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大地の宝石  作者: 森宮 スミレ
〜第三章 目覚める鉱石〜
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孤月 5

R15に該当するかもしれない描写が含まれますので、苦手な方はご注意下さい。

 寒気すら覚える様なルネとの間の空気に、セリアは震える身体を叱責して必死に相手を見返した。


「いつから、ヨーク先生や王弟殿下の事を知ってたの?」


 本当は聞きたくなどない。ルネが王弟の件と繋がっているなんて、考えたくもなかった。けれど、あまりにも衝撃的すぎる所為か。まるで自分とは別人が居るかの様に、喉から出る言葉は冷静だった。


「最初から、って言っておこうかな」

「さ、最初って。カブフラの花を見付けた時から?」

「違うよ。言ったでしょ。最初からだって」

「そんなの解らないよ。何時からなの!?」


 はっきりしない物言いに、思わず声が強くなる。それが功を成したのか、ルネはフッと肩を竦めてみせた。


「……最初から。セリアに会う前から。僕がフロース学園に入学して直ぐの時から、だよ」


 一言一言意味を理解する度に、絶望が濃くなる。彼は嘘など言っていない。質の悪い冗談でもない。けれどそれが意味することを、どうしたって受け入れたくなかった。


「でも、ヨーク先生の正体がバレる時も。それ以前に、ペトロフ氏のペンダントの時も。競技会の時だって。ルネは私達に協力してくれたじゃない。その気なら幾らでも妨害出来たのに」

「セリア。僕は別に皆の敵だった訳じゃないよ」

「……どういうこと?」

「ヨークさんの事は知ってた。勿論、彼等が何をしてるのかもね。でも、それに協力をしたことはなかったよ」


 言っていることの意味が解らず、ジッとその先を問う様な視線を向ければ、ルネはすんなり打ち明けた。


「つまりね、僕は知って知らぬフリを通してたんだよ。皆との行動は、ヨークさん達のことを何も知らないルネ・レミオットとして。彼等に加担する気が無い代わりに、そのことを利用する形の邪魔もしなかった」

「なんで…… そんなことを」

「僕がヨークさん達の目的に反対してないからだよ。仲間になって一緒にそれを目指す積もりもなかったけど。あくまでも、何も知らない、ってことにしてた」


 傍観者、というと少し語弊があるかもしれないが、決して踏み込むことはするまいと思っていた。家族や国を裏切ってまでヨーク達と共闘するようなことはせずとも、敢えて彼等の妨害をする真似もしない。それまでの自分を、壊すだけの覚悟はなかった。


 だからこそ、友人達と共に王弟の企みを阻止しようと奮闘したし、彼等の為に尽力した。ただ、彼等が辿り着きたい真相には口を噤んだだけ。


「じゃ、じゃあ、どうして急にこんなこと」


 ルネの言っていることが本当だとしても、ならば何故突然彼は態度を変えたのだ。こんな状況を見たのだ。もう知らぬ存ぜぬで押し通すことは出来ない。彼が貫いて来た『知らぬフリ』は、この場で崩れ去った。


震える声に、ルネはそれは穏やかな笑みを返した。


「実はね。僕、弱みにつけ込まれちゃったんだ」

「弱みって……?」


 恐る恐る問えば、ルネがフッと微笑みを消す。その瞬間セリアは身構えるがユラリと彼の影が揺れ、気付けば呼吸が止まっていた。いや、止められたのだ。重ねられた彼の唇に。


「んんっ!」


 いきなりの状況に、今度こそ思考が完全に停止した。

 いったい、自分は何をされているのだ。


「これからって時に、ザウルはこの国に残るって言うし。ルイシスまで出て来るし。だから、ヨークさんも僕にこんな提案をしてきたんだよ」


 ただでさえ鬱陶しいと思っていたマリオス候補生が、より強固な存在として己を主張し始めた。

 そして何よりも、マクシミリアン校長があの学園から姿を消した。その理由が自分達にあることはほぼ間違いないと考えたのだろう。そんな状況で、ヨーク達も強行する必要が出て来たのだ。


 けれどそんなルネの説明、今のセリアには届いていない。目を見開いて呆然とするのを置き去りに、ルネは更に口付けを深める。驚きで緩んだ唇の間を割って、己の舌を擦り込ませた。


「ふっ、んん!ふぁっ!?」


 生暖かい感触が自分の舌に絡まると同時、セリアは反射的に首を振ってルネから逃れた。


「い、いやああっ!」

「……セリア」

「ハァ、ハァ。な、なにを。なんでこんな…… あっ!」


 睨み返そうと視線を上げるが、肩を強く押され寝台に倒れ込む。一瞬天井が映った視界には、次の瞬間ルネの顔がすぐ近くに迫った。


「ああ、やっぱり。セリアは、甘いね」

「な、なにを言って……」

「折角僕の眠り姫が起きてくれたんだから、もう少し味わわせて」

「んんっ!ふっ、んぁ!」


 何を言っているのか解らない。どうしてルネが自分に口付けているのか、理解が追い付かない。

 あまりにも衝撃的なことが重なった為か、セリアは抵抗を忘れされるがままに任せていた。それを知ってのことか、ルネは無遠慮にセリアの唇に噛み付く様なキスを繰り返す。


「ふぅ!やっ、放して!いやっ、んんっ!」


 上唇を舐めていたそれが、口内を我が物顔で暴れる。逃れようとする舌を強く吸われ、セリアの背筋にゾクリと悪寒が走った。


「やだっ!どうして!?どうしてこんなこと!!」

「……それを聞いてどうするの?」

「えっ!?」


 漸くキスから解放されたと思えば、押さえ付ける様な威圧的な声。驚いて逸らしていた視線を向ければ、真剣な表情で見下ろされていた。


「セリアが何を言ったところで、僕は止めないよ」

「な、なにを……?」


 震える唇で問えば、フワリとまた気配が近付く。口付けられる、と思い咄嗟に目を固く瞑るが、想像していたものは来ずに、代わりに耳元に息が吹き掛けられた。


「君を、抱くよ」


 声を出す暇もなく首筋に指を這わされ、彼の言葉の意味を理解すると同時に脳内で警鐘がけたたましく響いた。


「いやっ!やめて、お願い!!やだ、やだよ!!」

「無駄だよ。セリア」

「ダメだよ!こんな、こんなこと。お願いだから、もうやめて!!」


 頭を振って抵抗を示すが、上から覆い被さられて自由に動けない。腕も脚も、まるで自分のものではないかのように。ルネに押さえ込まれて、ピクリとも動かせないのだ。

 そこに男と女の差を。自分が最も嫌う性別の壁を感じて絶望に一瞬力が緩んだ瞬間、その隙を狙ったかの様に耳に這わされた舌がその形を伝う。


「んっ!?」

「やっぱり女の子だね。可愛いよ」


 ビクッと身体が反射的に跳ねたのを、ルネが可笑しそうにクスリと笑った。その笑みが、まるで見た事のないもので、恐怖に足先から冷水に浸かったかのように寒気を覚える。バクバクと煩く響く自分の鼓動に我に返ると、セリアは力の限り逃れようと身を捩った。


「やだぁ!!お願い。ルネ、こんなの違うよ!なんで!?」

「セリア…… 好きだよ」


 囁かれた言葉に思わずピタリと動きが止まる。耳に直接吹き掛けられた彼の想いに、抵抗どころではなくなったのだ。信じられない思いで顔を向ければ、ジッと上から見下ろされる。


「セリアがどんなに泣いても、嫌がっても、止めてあげられない」

「なっ!?」

「愛してる」


 言葉と同時に、また唇を塞がれた。先程の荒々しいものと違う。唇をくすぐるような、そっと探るような動き。


 抵抗を許さないと言うように頬を手で包まれ、セリアは胸の内が少しずつ凍り付いていくように錯覚した。彼の想いを乗せた言葉から、耳を塞げたならどれだけよかったか。

 耐え切れなくなった感情が、捌け口を求めて目元から流れ落ちる。涙を掬い取る様に口付けたルネに、セリアは再度懇願した。


「ル、ネ……やめて」

「もう遅いよ」


 ビリッと胸元から布が裂ける音がする。慌てて見遣れば、肌を隠していた服をルネが引きちぎったのだ。普段は隠されている筈の膨らみが半分以上も露になり、これから何が始まるのかを理解した身体が本能的に悲鳴を上げる。


「っ!!!」


 声にならない叫びをあげながら必死で抵抗するもまるで意味を成さず。露になった胸元に顔を寄せながら、ルネの手は次にはスカートを引き裂いた。その間から差し入れられた手が、スルリと膝裏を撫で上げる。



 見せつけられ、突き付けられた、列記とした力の差。性別が違うだけで、こうして押さえ込まれてしまえばもう何も出来なくなってしまう。今まで必死に目を逸らしていた現実だったのに。


 好きだと言われた。気持ちが嘘か本当か、自分に判断など出来ない。ただ言えるのは、彼が先程から向ける熱く、絡み付く様な視線に、応える言葉を持っていないこと。


 肌を強引に奪われようとしている。友人としてつい先程まで同じ目標に向かって共に歩んでいた、と思っていたのに。いつも自分を支え、周りを気遣い、優しい微笑みで迎えてくれた彼に。



 もう何が何だか解らなかった。頭では理解している筈なのに。本人に現実を突き付けられたというのに。けれど幾ら考えても、心が追い付かない。


「……ルネ」


 何度呼びかけようと、以前の彼が戻ることなどないのに。この状況を嘘にしたくて。悪夢であってくれれば、と思考が逃げ出す。


「好きだよ、セリア。頭がおかしくなるくらい」


 言わなければならない言葉は山ほどある。言いたいことも沢山あるのに。出て来るのは弱々しい制止の言葉だけ。


「ルネ……だめ、だよ」


 しかし震えて弱々しいだけのその声が、届く筈もなかった。



 どうかしてる、なんてとっくに解ってるよ。ずっと前から僕はおかしくなってたんだから。でも、今まで抑えて来た感情を、一度外に出してしまったら。もう止められないよ。

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