第6話 騎士と生息地
これでは、しっかりとしたキッチンを作り出しても意味はない。
そう悟ってしまい、いったん料理は保留することにした。
リヒトさんは片づけると言ってくれたが、創造で作ったものは、僕が消そうと思えば簡単に消せる。
そのため、今回使った材料や道具、そしてキッチンもすぐに消した。
リヒトさんは何か言いたげにしていたが、ちょうど鳩時計が視界に入り、館を後にしてしまった。
「はぁぁぁぁぁ……。料理って、こんなにも難しいんだ。知らなかった」
二階の椅子に座ると、一気に体に入っていた力が抜けた。
本の中の登場人物たちは、料理を簡単に作る人もいれば、すごく苦手な人もいた。
でもそれは、物語を面白くするためのスパイスだと思っていた。
だって、作り方はしっかり書かれているし、分量だってわかる。
あとは手を動かすだけだ。
だから簡単だと思っていたのに。
卵をフライパンに入れた瞬間、すぐに硬くなってしまう。
慌ててひっくり返そうとして破れて、粉々。
すぐにリヒトさんが違う料理を提案してくれたけれど、もう手遅れだった。
フライパンの中には、焦げた卵だけが残ってしまった。
『すまない、主。まさかここまで落ち込むとは思っていなかった』
「いや、クニーは悪くないよ。僕がうまくできなかったのが悪いんだ」
多分クニーは、僕ならできると思って料理を提案してくれたんだ。
でも、僕はできなかった。
「でも、悔しいなぁ。リヒトさんに料理を作ってあげたかった」
多分、創造で作った料理と、僕が作った料理の違いは、リヒトさんにとっては関係ないだろう。
おいしければ、僕が作っていようが創造で作っていようが関係ないはずだ。
それなら、無理に料理をしなくても、創造で作ればいい。
やっぱり、おいしい方がいいと思うし。
『主』
「なに? クニー」
『我は、うまくできてもできなくても、まずは料理をしてみたらいいと思っておるぞ』
「っ、え? うまくできなくても?」
『そうだ。料理が難しいのは知っておる。だからこそ、凝り性な主にはもってこいだと思ったのだ。こだわればこだわるほど、味が出る趣味だろう?』
こだわれば、こだわるほどに味が出る趣味。
『それに今回の失敗は、誰でも通る道だ。主は今、初めてフライパンを握ったのだから、うまくできなくて当然だ。練習を重ねていくのも、いい経験になると思うぞ』
クニーの言う通り、本の中では料理が苦手な人たちは、母や友人に教わりながら少しずつ上手くなっていっていた。
あれは物語を面白くするためのスパイスだけじゃなく、現実でもある出来事なんだ。
誰でも、工程がわかればできるものじゃない。
こだわればこだわるほど味が出て、いろんな色が出る。
僕は、その第一歩を今、踏み出したところなのか。
「――ありがとう、クニー。僕、もう少し頑張ってみる」
『うむ。それならよかった。だが、無理だけはするでないぞ。主は油断すると、すぐ時間を忘れてしまうからな』
「あはは、それは本当にそうだよね。気をつけるよ」
料理一つにも、物語がある。
たかが料理、なんてもう言えない。
「よし、頑張ろう!!」
※
館を出たリヒトは、馬を走らせる。
向かう先は、自身の姫がいる城ではなく、友人であるサグラモールのいるクラウド家だった。
サグラモールのいるクラウド家は、争いごとを誰よりも嫌う家だ。
そのためリヒトは、クラウド家へ向かうことに迷いはなかった。
行けば必ず、温かく迎えてくれる。
いつものようにクラウド家へとたどり着く。
目の前にそびえる城は、天に届きそうなほど大きい。
装飾はそこまで派手ではない。
だが静かに佇む城は、どこか気品を感じさせる。
その城を見上げていると、声をかけられた。
「おっ、リヒトじゃないか。どうした?」
「サグラモールか。いいところに。お前の仕えている令嬢に会いに来た」
「え? 令嬢って……まさか、モナ様か?」
サグラモールに問いかけられ、リヒトは頷く。
「それはまた珍しいな。何か用事か?」
「モナ様が本に詳しいと聞いてな。おすすめの本や、本屋を知っていれば教えてもらおうと思って来た」
リヒトの言葉に、サグラモールはすぐ納得した。
「なるほどな。また館のぼっちゃんのために動いてんのか」
「クリエント様だけではない。自分のためでもある」
「そうなのか?」
サグラモールが首をかしげる。
「クリエント様には、いつも癒しの時間をもらっている。そのお返しを少しでもしたいのだ」
「癒しの時間ねぇ。確かに俺たち騎士には、あまり縁のない空間だな」
騎士は、人を守るのが仕事だ。
守ると決めた者のために命を差し出し、戦い、戦場を駆ける。
血にまみれた場所が、リヒトたち騎士の生きる場所。
戦場がなければ、騎士は生きていけない。
そんなリヒトにとって、館は唯一の癒しの場所だった。
館は、もうなくてはならない場所になっている。
その館を作り出しているのは、一人の青年と兎。
見た目は気弱そうなのに、すごい魔法で創造館を作り出してしまった。
しかも自分のためではなく、他人のために魔法を使う。
そんな青年――クリエントのために、リヒトは何かをしたいと思っていた。
その第一歩が、本棚を埋めたいというクリエントの願いを叶えることだった。
「よし、それなら案内するぞ。だがリヒト、モナ様に会ったことないよな?」
「あぁ。いつもタイミングを逃してな」
「タイミングなんて、作り出さないと一生会えないぞ」
そう言うサグラモールの顔は、どこか引きつっているように見えた。
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