第23話 騎士と悪魔の戦い
リヒトの前に現れたのは、創造館でクリエントを襲った悪魔――グラットニー。
サグラモールは舌打ちをし、リヒトもわずかに汗を滲ませる。
その様子を見て、グラットニーはくすくすと笑った。
『お前さんたちが、あの館の男を守る騎士様なのかしらぁ? 前はゆっくり話せなくて残念だったわねぇ~』
細身で色白、どこか優雅な雰囲気。
一見すれば女性にしか見えない。
「じょ、女性……?」
「いや、グラットニーは男のはずだ」
リヒトが言った、その瞬間。
空気が変わった。
にこやかな笑みのまま、黒い瘴気が立ち上る。
「……今、何と?」
殺気。
次の瞬間、姿が消える。
「速い!」
リヒトは反射で剣を抜き、受け止める。
だが、金属音はしない。
剣に絡みついているのは――アザレア色の髪。
「これは……髪?」
「そうよぉ。私の自慢の武器なの」
髪がうねり、膨れ上がり、獣の形を作る。
大きな顎が開いた。
「リヒト、離れろ!」
サグラモールが斬りかかる。
しかし別の髪が伸び、腕と剣を絡め取る。
「くっ……!」
締め上げられ、動けない。
その隙に、獣の顎がリヒトへ迫る。
――まずい。
剣を構えるが、間に合わない。
その時、空気が変わる。
『貴方様に今、死なれては困ります』
低い声。
黒いローブの青年が割って入った。
隻眼の瞳が髪を射抜く。
獣が、空中で止まった。
『あらぁ? 何かしらぁ。だぁれぇ??』
操っているはずのグラットニーが目を見開く。
黒髪の青年はゆっくりと地面に降り立ち、微笑んだ。
『お待たせしました』
「貴方は……誰だ」
『やはり、私だけでは疑われますか』
空間が歪む。
黒い穴から、小さな手が伸びる。
スカイブルーの髪が現れた。
『まぁ、そうだよねぇ。会ったことないし、状況が状況だしねぇ~』
現れたのは、一度リヒトの前に現れた少年、ナナシ。
「貴方……!」
リヒトの表情が強張る。
グラットニーの視線は、ナナシではなく青年へ向けられていた。
『ふーん。ちょぉっとだけ、厄介なのが来たわねぇ』
『ご主人様、いかがいたしますか』
グラットニーの言葉が聞こえていないのか、それとも意図的に無視しているのか。
青年は視線を敵へ向けたまま、まるで会話する気配がない。
『んー……まずは、あの子を自由にしてあげようか』
『了解しました』
パチン、と指が鳴る。
瞬間、見えない刃が走った。
サグラモールに絡みついていた髪が、一斉に断ち切られる。
サグラモールが解放された。
「っ、大丈夫か」
「ああ……助かった。それより、あいつは……?」
サグラモールとリヒトが、突如現れた青年を見る。
その視線を受け、黒髪の青年――グリードは静かに笑った。
『乱暴に扱い、失礼しました』
その瞳は、まるで獲物を見る目。
ナナシは楽しそうに笑う。
『ふふっ、楽しいねぇ』
瘴気が濃くなる。
グラットニーの怒りが膨れ上がる。
普通の人ならば息ができなくなるほどの瘴気。
だが、ナナシとグリードは気にしない。
『――少々、本気を出さないといけませんね』
グリードが一歩前に出る。
右手を振ると、黒い槍が現れた。
『主様には、指一本触れさせません』
隻眼が細まる。
『では――』
森が静まり返る。
『悪魔同士の戦いを、始めましょう』
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