第7話 騎士と本の虫の令嬢
不穏な言葉を最後に、サグラモールはリヒトを案内するため、城の中へ招き入れた。
周りの騎士やメイドたちは、すでにリヒトの存在を知っているため、軽く一礼するのみ。
二人はそのまま廊下を歩く。
壁には絵画が飾られ、一定の間隔で高そうな花瓶が台の上に置かれていた。
壊さないように気をつけながらサグラモールの後ろを歩いていると、苦しそうな声がかけられた。
「リヒトよ」
「なんだ」
「モナ様だが、少々――いや、かなり変わっている。機嫌を損ねてしまう言動が多いだろうが、耐えてくれ」
拳を握り、困ったように言うサグラモールに、リヒトは頷くしかなかった。
――だが、サグラモールのように沸点が低い者が、ここで騎士としてやっていけているのなら大丈夫ではないのか?
サグラモールより、リヒトの方が冷静だ。
怒りが湧いたとしても、一瞬で落ち着き、状況を判断して剣を振るう。
そんなリヒトが、令嬢の言葉一つで怒るとは思えなかった。
そう考えながら歩いていると、一つの部屋の前で立ち止まった。
「ここは?」
「城の中に用意されている書斎だ」
――書斎。ここにいるということは、本当に本が好きらしいな。
リヒトは期待に胸を膨らませながらサグラモールを見た。
「話す際に禁句とかはあるか?」
「特にないぞ。リヒトの場合は、いつもの調子で話して構わない」
どこか疲れているように見えるサグラモールには突っ込まず、リヒトは「わかった」と頷いた。
「それじゃ、開けるぞ」
「あぁ、頼む」
サグラモールは一度、気持ちを落ち着かせるように深呼吸した。
――そんなに緊張するのか? 自分が仕える令嬢だろう?
不思議に思いながらも、リヒトは扉が開かれるのを待つ。
「――モナ様。オルレアン家の騎士、リヒトを連れてまいりました」
――シーン。
「いないんじゃないか?」
「いや。本に集中しすぎて気づいていないんだ」
そう言いながら、サグラモールは扉をゆっくり開く。
中から淡い光が漏れ出てきた。
人がいることは、それだけで分かった。
中に入ると、周りはそびえ立つ本棚。
右、左、前、後ろ。
上を見上げても、すべてが本棚だった。
壁は見えない。
あるのは、本棚だけ。
中央には椅子とテーブルが置かれている。
さらに上を見ると、二階にも同じ空間が広がっていた。
圧巻の光景に、リヒトは思わずその場に立ち止まる。
「まさか、こんな大きな部屋があるとはな」
「ここは、モナ様が一番こだわって作らせた部屋だ。この城のどの部屋よりも大きく作られている」
「それはすごいな」
「それだけ、本が大好きということだ」
サグラモールはさらに奥へ進む。
リヒトも置いていかれないよう後を追う。
テーブルと椅子には誰もいない。
本棚の間を覗いてみても、人影はない。
――本当に令嬢はここにいるのか?
疑問に思いながら歩いていると、サグラモールが階段を上り始めた。
二階に上がると、やっと人の姿が見えた。
テーブルに座り、本に集中している女性。
黒く長い髪。
黒を基調とした、レースの多いドレス。
艶のある黒髪が顔を隠している。
「モナ様、モナ様~」
サグラモールが声をかけても反応がない。
相当集中しているらしい。
「だーめだ、こりゃ」
「話は聞けないのか?」
頭をガシガシとかくサグラモールに問いかけると、ちょうどその時、モナが顔を上げた。
「あら、お客様がいらしていたのね。ごきげんよう」
顔を上げた令嬢は、黒縁メガネをかけ、深緑の瞳をしていた。
「あなたは?」
「お初にお目にかかります。オルレアン家に仕える騎士、リヒトと申します。以後、お見知りおきを」
胸に手を当て、腰を折って挨拶する。
その礼儀正しさを見て、モナは感心した声を上げた。
「おやおや。ここまで礼儀正しい騎士も存在するのですね。私のところに仕えている騎士とは大違いだわ」
冷静に言うモナの言葉に、サグラモールが「ぐっ」と悔しそうな声を漏らした。
リヒトは気にすることなく、本題に入る。
「クラウド家の令嬢であるモナ様に、少々ご相談がございます」
「相談? 時間がかかるのかしら。私、読書の時間を奪われるのがこの世で一番嫌いなの。手短に終わる相談なら聞きましょう」
メガネをくいっと上げ、リヒトの目を見て言い切った。
――確かに、少々癖があるな。だが、そこまで気にするほどではない。
「私の知人に、本が大好きな方がいます。その方が今、新しい本を探しているのですが、おすすめの本屋はありますか?」
そう聞くと、モナの目の色が変わった。
「なんですって?」
ガタンと椅子を引き、乱暴に立ち上がる。
そのままリヒトの前まで歩み寄った。
「その知人はどなたかしら」
「アマダの森をご存じでしょうか。その中に、創造館という癒しを提供する館があります。その館の主人が、本好きなのです」
「創造館……」
モナは意味ありげにつぶやいた。
顎に手を当て、記憶を探る。
しかし思い当たらなかったらしく、再び顔を上げた。
「アマダの森の存在は知っているわ。自然豊かで、心地の良い場所だと。ですが、創造館は知らないわ。でも、オルレアン家の騎士がおすすめするなら、危ない場所ではないのね?」
疑うような視線を向けられ、リヒトは静かに答えた。
「危険は一切ありません。ご安心ください」
「そう。それなら、行くわよ」
「行く、とは?」
モナはテーブルの上の本を手に取り、胸に抱える。
そして振り返り、メガネをきらりと光らせて宣言した。
「決まっているでしょう。創造館によ。今すぐ準備して。サグラモールも」
今すぐ向かおうとするモナを、騎士二人が慌てて止める。
「お待ちください、モナ様。この後は予定が入っています」
「全部キャンセル」
「無茶言わないでください。それにモナ様、ただ勉強をしたくないだけでしょう?」
サグラモールに言われ、モナの肩がビクッと震えた。
図星らしい。
その様子を見て、リヒトは自分の主である令嬢の姿を思い出していた。
――令嬢というのは、どこでも同じなのか。
そんなことを考えながら、リヒトは二人の話がまとまるのを静かに待った。
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