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大地の宝石  作者: 森宮 スミレ
〜第一章 埋もれた小石〜
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蜘蛛 1

 網状に紡がれた銀色の糸が、その存在を光に映す事なくひっそりと佇む。そうして描かれる螺旋は、その場に巣食う捕食者の城。獲物を捕らえる事だけを目的に生み出されたそれが待つのは、優雅に舞う蝶。

 糸の意図に気付かぬまま、ふわりと漂う風に乗った美しい羽は、気付く間もなくその網に絡み取られた。その様を見届けた銀色の糸の主は、悠々と城を横切り、ゆっくりと捕らえられた哀れな蝶に近づく。内に潜めた尖る刃を、この時ばかりはむき出しに、かかった獲物を見定める。蝶はその下で脅え、逃げようともがくが、既に何の意味もなさず、最期の時は確実に迫っていた。

 そして………

「っ!!!」

 悲鳴を上げる間も無くその命を散らした蝶の眼は、止め処なく流れる己の赤い液体を何時までも見つめていた。





 疲れた表情のハンスがため息を吐いた先では、校長とクルーセルは仲良く新聞を覗き込んでいた。

「世の中も物騒になったものだ」

「本当ね。生徒達には気をつける様に言っておかないと」

 責務から逃れた獲物をハンスが捕獲した場所は、やはりというか校長室。もうこれはどうしようもないと、諦めるべきなのだろうか。と、現実逃避したくなる程の疲労が蓄積されたハンスの脳をそんな考えが過ぎるが、その生真面目な性格がそれを良しとしない。僅かに残った気力で、同僚の行状の改善に力を注ぐ。

 そんなハンスの内なる努力を、いとも容易く打ち砕く様にクルーセルが顔を上げた。

「見てよハンスちゃん。また例の事件よ。いやねぇ、こういうの」

 自分の行動に全く非が無いことを疑いもしないクルーセルは、呑気にその後も新聞を眺め続けている。

 内心で色々と奮闘し続けたハンスだが、色々と次に出す言葉を考えたり、この状況を懸命に纏めようとするうちに、遂に思考が停止する。

 怒りと脱力感と、その他諸々の感情が一度に込み上げたハンスはよろり、と崩れかけた。校長の手前失礼と思いながらも、その部屋に置かれているふかふかのソファに腰掛ける。

「あら、ハンスちゃんお疲れね。大丈夫?」

「そうだハンス君。飛び切りの茶菓子があった筈だ。君も食べて行きたまえ」

 彼の胃痛の元凶である二人がそんなことを言っている間、ハンスの脳は辞職願の文章を着々と書き始めていた。




 校長とクルーセルが読んでいた新聞に乗っていた記事。それはフロース学園内でもかなり噂されている事件に関することであった。

 貴族の女性が何人も無残に殺されているというのだ。

 始めは何処かへ連れ去られ、数日経った後に変死体となって王都の道端へ捨てられているのが発見された。既に六名の犠牲者が出ており、手口が同じであることから、同一犯の犯行とみなされている。

 いずれもが名貴族の令嬢や夫人ということで、警察も貴族達も必死で動いているが、何の手掛かりも掴めないでいる。貴族達にも日頃から注意するよう呼びかけられているが、それでも数日姿を消した女達が、胸を一突きにされた状態で見つかった。

 奇怪なことに、その死体の傍からは毎度、これも刃物で一突きにされた手のひら程の大きさもある蜘蛛の死骸が発見されている。それになんらかの意味があるのでは、と推測されたが、明確なことは分かっていない。ただ、この妙な事件の不気味さを増しているだけだった。

 何はともあれ、決して穏やかではないこの事態に、王都からそれほど離れていない学園都市のフロース学園生徒達も、不安を胸に抱えていたのである。




「という事件が起こっているのは知ってるよな」

「その、それはそうなのでありまするが…………」

 非常にキツイ視線を飛ばしてくる面々の前で、縮こまる栗毛の地味な少女。温室の真ん中に位置された椅子に座っている今、セリアは四方からの睨みを必死に受け止めていた。出来れば今すぐ逃げ出したいのだが、もはやそれは不可能である。

「それで。そんな物騒な事件に危機感を高めるべき時にも関わらず、お前はこれから何処へ行こうとしてた?」

「だから、ノートが足りなくなりましてですね。お店もそんなに離れていないのですし。さっと行って来れば良いと思いましてでして。それに、まだ夕方でありますんで、門限までには戻ろうか、と…………」

「……………………」

 ノートが足りなくなった事に気付いたセリアは、そういえばそろそろ無くなりそうだったな、と軽い気持ちで校門へ向かった。まだ夕方の早い時間なので、急いで行けば夕食までには戻れるだろうかと気にしながら。事件の噂もあるので注意しよう、という考えは微動も無い。

 しかし、門を潜ろうとした瞬間、後ろからどこか怒りを含んだ声に呼び戻され、現在の状況に至る。

 まるで針の様にチクチクと刺さる視線に、セリアはどうしようかと考えを巡らせていた。

確かに、物騒な事件が立て続けに起こってはいる。それでも、これは少し心配しすぎではないだろうか。例の事件を気にして、街を出歩く人の数は多少減ってはいるが、人気が無いという訳ではない。まだ夕方であるのだから、そんなすぐに何かに巻き込まれる様なことはないと思うのだが。

 しかし、彼等が心配性なのは今に始まった事ではない。人一倍責任感の強い彼等だから、どうしても用心してしまうのだろう。

 と考えるセリアは、内心で惚れた女がこんな時間に一人で街中をふらつく事に不満を感じる候補生達の胸の内など、微動も理解しちゃいない。これだから目が離せないのだ、などと候補生達は内心でブツブツと文句を繰り返しているのだが。




 しばらくのお説教で、とうとう街へ出向くことを最後まで許されなかったセリアは、ルネが余分に持っていたノートを貰うことになった。候補生達も、これで外へ行く必要はないだろう、と釘を刺す。

 長い説教を聴いている間にも、気付けば時刻は既に夕食時だ。目を離すものか、とジロジロと責める様な視線を送ってくる候補生達と連れ立って食堂へ向かう。

 そのまま連行される様な形で食堂へ足を踏み入れると、その一角で他とは明らかに違う、重々しい空気を撒き散らす人物を見つけた。

 珍しいな、と思いながらもその人物に近づくが、どうも様子が可笑しい事に気付く。彼の前に食事を取った形跡は見られず、誰にも目を向けることなく、ただじっと座っているのだ。

「カール。どうしたの?」

「お前、ちゃんと食ったのか?」

 食堂に来る理由は間違いなく食事である。しかし、彼の前のテーブルの上には、その痕跡が見受けられない。普段から食べる事を二の次、三の次にする彼のことだから、多少心配になってしまう。

 イアンの問いにゆっくりと頷いてみせたカールは、その冷たい視線をセリアに向けた。

「…お前達を待っていた」

「へっ!?」

 思わず聞き返したが、カールは口を開かずただ黙っている。二度言うつもりは無いらしい。

 何か急用だろうか?と首を傾げた候補生達が周りに腰を落ち着けると、カールはゆっくりと口を開いた。

「次の週末。お前達を我がローゼンタール家の茶会に招待する」

「………?」

 何のことかと疑問符を浮かべるセリア以外は、それが意味するところを即座に理解したらしい。

「公爵夫人か」

「ああ」

 今までも度々ローゼンタール家には招待された事があり、その何れもがカールの母、イレーネ・ローゼンタール公爵夫人の希望だったのだ。今回も夫人が、是非にと誘ったらしい。

 それを聞いて、セリアはカールに似た見事なプラチナブロンドの女性を思い出す。

 その後のカールの話によると、例の貴族の女性ばかりが狙われている事件には公爵夫人も不安を募らせていた。幾らカールが男だといっても、そんな物騒なご時世であれば自分の子の事が心配になってしまうもの。息子の問題無いという言葉を聞いて安心したものの、不安は拭い切れない。

 そして、カールの周りに居る貴族令嬢といえば、以前紹介されたセリア。他人とはいえ、カールが初めて連れて来たタイプの人間だ。考えてみれば、男のカールよりも、セリアの方が狙われやすいのではないか。

 そのまま話は進み、今度連れて来い、という事になったらしい。マリオス候補生達と一緒ならば安全だろう、という事だ。

「お前にも協力して貰うぞ」

「は、はぁ…………」

 セリアは未だに理解出来ていない様子だが、カールの言葉に一応頷く。






 学園都市から馬車で数時間。王都を通り抜けそのまま馬車を走らせると、目に嫌でも飛び込んで来る大きな屋敷。古くからローゼンタール家の人間が守りぬいたこの城こそ、カールの実家である。

 流石名家の中の名家、ローゼンタール家の屋敷だけあって、その風貌は圧倒的で、敷地も広大である。

 以前来た時は夜だったため気にならなかったが、こうして陽の光を反射している姿を見ると、こちらが恐縮してしまう。

 それほどの、絶対的な存在感を醸し出していた。

 外見が大きいだけに、中も広く、まるで迷宮にでも迷い込んだかの様だ。何処までも伸びる通路は、長いだけでなく広い。セリア一人なら、確実に迷子になっていただろう。既に自分が何処に居るのか分からなくなり、キョロキョロとしながら歩いていてる。

 そんな屋敷内を、まるで熟知しているかの様に候補生達は悠然と進んでいった。

 候補生達が歩みを進めた先にあったのは、これまた堂々と構える一つの扉。カールが軽くノックをすると、中から女性の声が聞こえる。入室を許可する言葉と共にカールが扉を開くと、室内ではイレーネ・ローゼンタールが優しげにこちらに笑みを送っていた。

「皆さん、今日はいらしてくれてありがとう」

「イレーネさん。こんにちは」

 にっこりと微笑んでいる姿は、セリアの記憶に残る生気や好奇心に溢れた声と同じ物であった。我が子の帰還とその友人の訪問に喜び、笑顔でルネの挨拶に微笑みを返す。

「公爵夫人。本日は、お招きいただきありがとうございます」

「いいえ。私も来ていただいて嬉しいもの」

 ラン達と会話し始めた夫人が、ふいにこちらを見たのでセリアは慌てて頭を下げた。

「まあセリアさん。我が家へようこそ」

「あ、いえ。ど、どうも。こんにちは」

「その説は本当にありがとう。ごめんなさいね。ちゃんとお礼も言わないでそのままにしてしまって」

「い、いえいえ。そんな。どうかお気になさらないで下さい」

 カールの婚約披露パーティー。突然ローゼンタール家を襲った爆発から、セリアは公爵夫人を守った。その後夫人は気を失ってしまったので、それきりになっていたのだ。

「あの、その後お怪我などは……?」

「いいえ。貴方のお陰でこの通り無事だったわ。本当に、ありがとう」





「楽しんで行ってね。今日は特別なお客様達の為に、沢山用意したのよ」

 夫人がそう言って進めた先には、確かに沢山の茶菓子がテーブルの上に乗っていた。

 それをセリアは、おおっ!と輝いた目で見詰めている。見るからに高級そうな菓子は、やはり見た目も美しく。人の食欲を引き出す。漂う甘い匂いと、紅茶の香ばしい香りに、セリアの胃は既に空腹を訴え始めた。

 早速テーブルを囲んで茶会の始まりである。

 セリアがまず始めに手にとったのは、ふっくらとしたスコーン。それを、もふっと一口含むと、途端に程よい甘みが広がる。それにすっかり気を良くし、二口目を口に放り込む。

 頬を膨らませて頬張る様は、とても貴族の令嬢のするものではない。公爵夫人の手前、それはまずいのでは、と分かってはいてるが、目の前に出される甘い誘惑にはどうしても勝てない。それでも、僅かに残った理性で、最低限の作法は守り抜く。

「美味しいね」

 ルネが微笑みかければ、セリアは満面の笑顔で頷いた。その様子に公爵夫人も笑みを深くする。

「よかったわ。貴方みたいな人がカールのお友達になってくれて」

「……?」

「いつも怖い顔ばかりするんですもの。貴方みたいに可愛らしい人がいてくれれば、私も安心だわ」

 いやいや。夫人の危惧している通り、カールは学園でも恐ろしい形相で周りを睨んでいる。それは自分が居ようと居まいと変わらない様に思うのだが。というより、何が安心なのだろうか?

「学園でカール達とはどんなお話をしているの?」

「あ、その……」

 唐突な質問に、セリアは言葉に詰まった。

 どうしよう。ここで正直に毎日国政についての議論を交わしています。といっても良いのだろうか。これがラン達ならばそれでも良いのだろうが、自分は違う。幾らカールの母親でも、事実を知れば眉を顰めるかもしれない。

 しかし、カールは議論の時以外は基本無口だ。実際、カールが雑談に加わる事は殆ど無い。何を話している?と聞かれれば、答えられる事は一つなのである。

 どうしようか、と迷っている所を、ルネが助け舟を出した。

「カールは普段通り、あんまりおしゃべりはしませんよ。相変わらずランと議論ばかりです」

「まあ。そうなの?」

 それを聞いてイレーネは少し責める様な視線をカールに向けた。

「カール。セリアさんは女の子なんだから、ちゃんと気を使ってあげないと」

 その瞬間、その場にいた全員が、ギクリとする。気を使うもなにも、カールとは熱い議論を毎日に様に繰り広げているのだが。

「……善処します」

 そう言う以外ないだろう。





「今日はとっても楽しかったわ。ありがとう。また来て下さいね」

「いえ。こちらこそ、ありがとうございました」

 丁寧に礼を述べると、セリア達が乗り込んだ馬車は動き出す。

 流石に六人も一度には乗れないので、二台用意して貰うことになった。後ろの一台にはイアン、ルネ、ザウル。そして、前方の馬車にはランとカール、そして二人の仲裁役であるセリアが乗っている。

 窓の外では夕焼けの色が辺りを照らしだしている。今から行けば学園に戻る頃には暗くなっているだろう。

「相変わらず、優しい人だな」

「本当。凄く楽しい時間だった」

 あんなに親しげな人から、どうしてカールの様な人物が生まれたのだろう。未だに不思議である。チラリと横に涼しげな顔で座る人物を窺えば、再びジロリと睨み返されてしまった。

「女性には気を使うのではなかったのか?」

「これがもう少し女らしくなれば、考えよう」

 からかうように言ったランに、カールが返した言葉に少し引っかかりを覚える。

「カール。それどういう意味?」

「好きに解釈すればよかろう」

 くぅ、とセリアは押し黙る。事実であるだけに、何も言い返せない。

 ふい、とそっぽを向く積もりで窓の外に視線を移すと、既に王都に入った所だった。王宮のある街だけあって、学園都市よりも幾分華やかだ。今は人も疎らだが、昼に来ればかなり活気に溢れているのだろう。

 少しだけでも王宮を見れないかと視線を彷徨わせるが、馬車の小さな窓ではそれも叶わない。しかし、だからといって大人しく諦める事もせず、体を動かして上から下からと目線を変えてみる。

 見えないなぁ、と一生懸命に視線を動かすセリアだが、小石にでも躓いたのだろう馬車が軽く撥ねた事でそのまま窓に鼻をぶつける事になった。

「フグッ!!」

「セリア!?」

 思い掛けない打撃にグッと涙目になりながら、痛む鼻を抑える。

「だから女らしくないと言ったのだ」

 カールの一言に、ごもっともです、とセリアは頷く以外なかった。くぅっと唸りながら、窓を恨みがましく睨む。理不尽な恨みをぶつけられた窓だが、微動だにする事はなかった。

 そんなことがあっても、今まであまり王都に来た事の無いセリアだ。 やはり物珍しいのか、セリアは窓の外を凝視する事を止めない。


 暫くは大人しく、ジッと外を眺めていたのだが、ふと視界に気になる物が映った。一瞬だったが、確かに見えたのは黒い影と、地面に横たわる白い物体。まるで、人の様な……

「止めて!!!!」

 急なセリアの叫びは御者にもしっかりと聞こえた様で、馬車は急停止する。馬車が止まったと同時に飛び出したセリアの背中に、ラン達がどうしたのかと声を掛けるが、セリアは走る事を止めない。前の馬車から、セリアが飛び出した事に驚いたのだろう、イアン達の声も後ろから聞こえる。

 それでもセリアは構わず先程の場所へ辿り着いた。瞬間目に飛び込んで来たのは、地面でぐったりとしている女性と、その場から駆け出そうとする黒い影。女性の方は、胸元が真っ赤に染まっており、ぴくりとも動かない。服とは対照的に、体全体は血の気を失っていて、病的なまでに青白い。

 外套と帽子に隠された影は、人が来た事に焦ったのか、そのまま走り出す。

「っ!!」

「セリア!よせっ!!」

 後ろから叫ぶ友人の言葉も空しく、セリアは咄嗟にその影を追いかけていた。見れば分かる。女性の方は恐らくもう手遅れ。ならばあの影を捕らえなければ。

 僅かに聞こえる足音と、その後ろ姿を頼りに角を曲がる。その途端、殺気を感じた。

「うっ!」

「チッ!!」

 影によって突き出されたナイフを、紙一重で避ける。体を捻ったと同時に、ナイフを持った男が舌打ちするのが聞こえた。

 自分に向けて突き出された刃を驚きで見ていると、それを握る腕に目を引く物が乗っていることに気付いた。影はそれを見られた事に気付いていない様で、尚も刃を突きつけて来る。

「セリア!!」

 慌ててその場に走ってくる候補生達に、影も分が悪いと思ったのか、再び身を翻す。あっ、と思い追おうとした時には既に遅く、影はいつの間にかその場で止まっていた馬車へと乗り込み、路地裏に消えて行った。

 その姿を呆然と見送っていると、途端にグイッと肩を強く掴まれ、振り向かされる。

「お前は一体何を考えてるんだ!!」

「イ、イアン!?」

「考え無しに突っ込むな!!もしなんかあったらどうするんだ!?」

「あ、ごめん……」

 言われて自分の失態に気付く。咄嗟だったので深く考えてはいなかったが、今の自分の行動は得策とは言えなかっただろう。実際に襲われたのだし、彼等の怒りももっともだ。

「そ、それより、さっきの人は……?」

「それよりって、お前」

 はっ、と思い出したようなセリアの言葉に、イアンは呆れる。

「今ルネが警察に連絡している。が、もう息は……」

「………そう」

 答えたランの言葉に、セリアは俯く。

 予想はしていたが、やはり心苦しい。セリアの脳裏に青白い腕を伸ばしぐったりとしている姿が思い起こされる。間違いなく犯人はあの影だろう。

「胸を刃物で一突き。傍に大きな蜘蛛が転がっていたことからも、例の事件と関係ありそうだな」

「クモ………っ!!」

 その言葉に、セリアは先程己が見た物を思い出す。

「そうだ。クモ!!」

「っ!?」

 一瞬だったが、確かに男の腕に刻み込まれていた物。丁寧な柄で描かれたつる草の中心に、まるで生きているかの様に居座る、一匹の蜘蛛。まるで何処かの紋章の様に、男の腕に彫られた刺青だった。

 貴族がよく使う紋章の様にも見えたが、蜘蛛を使用している家などあっただろうか?




貴様が何を言った所で、それを立証する力は無い。ならば、自分に火の粉が降りかかる前に、目を背ければ良いだけだ。それを理解して、何故まだ干渉しようとする?


それでも答えを追い求めるのなら、その先にお前が見る物を、今この場で示せ。



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