行事へ参加するためだ。足を急がせ、校門の外に見える次々と並ぶ露店。わぁっと頬を紅潮させながら近付くと、騒がしい喧騒の中、行き交う人々に囲まれた。


 相変わらず流行や噂に疎い彼女は、祭りが行われていることなど全く知らなかった。これだけ騒々しく行っているのだから、普通は気付くのだろうが、広い敷地を持つ学園の為、楽しそうな音はセリアに届く前に掻き消されていた。だが、祭りへ向かう途中だったのだろう生徒達の話し声でぎりぎり知る事が出来たのだ。


 足取り軽くあちこちを散策するセリアを、露店商達が呼び止める。その度にフラフラと店に近付く彼女をいいカモと思ったのか、誰もが売りつける気満々だ。セリアは、わかっているのかいないのか、品物についての胡散臭い説明を疑いもせず興味深げに聞いている。

 ラン達と別れた直後にこれでは、彼等が放って置けないのも頷ける。



 のほほんと歩くセリアを、また呼び止める声があった。

「お嬢さん。ちょっと見て行かないか」

 問われるままに近寄ってみれば、体格の良い褐色の肌の男が、白い歯を見せながらニカニカと笑っていた。


 指差された先を見れば、少し前の時代の骨董品が、所狭しと並んでいる。壷やら怪しげな箱やら、とても売れそうな物は無いが、セリアは何を気に入ったのかそれらの品々に魅入っている。


「どうだい。全部ハモネス国の物だぜ。お嬢さんなら、そうだな……この変はどうだ」

 そういって露天商が出したのは、大きな箱に丁寧に並べられた装飾品らしき宝石。色も形も様々な物がある。

 言われてそれらに目を通してみたセリアだが、装飾品の奇妙な形に気付いた。円い輪になっている細い鎖に、宝石がいくつか取り付けられている。これだけ見れば、首飾りに見えるし、サイズ的にもその類いだろう。だが、鎖は繋がっていて、外せる箇所が見当たらない。大きさ的にも、人間の頭を輪の間に通すのは無理であろう。


「えと……これってどうやって付けるんですか?」

「これは、健康を願うお守りですね。室内の陽の当たる場所に吊り下げて使うんです」

 いきなり横に立った人物を見れば、長い赤髪を揺らすザウル。セリアと目が合えば、どうも、と丁寧に頭を下げて来る。


 ザウルの説明に成る程、と納得した。身につける物でないのなら、それが不可能でも不思議はないだろう。

「あと、これは自分の枕元に置いて使うんです。安眠の為のまじないですね」

 ザウルが手に取ったのは、大きな一つの宝石にいくつか羽を取り付けた様な物。どうもこの箱の中の物は、まじない等に使うものが多いらしい。それぞれ使われている宝石と品の形で意味が違って来るのだと説明された。

「兄ちゃん詳しいな。ハモネスの人間かい」

「はい。自分の生まれ故郷です」

「そりゃあたまげた。こんな遠方で同じ土地の者に会えるたぁ嬉しいね。兄ちゃん。これ持って行きな」

 そういって露天商が差し出したのは、手の平に乗る程の小さな円盤。セリアにはそれが何なのか分からないが、ザウルと露天商は心得ているようで、別の言語で礼らしき事を言っている。


 手を振る商人を後ろに露店から離れると、セリアは自然とザウルの隣になって歩いた。

「セリア殿は、お一人ですか?」

「あ、うん。ザウルも?」

「ええ。宜しかったらご一緒しませんか」

「そうだね」

 やはり二人で行動する事になったザウルは、セリアにこの後しばらく振り回される事になる。


 フラフラと歩き回り、胡散臭い物を買わされそうになるセリアを諌めながら、ザウルは彼女を偶然でも見かけてよかった、と心底思った。



「でも、知らなかった。ザウルがハモネス出身だったなんて」

「そういえば、言ってませんでしたね。すみません」

「もしかして、この間相手を蹴り飛ばしたのも…」

「はい。ハモネスの伝統的な体術です。剣術はあまり得意ではないので」

 一通り歩き回った二人は、今は学園近くの公園で一休みしている。


 ザウル達のいうハモネス国とは、クルダスから遥か東にある鉱物資源の豊富な大国だ。その資源を元に、国全体が経済的に裕福な国である。それと同時に、昔ながらの文化を保ち、その現れが国の至る所に見られる、神秘的な国としても知られている。


 そんな遠方から、わざわざクルダスまで留学してきたのは何故であろうか。

「気になりますか?」

 思いっきり顔に出ていたセリアに、ザウルが問いかける。何故分かったのだ、とセリアは慌てるが、ザウルの落ち着いた雰囲気に、なんとか平静を取り戻した。彼の纏う落ち着いた空気は周りも静める効果があるらしい。

「母がクルダス出身なんです」

「ああ、成る程」

 なんだ。簡単な答えではないか。母上がクルダス出身ならば、その息子がここへ留学に来ても何の不思議もない。


 しかし、そこでふと思いとどまる。ならば彼は卒業後、国へ帰ってしまうのだろうか。てっきり、この国の未来を背負って立つものだとばかり思っていた。なんといっても、彼はマリオス候補生なのだ。国を想い、国を導く者だけが得られる場所に最も近い者。

「卒業したら、ハモネスに…?」

「……恐らく、そうなると思います」

 込み入った事を聞く様で申し訳なかったが、どうしても聞きたかった。候補生になったのは、彼なりにこの国で成し遂げたい事があったからではないかと考えたからだ。しかし、返ってきたのは肯定の答え。


「そっか。寂しくなるね」

「………」

「ラン達がマリオスになっても、ザウルが居ると居ないとじゃきっと違うんだろうな」

「……自分は………」


 急に暗くなったザウルの声に、セリアはしまったと思った。もしかしなくとも、責めているように聞こえただろうか。全く他意は無く、ただ思ったままを口にしただけなのだが。

「ザウルにどうしろとか言ってるんじゃなくて。ただ、寂しくなるなと……」

「いえ、そうではなく。自分も、この国で仲間と共に歩いて行く未来を見たくて…」

 ザウルの言葉に、「うん?」とセリアは首を傾げた。これは要するに、卒業後もこの国に留まりたい、という事だろうか。


「その……愚痴を言うようで申し訳ないのですが、少し話を聞いてくれますか?」

 セリアが無言で頷くと、ザウルはゆっくりと口を開いた。





「母と父は、父が短期留学の為クルダスに来た事で出会いました」


 クルダスで伯爵の地位を得ていたボルノ家に生まれた母は、ハモネス国で子爵の位についていた父の家に嫁入りした。

 しかし、慣れない遠方の土地に戸惑い、苦労は耐えなかったと、父から聞かされた事がある。そして長男ザウルを出産。その後、母の希望により、ザウルは幼少の頃を母の実家であるクルダスの祖母の家で暮らす。


「母も、やはり故郷の土の方が馴染むのか、ハモネスにいる時よりも生き生きしていたように自分の目には映りました。今から考えると、母が帰郷する為の口実だったのかもしれませんね」


 クルダスでの滞在期間、とても良くしてくれた祖母に別れを告げ、ハモネスへ帰国したのはザウルが七つの時であった。しかし、一度の帰郷は母の寂しさに拍車をかけたのか、帰国後の彼女は少しずつ衰弱していった。


「母は我慢強い人で、どんなに辛くても、表面には出さなくて。自分も、母が倒れるまで気付きませんでした」


 ベッドに伏せる母に、父もクルダスへ帰る事を進めたが、遥か遠方のクルダスへの行程に耐える体力はその時の彼女には残されていなかった。

 今でも聡明に思い出せる、日に日に痩せ細って行き、それでも笑顔を絶やさなかった母。そして、それを見ながらも、気丈に振る舞う父。

 何とか帰郷する体力だけでも回復させようと、父は手を尽くした。部屋にクルダス風の家具を揃え、クルダスで採れる花を飾り、食事も出来るだけクルダスの物を出した。自分も、クルダス語で母に話しかけたり、本を読み聞かせたりもした。

 だが、そういった気遣いが、気の弱い母を逆に追いつめたのか、そのまま彼女は静かにこの世を去った。


「それから、父も何処か支えを失ったようで」


 瞳に寂しさを秘めるようになった父は自分の教育に熱を入れた。その真意が、早く自分にアルシャーノフ家を継がせる事にあると知ったのは数年前だ。家族が離れていくかもしれない状況に、何処か不安を抱えていたのだろう。


「父が留学したクルダスに来る事も、勉学の為と言えば反対はされませんでした」


 留学の間の世話を祖母に頼み、ザウルは故郷を後にした。筈だったのだが、クルダスに着いた時、感じたのは何故か懐かしさ。幼少の頃を過ごしたのだから、懐かしいと感じるのは不思議ではない。が、何故かここを故郷と呼ぶのに違和感がなかった。逆に、数年後、ハモネスに「帰る」と思うと、少しの抵抗を覚えた。

 祖母のいるボルノ家へ行けば、以前自分が去った時と何も変わらぬ光景。祖母の優しさも変わる事は無かった。生活もハモネスと全く違うのに、すぐに馴染んだ。フロース学園に通い、仲間も出来た。マリオス候補生になった今、その仲間と共に国を背負う事を夢にするようになった。


 最初こそ、叶わぬだろうと思っていたその夢は、祖母の提案でより現実味を帯びるようになる。クルダスに残る場合、自分にボルノ家を継がせるというのだ。そうなれば、卒業後のクルダスでの生活が可能になる。


 しかし、そこで思い起こされるのは父の事。卒業後に国へ戻る事を信じて、今も自分の帰りを待っているのだろう。妻を失い、更に自分まで遠い異国に住む事になれば、父はどうなる。その時父が抱く失意の念は想像に難しくない。




「そこまでして、自分の我が儘を通すべきか」

 琥珀色の瞳が少し辛そうに揺らいでいて、セリアは少し戸惑った。

 こういう時になんと言えば良いのかだろうか。自分には大切に想う人を失う気持ちが分からない。失うかもしれないと不安に駆られるような経験も無い。言葉を探している内に、いつのまにか手は長い赤髪を撫でていた。

「ザウルは優しいから、自分のしたい事をしろっていっても、どうしても他の人の事も考えちゃうんだよね」

「……………」

「だったら、後で後悔しないように、今思いっきり悩んでおけば良いと思う。悩む事は悪い事じゃないんだし」

 ザウルの頭をぎこちなく撫でながら、セリアは曖昧に笑った。

 自分は何かを決断する時、それが何であろうと、冷静さを欠く事がある。その後、もう少し悩んで置けば良かったのではと思う事も少なくない。だから、自分の意志を保ちながらも、周りを懸命に気遣うザウルの慎重さを羨ましくも思えた。もちろん、彼にとってそうしなければいけない程の大事な決断だというのも分かるが。

 だから彼の心が決まらないのであれば、答えを急ぐ必要はないと思っただけ。



 ザウルの瞳は驚きで見開かれていた。決断を急ぐ声はあっても、悩めと言われた事は無かったから。

 自分でも早く決めなければと思っていた。その考えを覆されたのに、彼女の言葉は妙にすんなりと心に浸透し、温かみを帯びていく。

 今まで、悩むこと事態に、多少の罪悪感を感じてきたのかもしれない。クルダスに留まりたいと思う事が父への裏切りのようで、苦痛に思っていたのだ。

 だが、それでも良いのだと思えた。悩む事に苦痛を感じる必要はないのだと。そう言われた気がした。


 自分の頭を撫でる手を握ればキョトンとした瞳がこちらを見返して来る。


「貴方は、不思議な方ですね」


 いきなり自分達の前に現れた、剣を振り回し、政治に興味を持つ女性。ついこの間、無謀にも飛び出して行ったかと思えば、今のように達観した事を言う。何処か掴み所が無いように感じれば、妙に単純で子供の様な表情をする。実に不思議で堪らない。


 ザウルの心境を全く理解していないセリアは、不思議だと言われた事に首を傾げ、「あー」とか「うー」とか訳の分からない声を出している。目を泳がせて、必死に思考を廻らせているセリアに思わず吹き出しそうになるのを堪えると、ザウルはセリアの手を離して立ち上がった。

「そろそろ戻りましょうか」

「う、うん……」

 一体彼は何が言いたかったのだ、とセリアは頭を捻って考えるが、その答えは全く出て来なかった。




 少し薄暗くなってきても、祭りの活気は静まる事なく続いている。夜に近付き、それぞれ用事を終えた人々が覗きにくるのか、昼よりも人出が多い。しかし、人が増えれば問題も増えるのか、所々に警備兵の姿も見られる。


 そんな中、人の間を抜けながら、セリアは懸命に学園を目指していた。背が高く、人混みを難なく抜けてゆくザウルに対し、少し小柄なセリアは気を抜けばすぐに向かい側から押し寄せる人の流れに呑まれてしまいそうになる。

 俄然やる気を奮い立たせ、意地で前へ進んでいると、目の前の人混みから急に影が現れ、突っ込んできた。咄嗟にザウルが手を伸ばすが間に合わない。

「ひえっ!?」

 ぐっと身構えるが思ったよりも衝撃が強く、セリアは可愛らしくもない悲鳴を上げながら影に弾き飛ばされた。彼女にぶつかった本人も、すぐ傍で地面に転がっている。

「すみません」

 ぶつかった本人、げっそりとした痩せ男は慌てて立ち上がると、形ばかりの謝罪をして、また急いで人混みに紛れていった。


「セリア殿、大丈夫ですか?怪我などは?」

 地面に座り込んでいたセリアに手を差し出しながら、心配そうにザウルが様子を伺って来る。

「あ、うん。全然平気だよ」

 軽く笑いながら、ザウルの手を取ると、力強く引かれてセリアは立ち上がった。何処にも怪我がない事を確認して安心したのか、ザウルの表情にも安堵の色が広がる。しかし、やはり目を離せないな、とザウルは気を引き締めた。


 その後も、何度か同じ様な状況に遭遇したが、常に気を配るようにしたザウルのお陰で、なんとか無事学園へ辿り着いたのだった。

 ザウルと別れ、セリアはそのまま女子寮へ向かう。楽しい時間とは早く過ぎるもので、学園を出てからかなりの時が流れていた。


 すぐにでもベッドで眠りたいと思っていたセリアだが、まだ課題が残っていたなと思い直す。

 明りをつけて机に向かった所で、制服のポケットに違和感を覚えた。手を突っ込むと指に当たる固い感触。取り出してみると、それは一枚の金貨だ。いや、金貨に見えるが、模様が所々綻んでいるように見える。


 はて、こんな物ポケットに入れた覚えはないのだが、一体何処で紛れたのだろう。祭りに行く前は持っていなかった筈だが。

 もしかしたら、ザウルの物かもしれない。明日、彼に聞いてみよう、と思いセリアは静かにその金貨を机の上に置いた。



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