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大地の宝石  作者: 森宮 スミレ
〜第二章 磨かれる原石〜
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遊戯 4

「イアン……」

「……!! ああ、なんだ?」

 自分の声に大袈裟に肩を揺らして見せたイアンに、セリアは首を傾げた。どうも、数日前のカレンの夜会から様子が可笑しいのだ。何かあったのだろうか。

 セリアの疑問を他所に、ここ最近繰り返している自分の失態に、イアンは内心で自分を叱責した。カレンの夜会の日からこんなことばかりが続くのだ。けれど意識して心を鎮めようとすれば、逆効果で更に反応してしまう。どうしたものか、と頭を掻きむしりたくなる衝動を抑える。

 欲望の赴くまま、そのまま流されてしまうのは簡単だ。が、それを実際に行動に起こす程、イアンも愚かではない。理性でなんとか自分の中に巣食う感情を押し殺す。けれど、こちらの気を全く理解していないセリアの行動に、苛立ちは募るばかりだ。分からせてやろうか、と思ってしまう自分をそうしてまた押さえ付ける。それの繰り返しだった。

「教室にこれ、忘れて行ったから」

「あ、ああ。 ありがとな」

 自分が差し出した本を、何かもの言いたげに受け取るイアンに、セリアも遂に疑問を口にする。

「……なにかあった?」

「はっ?」

「その……最近様子が変だから」

 大丈夫か、と聞いて来るセリアを前にイアンは、お前のことで悩んでるんだ、と喉まで出掛けた言葉を飲み込む。言った所でその意味など少しも理解しやしないだろうが。本当に、どうしてこんな面倒な女とこうなってしまうのか。

 目の前でイアンががっくりと肩を落とすものだから、セリアは焦って顔を青くした。なにか、まずいことでも言っただろうか。原因が分からないだけに、どうしたらよいのか見当が付かない。もしや、体調が悪いのか。そういえば、顔色がどことなく優れないようにも見える。

「えっと、何か私に出来ることはある?」

 とことん勘違いをしたセリアが、こんなことを言うものだから、イアンもピクリと反応した。本当に勘弁してくれ、と言いたくなる。相変わらずだが、こちらの気など毛程も理解しちゃいない発言が、これほど辛いものだったとは。

 と、イアンが頭を抱えれば、セリアは更にオロオロと慌て出す始末。完全にすれ違い状態が続いている。それを理解したのか、していないのか。イアンはフッと一息吐くと、キョトンとしているセリアに視線を移動させた。その視線に、セリアは何を言われるのだろう、と少なからず身を引き締める。

「じゃあ、今日一日俺に付き合ってくれよ」

「はい?」







 街へ行くのに付き合ってくれ、と言われたセリアは断ることも出来ず、多少強引にだがイアンと二人連れ立って街へ来ていた。どうせなら他の友人も誘わないか、と提案してみたのだが、深い溜め息を吐かれてしまい、却下された。その理由も気になるが、それよりも体調は大丈夫なのだろうか。


 昼下がりの街は、相変わらず人が溢れている。がやがやと賑わう雑踏の中でも、やはりマリオス候補生とは周りの人間の注目を集めるようだ。少し歩くだけで、好奇の視線が集中している。人目を惹き付ける容姿を持ったイアンと、その横を歩く地味な少女は一体何者だ、という視線が、セリアの居心地を更に悪くさせていた。

「えっと、イアン……」

「どうした?」

 オロオロと見上げると、上機嫌でこちらを振り向くイアン。セリアの心情は、気にするところではないらしい。

「その、もう少し離れた方がいいんじゃないか、と思うんだけど……」

 セリアが視線を下ろした先には、しっかりと握られた手があった。

 人々の視線に刺々しさや興味が混ざっている最大の原因だろうそれに、セリアは非常に困惑していた。どうしてこんなことになっているのだろう、と首を傾げる。

「離したら、またいつもみたいにどっか行っちまうかもしれないだろ?」

「だから、そんなことないって言ってるのに」

 先程から何度か繰り返している会話に、イアンは悪びれもなく、むしろ楽しそうに返す。手を離す気がこれっぽっちも無いことは分かるが、こんな風に手を繋いでいたら、よからぬ誤解を生むのではないだろうか。そうしたら、彼にとっても、何より自分にとっても良い結果に転ぶとは思えない。そんな意思を込めて、軽く手を引いてみるのだが、逆に強く握り返されてしまう。別に逃げる積もりなどないのだから、心配は要らないというのに。

「いいから、気にするなって」

「…………」

 いや、たとえ自分が気にしなくとも、周りのお嬢様方がキツクこちらを睨んでくるのだが。そうセリアが内心で思ってみても、やはりイアンは手を離してはくれなかった。



「ところで、街になにか用事でも?」

「いや。特にはねえな」

「え、ええ!? 」

 予想外の返答に、セリアは素っ頓狂な声を上げた。てっきり、何か大事な用でもあるのかと思ったのだが。と考えたが、まあそれで彼の気が少しでも晴れるならそれでも良いか、と思い直した。

「じゃあ、何処か行きたい所はある?」

「そうだな。とりあえず、散歩でもするか」

 唐突で身勝手な我が儘に、それでも付き合うセリアに、イアンは胸に広がる喜びを誤魔化し切れなかった。グッと手を引いて引き寄せれば、驚く程に満たされる自分が居る。それでも、満たされた分を掘り下げられるように、自分の中での欲求は深くなる。まるで子供ではないか。

 それでもセリアは、こちらの胸の内など微動も気付いていない様子でホイホイと自分に付いてくる。そしてそれを分かっていながら、自分は其所に付け入っているのだ。なんと傲慢であろうか。


 イアンがそんな風に考えていると、軽く手を引かれる力で我に返った。といっても、微々たる力だが。振り向くと、瞳を輝かせながらある店を見詰めるセリアの姿。視線を追えば、その先では輝きを放つ硝子細工が並べられている。どうやら、興味を示したらしい。

「見てくか?」

「ふえっ!! い、いいの?」

 まるで子供の様な反応に、イアンも思わず微笑してしまう。セリアは、イアンの提案に瞳を一層輝かせた。特に欲しい訳ではないが、普段は見ない物が視界に入るとどうしても好奇心が沸き上がってしまうのだ。

「ほら、行こうぜ」

「う、うん」

 そんな風に、時々立ち止まっては店の中を見たり、硝子越しに覗いたりして二人は街をブラブラと歩いていた。その殆どが、セリアが興味をくすぐられた為に立ち寄っていたのだが。物珍しげにキョロキョロと視線を彷徨わせるセリアに、イアンは釣られたように笑みを向ける。放って置けばすぐに迷子になってしまうだろう。どうやら、手を繋いでいる利点がもう一つ出来たようだ。







 適当にフラフラと歩いていると、どうやらかなりの時間が過ぎてしまったようだ。はしゃぎ疲れたセリアとイアンは学園近くの公園のベンチで二人並んで腰を下ろしていた。そこで自分の失態に気付き、セリアは顔を青くする。

 つい、自分がはしゃいでしまったが、そういえばここにはイアンの気分転換に来たのではなかったか。なのに、自分に散々付き合わせてしまった。これではまったく意味がないではないか。しかも、イアンは嫌な顔一つせずに一緒に廻ってくれたものだから、一層申し訳なさが募る。

「その、色々付き合わせちゃって……ごめん」

「あのなぁ、元々俺が言い出したことだろ。それに、楽しかったからいいんだって」

「……でも……じゃあ、次はイアンの行きたい所に……」

「だから、特に目的とかはないんだって。それに、そろそろ戻る時間だろ」

 言われてセリアもうっと言葉に詰まる。けれど、そうは言われてもやはり責任を感じてしまうではないか。イアンが何と言っても、結局は散々自分が連れ回してしまった結果に終わったのだから。やはりこのままでは引き下がれない。

「じゃあせめて何か今日のお礼をさせて。なんでも聞くから」

 なんでも聞く。その言葉に、イアンの表情はピシリと固まった。

 コイツ。自分の言っている事の意味が分かっているのだろうか。いや、間違いなく分かっていないだろう。

「本当に?」

 イアンが漸く自分の提案に反応を見せてくれたので、セリアはホッと安堵した。そしてこちらを振り向くイアンにうんうんと首を縦に振る。

「はいはい。なんでもどうぞ」

 のほほんと呑気な雰囲気と一緒に笑顔で頷くセリアに、イアンもギシリと奥歯を噛んだ。それと同時に、グッと腕を伸ばす。

 それまでとは一転し、不穏な空気を纏ったイアンが、ダンッと音を立ててセリアが座っているベンチの背に手を突いた。顔の両脇に手を突かれ、グッと近くなった距離にセリアも驚きで目を見開く。見上げた先では、真剣な表情でジッとこちらを見下ろすイアン。

「……本当に、なんでもいいんだな?」

「えっと、あの……」

 明らかに普段と違う様子に、漸くセリアも気付き戸惑う。

 どうしたのだろう、と再び首を傾げる。というより、もしや怒られているのだろうか。やはり勝手に付き合わせてしまったのがまずかったのか。けれどその前に、距離が近い。どうしてこんな状態になっているのだろうか。

 色々な考えが浮かび、オロオロと見上げれば、妙に気迫の籠った視線で見下ろされた。

 そのままセリアが半ば放心していると、スッとイアンは腰を屈める。そのまま流れるような動きで顔を近づけた。自然とお互いの距離も近づき、その所為でセリアの視界に瞳を細めた麗しい顔が広がる。反射的に身を引くが、両側を塞がれている為、大した距離は生まれない。

 相手は熱い眼差しを向ける、輝く容姿を有した男だ。甘い雰囲気を纏いながらこんな風に迫られたら、普通の娘ならばそのまま流されるなり、なんなりしていただろう。しかし残念なことに、相手は普通の娘では、ない。

「ぎゃ、ぎゃーーっ!何をしてるでありまするか!!」

 異様なまでに近い距離感に耐えられなくなり、素っ頓狂な悲鳴上げながら自分の胸を押したセリアに、イアンもハッと我に返り動きを止めた。そこで動きを止めたものの、折角のいい雰囲気を、こんな色気も何もない反応でぶち壊しにされたらやはり面白くない。ムッとした表情のまま、気付けば口走っていた。

「なんだよ。キスぐらいで大騒ぎするなって」

「は、はああ!?」

 キスぐらいとはなんだ、キスぐらいとは。というより、もしかしなくとも、やはりコイツは自分に、く、口付けようとしていたのか!?

 さっと青ざめながらセリアは大いに慌てていた。

「こ、恋人でもないのに、なにをそんな破廉恥な!!」

「はあ!? 何でも聞くって言ったのはお前だろ」

「うっ!! で、でも。それとこれとは話が違うのでありましてでございましてねぇ……」

 確かに、自分は何でも聞くと言ったが、だからって何で口付けに繋がるのだ。と、混乱した頭で必死に状況を打開しようと奮闘する。

 顔を赤らめるどころか、壮絶に青ざめるセリアと同じ様に、イアンも自分の行動に内心で舌打ちしていた。

 一体、何をやっているのだ、自分は! 一瞬、本気で唇を奪おうとしていた。まだその欲が僅かにだがしぶとく残っている。このままでは、本当に自分は何をしだすか分からない。

 グッと唇を強く噛むと、イアンは咄嗟に笑顔を貼付けた。

「……冗談だよ」

 ポツリと呟き、スッと自分から身を離すイアンに、セリアは目を見開く。が次の瞬間には心底安堵し、息を吐いた。つまり、自分はからかわれただけらしい。まったく、何をやっているのだコイツは。とまだ内心でブツブツと文句を続けていたが。

「ほら。帰るぞ」

「あ! だ、だから、まだ話は終わってないって」

 まだ先程の話は済んでいないではないか。と自分を引き止めるセリアに、イアンは本気で頭を抱えたくなった。

「だから、気にするなって言ってるだろ」

「そうはいかないってば」

「あああ! ったく」

 はあっと大きく溜め息を吐いたイアンは、諦めたようにセリアに向き直る。そして、ここへ来た時のように、もう一度その手を多少乱暴に取った。

「じゃあ、帰るまでこうしてていいか?」

 取った手をそっと開かせると、今度は握るだけでなく、その指を絡め取る。まるで、恋人が手を繋ぐように。

 手を取られた当の本人はというと、どうしてこんな状態になるのだろうか、と首を傾げていた。それに、街の中でも手を繋いでいたのだから、今更な気もするのだが。そんな疑問を抱きながら視線を上げると、またやんわりと微笑まれた。

「俺がこうしたいんだよ」

「はあ。私と手を繋ぎたいなんて、変わってるね」

 セリアが思ったまま素直に感想を述べれば、イアンは苦笑しながらも、その手をもう一度強く握り締めた。








「ああ。くそっ!」

 悪態を吐いて、イアンは目の前の木を殴りつけた。

 学園へ着いてしまえばもうセリアを縛る理由はない。貼付けた笑顔をそのままに、やんわりと手を放し、そのまま別れた。その瞬間も、伸ばしそうになる手を必死に引っ込めた。そんな風にざわつく心のまま、友人達の居る寮へ戻る気にもなれず、一人になれるだろう池の畔へ足を向けていた。

 自分は、一体どうしたいのだろうか。自分の奥に潜む欲を自覚してしまえば、それをいつまでも押さえ付ける自信などない。だからといって、離れることも出来ない。そんな身勝手な自分に嫌気がさす。けれども、自分の欲深さが、いつどのような惨事を生むか分からない。そのことは、今日よく分かった

 募る苛立ちに任せ、イアンがもう一度拳を木の幹に叩き付ければ、背後でその姿を見ていた者が口を開いた。

「イアン……」

「っ!!……ザウルか」

 思わぬ人物の登場に驚いたイアンが振り向けば、こちらを見据える琥珀色の瞳と目が合った。けれどすぐに視線を逸らす。

「悪いな。今は一人にしてくれないか」

 力なく、義務的な感じの声を絞り出したイアンに、ザウルも眉を上げた。


 昔から見てきたので知っているが、イアンはあまり遠慮というものをしない。ズカズカと多少強引にでも周りの人間に触れ、時にはそれが心をかき乱す結果に終わるが、相手を見抜いてしまう。しかも、一を言えば十を理解できる察しのよさで、内面まで深く読み取ってしまうのだ。相手との間にある壁を、見て見ぬふりをしながら飛び越えてしまう。そして、相手が救いを求めていれば、当然のように手を差し伸べてきた。

 それと同じ様に、相手には自分を見せる。全てを曝け出すわけではないが、多くを一人で抱え込むようなことはしない。それほど、器用な人間ではないのだ。

 相手を理解し、自分も見せる。なんとも公正で単純だが、実行することは難しい。けれど、それをイアンは当たり前のように続けてきた。人によっては付き合い難いと敬遠する者も居るが、自分達にとって、彼の存在は親しみやすく、そして救いでもあった。

 にも関わらず、こんな時間にこんな場所で、今一人で何かを抱え込んでいる。そして、それを自分に見せようとはしない。それが、ここ最近見れたイアンの不調と関連していることは、容易に想像出来た。

「今日、セリア殿は貴方と一緒だったのですね」

「…………」

 栗毛の地味な少女の名を聞いた途端に揺れた肩が、イアンの動揺を表す。すると、苦虫を噛み潰したように表情を歪ませた。そのことに、ザウルは更に眉を寄せる。セリアへの好意を、なんの迷いもなく宣言した男とは思えない。

「最近貴方の様子が可笑しいようでしたが、何かあったのですか?」

「……お前等に隠し事は出来ないな。他の奴にもバレてんだろ」

「ええ、まあ。セリア殿ですら、気付いていたようでしたから」

「だよな……」

 自嘲するように笑うイアンはそのまま背後の木に凭れ掛かると、深く息を吐き出した。


「なんか、訳が分からなくなっちまってな」

擦れた声は、風に乗って漸くザウルの耳に届く程か細かった。二人の距離はほんの数歩程度だと言うのに。

「アイツが好きだって思ってた。でも、そうじゃなかったんだよ」

「……!?」

「そんな、綺麗なもんじゃなかった」

 好きだとか、恋だとか、そんな詩に出てくる様な感情ではない。そんな純粋なものではないのだ。初めは自分の奥底で眠っていたものが、どんどんとその黒さを増し、熱を持ち、今直ぐ解放しろと叫び始めている。

「本当に、訳が分からないんだよ」

 欲しいと思ってしまえば切りがない。どうしても、どんなことをしてでも自分のものにしたい。自分だけのものにしたい。縛り付けて、拘束して、自分の色だけを見詰めればいい。そんな考えが、後から後から沸き上がって来る。けれど、そんなことをして何になると僅かに残る理性が自分を叱責する。そんな身勝手な欲を、あの少女にぶつければどうなるかくらい、想像が出来ない訳がない。そう考えても、すぐに別の声が響く。それでもいい、と。たとえ、人形の様に精神も肉体も壊れてしまったとしても、それでも欲しいのだと。

 気付けば、抜け出し様のない執着を覚えた自分が居た。けれど、それがどれほど愚かで、醜い物かぐらいは分かる。それを抑え切れなくなった時、どうなるかも。

「俺は、それが一番恐ろしい」

「…………」

 こんな醜い感情を、好意などと呼ぶことは、どうしても躊躇われる。


 イアンは、心底忌々しそうに自分のことを語った。そして、その内容を聞いて納得する。イアンが何処となくセリアを避ける様子を見せていたのは、自分を抑える為だったのかと。

 彼がそこまで苦しんでいたとは、予想外だっただけに僅かに驚いた。しかし、他人事ではないだけに、微妙な複雑さも感じる。

「イアン。貴方だけではありませんよ」

「…………」

「好いた相手だからこそ、欲することは誰にも止められません。自分も同じですから」

 自分の中でも、時折覗く欲や嫉妬心は隠し切れない。やはり、他の男とセリアが親しげにしていれば、面白いくないと思うし、その瞳の先に自分が映る事を喜んでしまう。これは、紛れも無く独占欲だ。

「それに、貴方は彼女を傷つけまいとしている」

「…………」

 イアンの言う様に、彼の欲が強いものだとしても、セリアとイアンの間にはまだ何もない。嫌悪の対象になっても可笑しくはない恋敵である自分達とも、友人の関係を保っている。それは、彼の自制を十分示しているのではないか。イアンの感情が、彼の言う程のものなら尚更。

「彼女を欲しいと思う気持ちも、貴方の想いの一つでしょう」

「だとしても…………」

「それに、もし貴方が彼女を傷つけたとしたら、自分が奪いに行きますよ」

 その言葉にイアンがハッと顔を上げると、ザウルが珍しく挑戦的な視線を向けて来た。

「貴方がその感情をどうするか結論をだすまでは、まだ時間が必要なのでしょう。ですが、貴方が彼女に無理強いをするようなことは、自分がさせません」

 気持ちが溢れ、彼の言う様に自制が効かなくなったとしても、それを野放しにしてやる気などさらさらない。彼女の存在を望んでいるのはイアンだけではないのだ。

 ザウルに言われたイアンも、そう言えば周りは敵だらけだったな、と思い出す。そして、それが仲間であることも。

 途端に笑いが込み上げて来て、クッと喉の奥から洩らせば、ザウルも口の端を僅かに上げる。

「お前にそんなことを言われるなんてな」

「これで、相子ですよ」

 いつもどんな時でも、公平を望み自分を見せて来たイアンに、ザウルは言葉を選ぶ。その意味を理解したのか、イアンはもう一度、一瞬だけ笑い声を洩らした。



最近、ちょっと気になることがあるけど。こういう時に一番注意しなきゃいけないのは、やっぱりセリアだよね。すぐに一人で出て行こうとするから。

でも、何もしないっていうのもまずいよね。なんだか嫌な予感もするし。



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