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大地の宝石  作者: 森宮 スミレ
〜第一章 埋もれた小石〜
30/171

蜘蛛 2

 現在、セリア達は図書室にて分厚い資料を手当たり次第に引っ繰り返していた。

「でも、蜘蛛なんて聞いたことないよね」

「本当に見たのか?」

 薄暗かったために見間違えたのでは、と疑うランにセリアは首を振って否定する。

自分は確かに見たのだ。男の腕に、蔓の中心で不気味にその存在を主張する蜘蛛を。

 今回の事件。毎回現場に蜘蛛の死体が置かれていることからも、絶対に関係していると言える。クルダスでは、貴族の紋章だけに許された短剣が蜘蛛の後ろに彫られていたので、どこかの家の紋章ではないかと考えたのだが。

「やっぱり無いぜ」

「こちらもです」

 あの後、駆けつけた警察にも蜘蛛の紋章のことを話したが、あまり参考にはならないと言われた。先ほどルネも言った通り、蜘蛛を用いた紋章など聞いた事が無いからだ。

「今はもう没落した家でしょうか?」

「それにしても、腕に刺青を入れてるぐらいだ。ここ最近のものだと思うが」

 図書室の貴族に関する資料や、蜘蛛を使った模様など、考え付く限りの資料はここ数日をかけてとりあえず全てに目を通した。しかし、未だにこれといった成果は見られない。

 セリアは分厚い歴史書の最後のページを閉じて、深くため息を吐いた。

「見られる資料は大体見たけど……」

「とりあえず、今ある貴族で蜘蛛を使ってる家は無いようだな」

「…………やっぱり見間違い、だったのかな……?」

 落胆した様にセリアが言うと、ランは読んでいた資料をパタンと閉じた。

「あちらにも、目を通してみるか」






 現在、マリオス候補生達は図書室の一角で資料を漁っていた。しかし、その場に居ることを一番望んでいる筈のセリアの姿が見受けられない。

 図書室の一角に設けられた空間。そこは、一般生徒は勿論、一部を除く教師でさえ立ち入り禁止の場所。マリオス候補生のみに閲覧を許された資料や書物が立ち並ぶ場に、彼等は居た。この場には、書記によって記された王宮内や議会で交わされた議論内容や、可決されなかった法案など、国政に関することが詰まった資料が大切に保管されている。外部に漏らしても良いギリギリのラインまで詳しく書かれたそれらは、定期的に王宮から送られてくるものだ。

 他にも、今はもう発行されていない図書や、かなり問題になった思想家の書籍など、あまり公の場に出されていないものも置かれている。

 これらの資料は後にマリオスとなる者達の為にと用意されたものだが、流石に機密事項や国の貴族にとって都合の悪い部分は除外されている。しかし、実際の内情をうっすらとでも伺うには十分であった。その中に、今回のことに関係する手掛かりでも見つからないか、と模索している訳である。

 セリアはこの場には立ち入り禁止であるため、その入り口から資料に目を通す候補生達を、期待と不安が入り混じった瞳で、ジッと見詰めていた。

 ある意味、熱い視線を送ってくるセリアに、複雑な心境の候補生が三人。

「……普段からああいう風にこっちを意識してれば可愛げもあるのにな」

「流石に、それはあまり望めないだろう」

 落胆するイアンに琥珀の瞳が優しげに向けられる。

「セリア殿は元から可愛らしい方ですよ」

「いや、別にそういう意味じゃねぇんだけどよ」

 こんな時に何を考えているのだ、と自分でも思ってしまうが、滅多に見ることの出来ないセリアの情熱的(?)な視線を、どうしても意識してしまう。

 しかし、そこは流石マリオス候補生。邪念を捨て、もう一度手前の資料に集中し始めた。とはいっても、中々それらしき文献は見つからない。

「貴族じゃないのか?」

「しかし、短剣を用いているなら、何処かの家の紋章と考える方が………」

 ウーン、と唸りながら考えてみるが、それらしい紋章については全く手がかりが掴めていないのも事実。こうなっては仕方が無い。出来る限りの資料に目を通そう、と力を入れた所で突然影が後ろに立った。

「うわっ!」

 気配も背後に迫った人物が醸し出す、あまりにも冷たい雰囲気に、その存在を真後ろに感じ取ったイアンは思わず声を上げた。

「カール!?何をされているので?」

「……興味深い物を見つけた」

 ボソリと呟いたカールの手には、分厚い古ぼけた本が一冊。相当の埃を被っていたのだろう、まだ多少の塵を被っている。それに、カールが今出てきた角は、閲覧禁止書棚のかなり奥。比較的古い図書が保管されている場所だ。

 それにしても、昨日の夕食時から姿が見えないと思っていたカールだが、何時からこの場所に居たのだろう。

「………お前達も来い」

「あ、ああ」

 埃っぽい場所へ赴いた事で不機嫌なのか、疲れが溜まっているのか、その口調は普段より荒い。




「あれっ!!どうしてカールが?」

 突然現れた人物にセリアがキョトンと首を傾げると、鋭い視線で睨まれた。相当機嫌は悪いらしい。ひぃ、とセリアは縮こまるが、どうしても納得出来ない。何故自分は睨まれているのだろうか?

 チラッと伺うように上げた目の前に、ずいっと開かれた本が突き出された。なっ、何事だ!?と混乱するセリアに構わず、冷え切った声が投げかけられる。

「お前が見たのはこれか?」

「へっ!?」

 言われて改めてそのページを見ると、確かにそこには蜘蛛の紋章。絡み合うつる草の中心で、短剣を後ろに堂々と居座る蜘蛛は、自分が男の腕に見た刺青と同じ物であった。

 ゆっくりとセリアが頷くと、カールはその視線を更に冷たくした。

「これはデナトワーレの紋章だ」

「デ、ナト、ワーレ……?」

 聞きなれない単語をセリアが復唱すると、カールは静かに頷いた。






 温室のテーブルの上に置かれた、閲覧禁止書棚に長い事保管されていたらしい本を再び見下ろす。探し求めた筈の紋章だが、やはり何処か不気味に見えた。

「これは二百年程前にある集団が使用していた物らしい」

「集団……それが、デナトワーレ?」

 セリアが聞けばカールが無言で肯定した。この言葉の少なさはどうにかならないものだろうか。などと若干ずれたことを考えながら開かれたページを捲ってみると、確かにデナトワーレと綴られている。

 かなり古いその本の他のページの内容にも目を通してみるが、デナトワーレ同様、セリアが聞いた事の無い言葉や情報が幾つも載っていた。そして、出来れば知りたくない様な事も。

「黒魔術、呪術のカルト集団。クルダス要人切り裂き事件の犯人。王宮の一部を爆破計画。公爵邸夜会大虐殺事件。…………これって」

「異なる事情から、クルダスの歴史上排除された件に関しての資料だ」

「そ、そうですか……」

 セリアも初めて目にする物に、困惑した。多少読むだけでも、頬が引き攣る様な内容ばかりだ。異なる事情とは、事件が残酷過ぎるか、もしくは国にとって都合の悪い事件だという事だろう。国民の不安を煽る出来事、王族や政治家の尊厳を損なう様な不祥事が、歴史から揉み消された、という事だ。

「その資料の中に、蜘蛛を用いた紋章を掲げた集団の存在が記述されている」

「……狂信集団、デナトワーレ」

 セリアと他の候補生達が、集団が蜘蛛の紋章を掲げている様を写し取った絵が描かれたページに目を走らせる。

 蜘蛛を崇拝する集団、デナトワーレ。その紋章を体の一部に彫る事で、自らの信仰を証明した。

 彼等は古代呪術の復興を望む者達であり、王都の何処かに密かに集会場を設けていたと書かれている。その集会場で定期的にある儀式を行っていたらしい。

 ページの横には、その儀式の場面を描いているのだろう、おぞましい光景が描かれていた。その余りの生々しさに、セリアは思わず顔を歪める。

 祭壇の上に投げ出された女性の肢体。その上からナイフを振りかざす、神官の様な男。二人の周りを、平伏する人や、必死に手を伸ばす者達が囲んでいる。恐る恐る次ぎのページを捲れば、そこには胸に短剣を刺された女性と、その横に描かれた大きな蜘蛛。

「その集団によって、何人もの女人が犠牲になっている」

「儀式の生け贄、って奴か」

 イアンが納得したように呟く。あまり馴染みの無い言葉に、セリアは眉を潜めた。

 資料によると、当時は少なくとも三十人以上の貴族女性が犠牲になった様だ。しかし、何人もの死者が出ているにも関わらず、野放しにされている筈が無い。

「王国軍によって、デナトワーレの一員は一人残らず秘密裏に処刑されたらしい。それを機に姿を消したとされていたが」

「えええっ!?」

 驚いて続きに目を走らせると、確かにその様な事が書かれている。集会場で儀式を行っていた所へ、王国軍が強行突入し、一人残らず逮捕。その後すぐに全員が刑を受けている。

「じゃ、じゃあ。今回の事ってまさか……」

「二百年前に滅ぼされたデナトワーレが復活したってことか?」

 信じられない、と言った風にセリアと候補生達が顔を見合わせた。

「ちょっ、ちょっと待って!でも、そんな!!」

「しかし、毎回蜘蛛の死体が置かれている事にも、これで説明がつく」

 セリアがラン達とああでもない、こうでもない、と繰り返す間もカールは無言でいた。不自然すぎる程落ち着き払ったカールに、セリアが疑問を投げる。

「でも、カールはなんで……」

「蜘蛛は元々クルダスでは不吉とされている。それを使うなど、あまり公の場で知られている紋章でない事は考えれば分かる事だ」

 古くからクルダスで蜘蛛は、王族への反逆、国の滅亡などの意味があり、不吉とされてきた。今まで紋章にも使われなかった理由はそこにある。言われてセリアも、なるほど、と頷いた。

 しかし、どうもそれだけでは納得し切れないのも事実。まだ色々と聞きたいと思うセリアを、カールが冷めた瞳で見下ろした。

「これ以上はお前が知らなくて良い事だ。要らぬ好奇心で面倒事に介入する必要もあるまい」

「えっ!?」

 カールが言うには、あまりにもあり得ない言葉に、セリアだけでなく候補生達も目を見開いた。

 まるで、これ以上首を突っ込むなと言っている様だ。彼は何か知っているのだろうか。確かに、二百年前に滅んだ筈の狂信集団など、あまり関わりになりたいとは思えない。だからといって、カールが言う様に、何もしなくて良いことだろうか。

 セリアが脳内でグルグルとカールの言葉の意味を理解しようとしていると、カールが急に立ち上がり資料を閉じた。

「なっ!えっ!?」

「あまり長い間持ち出す事は許可されていない」

 閲覧禁止図書は、それぞれ理由があり閲覧禁止と割り振られた。それを、たとえマリオス候補生でも、保管場所から長時間持ち出すのは好ましくはない。

 さっさと温室を出ようとしたカールをセリアが慌てて追う。彼は明らかに何か知っている風であった。それに、自分でも納得出来ない事が幾つかある。カールの言う通り、要らぬ好奇心、かもしれないが、知っていれば何か自分にも出来るかもしれないではないか。

「カール!!」

 カールに続いて転がる様に温室を出て行くセリアを、イアン達も追おうとしたが、それを止める者が居た。戸惑う候補生達の姿に、既に温室を出てしまったセリアは気付いていない。

 前に立ちふさがった人物に、どういう事だ?という視線を向けると、その人物は先程カールから聞いた事を説明する為に口を開いた。





「あのぅ………」

「…………………」

 先程から何度かカールに言葉を投げかけているのだが、うんともすんとも言わない。時折冷めた視線を寄越すだけで、答える気は微動も無いらしい。静かに歩き続けるカールを、セリアはそれでも追いかけた。

 そんな事をしている内に、あっという間に図書室の閲覧禁止書棚が保管されている場の入り口まで来てしまった。ここから先へは進めないセリアは慌ててその場で足を止める。保管場所の中へ躊躇い無く入った所でカールがやっと振り向いたのでセリアはホッとした。

「言いたい事があるのなら来い」

「えっ!?いや、でも……」

 ここはマリオス候補生以外は立ち入り禁止であり、当然それには自分も当てはまる。オロオロとしているとカールが鼻で笑うのが聞こえた。

「今更、お前は校則如きに縛られはしないだろう」

「うっ……」

 確かに、今まで何度も夜間の外出など、散々校則を無視した行動を取って来た。それと比べてしまえば、立ち入り禁止の場に少し入るなど、可愛いく聞こえてしまうだろう。本当に今更であるのだが、やはり少し後ろめたい。

 というより、校則如きとは、一体何様だ。と突っ込みたくなった。と思っている間にも、カールはどんどんと中へ進んでしまっている。まずい、と思った時には反射的に一歩踏み出してしまっていた。

 カールが戻るのを待てば良いだけの話なのだが、セリアも咄嗟だったのでそこまでの考えは回っていない。こうなったら自棄だ。とセリアは急ぎ足で薄暗い中を進んで行った。


「カール」

 追いついた時には、カールは既に資料を棚へ戻している途中だった。呼びかけるとすぐに冷ややかな視線で振り向かれたので、一瞬怯んでしまうが、取り敢えず質問はして良いという意思表示だろう、と解釈する。

「でも、何でデナトワーレの紋章に短剣が?」

 クルダス内で短剣は貴族、または王族を表す。もし、ただの狂信集団ならば、その象徴は使用される事を許されない筈だ。例えどんな団体であるにしろ、紋章は自分達を表す物であるのだから、それなりの誇りはある筈。崇拝している蜘蛛まで記しているのだ。ある意味自分達にとって神聖とも言えるそれに、使ってはならない模様を用いるだろうか。

「デナトワーレは、始めはある貴族が独自で行っていた。その後も殆どの信者が貴族出身だった事から、その紋章が使われ続けた様だ。その事も、この件が揉み消された理由の一つであろうな」

「そうなんだ。でも………」

「まだ何かあるのか?」

 呆れた様な視線を向けて来るカールに、セリアはもう一度向き直る。

「どうして、今更……」

「………」

「二百年も前の集団なんでしょう?処刑された人の子孫だとしても、復活した理由が分からない」

「……………お前はどう思う」

 質問を質問で返されてセリアは戸惑ったが、自分の素直な考えを述べた。

「誰か………デナトワーレが存在していて、貴族女性を殺害していくのを都合が良いと思った誰かが、利用するために作った」

「……………」

「あまり考えたくは無いけど、この事件の被害者が殺害される事によって、誰かが何らかの利益を得られるのなら、デナトワーレは利用するのに丁度良いに決まってる。狂信者達に動悸は必要無い。生け贄に利用する人だけ指定すれば、自分は直接手を下さずに勝手に事が進む。だから……っ!!」

 いきなり腕を強く引かれたかと思うと、棚に背を叩き付けられていた。突然の衝撃に一瞬息が詰まる。ケホッと咳き込むと、カールの顔が異様に近い場所にあった。

「なっ!?」

「一度だけ言う。お前はこの件を降りろ」

「っ!!!」


 身が竦む程冷たく発せられた言葉と共に、その吐息を感じる。引かれた腕はカールの手で棚に縫い付けられ、全く動かせない。もう片方の手で顎を持ち上げられ、顔を背ける事が出来ず、無理矢理視線を合わせられる。あと少し近づけば、唇が触れてしまいそうな距離だ。

 咄嗟に身を引こうとしたが、背後には棚があり後ろには下がれない。腕も一本取られてしまっているので、全く動けなかった。

 一体どうなっているのだ!?と状況について行けない頭が混乱するセリアだが、カールに言われた言葉に更に目を見開いた。

「これ以上関わるな」

「な、なんで……」

 静かに言われ、本当は恐ろしくて仕方がないのだが、それよりもカールの言葉に納得が出来ない。なぜ急にこの様な事を言うのだろうか。

 そう思ってる間にも、質問に答えようとしないカールは、増々顔を近づけて来た。

まずい、このままでは確実にまずい。

 状況を理解していない頭でも、あり得ない程近いカールとの距離に多少の危機感を覚えたらしい。というより、カールの表情が恐ろしくて仕方ないだけなのだが。

「わっ!まっ!」

「お前を、このままいいようにする事も出来るのだぞ」

「は、はぁ!?」

 いいようにとはどういう意味だ!まさか、このまま殺すということか。今日の、なんだかあり得ないカールなら間違いなく人の一人くらい殺せそうである。このままでは自分の命が危ない。

 と、セリアはかなり違う意味でカールの言葉を捉えたのだが、結果的にはカールが危険人物、と意識する事には変わりないので、取りあえずは良いだろう。

 セリアが自分の、色んな意味での身の危険に怯えたり驚いたりしている間にも、カールの顔は確実に近づいている。少し口を動かすだけで唇が触れてしまうだろう距離にセリアの顔も青くなっていった。

「ちょっ!なっ!?」

「逃げたければ逃げろ」

「はっ?」

「私はそれほど力を入れている訳ではない。嫌なら逃げれば良いだけだ」

 そうは言うが、先ほどから腕は引いても押しても全く動かないのだ。もう片方の手でカールを押し返して見ようともしたが、こちらも微動だにしなかった。剣で手合わせをした事はあっても、素手での力比べなどした事が無い。これで力を入れていないというのか。だとしたら、どんな怪力だ。

「その程度の力しかないこの細腕で、何が出来る」

「っ!!!」

「己の地位すら確かではないお前が、いったい何をしようというのだ」

「…………」



 カールの言いたい事を漸く理解したセリアは、言葉に詰まった。

 彼等の様な実力が、自分には無い。肉体的な力も、この通りだ。片手で顎を固定されただけで首を振ることすら出来ない。いくら剣が得意だといっても、普通の令嬢より力があるといっても、所詮は女。生物的に、生まれた時から男性以上の腕力を得る事を許されなかった生き物だ。

 そして力だけでなく、自分には地位すらない。この国では、まだ女性の権限は認められているとはいえないだろう。幾ら貴族の令嬢だと言っても、所詮は家督を継ぐ前の学生。しかも、自分に弟が生まれてしまえば、はっきり言って用無しの存在だ。万が一危機的状況に陥っても、相手に行動を思いとどまらせるだけの後ろ盾を持っていない。

 家督を次いでいないとはいえ、自分とは違い、彼らはその跡取りの地位を揺ぎ無いものにしている。しかもマリオス候補生だ。候補生に選ばれるだけの力を備えた事を証明している。

 今までの候補生は卒業の後、何らかの形で大きな影響力を得てきた。それほどの可能性を秘めた彼等に、取り入ろうとする人間はいても、好んで敵にしたいと望む者は少ないだろう。

 そんな自分に、一体何が出来るのだ、とカールは言いたいのだ。いつかの様に闇雲に飛び込んで、厄介な事に巻き込まれ、また彼等の足手纏いになるのかと。



「カールの言う通り、私には何の力も無い」

「……………」

「でも、足掻いてもがいて、それで小さな波くらいは立てられるかもしれない。本当に小さな波かもしれないけど」

「…………………」

 カールは無言のままだ。それが逆に恐ろしくて更に体が震えてしまうのだが、セリアはそれでも続けた。

「例え小さくても、それで少しでもこの事の中心に近づけるかもしれない」

「その波にお前が乗ると?」

「乗るのは私じゃないかもしれない。もしかしたらカール達かも。でも、私はそれで良い。カール達が少しでも解決に近づく手助けさえ出来れば」

「………………」

「前に言ったでしょ。私は国の為に、候補生の踏み台になりたいって」

「国のためなら、その身がどうなっても構わないということか……?」

「そうは言ってない。でも、それがクルダス国の、王陛下の為になるなら、私に悔いは無い」

「……………………」

 キッとこちらを見据える瞳に、迷いは無い。凛と言い切る様は、初めてあった時を思い起こさせる。ここまでしても引かないのだから、何を言っても無駄であろう。そう理解すると、カールは掴んでいた腕を放した。

「ならば、聞く覚悟はあるか?お前の場合、後戻りは叶わなくなるぞ」

「………やっぱり、何か知ってたのね」

 カールの脅しよりも、彼が何か重要な情報を持っている、という事が気になる。そんなセリアを見て、カールは再び呆れた表情を見せたが、諦めた様に話し始めた。

「お前の言う通り、ただカルト集団が復活しただけではないかもしれん」

「………」



聞けば聞く程、今回の事が何を意味しているのかを思い知らされる。

例え我々が何を思った所で、セリアを巻き込まないなど出来ないのか?安全な場所で守られている、という事はないのだろうか。


ならば、私に何が出来る。セリアを、守るためには……

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