絵本
昔々あるところで、小さな国が誕生しました。けれど生まれたばかりのその国の大地は枯れ、豊かな恵はまだ訪れません。人々は、苦しい日々を懸命に過ごしていました。
その様子に、その国の王様は酷く悲しまれ、女神フィシタルに尋ねました。
「女神フィシタルよ。どうすれば私の国にも繁栄が訪れるのでしょうか?」
その必死な問いかけに、女神フィシタルは言いました。
「もし貴方が私の神殿を見つけることが出来たなら、貴方に永遠の栄光を約束します」
「どうすれば貴方の神殿は見つかるのですか?」
「この国で、最も輝く宝石を見つけなさい。その宝石の光が貴方を導くでしょう」
女神フィシタルに言われ、王様は早速宝石を探す旅に出ました。
道を歩く王様は、会う人皆に聞きます。
「この国で最も輝く宝石を知らないか?」
けれど、誰に聞いても首を振るばかり。なかなか宝石は見つかりません。それでも王様は諦めないと誓いました。
生まれたばかりのその国の、多くの道は森や岩に覆われ、草や木が生い茂り、中々先へ進めません。助けを求めようにも、町の人々は貧しく、とてもそんな余裕はありませんでした。
それでも王様は懸命に宝石を探しました。
ある時、王様は足を止めました。氾濫した川に橋が流されてしまったのです。その周りでは、他にも多くの人が、川を渡れずに困っています。
王様は何とかしようと考えますが、どうしたらよいか解りません。そうして橋の前で立ち尽くしていると、一人の青い服の若者が声を掛けてきました。
「王様、どうしたのですか?」
王様はその青い服の若者に、川を渡れずに困っていると話します。
「それでは、川上の方に大きな岩があります。それを押してみて下さい」
王様は若者に言われた通り、川上へ向かいました。青い服の若者も一緒です。
近くへ行くと、そこには本当に岩がありました。それを、王様と若者は一緒になって川の方へ向かって押します。すると、大きな岩は転がり始め、更に大きな岩にぶつかりました。すると、ぶつかった岩も転がり始め、更に更に大きな岩にもぶつかりました。そうしてどんどんと大きな岩が転がって行くと、岩は全て川の中へと落ちました。岩によって流れを塞き止められた川は、大きな湖になりました。
「どうです?王様」
川がなくなったので、王様は先へ進めます。川の前で困っていた人々も、とても喜んでいます。微笑む若者に、王様はお礼を言いました。
「ところで、君はこの国で最も輝く宝石を持っていないか?」
「最も輝く宝石?……どうしてそのようなことを聞くのですか?」
若者に尋ねられ、王様もそれに答えます。
「その宝石が、私に女神フィシタルの神殿を指し示してくれるのだ。そうすれば、この国も繁栄を迎えることが出来る。それで、君は宝石を持っていないか?」
そう聞くと、若者は静かに答えました。
「いいえ、王様。私は宝石を持っていません。でも、女神の神殿の場所なら知っています」
「本当か!?」
王様が驚いて聞き返すと、若者はゆっくりと頷きます。そんな若者に、王様は言いました。
「どうか、私をそこへ連れて行ってくれ」
「解りました。この国の為にも、王様のお力となれるのなら」
そうして、二人で女神の神殿を目指すことになりました。
その道中、王様と若者は色々な場所へ行きました。そして、その度に困難が立ちはだかります。けれど、そのどれもを二人で力を合わせて乗り越えました。
時には流行病から町を救ったり、時には人々の争いを鎮めたり。日照りに困る田畑に水を引いたり、食べ物がなくて苦しむ村に種を分けたり。
そうしているうちに、二人は漸く女神の神殿に辿り着きました。その神殿は、この世の物とは思えぬ程美しく光っていました。その美しさに王様が見惚れていると、青い服の若者が声を掛けます。
「漸く辿り着きましたね」
そう言う若者を見て、王様は驚きました。神殿の光をその身に受けた若者が、まるで宝石の様に輝いているのです。
ニッコリと微笑む若者の後ろには、今まで王様が歩いて来た道が見えます。そこからは、今まで若者と王様が二人で助けた沢山の人々が見渡せます。もうそこは以前の荒れた大地ではありません。豊かな繁栄を手にした、幸せな国が広がっていました。
喜ぶ王様の前に再び女神フィシタルが現れます。王様と若者のお陰で豊かになった国に、女神は約束通り、永遠の栄光を授けました。
そうして、王様に導かれ国は繁栄を手にしました。王様の傍らには、女神フィシタルと、青い服の若者がいつまでも寄り添っていたそうです。
絵本『クルダス創世記』より