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婚約破棄された公爵令嬢ですが、王国最大の商会を経営していました。王都から撤退したら王子が泣きついてきましたがもう遅いです

作者: 百香スフレ
掲載日:2026/06/06

「エレノア・フォン・ローゼンベルク。私は貴様との婚約を破棄する!」


 王立学園の卒業記念パーティー。


 大勢の貴族が見守る中、王太子アレクシス殿下は私を指差してそう宣言した。


 隣には男爵令嬢リリア。最近ずっと殿下の周りをうろついていた女性だ。


「エレノア様は商売のことしか考えていません!王妃になる方として相応しくないと思います!」

「その通りだ。私は真実の愛を見つけた!」


 会場のあちこちから拍手が上がる。どうやら根回しは済ませていたらしい。


 私は一つ息を吐いた。


「つまり婚約破棄、ということで宜しいのでしょうか?」

「もちろんだ!」

「分かりました」


 私が素直に頷くと、殿下は逆に拍子抜けしたような顔をした。


 もっと取り乱すと思ったのだろう。残念ながら、その予定は無い。


「では殿下。私も一つだけお伝えしておきます」

「なんだ?」

「本日をもって、ローゼンベルク商会は王家との全取引を終了いたします」


 会場が静まり返った。だがアレクシス殿下は鼻で笑う。


「好きにしろ」

「承知いたしました」


 私は一礼すると、そのまま会場を後にした。



 翌日。


 公爵家には朝から来客が訪れていた。


 国王陛下である。


「昨日の話は本当か?」

「はい」


 応接室で私は頷いた。


「王家との取引を全て停止いたしました」


 陛下は頭を抱えた。父も隣で難しい顔をしている。


「エレノア。お前、自分が何をしたのか分かっているのか?」

「もちろんです」


 私は紅茶を口に運ぶ。


「婚約が無くなった以上、王家を優遇する理由がありませんので」

「そういう話ではない!」


 陛下が珍しく声を荒げた。


「騎士団の武器はどうする!」

「納品停止です」

「回復薬は!?」

「停止です」

「王都の食糧流通は!?」

「停止です」

「魔道具は!?」

「停止です」


 私が一つずつ答えるたび、陛下の顔色が悪くなっていく。

 難しい顔をしていた父も、この状況には苦笑するしかないようだった。


 どうやら殿下は、私が経営している商会の規模を全く理解していなかったらしい。



 三日後、王都は大混乱に陥った。


 パンの価格は二倍。回復薬は品切れ。騎士団の補給も滞っている。


 当然だ。王国最大の商会——エレノアが自分自身で立ち上げた王国一の大商会『ローゼンベルク商会』が突然撤退したのだから。


「代わりの商会は!?」

「ありません⋯⋯」


 宰相の答えに、アレクシスは青ざめた。


「そんな馬鹿な!」

「ローゼンベルク商会が長年かけて買収と提携を繰り返した結果です」

「たかが商会だろう!?」


 その瞬間。国王の拳が机に叩き付けられた。


「その商会を経営していたのがお前の婚約者だ馬鹿者!!」


 玉座の間に怒声が響いた。



 さらに一週間後。私は隣国に居た。


 王都から移転した本店は既に稼働を始めている。


 そこへ来客が訪れる。——アレクシス殿下である。


「エレノア⋯⋯」

「何か御用ですか?」

「頼む。戻ってきてくれ」


 以前なら考えられないほど弱々しい声だった。


「王国が大変なんだ」

「そうですか」

「君が必要なんだ!」


 私は少し考えるふりをしてから首を傾げた。


「不思議ですね」

「え?」

「私は王妃に相応しくないのでしょう?」


 殿下の顔が強張る。


「それは⋯⋯」

「商売しかできない女なのでしょう?」

「違う!」

「違いませんよ」


 私は静かに笑った。


「私を捨てたのは殿下です」


 そして扉を指差す。


「お帰りください」

「エレノア!」


 私は渾身の笑顔を殿下に向けた。


「今さら戻れと言われても遅いのです」



 その後。


 ローゼンベルク商会は隣国最大の商会へと成長した。一方で、王国は立て直しに十年以上を要するだろうと言われている。


 その責任を問われたアレクシス殿下は王太子の地位を失い、地方へ送られた。


 私はその話を聞きながら書類にサインをする。


 窓の外には忙しく働く商人たち。今日も商談の予定は山ほどある。


 王妃になる未来は失った。けれど後悔はしていない。


 私は自分の力で、自分の居場所を作ったのだから。


 そうして私は次の書類へ手を伸ばした。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


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