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森の創造館の主は、今日も騎士を癒している  作者: 桜桃
第一章 癒しの時間をお届けします

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第7話 騎士と本の虫の令嬢

 不穏な言葉を最後に、サグラモールはリヒトを案内するため、城の中へ招き入れた。


 周りの騎士やメイドたちは、すでにリヒトの存在を知っているため、軽く一礼するのみ。


 二人はそのまま廊下を歩く。


 壁には絵画が飾られ、一定の間隔で高そうな花瓶が台の上に置かれていた。


 壊さないように気をつけながらサグラモールの後ろを歩いていると、苦しそうな声がかけられた。


「リヒトよ」


「なんだ」


「モナ様だが、少々――いや、かなり変わっている。機嫌を損ねてしまう言動が多いだろうが、耐えてくれ」


 拳を握り、困ったように言うサグラモールに、リヒトは頷くしかなかった。


 ――だが、サグラモールのように沸点が低い者が、ここで騎士としてやっていけているのなら大丈夫ではないのか?


 サグラモールより、リヒトの方が冷静だ。


 怒りが湧いたとしても、一瞬で落ち着き、状況を判断して剣を振るう。

 そんなリヒトが、令嬢の言葉一つで怒るとは思えなかった。


 そう考えながら歩いていると、一つの部屋の前で立ち止まった。


「ここは?」


「城の中に用意されている書斎だ」


 ――書斎。ここにいるということは、本当に本が好きらしいな。


 リヒトは期待に胸を膨らませながらサグラモールを見た。


「話す際に禁句とかはあるか?」


「特にないぞ。リヒトの場合は、いつもの調子で話して構わない」


 どこか疲れているように見えるサグラモールには突っ込まず、リヒトは「わかった」と頷いた。


「それじゃ、開けるぞ」


「あぁ、頼む」


 サグラモールは一度、気持ちを落ち着かせるように深呼吸した。


 ――そんなに緊張するのか? 自分が仕える令嬢だろう?


 不思議に思いながらも、リヒトは扉が開かれるのを待つ。


「――モナ様。オルレアン家の騎士、リヒトを連れてまいりました」


 ――シーン。


「いないんじゃないか?」


「いや。本に集中しすぎて気づいていないんだ」


 そう言いながら、サグラモールは扉をゆっくり開く。

 中から淡い光が漏れ出てきた。

 人がいることは、それだけで分かった。


 中に入ると、周りはそびえ立つ本棚。


 右、左、前、後ろ。

 上を見上げても、すべてが本棚だった。


 壁は見えない。

 あるのは、本棚だけ。


 中央には椅子とテーブルが置かれている。

 さらに上を見ると、二階にも同じ空間が広がっていた。


 圧巻の光景に、リヒトは思わずその場に立ち止まる。


「まさか、こんな大きな部屋があるとはな」


「ここは、モナ様が一番こだわって作らせた部屋だ。この城のどの部屋よりも大きく作られている」


「それはすごいな」


「それだけ、本が大好きということだ」


 サグラモールはさらに奥へ進む。

 リヒトも置いていかれないよう後を追う。


 テーブルと椅子には誰もいない。


 本棚の間を覗いてみても、人影はない。


 ――本当に令嬢はここにいるのか?


 疑問に思いながら歩いていると、サグラモールが階段を上り始めた。

 二階に上がると、やっと人の姿が見えた。


 テーブルに座り、本に集中している女性。


 黒く長い髪。

 黒を基調とした、レースの多いドレス。


 艶のある黒髪が顔を隠している。


「モナ様、モナ様~」


 サグラモールが声をかけても反応がない。

 相当集中しているらしい。


「だーめだ、こりゃ」


「話は聞けないのか?」


 頭をガシガシとかくサグラモールに問いかけると、ちょうどその時、モナが顔を上げた。


「あら、お客様がいらしていたのね。ごきげんよう」


 顔を上げた令嬢は、黒縁メガネをかけ、深緑の瞳をしていた。


「あなたは?」


「お初にお目にかかります。オルレアン家に仕える騎士、リヒトと申します。以後、お見知りおきを」


 胸に手を当て、腰を折って挨拶する。


 その礼儀正しさを見て、モナは感心した声を上げた。


「おやおや。ここまで礼儀正しい騎士も存在するのですね。私のところに仕えている騎士とは大違いだわ」


 冷静に言うモナの言葉に、サグラモールが「ぐっ」と悔しそうな声を漏らした。


 リヒトは気にすることなく、本題に入る。


「クラウド家の令嬢であるモナ様に、少々ご相談がございます」


「相談? 時間がかかるのかしら。私、読書の時間を奪われるのがこの世で一番嫌いなの。手短に終わる相談なら聞きましょう」


 メガネをくいっと上げ、リヒトの目を見て言い切った。


 ――確かに、少々癖があるな。だが、そこまで気にするほどではない。


「私の知人に、本が大好きな方がいます。その方が今、新しい本を探しているのですが、おすすめの本屋はありますか?」


 そう聞くと、モナの目の色が変わった。


「なんですって?」


 ガタンと椅子を引き、乱暴に立ち上がる。

 そのままリヒトの前まで歩み寄った。


「その知人はどなたかしら」


「アマダの森をご存じでしょうか。その中に、創造館という癒しを提供する館があります。その館の主人が、本好きなのです」


「創造館……」


 モナは意味ありげにつぶやいた。

 顎に手を当て、記憶を探る。


 しかし思い当たらなかったらしく、再び顔を上げた。


「アマダの森の存在は知っているわ。自然豊かで、心地の良い場所だと。ですが、創造館は知らないわ。でも、オルレアン家の騎士がおすすめするなら、危ない場所ではないのね?」


 疑うような視線を向けられ、リヒトは静かに答えた。


「危険は一切ありません。ご安心ください」


「そう。それなら、行くわよ」


「行く、とは?」


 モナはテーブルの上の本を手に取り、胸に抱える。

 そして振り返り、メガネをきらりと光らせて宣言した。


「決まっているでしょう。創造館によ。今すぐ準備して。サグラモールも」


 今すぐ向かおうとするモナを、騎士二人が慌てて止める。


「お待ちください、モナ様。この後は予定が入っています」


「全部キャンセル」


「無茶言わないでください。それにモナ様、ただ勉強をしたくないだけでしょう?」


 サグラモールに言われ、モナの肩がビクッと震えた。


 図星らしい。


 その様子を見て、リヒトは自分の主である令嬢の姿を思い出していた。


 ――令嬢というのは、どこでも同じなのか。


 そんなことを考えながら、リヒトは二人の話がまとまるのを静かに待った。

ここまで読んで下さりありがとうございます!

出来れば次回も読んでいただけると嬉しいです!


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よろしくお願いします(*・ω・)*_ _)ペコリ

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