第3話 僕と騎士の友人
リヒトさんは少しだけ本を読み、一時間ほどで帰っていった。
もう数か月、通い続けてくれている常連さんだ。
仕事の合間に来ているのだと言っていた。
どうしてそんなに来てくれるのかと聞いたことがある。
『たまには自分の時間が欲しくてな』
そう、答えてくれた。
「自分の時間、かぁ~」
自分の時間は大事だ。
誰にも邪魔されず、好きなことを楽しめる時間。
騎士というのは、主を守る仕事。
命を懸けて戦い、剣を振るい、前戦を駆ける。
僕は小説の中でしか知らない世界だけど、リヒトさんにとっては現実。
実際に戦い、駆ける。
どんな景色が広がっているのだろう。
どんな視界で、どんな重さを背負っているのだろう。
リヒトさんが見ている世界は、一体どんな世界なのだろう。
「見てみたいなぁ……」
今日おすすめした本を胸に抱きしめた、その時。
また視線を感じた。
横を見ると――クニーがじっと僕を見ている。
「ど、どうしたの? クニー」
『主は、あの騎士がお気に入りのようですね』
お気に入り?
……違う気がする。
その言葉では、しっくりこない。
もっと、別の。
「んー、なんだろう」
どうしてこんなに気になるのだろう。
考えても、答えは出ない。
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クリエントの創造館を後にし、リヒトは馬に乗って森を進んでいた。
青空の下、ゆったりとした蹄の音が響く。
周囲は緑に囲まれている。
名前は、アマダの森。
自然が広がり、動物も生きている。
陽光が差し込み、道を照らしてくれる。
そんな森を走ると、徐々に陽光が強くなる。
周りに立ち並ぶ木が数を減らす。
「……本屋、見つけておかねばな」
館での会話が頭をよぎる。
街で勧められる本屋はあるだろうか。
どこがよいだろうか。
そんなことを考えながら森を抜け、街へ入る。
人の往来が増え始めた頃。
「リヒト!!」
「ん? あぁ、サグラモールか」
馬から降りようとしたところへ駆け寄ってきたのは、黒を基調とした騎士。
茶色の猫っ毛を揺らし、少年のような笑みを浮かべる男。
名前は、サグラモール・クラウド。
クラウド家に仕える騎士で、自称リヒトのライバル。
だがリヒトにとっては、気の置けない同僚だ。
「今日も例の館か?」
「あぁ」
「へぇ。俺も今度行ってみるかな。お前がそこまで通うってことは、相当いい所なんだろ?」
リヒトは馬から降り、彼の前に立つ。
「時間があれば行ってみるといい。主も、いい人だ」
「そうか。じゃあ、都合つけてみるわ」
「それと、一つ聞いてもいいか?」
真剣な眼差しに、サグラモールは目を丸くする。
「なんだ?」
「お前は、本をよく読むか?」
「いや、あんまりだな」
「では、本屋に詳しい知人は?」
「本屋に? ……いると言えばいるが。どうした、急に」
今まで聞かれたことのない話題だったため、サグラモールは首を傾げた。
「館の主に街を案内する約束をしてしまった。だが、勧められる本屋を知らん」
「後先考えろよ……」
「反省はしている。後悔はしていない」
「おい」
顎に手を当て考え込むリヒトを見て、サグラモールも思案する。
「なら、うちの姫に聞いてみるか」
「クラウド家の姫君か。確かに、本を読んでいる印象がある」
「印象通りの人だぞ。いつなら空いてる?」
予定をすり合わせ、後日の約束を決める。
今日はそれだけを話し、それぞれの持ち場へ戻ることになった。
別れた後、リヒトは城へ向かう。
その途中、耳に入ったのは、街の女たちの噂話。
「ねぇ、知ってる? ヴァオラ家がこの街を偵察してるらしいわよ」
「え、あのヴァオラ家が? 何のために?」
「さぁ……また戦争を起こす気じゃないかって」
「やめてほしいわねぇ……」
噂話に信憑性は薄い。
リヒトは立ち止まらず、そのまま歩を進める。
だが、胸の奥に、わずかな引っかかりが残った。
――念のため、姫に伝えておくか。
そう決め、城へと向かっていった。
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