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大地の宝石  作者: 森宮 スミレ
〜第四章 輝く貴石〜
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卒業 3

 カールを呼び出すことに成功したランは、目的地であった池の畔りに予め隠しておいた二本の真剣の内一本をカールの足元へ投げた。


「剣を取れ!」


 地面に突き刺さったそれを睨む男の冷たい視線が、その言葉で自分に向いたのを確認すると、ランも相手を睨み返した。それを受けたカールも納得したようだ。


「……なるほど、な」

「王宮へ上がれば、もうこの様な自由もきかなくなる」

「確かに、貴様を叩き潰す機会は、今宵を過ぎればそうはないだろう」


 本来貴族同士の決闘は原則として禁止されている。試合や手合わせとは全く違い、命を賭して真剣を振るうのだから。

 今まではこうして人気の無い場所で度々衝突してきたこの二人だが、王宮でマリオスとしての責務が課せられる立場になれば、そんなことも出来なくなるだろう。


 互いに相手を叩き潰したいという想いは同じであり、また相手が自分をそう思っていることも承知している。双方、剣を取らない理由は無かった。



 カールが地面から剣を抜いた瞬間を見計らい、ランは距離を詰め自分の刃を振り下ろす。

 ガキン!と重い衝撃音が響き、決闘が始まった。

 ランは防がれた自分の剣を引き戻し、もう一度相手を狙う。そして再度、衝撃音が響いた。


「もしこの勝負に負けたら、私は一度だけ、お前の都合の良いように動いてやる」

「………珍しいな。お前がそういった俗な賭けをしようとは」


 相手や自分の行動を力による勝負で支配するなどということを、ランは好んでいなかった。剣に乗せるのは己の名誉と誇りであり、己の理の正しさを示すのが決闘だと。だからこそ、勝負の行方で自分や相手の正当性を決めることはあっても、それで意思に反した行動を強制するようなものでは無い。


 むしろ、力で及ばないなら従え、と相手を支配するカールのやり口を傲慢だと批判していた男だ。


 珍しそうに片眉を上げるカールの疑問に、ランは攻撃の手を休めることなく答えた。


「私も、同じように意に似わぬ行動を要求するからだ」

「ほぉ…… 私に貴様の言う通りに動けと?」

「違う。私が勝ったら、セリアには私から告げる。それを認めてもらう」

「………何をだ」


 セリアの名が出た途端、カールの剣を持つ手がピクリと震えた。それをランが見逃す筈がなく、途端に目の前の男へ対する憎らしさに、剣を振るう手に力が篭った。


「お前の気持ちをだ!」


 振り下ろした渾身の一撃だが、それでもカールを仕留めるには至らず。派手な金属音と共に弾かれた。


「……何のことだ」


 聞く者全てが身体の芯を凍らすと思えるほどに低い声でそう言い放ったカールの表情は、明らかに苛立ちを含んでいる。目の前に居る全てを、手に持った真剣で叩っ斬らんばかりに。


 けれどランが浮かべる表情は、それにも増して相手が憎らしげだ。


「お前も自分で分かっている筈だ。セリアに対する感情を」

「馬鹿馬鹿しい。そんな下らないものを持ち合わせた覚えはない」

「ならば何故そこまで心を乱す?」

「なんだと?」


 ランとカールが同時に剣を振れば、互いの間で剣が交差する。二人の苛立たし気な声での会話が、交わった剣越しに響いた。


「何時、私が心を乱した?」

「私が気付いていないとでも思ってるのか?」


 その言葉に、カールの苛立ちがまた上がったらしい。ピクリと眉を動かしながら、腸が煮えるような怒りに逆に笑みすら浮かんだ。


「私が冷静でないとすれば、それはお前のあまりにも馬鹿げた話に呆れているからだ!」


 交わったままのランの剣を無理矢理に押し返すと、腹立ち紛れに剣を振った。が、当然その様な攻撃はランに避けられる。それがまた更に苛立たしかった。


「ならば、キースレイ殿の屋敷でのことはどう説明する」

「……ほぉ、可笑しなことを。私に、何故そうも冷静なのだと言い放ったのは貴様ではないか」

「ああそうだ。あの時はそう見えた。だからこそ気付いた。お前が冷静などではなかったということが」


 カールは一見冷静だった。燃え盛る屋敷を見ても、その中にセリアが居ると知っていても、動揺を顔に出さず打開策を考えているように見えた。


 だからこそ、見つかったセリアを怒声と共に抱き寄せたカールに、ランは心底驚いたのだから。もし本当に冷静であったなら、カールはそんなことをしない。無事なセリアの姿に我を忘れたように安堵を見せるなど、カールならばする筈がないのだ。


「私は、昔からお前が好かなかった。何時でも冷淡な態度で、何もかもを傲慢なやり方で推し進めようとするお前が」

「珍しく気が合うではないか。私とて、何事にも甘い戯言しか吐かない貴様が気に入らなかった。必要な犠牲すら払うのを厭い、夢物語ばかり語る貴様が」

「しかし、お前のことはよく解っている積もりだ」


 なにせ、長い付き合いなのだから。


 お互い初めて顔を合わせたのは、まだ幼い頃の何処かのパーティーでだ。言葉も殆ど無い、短い会合だったが。

 けれどそこから、理屈ではない感情の深い部分で、相手を気に入らないと互いに認識した。同時に、今後長く付き合っていく関係になるだろうことも。


 幼いながら名門と呼ばれる貴族の嫡男であることに対する自覚もあり、将来的に通う学校も知っていた。そして、互いが同じく王宮でのマリオスを志していることを見抜いたからだ。

 周りの同世代で、既に将来国の為に働きたいと意志を強く持った子供に会ったのは、ランはカールが初めてであり、カールもランが初めてだった。

 その相手が、何処か自分とは相容れない、気に入らない人物となれば当然、相手に対する対抗心や闘争心は大きくなる。


 けれどその分、相手を理解してしまうというものだ。

 ランにとってカールの考えは、嫌でも分かってしまうもの。恐らく向こうも同じだろうことに、更に憎らしさを覚えるが。


「お前が、何時も冷静な判断が必要な時に、その決断が下せる人間だと言うのは知っている。心乱れることがあっても、すぐに合理的な思考を取り戻せると」


 自分に足りないその部分を、カールが持っていることをランは知っていた。

 カールとて人の子であり、鬼ではない。心乱されることが無いなどとは、ランも思っていない。しかし、カールはその状況から一瞬で頭を冷やすことが出来た。どんな状況でも、すぐに平静を取り戻してきた。

 客観的で冷静な意見は、どんな局面に置いても必要なものだ。心が乱れるような状況で、誰よりも早くそれが出来る人物は、自分ではなくカールであったことは、ランとて解っている。


「だがそのお前が、セリアの事にはあれほど心が乱れた。無事な姿を見ても、その存在を腕に抱き締めないと安堵出来ないほど、動揺していたではないか!」

「いい加減にしろ。その様な戯言、聞き飽きた!」


 ランから放たれる言葉を、カールは苛立ち紛れに遮った。

 馬鹿馬鹿しいと内心吐き捨てながら、カールの胸には目の前の相手に対する憎らしさが増していく。


 昔から、ランの熱の篭ったこういう言葉がカールは嫌いだった。自分には無い、相手を説得し納得させてしまうような言葉が。

 感情を高ぶらせるような熱い思いを込めた言葉が、人をつき動かすことをカールも知っている。勿論、それだけではただの夢物語だが、人は理屈や論理だけで動くものではない。

 大多数の有象無象であれば、大きな力を示せばそれに従うだろう。しかし、そうでない者を動かさねばならなくなった時はそれでは通用しない。


 理屈は必要だ。相手に理解しろというからにはそれなりの根拠がなければ無理な話なのだから。しかし、最終的に人が何をもって納得し決断するかと言えば、感情が大きな部分を占めることは、カールも理解していた。そして、相手を熱くさせ、説得する術に長けているのは、自分ではなくランだということも。


 その、誰よりも気に入らない相手からの言葉に、カールは思わず声を大きくした。


「ならば貴様はどうだと言うのだ!」

「……」

「その行動が、貴様の何の得になる。私に何を望むというのだ」


 カールの突き出した刃をランが咄嗟に顔を反らして避ける。が、髪が数本犠牲になり夜の闇へと溶けて行く。それに対してランが同じように剣を突き出せば、切っ先がカールの頬を掠った。


「セリアの望みを、私は守りたいだけだ」

「……なんのことだ?」

「お前の今のその態度が、セリアを傷つけていると言っている!」


 それはどういう意味だ、という言葉をカールは飲み込んだ。代わりに、だからどうしたと鼻で笑ってやる。


「ならばその隙を突けば良いではないか。貴様こそ、アレを望んでいる筈だ。それが何故そうしない」

「なんだと……」


 その言葉に、ランは心底忌々しそうに顔を歪めた。その高慢な態度と言葉が、何よりも嫌いなのだから当然だ。

 しかしカールはそれを改める積もりはないらしい。


「もし、私相手に同じ土俵でなどと、殊勝な考えだったならば生憎だったな。貴様に私の感情がどうのと説かれるなど、嘔吐が出る。ザウルといい貴様といい、私を巻き込むな!!」

「私達が好きでお前にこんなことをしていると思っているのか!?そんな訳がないだろう」

「ならば何故……」

「愛しているからだ!!」


 カールの言葉を遮ったランが思い切り振り上げた剣が、カールの腕を掠め服を切り裂く。皮膚を傷付け僅かに血が流れたその一撃に込められた気迫を、ランの燃える瞳が表していた。


「彼女を愛しているからこそ、彼女の幸せを守る為に私は動いている」

「ならば貴様が幸せとやらにしてやれば良いだろう」

「ああそうしているさ。そしてその方法がこれだと言っている!」


 もう一撃、とランが突き出した剣が、カールの物と激しく交差した。ぐっと掌に伝わった衝撃をランは受け止めたが、カールはそれが出来なかったらしい。一瞬顔が歪むと同時にビリリと腕に走る痺れに思わず舌打ちする。


 今の攻撃が効いたのか、カールが憎らしげにランを睨むが、それ以上にランの胸には怒りが渦巻いていた。

 

 セリアが選んだ男のクセに。セリアを最も傷つけずに、最も幸せにすることが出来る男は、自分ではなく奴だったというのに。そのことを自覚していないのか、己のプライドを優先しているのか、この男は尚もセリアを傷つける行動を選ぼうとしている。


「お前は、どうして認めない。お前の心をそこまで乱す彼女への気持ちを、何故自覚しない!」

「黙れ!」

「まだ納得しないというならばお前好みの言葉を選んでやろうか。心を乱す彼女の存在は、明らかにお前にとっても弱点だ。普段のお前なら、そんな自分の弱みとなるセリアを傍に置かないなどと、絶対に考えない。その存在を確認しないと冷静さを欠く程なのに、何故要らないなどと口に出来る!」


 カールの苛立ちが募るのがランにも伝わるが、そうすればするほど、ランの言葉が正しいと言っているのと同じようなものだ。


「そんなことを口にしている時点で、お前が冷静でないのだということの証拠だろう。彼女に惹かれている、その心一つで。その言葉一つで、彼女を幸せに出来る力を持っていながら。セリアを傷つけるお前の傲慢が、私はなによりも許せない!!」


 その心底カールを憎らしく思うランの感情全てを込めた一撃がカールに迫った。そして同じくランを憎らしいと思う気持ちが頂点に達したカールも剣を振る、筈だった。


 しかし、カールが剣を振り下ろす直前、視界に映ったものにカールの意識を全て奪われたのだ。それまで目の前のランしか見ていなかった瞳に、その後ろからこちらへ向かって走る栗色の髪が飛び込む。


 思わず息を飲んだ。同時に、何故ここにという疑問が頭を占める。

 その瞬間、手に重い衝撃が伝わり、先程受けた手の痺れが完全に回復していないカールから剣が簡単に弾き飛ばされた。


 そうしてカールの手から飛び出した剣が、大きく空中で舞いながら、遠くの地面に突き刺さる。



 負けたのだ、という事実をカールが認識する前に、すぐ傍まで走り寄ったセリアの声が響き渡る。


「ラン!カール!」


 何をやっているのだ、と焦りと不安に染まった顔の少女に、カールは苦い思いが込み上げてきた。ギシリと奥歯を噛みながら宿敵へと視線をやれば、してやったりという顔で剣を下げている。


「こういうことだ」

「貴様……」

「普段であれば、お前があんな攻撃に剣を手放す筈はないだろう」


 それが正しいことは、ランもカールも解っている。普段であれば、幾ら気迫が込もった一撃だろうが、真っ直ぐに振り下ろされた単純な動きの剣に力負けなど簡単にする筈はないのだから。

 とはいえ、その事実の受け止め方は互いに違うようだが。


 そうして睨み合う二人に、拙いと思い声を上げたのはセリアだ。


「ふ、二人とも、勝負がついたならもう良いでしょう。早く戻らないと……」

「そうだな」


 慌てるセリアをランが遮る。その言葉に、カールは先程の賭けの内容を思い出した。

 もし、あの男がまだ下らないことを考えているのであれば止めなければ。そう考える間にも、ランはくるりと踵を返しセリアの方へ歩き出す。


「勝負ならついた」

「おい、貴様!」

「二対一で、私の反則負けだ」


 セリアへ向かったと思ったランの歩みは、ただセリアが来た会場の方へ戻る為だったらしい。セリアの横を通り過ぎながら、ランは小さく笑みを浮かべる。


「セリア。カールが君に話があるらしい」

「えっ?カールが…… あ、でも、そろそろパーティーの祝辞で」

「それなら、私が代役を勤めよう」

「……ラン?」


 一体どうしたというのだ。カールの為にランが代役を請け負うなど、どういう風の吹き回しだ。と目を見開くセリアの姿に、ランはなおも言葉を続ける。


「そういえばセリア。イアンの求婚は断ったのだな」

「えっ!?な、なんで知って…… あ、えっと。うん、そうなんだけど。なんでここで」

「いや、確認しておきたくなっただけだ」

「……?」


 何故ここでそんな話しになるのだ、とセリアは顔を青くさせるが、その会話を聞いたカールの表情も決して穏やかなものではない。驚いた様に紫の目を見開く様子に、やはり知らなかったか、とランは内心溜息を吐き出したくなった。

 そんな状態でよくも自分は冷静だなどと言えたものだ。


 そのまままた歩き出したランに、カールは漸く何かを察したのかランの背に吐き捨てた。


「貴様、計ったか!」

「だとしたら、私の思った通りだったということだろう」


 ランは最後にセリアとカール両方に一瞥を向けると、今度こそ会場へ戻るべく歩みを進めた。


 これだけしてやったのだ。もうこれ以上、自分がしてやれることも無いだろう。そう思いながら、ランは込み上げた溜息を必死に押さえ込んだ。

 これで、セリアは笑顔になれるだろうか。セリアの幸せに繋がっただろうか。


 結果は後になってみなければ分からない筈だが、最後に見たカールの表情から、ランは既に答えを知っているように思えた。











 セリアが会場から出て行った事を確認すると、ザウルは思わずバルコニーへと足を向けた。

 今は誰かと会う気にはなれなかず、一人になれるとすればそこだろうか。そう思い、人気の無いその場所へ来た筈だったのだが。


「行っちまったなぁ、俺らの女神さんが」

「……そう、ですね」


 誰も居ないと思ったからこそ、一人にもなれるだろうと思った場所で、手摺りに腰掛けたルイシスに遭遇した。

 今話すには若干厄介な相手だが、今更彼に背を向ける気にもなれず、横に並んで外の宵闇に視線を向ける。


「けど、まさかあのランがあの男に女譲るようなことするとはなぁ。でもホンマ大丈夫なんやろか?俺にはどうも分からん。あの男はアカンでどうも」

「……ランがあそこまで言ったのですから、きっと大丈夫でしょう」

「そうか?変にこじれて傷抉るようなことにならんと良いけど。まあそうなったら、お嬢ちゃんも傷心やろうし、エエ男が慰めたれば一発かもなぁ。アンタにも可能性がまた出るやないか」


 そんな発言に思わず視線を厳しくして相手を見返せば、ニヤニヤといつもの笑みが返って来た。


「おぅおぅ、なんやそんな恐い顔して。まあ、敵も多いやろし、そう簡単にはいかんかもな」


 イアンにランに、カールとてまだ油断ならないだろう、と巫山戯た調子で指折り数えるルイシス。その姿に、ザウルは思わず一つの疑問が湧き上がった。この男と話す度に、胸の何処かに刺さった疑問だ。

 けれど、どうせこの男の事だから、聞いた所で真面目になど答える筈もないか。


 と、ザウルがその考えを頭の隅に押しやろうとした時、そういえばとあの時の事を思い出した。王都で窮地に立った彼を間一髪で助けた時に彼が言った言葉だ。


「ルイシス」

「ん、なんや?」

「自分は、貴方に貸しがあった筈ですね」

「……ああ、まあそうやったな。どうした?今ここで可愛い娘紹介しろってことなら任せとき」


 思わず拳に力が入りそうになるが、既にルイシスのこんな部分も慣れてしまったのか、ザウルは短く息を吐き出した。


「いえ。一つ、質問に正直に答えていただきたいのです」

「なんや、そんなことでええんか?……ええよ。なんでも正直に答えたる」


 「貴方も、セリア殿を好いておられるのではないのですか?」


 真剣な顔でそう問えば、何時も余裕を見せるオッドアイが、一瞬揺れたような気がした。


 ずっと胸に刺さっていたその疑問にどう答える、とザウルが息を飲んでルイシスの返答を待っていれば、フッと短く笑う声がした。


「好きか、か。そうやなぁ…… まあ、ある程度は好きやと思うで」

「……ある程度、ですか?」

「せやなぁ。例えば……」


 二ヤリといつもの様に口の端を釣り上げて笑うと、ルイシスは大きく手を広げた。


「ここに世界中の女が居るとするやろ」

「……はぁ」


 なんとも野暮な言い方だが、話の腰を折る気はない為ザウルは一応頷いて見せた。


「そこから、幾らでも好きなだけ選べって言われたとしたら……」

「……その中の一人に入る程度、と仰るなら許しませんよ」

「アホ。んな訳あるか。その時は、お嬢ちゃんだけは絶対に選ばんよ」

「では……?」

「逆にな、たった一人選べ言われたら、迷わずお嬢ちゃんを選ぶ…… まあ、その程度には好きってことや」


 普段とまるで変わらぬ調子の、飄々とした態度でそう言ったルイシスに、ザウルは身体も思考も固まった。


 それは、その程度と評するようなものなのだろうか。

 今の言葉は、その他の不特定多数とは違う、セリアだけは特別だと言う意味にしか取れない。しかし、この男の態度から、たった一人の女性を想って語っているような雰囲気は見られない。


 また巫山戯ているのか、と一瞬疑問が浮ぶが、彼は正直に答えると言ったことも思い出す。

 つまり彼の言葉は彼の真の心であり、それが意味することは、きっとそういう事なのだろう。


「……そう、ですか」


 これ以上は、それこそ野暮だろう。

 ザウルは静かに口を閉ざし、夜の闇に視線を向けるルイシスに習った。



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