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大地の宝石  作者: 森宮 スミレ
〜第二章 磨かれる原石〜
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確執 2

 木に持たれたまま暫く動かなかったイアンだが、時間が経ち満足したのか、先程漸くセリアを解放した。けれど、そのままイアンは動こうとはせず、セリアもそんなイアンを残して寮に戻る気にもなれず、今は二人で芝生の上に寝転びながら星を眺めている。

「殺そうとしたっていっても、子供の頃の話なんだ」

「……そう、なんだ」

 アルフレドの言葉は本当だったのか。とセリアは戸惑いを隠せなかった。弱々しい声に乗せられた言葉に、セリアは頷く以外の反応を返せない。

「昔は、あんなじゃなかった」

「…………」

「小さい頃はさ、二人でよく遊んだんだ。歳も一つ違いだし、毎日一緒に悪さしてさ」

 イアンが洩らす声は弱々しく、静かな夜でなければ聞き取れなかっただろう。セリアはそれを黙ったまま聞く。木々の間から見える星空に、イアンは昔の少年時代を映しているのか、スッと目を細めた。




 自分の後を付いて回る姿が、可愛い弟だった。自分が何をするにしても、直ぐに真似をしようとする様は、今でも覚えている。何に対しても懸命で、いつも影で努力していた事を、自分だけは知っていた。そして、その度に自分に勝負を挑んでくるのだ。

 可愛がっていた積もりだし、懐かれていると思っていた。

「家の近くの木の上にカササギの巣を見付けてさ。それを教えてやると、凄く喜んで二人でいつも覗きに行った」

 嬉しそうに出かけて行く自分を見付け、どうしたのか、と聞いてきたので教えてやったのだ。その巣に鳥が居ないか、と毎日登っては確認した。まるで、初めて見付けた宝物の様に自分はそれに夢中になったのである。とくに、二人で覗きに行った時は、弟が木に登るのが危なっかしくて、よく手助けしてやった。

 一緒に遊んで、一緒に笑って、二人とも外で遊ぶのが好きだったから、いつも隣に居た。その頃は、本当に楽しかったのだ。


 けれど、それは突然、何の前触れも無しに壊れた。

「俺が九つで、アルフレドが八つの時だったな」

 近くの湖へ遊びに行った時だった。まだ日差しが暑い頃、自分は大人達の目を盗んでボートに乗り込んだ。昔から悪戯が好きで、大人達が焦る姿を見ては喜んだものだ。だからその時も、ほんの遊び心だったのだ。岸から離れた所で、自分を見付けて驚く大人達を眺めるという寸法。ボートなら何度も乗っているし、平気だろうと得意げに計画を実行に移したのを覚えている。その後ろからは、当然の様にアルフレドが付いて来た。

 自分が漕ぐボートを大人達が見付けた時、自分は悪戯が成功した時の優越感に浸っていた。だから、後に居た影が動いた事に気付かなかったのだ。いや、気付いていたとしても、その影が自分を湖に突き飛ばすなど、想像もしなかっただろう。だから、自分の身体は簡単にボートの外へ飛び出していた。

 突然の事に、例え今はマリオス候補生になるほど優秀といっても、十にも満たない子供が反応出来る筈もなく。投げ出された衝撃に、自分は水中でもがく事もままならなかった。水は肺に入り込み、重くなった体が深く湖に沈んでいく。激しい水音に気付いた大人が居なければ、ちっぽけな自分は確実に溺れていただろう。幸い水を飲んだ程度で特に怪我もなかったが、それでも大事になったことは言うまでもない。

 助け出され、何があったと聞かれた時、自分は応えられなかった。自分でもよく分かっていなかったのだ。あの時、誰かに後ろから突き飛ばされた事だけは理解していた。けれど、それが出来たのはボートに一緒に乗っていた弟のみ。けれど、それが信じられなかった。水の中から見えた気がした、弟の冷めた、見下すような目を、自分は信じたくなかったのだ。

 何も言葉を発さない自分と同様に、弟も何も言わなかった。当然、大人達は自分が誤って湖に落ちたものと判断し、その後は勝手にボートを盗んだ事に大目玉を食らった。父には叱責され、母を心配の余り泣かせてしまった。けれど、自分にとってそれらは些細な事でしかなく、横でジッと佇む弟に全神経を向ける事に必死になっていた。

 それを境に、弟は確実に自分から距離を置くようになった。

「その時は、まさかと思ったさ」

 理解力が追い付かない頭が、漸く現実を受け止めたのは、もう一度カササギの巣を訪れた時だった。弟をここに連れてくれば関係が修復出来るのでは、と希望を胸にしながら一人で木に登った先に、あると思っていたものは、無かった。変わりに置かれていたのは、無惨に引きちぎられた枯れ草や、粉々に折られた木の枝の集まり。

 アルフレドだと思った。それは確信であり、証拠だとかそういった論理的な言葉では説明出来なくとも、自分にはそれだけで十分だった。

 それからは、全てが変わった。後ろに付いて来た弟の姿は無く、それと同時に自分の周りから色々な物が消えるようになった。自分が以前弟と共に興味を示したり、気に入っていた物は、殆どが壊れるか、無くなるかした。

「でもな、俺にとってそんなのは大した事じゃなかったんだ」

 自分にとって、気に入っていた玩具や、好きだった場所を壊されるのは、どうってことはなかった。それ以上に自分に喪失感を与えたのは、いつも後ろを付いて来た弟の姿が消えた事だったから。

 自分がフロース学園へ入学すると、弟はまるで離れる様に遠くの州の学園へ入ると言い出した。突然だったが誰も疑問は抱かず、すんなりと事は決まった。

 アルフレドとの間に距離が出来る事に一瞬安堵するも、唯一心残りだったのは、二人の関係をそのままにしてしまうこと。とはいっても、その頃には、自分の後ろを付いて回っていた弟の影も薄れ、記憶の端に残る程度になってしまっていた。何年も居て居ないかの様な振る舞いをお互い貫いて来たのだ。今更、離れる事に抵抗などなかった。

「ニ年くらい経って、アルフレドが学園に来た時は、本当に驚いた」

 あれ程自分を視界に入れる事さえ嫌がっていた弟が、突然自分を尋ねてフロース学園まで来たのだ。驚いたが、それよりも胸に喜びが走った。もしかしたら、出来てしまった溝を少しでも埋めるきっかけになるかもしれないと思った。

 けれど、その期待は打ち砕かれるのだ。

 自分が友人を紹介すると、弟は一瞬、あの見下げた様な視線を投げた。それに違和感を覚えたものの、気付かぬふりをした。

 三日後、ルネに遠回しに聞かれた。自分と弟との関係を。何があったのかは教えてはくれなかったが、その瞬間、アルフレドが何を目的としてフロース学園まで来たかを理解した。それと同時に、弟と昔の様な関係を築くことは、絶望的だと突きつけられた。




「俺には分からない。何でこうなっちまったのか。本当に分からないんだ」

「…………」

「それでも。どうしても、嫌いにはなれないんだ」

 弟が自分を憎むなら、自分もアルフレドを憎んでしまえと思ったりもした。関係を元に戻したいなどという思いも、同時に捨ててしまえと。そうすれば、どれだけ楽だったか。

けれど、結局自分にそれは出来ない。何をされても、例え、本当にあの時アルフレドが自分を殺そうとしたのだとしても、自分には弟を嫌う事が出来ないのだ。

 けれど、弟の矛先は、自分が何よりも守りたいと願った少女にまで向いた。腹の底から怒りが沸き上がり、もう我慢も限界だと、これ以上は許せるかと、叫んでやろうと思った。けれど、自分の胸の内を幾ら探したところで、嫌悪感が見つからない。

「俺にとっては、やっぱり弟なんだよ。たった一人の」

「……イアン」

「情けねえよな。未練がましく一人でぐずぐずしてさ」

 自嘲気味に言うイアンを、セリアはジッと見詰めた。そして、控えめに声を発する。

「情けないことなんてない。家族だから、何があっても嫌いになったりは出来ないよ。一緒に過ごした時間があるなら尚更」

「…………」

 自分も同じだった。あれだけ露骨に忌み嫌われているにも関わらず、母を嫌いにはなれない。逆らえないと言ったのもその所為だ。昔は、それこそ何度も歩み寄ろうとした。それも、何も知らない幼い頃から。それでも、未だに距離は開いたまま。それでも、相手が自分をどう思っていようと、やはり少しでも不仲をどうにかできないかと望んでしまう。

 だから、イアンが自分を情けないと思う必要は無いと、素直にそう思った。相手が家族であるなら、和解したいと望む気持ちは、きっと自分と同じなのだろう。

 安心させるかのような優しい声に、イアンの中で今まで懸命に塞き止めていた物が、声に変わり外に飛び出した。

「くそっ!!なんで、こうなっちまうんだよ……」

 悪態を吐くと、やるせなさと、再び突きつけられた現実に、イアンは顔を隠す様に腕で覆った。横で心配そうにこちらを見る少女に、目の端から込み上げるものを、見られたくなくて。ジッとこちらを見詰める視線が、それに気付かない筈はないと、分かってはいても。








 他の者が寝静まって暫く経った寮の一室で、イアンは一人項垂れていた。というより、自分が犯してしまった失態で、自己嫌悪に浸っているのだ。今、彼を落ち込ませているその失態とは、イアンの中では絶対にあり得ない過ちである。

「泣いてるとこ……見られた……」

 ポツリと呟くと、その事実は再び現実味を帯びて襲いかかって来る。そしてイアンはもう一度頭を抱えた。

 弟の事は、もう既に何年も戦って来た現実だ。今更、必要以上に悲観する事はしない。だから押し込めていた感情が溢れ出して、泣いてしまうなんて、あり得ない。ただあの時は、横にセリアが居る事で妙に心に隙が出来てしまって、気持ちが込み上げて来てしまったのだ。

 男にとって、女に涙を見られるのは、これ以上無い程の恥だとイアンは思っている。

 今まで、女に弱い部分を曝け出す事は、己のプライドが許さなかったのだ。そして涙こそ、弱さの全てを語ってしまう象徴である。女は守ってやるべき存在であり、頼られる事はあっても、頼る様な真似はすべきではないと。だからこそ、涙だけは絶対に見せるまいと。それは小さい頃から、いつの間にか染み付いていた意地にも似た感情であり、絶対に犯す事をしなかった自分の不可侵領域でもあった。

 物心ついた頃から、母にすら泣きすがった事はない。それは、ある種の自信すら自分に与えていた。

 別にプライド高い姿勢を自慢しようと思っているのではない。むしろ、そういう見栄やおごりは好きではない。ただどうしても、女に涙を見られるという事に、異様なまでの恥辱を覚えるのだ。

 それがどうだ。今日初めて、よりにもよって自分の想い人に、弱い自分の姿を見せてしまった。鉄壁だと思っていた壁が、初めてガラガラと崩された時の衝撃は想像以上で、思い出すだけで頭が痛くなる。どうしてあんな所であんな過ちを犯してしまったのだろうか、と自分を責めずにはいられない。弟の事で失意から涙を流した事ならあった。けれど、そのどれも他人に知られた事などなく、ましてやセリアに見られるなど、失態という他なかった。

 絶対に守り抜いて来たものを崩された時。一度も他人を入れた事の無い領域に、不可抗力とはいえ、ズカズカと侵入者を踏み込ませてしまった時の精神的な脆さと言ったらない。自分の弱みとも言える部分を、惜しげも無く曝け出してしまったも同然なのだ。

とにかく、この時点でイアンにしてみればもう後には引けない訳で。セリアはどうしても意識せざるをえない相手になってしまったのだ。そのまま自分でも理解不能な感情が沸き上がって来て、妙な錯覚に陥って来る。

 もう一度大きな溜め息を吐き出すと、イアンは全ての思考を停止させ、心身の疲労に身を任せるように目を閉じた。







「それでは、恐怖政治と何も変わりがないではないか!」

「貴様こそ、己の夢想で国を傾ける気か?」

 授業が終わったにも関わらず、互いに意見をぶつけ合う二人に、その様を見ていた数名は溜め息を吐いた。睨み合う二つの視線の間では、忙しなくセリアが資料に目を落として、ズバズバと突っ込みを入れている。セリアに昨晩のことを深く追求してくる様子は見せなかったが、イアンにとってはある意味大事だったことに変わりはない。ランとカールの間にいるセリアの姿に、イアンは他とは別の意味で息を洩らした。

 そんな事が続いていると、漸く満足したようで、議論を切り上げたカールが温室を出ようとする。けれど、対峙していたランとセリアはまだ納得いかないようでその姿を追って一緒に出て行ってしまった。

「イアン。聞きましたが、彼が来ていると……」

「ああ。まあ、そこまで心配することはねえと思うけどな」

「いえ……それより、貴女は平気なのですか?」

 三人が去った温室でイアンがボンヤリとしていると、見計らった様にザウルが声を掛けて来た。昨日はあの場に居なかったが、ルネからアルフレドの来訪を聞いたらしい。琥珀色の瞳が、心配そうに細められている。

 眉を下げて自分を見る友人の肩を、イアンは大丈夫だ、と言うように軽く叩いた。

「今更だろ。気に病んだって仕方ねえさ」

「……イアン」

「悪かったな、気使わせちまって」

「その様なことは……」

 ザウルは目の前でなんでもない事の様に言う友人を、改めて見た。幼い頃に出来た弟との間の溝を、彼が今でも気にしているのはよく知っている。けれどその弟が、兄から近しい人間を遠ざけようとしている事も事実なのだ。だからといって、自分達に何が出来る訳ではない。だから、こうして心配をする以外出来ないのだ。







 温室を出てからも、激しい言い合いにも似た議論を交わし、漸く三人の意見が纏まったところで、今度こそ論議は終了となった。その間は周りから好奇の視線がこれでもか、という程集まっていたのだが、セリア達は気付いてはいないようだ。気付いていたとしても、これといって何かをしようとは思わないのだろうが。

 カールは今度こそ校舎へ一人で戻ってしまい、残された二人は揃って温室へ向かって歩いていた。その間も、先程宿敵が去り際に放った発言に対しての不満が残っているのか、ランが眉間に僅かな皺を寄せる。それを見てセリアも困ったように微笑んだ。

「ラン。そう怒らないでも……」

「必要の無い犠牲を出さない為に、我々が尽力するべきだ。結果が出せても、犠牲が大き過ぎては意味がない」

 カールとランの考え方の根本的な違いはそこだ。そして、去り際にカールがランの思想を甘い、と批判したので彼のお怒りに触れてしまったのだ。それでなくとも、顔を合わせれば二人は途端に機嫌を悪くするのだが。

 何故ここまで仲違いをしながらも、普段から行動を共にするのだろう。とセリアは改めて不思議に思う。お互いを仲間と認め合っている事は事実だが、視界に入れればそれだけで舌戦を繰り広げるような仲なのに。というより、毎回毎回同じ様な内容で言い争って、飽きないのだろうか。

 まあだからといって、二人が離れれば良いと思っている訳ではなく、ただ疑問に思っただけなのだが。



「……噂の女性マリオス候補生様は、周りから随分好かれているようですね」

 突然背中に投げ掛けられた声に、セリアとランは同時に振り向く。そうして捉えたのは、イアンによく似た風貌を持つ彼の弟。途端に警戒心を露にしたランと、いつの間にか背後に立たれた事に呆気に取られるセリア。

 二人の視線を受け、アルフレドは大袈裟に傷ついたような顔をして見せた。

「酷いですね、ランスロットさん。そう目くじらを立てないでもいいんじゃないですか?」

「……すまない。こちらの非礼は詫びよう」

 そう言ってランは、顔に出てしまっていた警戒心を胸の中に隠した。相手が誰であっても、あまりにも露骨に態度に出すには礼儀に欠いた行為だったと反省する。けれど、肩にかかる緊張感はそのままに、じっと相手の行動を窺った。

「それよりも、先程の言葉。どういう意味だろうか?」

「別に、そのままですよ。頭の良い才女様は、その地味な容姿に似合わず、周りの男を魅了する力を持っているようですね。と言っただけです」

 まるで、それが理由で候補生に選ばれた、と言っている様な雰囲気とその言葉に、黙って聞いていたセリアも眉を上げた。なんだか、大いに勘違いをされているような発言だ。地味な容姿は否定しないが、それ以降の言葉はやはり納得出来ない。そう思って反論しようとしたが、それはランに止められてしまった。

「アルフレド。君の思っているような事実は、何一つとして無い。彼女は、自分の実力で今の地位に就いたまでだ」

 強く言ったランに、アルフレドは心底呆れた様に肩を落としてみせた。

「そうでしょうとも。でも、実力の中に、マリオスとは関係の無い才能も含まれているのでは?」

「あの!」

 流石に言い返そうとセリアが口を開いたところで、腕をグッと後ろに引かれた。喉まで声が出かかっていたセリアも、その力に驚いて言葉を止める。自分の腕を掴んだランを見上げると、こちらに向けられている碧眼。その眼差しが、何も言うな、と必死に訴えて来るので、セリアは仕方なく言葉を飲み込んだ。

 変な誤解をされたままなのは好ましくないが、ランの方がアルフレドと、そしてイアンとも付き合いは長い。自分の知らない所で、複雑な事情が絡んでいる事も何となく分かっている。無闇に自分が先走って、更に事態を悪化させることは避けたい。ならば、ここはランの言う通りにしておいた方が妥当だろう。

「根拠の無い言葉で他人を貶めようとする行為は、自らの品位を下げる事と同じだと思わないか?」

「…………」

「そしてなにより、彼女は私達の大切な友人だ。イアンも、君と彼女との間に蟠りが生じる事は望んでいない」

 イアンの名を聞いた時、アルフレドの一瞬怯んだ姿を、セリアは見てしまった。ランは気付いていないようだが、セリアはそれに妙な引っ掛かりを覚える。

 ランの言葉に、アルフレドはそれ以上の言葉を返す様子を見せなかった。それを確認すると、ランはセリアの背を押しながら足早にその場を後にしようとする。急に押された事に慌てながらも、ランの歩調に合わせようとセリアが歩けば、二人はアルフレドを残して温室を目指した。

 あやふやなまま別れてしまったアルフレドをセリアが振り返れば、こちらを憎しみの色で睨みつける、イアンと同じ赤い瞳を見てしまった。その瞳に背筋が凍り付く様な錯覚を覚え、セリアは一瞬肩を振るわせる。普段見る、優しげに細められた赤とは違う、初めて見たその色に、セリアの中の引っ掛かりは更に増したのだった。






 忌々しい。

 その言葉が腹の底から湧いて来て、近くにあった壁を思い切り殴りつけた。拳から伝わる痛みがジンワリと浸透してくると、少しだが頭が冷える様な気がする。けれど、沸き上がった感情が引く気配はなく、そのままもう一度壁に拳を叩き付けた。

 その様子を少し離れた場所で見ていた影の瞳が、面白いモノを見付けたように細められたことには気付かず。



無駄な存在は排除するだけ。それが、俺の成すべきことだ。なのに、どうして何時まで経っても要らないものが無くならないんだ。今だって、あんな……

やっぱり、あの人の言葉は本当だった。あれだって、邪魔なだけなのに。


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