第4話 騎士と騎士団長
次の日、リヒトは騎士同士で稽古をしている間、どこか上の空だった。
だが、周囲への警戒は怠らない。
今は城内にある大きな広場で、騎士たちがお互いに竹刀を振るい、手合わせをしていた。
リヒトも例外ではなく、他の騎士たちとともに竹刀をぶつけ合っている。
ガキン、ガコンと音が鳴り響く。
リヒトは余裕で相手を打ち負かしていくが、その剣には今までのような鋭さがない。
他の騎士たちは気づいていないが、一人だけ、それに気づいている男がいた。
「リヒトよ、何を考えている? 余裕そうだが?」
「デイビット団長。お疲れ様です」
デイビット団長と呼ばれた男は、見た目だけなら高齢に見える。
白髪混じりの赤い髪をオールバックにし、黒を基調とした騎士服を身にまとっている。
団長であるため、背にはマントを羽織っていた。
威厳のある立ち居振る舞い。
腕を組み、リヒトを見上げている。
「………………わしを見下ろすでない!!」
「すいません」
デイビット団長は、リヒトより少し背が低い。
そのため、どれだけ胸を張っても、リヒトを見上げる形になってしまう。
「まぁよい。それで、今日は剣の動きが鈍いようだが……なめておるのか?」
「いえ、デイビット団長をなめる趣味はありません」
「それならよい――おい、それはどういう意味で言っておる。おい、聞いておるのか、リヒト!!」
リヒトは叫ぶデイビット団長から視線をそらし、空を眺める。
――デイビット団長は、普段は厳しいし口調も荒いし怖いけど、抜けているところもあるからなぁ。
リヒトがぼんやりしていると、デイビット団長は深く溜息をついた。
「はぁぁぁぁぁぁぁああ。とりあえず、お前は何を考えている。稽古に集中できないほどの何かを抱えているのか?」
「いい本屋がないか考えていました」
「………………ん?」
リヒトに負かされた騎士も、その発言に目を点にした。
聞き返されたと思ったリヒトは、再度同じことを言おうと口を開いた。
「ですから、いい本屋を――」
「それはさっき聞いた。そうではない。なぜ今それを考えておる。おぬし、本に興味あったか?」
訓練中に関係のないことを考えていることよりも、今まで本に一切興味を示さなかったリヒトが本屋を探していることに疑問を抱き、デイビット団長は問いかけた。
リヒトは答えるか少し迷った。
だが、クリエントの願いはみんなに癒しを与えること。
もし団長が館に行くことがあれば、クリエントもきっと喜ぶだろう。
そう思ったリヒトは、創造館について素直に話した。
最初は驚いていた騎士たちも、次第に興味を持ち始め、いつの間にかリヒトの周りを囲んでいた。
話を最後まで聞いたデイビット団長は、腕を組んで唸る。
「うーん…………。悩むことはいい。それも生きる上で必要なことだ」
――そこまで大きく考えなくてもいいのだが。
デイビット団長は、小さな問題でも大きく考えてしまう性格だ。
それが少し面倒に感じて、リヒトは肩を落とした。
考え込んでから数分後、デイビット団長はリヒトを見た。
「だが!!! 今は関係ないだろうがぁぁぁぁぁぁああ!!」
「そこにたどり着いてしまったのですね」
デイビット団長は怒りのまま剣を抜き、リヒトに刃を向けた。
リヒトはすぐ後ろに下がり、落ちていた竹刀を拾い上げて、追撃してきた剣を受け止める。
「怒りに身を任せるのはいかがなものかと。団長がそれでいいのでしょうか?」
「なんだとぉぉぉおおお!?!?」
力が込められ、竹刀が嫌な音を立てた。
――竹刀で団長とは戦いたくないな。なんとか話題をそらさないと。
「団長」
「なんだぁぁぁぁああ!!」
「本が好きな知人って、いませんか?」
リヒトがそう聞くと、デイビット団長の手から力が抜けた。
――いまだ。
リヒトはすぐに竹刀で剣を叩き落とし、立ち上がる。
「おまっ――……」
「いませんか? 本が好きな知人。本屋が好きな人でも」
畳みかけるように問いかけると、デイビット団長は少し考え込み、ある人物を思い出した。
「そういえば、おぬしはクラウド家の騎士と仲が良かったな」
「サグラモールのことでしょうか。なぜか、あいつが突っかかってきますね」
「そのクラウド家の令嬢が、本の虫らしいぞ。聞いてみるがいい」
いい情報を聞けて、リヒトは喜ぶ。
そんな彼の様子に、デイビット団長は呆れたように肩をすくめる。
「問題が解決したようで何よりだ。それならすぐ訓練に戻れ。今度こそ集中するんだぞ」
殺気のこもった視線を向けられ、リヒトはさっと顔をそらした。
やがてデイビット団長は、別の場所へと歩いていく。
――今度、サグラモールに聞いてみるか。
少しでもクリエントの役に立てることが嬉しくて、リヒトは再び訓練に集中した。
その結果、訓練場には騎士たちの悲鳴が響き渡り、いつもの活気が戻ってきた。
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