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大地の宝石  作者: 森宮 スミレ
〜第二章 磨かれる原石〜
53/171

冷雨 2

「そう怒らなくてもいいじゃない。ちょっとした冗談よ」

「…………」

 おどけた口調でそんな事を言ったクルーセルの視線の先では、明らかに苛立った様子の教え子達。

 この男が言うと冗談に聞こえないから性質が悪いのだ。と候補生達が心中で悪態を吐いた事など、クルーセルは微動も理解していないのだろう。あるいは、理解していながら敢えて生徒をからかって楽しんでいるのか。だとしたら、もう手のつけようがない。本当に教師か、と疑いたくもなる。

 とんでもない質問をされ、泡を噴く勢いで混乱しだしたセリアだがハッと正気に返ると、父親は誰かと聞きながら候補生達を見回したクルーセルに向かって必死に首を横に振り出した。最早、驚きと焦りで声も出せない状態だったのだろう。それを見て流石に気の毒だと思ったのか、クルーセルも自分の言葉を撤回した。

「でもセリアちゃん。その子はどうしたの?」

「は、はい。実は……」

 さり気無くこの場を離れ、色々と温室へ持ってきたのだろうルネに、やんわりと渡されたタオルで濡れたロイドの髪を拭いてやりながら、セリアはポツポツと事情を話し始めた。その途中で、本当か?と疑問を含んだ様な視線が、常にザウルを射抜いていた為、ザウルは毎回小さく頷く羽目になったが。

「……大体の事は解ったわ。でもどうするの?」

「その、放置する訳にも行かなかったので。えっと……どうしましょう……」

 そう言って困惑した顔を見せるセリアに、候補生達は心底呆れた顔を見せる。面倒事を拾ってくる癖は、何時になったら改善されるのだ、と。溜め息を吐いても、セリアがそれに気付く望みは毛程も無いのだが。

「取り合えず、校長に報告してくるわね。街でも迷子の届けが出てるかもしれないし」

「す、すみません。宜しくお願いします」

「いいのよ。それよりセリアちゃんもちゃんと着替えるのよ。あんまり冷えると身体に障るからね」

 そう言って、もう殆ど止んでいる雨の中、温室を軽やかに出て行ったクルーセルは、まるで面白い物を見つけた時の様に、上機嫌であった。明らかに、今の現状を楽しんでいる。その後ろ姿に、候補生達が肩を落としたことに、彼も恐らく気付いているのだろう。どうも遠くなっていく鼻歌が、耳につく。



 セリアが一通り髪を拭き終わると、ロイドはムッと顔を上げた。

「俺、母ちゃんと一緒に居る」

 先程から何度もその言葉を繰り返している。絶対に譲らない、と言った表情で言われ、セリアも再び困惑した。

 さて、どうしたものか。と首を傾げて考えていると、その横にスッと影が立った。驚いてそちらを見やれば、再び険しい表情のカールがこちらを睨んでいる。額に浮かぶ青筋からも読み取れるが、機嫌はすこぶる悪いらしい。

「さっさと元居た場所に捨てて来い!」

「え、えええ!?そ、そんな、ダメだよ」

「貴様は、養護施設でも作るつもりか!?」

「いや。だって……」

 先ほど顔を見ただけで大いに泣き喚かれ不愉快な気分になっていたところに、先ほどの父親発言があったのだ。それ以前に、セリアが面倒事を持ち込んだ上に母親にされてしまっているのに。と、カールは不快の文字を額から隠す事もせず、小さな少年と少女を見下ろした。

 再びあの冷え切った視線を向けられ、泣き出しそうな顔をするロイドを気遣って、遂にルネが制しにかかる。

「カール。そんな事言わなくても。少しの間ここに置くくらい良いんじゃない?」

「ほら。そう怖い顔するなって。また泣き出しちまうだろ」

 ルネと共にイアンもカールの肩を叩いて宥めたが、それは魔王様の機嫌を更に損ねる結果に終わった様で、カールはそのまま無言で温室の奥に置かれたベンチへ向かってしまった。その様子に、他の候補生達も肩を竦める。

「しかし、セリアが母ちゃんとはな」

「どっちかっていうとお姉さんじゃない?」

 ロイドの顔を覗き込みながらルネが聞いてみるが、本人は呼び方を変える意思は無い様で、再び母ちゃん、と呟くとセリアの腕をキュッと掴んだ。その様子に、他の候補生達も諦めた様に息を吐く。

 すると、イアンが何かを思いついたように瞳を輝かせた。そしてロイドの前にしゃがみ込むと、その目線を合わせる。

「なあ。俺の事、父ちゃんって呼んでもいいんだぜ?」

「なっ!?イアン。お前!!」

 その言葉の意味を理解した途端、焦った様にランがイアンに詰め寄るが、本人はまったく気にしていない。横で聞いていたセリアも唖然としている。というより、何故イアンが父ちゃんになるのか、さっぱり分からない。

 言われた当のロイドはイアンの言葉には返さず、すっと俯いた。けれど、イアンはそれでも諦めない。

「な。セリアが母ちゃんなんだろ。父ちゃんって呼んでみないか?」

「……いやだ!」

 興味津々で、心底楽しむ様に迫るイアンだったが、ロイドのその言葉に一刀両断されてしまった。

 幼いながらも強気な声に、イアンは目を見開くとグッと言葉に詰まる。それと同時にその場の空気が一瞬固まった。僅かな沈黙の後、その様子にルネが耐え切れないと言った風にクスクスと笑い始めると途端にイアンは不満そうに抗議する。

「なんだよ」

「ううん。クスッ……残念だったね、イアン」

 心底楽しそうに言われたイアンは返す言葉が見つからず、唸りながらバツが悪そうに頭を掻いた。周りからの非難めいた視線も、今は甘んじて受け入れている。

 未だに忍び笑いを漏らしているルネは、肩を揺らしながらテーブルの上に小さな皿を置いた。その上には甘い匂いを放つ焼き菓子が並べられている。先程タオル等を取りに行った際に、これも用意したのだろう。

 こんがりと程よく焼き目が付いた菓子に気付いたロイドが一瞬瞳を輝かせたのを、ルネは見逃さない。一度置いた皿を持ち上げ、ゆっくりとロイドに目線を合わせると、天使の微笑みを浮かべながらそれを差し出した。

「お腹空かない? おいしいよ」

「……」

 その言葉にまるで吸い寄せられるようにロイドは菓子に手を伸ばす。そして一つ摘み上げると、珍しい物でも見る様に、ジロジロと観察しだした。一通り見詰めていたが、我慢も限界に来たようで、チラッとセリアを見やる。その視線に気付いたセリアが優しく微笑んでやると、凄い勢いで菓子に被り付いた。それはもう、心底空腹だったと訴えるかのように。




「しかし、彼は何処から来たのでしょう?」

 ガツガツと菓子を口に放り込むロイドに視線を留めたまま、ザウルが呟いた。その問いに、セリアは再び頭を悩ませる。

 確かに、ただの迷子ではないだろう。でなければ、自分が母親呼ばわりされたりはしない筈だ。ならば家出だろうか。けれど、先程から何を聞いても一向に答える様子が無い。

「……ロイド。これを食べたら帰ろう」

 言い聞かせるようにルネが最期の焼き菓子を差し出すとロイドは、それまで懸命に菓子を口に詰め込んでいた手をピタリと止めた。そして、それきり菓子に手を伸ばそうとしない。どうやら、それを食べれば帰らなければならないと思ったらしい。

「じゃあ、いらない……」

 最後の菓子を恨めしそうに睨みながら言うロイドに、候補生達は驚いた。

 菓子の数はそれほど多くは無かった筈である。空腹だったのであれば、まだ満足はしていないだろう。その証拠に、ロイドはジッと菓子の前から動かない。

 あれほどがっついていたにも関わらず、帰るとなれば途端に手を止めるとは。小さな子供であれば、駄々をこねて菓子を食べてもまだ帰らない、と言い張ることもあったろうに。しかし、ロイドはそれをせずにここに残る事を選んだのだ。

 けれどやはり子供。瞳はまだ菓子に釘付けのまま動く様子はない。その目は心なしか潤んでいるようにも見える。流石にかわいそうになり、セリアはすっと残された菓子を手に取った。その瞬間、ロイドが涙を目に貯めながら縋る様に見上げる。それを見たセリアはもう一度優しく微笑むと、菓子をロイドに差し出した。

 それでもロイドは首を横に振って受け取ろうとはしない。その姿に、セリアはゆっくりと口を開いた。

「大丈夫。食べても帰れとは言わないから」

「……本当に?」

「うん。でも、何で帰りたくないのかは聞かせてくれる?」

「…………」

 ジッとセリアと菓子を見比べたロイドは、何かを決心した様に瞳を輝かせると、小さく頷いた。それと同時にセリアの手にあった筈の菓子は、あっという間にロイドの口の中に消えていった。モグモグと咀嚼する姿は、やはり年相応で可愛らしい。

 ゴクリと喉を鳴らしてそれを飲み込むと、ロイドは俯いていた顔を漸く上げた。

「……美味しい」

「よかったね。じゃあ約束、守ってもらえる?」

「……うん」

 セリアの言葉にスッと悲しそうに瞳を細めると、ロイドは静かにもう一度頷いた。



「俺、もう家に居たくないんだ」

「……どうして?」

「…………」

 約束してしまった以上仕方ない。とばかりに、ロイドは語り出した。けれど、先程よりも表情は暗くなっている。その姿に、候補生達も多少胸が痛んだが、やはり話して貰わなければ、彼等も行動が出来ないのだ。

「父ちゃんに忘れられちゃうから」

「……え!?」

「俺の母ちゃん、一年前に病気で死んじゃったんだ。俺も父ちゃんも一杯泣いた。でも、父ちゃんが居たから寂しくても我慢したんだ」

「……そうだったの」

 悲しげに語るロイドは、自分の本当の母親を思い出しているのだろうか。小さいながらに寂しさを乗り越えようと努力したのだろう。先程から見られる強気な瞳は、それ故なのだろうか。

「なのに父ちゃんが、新しい母ちゃんを連れて来たんだ。大好きな母ちゃんの事忘れちゃったんだ」

「…………」

「そんな父ちゃんなんか知らない!!母ちゃんが居なくても二人で頑張ろうって約束したのに、忘れたんだ!!……俺の事だってすぐに忘れちゃうよ」

 遂に耐え切れなくなったのか。ボロボロと大粒の涙を零しながら、最後の言葉はか細い声でなんとか絞り出されたようであった。必死に嗚咽を堪えながら、こぼれ落ちる涙を拭う姿は、小さな少年には似つかわしくない程苦しげだ。

 まだ母を亡くして一年しか経っていない少年だ。その頃の記憶もまだ多く残っている時に、父親の再婚を聞き衝撃を受けたのだろう。


 ロイドの言葉に、セリア達もそうか、とゆっくり頷く。

 大体の事情は解った。けれど、やはりこのままにはして置けないだろう。家に帰さない訳にも行かない。かといって、素直に帰りそうもない。

 どうしようか、とセリアが悩んでいると、横をスッと誰かが通り過ぎた。その後を、長い赤髪が流れる。驚いてその後ろ姿を追うと、その影はロイドの前で屈みその肩に手を置いた。

 ジッと自分を覗き込んで来る琥珀の瞳に、ロイドは一瞬たじろぐ。けれど、ザウルはその肩をグッと引いてロイドの視界に自分の表情をはっきりと映した。

「貴方のお父上は、貴方のお母上を忘れたりはされていませんよ」

「……で、でも」

「どんな事があっても、貴方のお母上が亡くなられた時、お父上が流された涙は本物です。解りますね?」

「…………」

 一つ一つの言葉をゆっくりと、そしてはっきりと紡ぐ。言い聞かせるザウルの言葉に、ロイドは何も返さずジッと琥珀色の瞳を見返していた。けれど、その内に沈黙に耐え切れなくなったのか、ポツリと洩らす。

「忘れたから、新しい母ちゃんが来ても平気なんだ」

「それは違います」

「…………」

「……貴方はその方と会っていますね?」

 連れて来た、ということは、父親が再婚相手を息子に紹介したのだろう。ザウルの問いにロイドはゆっくりと頷いた。

「どんな方でした?」

「……優しい人だった」

「そうですか。その方と一緒に居られて、お父上は幸せそうでしたか?」

「……解らない。でも、笑ってた。嬉しそうに家に連れて来たから。前みたいに、母ちゃんの事思い出して泣かなくなった」

「貴方と同じ様に、お父上もとても苦しまれた筈です。そんな時、その方はお父上の支えになっておられたのでしょう。その方に愛情が芽生えたからと言って、お母上を忘れた事にはなりません」

「でも……」

 一度治まりかけていた涙が、再び溢れ出す。やはり受け入れられない、と縋る様な瞳が見返して来た。けれど、ザウルは尚もロイドの肩を離そうとはしない。

「貴方はお父上をお嫌いですか?」

「えっ!?」

 唐突な問いにロイドは目を見開く。驚くロイドを他所に、ザウルはジッと小さな少年を見据える。嘘を許さぬ真剣な雰囲気に、その場の誰もが息を詰めた。

「……大好きだよ!!俺は父ちゃんが……」

「ならば、貴方がしなければならないことは、お父上の決断を頭ごなしに否定して、逃げ出す事ではない筈ですね?」

「…………」

「それに、お父上は貴方の事を一番に考えられている筈です。貴方を忘れるなんて、絶対にありません」

 強い口調で言い聞かせるザウルに、温室内は緊張していた。小さな子供に言うには、多少きつかったのではないだろうか、とも思うがそれを言葉にする者は居なかった。

 同じ様に母を亡くし、悲しむ父を見て来たザウルだからこその言葉なのだろう。似た苦しさや辛さを理解している分、重みもあった。恐らく、それをロイドも敏感に感じ取ったのだろう。何かに耐える様にグッと唇を噛み、俯く姿からは、必死にザウルの言葉を受け止めようとしていることが窺える。

 静かな温室の沈黙を破ったのは、ロイドが遂に堪え切れずに洩らした、大きな泣き声だった。






「本当にここまででいいの?」

「うん。姉ちゃん、兄ちゃん、ありがとう」

 セリアを母ちゃんではなく、姉ちゃん、と呼んだロイドは、学園から多少離れた道の奥を差しながら微笑んだ。自宅前までロイドを送って来たセリアとザウルは、駆け足で家へ向かう少年の後ろ姿を静かに見送る。そして、扉の向こうに消えるまで見届けると、一つ短く息を吐いた。

 何はともあれ、これでもう母親にされることはないだろう。

「流石に、母ちゃんって呼ばれた時は驚いたね」

 軽く笑いながらセリアは言ったが、それに返したザウルの表情と声は、意外にも真剣であった。

「冷たい雨の中、優しく手を差し伸べてくれたセリア殿を、まるで母親のように感じたのでしょう」

「……ザウル?」

 悲しげに呟いたザウルを疑問に思いセリアがそちらを見ると、琥珀の瞳が、今は寂しそうに揺れていた。どうしたのか、とセリアが聞こうとするが、頬に感じた冷たい感触につい顔を上に向ける。

 見上げた灰色の空からは、先程までは治まっていた筈の雨が、再び降り出した。

「わっ!降ってきた」

「セリア殿。こちらです」

 途端に手を引かれ、セリアは焦りながらもそれに従った。二人揃って慌てて近くの軒下へ避難する。

「折角止んでたのに……」

「…………」

 雨を凌ぐ為、先刻の様に軒下で二人並んで立つ。そんなザウル達の目の前を、ポツポツと大きな雨粒は落ちて行った。

 空から落ちる水滴を、ボンヤリと眺めていたが、妙な沈黙に僅かな違和感を感じたセリアは、チラッと隣の友人を窺う。その先では、ザウルがとても悲しそうな顔で空を眺めていた。先程から、どうかしたのだろうか、と不思議に思い、セリアは声を掛ける。

「ザウル?」

「あっ!? すみません。少し考え事をしていて……」

「…………」

 降りしきる雨の音に混じって出された言葉は、何処か不安を含んだ色だった。それに気がついたセリアだが、言葉が見つからずに再び口を閉じる。その結果、再び沈黙が流れる事になったが。

 けれど、次にその空気を破ったのは、ザウルの声だった。

「……雨は……お好きですか?」

「えっ!? えっと、嫌いではないかな」

「自分は好きではありません。灰色の空や、湿った重い空気が」

「…………」

「なにより、まるで涙の様な雨が」

 そう言うと、ザウルはそれきり黙り込んでしまった。それと同時に、余計な事だったか、と僅かな後悔も押し寄せる。これではまるで愚痴ではないか。少なくとも、聞いていて気分が晴れる話題ではないだろう。

 段々と纏う空気が暗くなって行くザウルに、セリアは気付くことなくのほほんと返した。

「確かに、空が泣いてる様にも見えるね」

 明るい口調で言ったセリアは、それはまた斬新な意見だ、と妙に感心している。その呑気な空気に、重苦しくなりかけた雰囲気もふっとんだ。それにザウルは一瞬呆気に取られてしまう。けれど、セリアはそれに気付く事なく続けた。

「それに濡れるし、気温も下がるから、雨の間は良い事はばかりじゃないよね」

 そう言えば小さい頃、雨が降って来たにも関わらず、そのまま外で遊び続けていたら泥だらけになった事を思い出した。そのまま屋敷へ帰ると、身体を冷やした上に、床を汚した事で怒られた事も。

 その話を聞いたザウルは、何と返して良いか解らず、苦笑するだけに終わったが。

「でも、雨上がりは好きだな」

 セリアがそう言ったと同時に、それまで音を立てて流れていた雨が、ピタリと止まった。名残惜しむかの様に最後にポツリと一滴零してから。その一滴が地面に到達し、ピチャンと音を立てる。すると、今度は雲が割れ、その間から今まで隠れていた日が覗いて来た。

「空気は澄んでるし、色々な所に残ってる水が陽の光に反射するから綺麗だし」

 止んだ雨を確認する様に手を前に出しながら、セリアが軒下から一歩出れば、その場を丁度温かな日差しが照らしていた。まだ影の下に居たザウルには、それがとても眩しく映る。

「でも、雨が降らないと雨上がりはないから。だから、私は嫌いじゃないな」

「…………そうですね」

 何時もと変わらぬ笑顔で笑ったセリアに、ザウルも漸く穏やかな表情を返した。普段ののんびりとした表情。雨の様に泣くだなんてとんでもない。それどころか、雨雲を押しのける程呑気で暖かな笑顔だ。それが、雲から覗く光の筋に当たって、一層明るく見える。

 これも、いいかもしれない。

「もし、次の雨上がりの時も、こうして貴方と一緒に過ごせるのなら」

「ん? 何か言った?」

「いいえ。何も」

 それなら、次の雨を、少しは晴れた気分で待ってみるのもいいかもしれない。


相変わらず、彼女はああいったものが苦手のようだ。

まあ、そこまで心配するほどのことでもなかったようなので安心した。

けれど、ああして一日中気を張っていては落ち着かないのではないだろうか。


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