第9話 僕とお客様
モナ様を館の中へ案内すると、本棚を見て回り、眼鏡をきらりと光らせた。
「あなたは、確か本が大好きでしたね」
「は、はい」
「これで満足しているのかしら」
モナ様が僕を見る。
眼鏡の奥で光る深緑色の瞳が、僕を見定めるように鋭かった。
「え、えぇっと。満足はしていませんよ。もっと他に本が見たいです。ここに、もっと世界――本を、増やしたいです」
ここにある本棚は、せいぜい二十ほど。
まだまだ増やしたいし、本も置きたい。
けれど、僕が今まで読んできた本の数は、病気だったこともあって少ない。
それでも……さすがに二百冊くらいは読んだかな。
本好きと言うには少ない数だ。
体調の良い日にしか読めなかったのが、本当に悲しい。
「――わかりました。同じ本好きとして、協力いたしましょう」
「え? 協力、とは?」
話についていけず問い返すと、モナ様は上を見て指をさした。
「なぜ、あそこの本棚は、他の本棚と違って間が空いているのでしょう」
「あ、えぇっと。僕が前世で読んでいた本にも限界があって、創造できなくなってきてしまったんです」
「創造?」
――そっか。
モナ様は、この館がどんな風に作られているのか知らないんだ。
多分、リヒトさんから軽くは聞いていると思うけれど。
僕はモナ様に、かいつまんで話した。
僕の前世のこと。
そして、この館のこと。
するとモナ様は顎に手を当て、しばらく考え込んだ。
「あ、あの?」
「――面白いわね」
「え?」
「あなた、本当に面白いわ。気に入った」
真顔でそんなことを言われてしまった。
気に入ってもらえたのは嬉しいけれど、どこにそんな要素があったのだろう。
……わからないけれど、楽しそうにしているみたいだから、いいか。
「ねぇ。創造で作っているのなら、あの本棚を埋めるには、あなたが新しい本を読まなければならないのよね?」
「は、はい」
「それなら、私の書斎に来なさい。ここにある本の倍以上は用意できるわよ」
「え、それは本当ですか!?」
――はっ!
し、しまった。
本という単語に思わず声を大きくしてしまった。
ご令嬢に対してなんてことを……!
「す、すいません。驚かせてしまいましたよね……」
「いいえ。本が好きだということが今ので伝わったわ。時間があるとき、案内してあげる。今日はこの空間を楽しみたいの」
モナ様は館の中を見回し、わずかに口角を上げた。
嬉しい。
そう言ってもらえて、本当に。
「はい。ぜひここでお休みください。すぐにお飲み物を準備します」
戻ろうとすると――……
「待ってくれ」
サグラモールさんに呼び止められた。
「モナ様に出すものは、俺が作る」
「え、で、でも、お客様にそのようなことは……」
この館は、お客様に休んでもらう場所だ。
ここでお客様に飲み物の準備をさせるなんて、できるわけがない。
「クリエント。サグラモールは、令嬢の護衛としてここに来ている。万が一モナ様に何かあれば、国を揺るがす事態になりかねない」
「リヒトさん……。何か、とは?」
「…………毒が混入される可能性もあるということだ」
っ!! そ、そっか。
僕は、ここにいる人たちからすれば赤の他人。
そんな赤の他人が入れた飲み物を、簡単に令嬢に飲ませるわけにはいかないんだ。
「も、申し訳ありません、サグラモールさん! 僕、そこまで考えが及ばなくて……!」
深く頭を下げて謝る。
僕はまだまだだ。
こんなこと、リヒトさんに言われる前に気づくべきだったのに。
「い、いや、そこまで謝らなくても……。俺に飲み物を作らせてくれるなら、それでいい」
「わかりました! ではこちらへ。まだ簡易的なキッチンしかないのですが、それでも大丈夫でしょうか?」
「あぁ、構わない」
二階へ案内し、奥の部屋のキッチンを見せた。
「本当に簡易的ですみません。今後大きくする予定ではあるのですが……」
「いや、十分だ」
ガスコンロとカップ、皿しかない小さなキッチン。
サグラモールさんの体格だと、少し窮屈そうだ。
「……少しお待ちください」
「ん?」
キッチンに手を添え、目を閉じる。
体を巡る魔力を、両手へゆっくり流す。
すると、手が淡く光り出した。
その光が広がり、キッチンを包み込む。
ガタガタと、キッチンが揺れ始めた。
「な、なんだ?」
「キッチンを少し大きくします」
頭の中で、サグラモールさんの体格に合わせたキッチンを思い描く。
それを形にするよう、魔力を操作する。
キッチンが変形し、ゆっくりと大きくなった。
数秒後、光が消える。
「ふぅ……。この形で大丈夫でしょうか?」
「お、おう。本当に、すごい魔法だな」
「僕もそう思います。本当に、クニーと、その主である召喚士様には感謝しかありません」
「クニー?」
あ、そうか。
まだクニーを紹介していなかった。
「クニーとは、僕を支えてくれる相棒であり、兎です」
「う、兎?」
「はい。クニー、今どこにいるの?」
キッチンから顔を出して呼ぶと、トントンと足音が近づいてきた。
数秒後、クニーが姿を見せる。
『どうした、主』
「今日来てくれたお客様に、クニーを紹介しようと思って」
そう言いながらクニーを抱き上げ、サグラモールさんへ見せる。
すると、サグラモールさんは驚き、その場で固まってしまった。
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