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森の創造館の主は、今日も騎士を癒している  作者: 桜桃
癒しの場所を守り続けます

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第22話 騎士と悪魔

 行ってしまったリヒトさん。

 もう館にはいないのに、どうしても扉から目を離すことができない。


 立ち尽くしていると、足元で裾が引かれた。

 視線を落とすと、クニーが僕を見上げていた。


 それで、ようやく我に返る。


「ご、ごめんね、クニー」


『大丈夫なのか?』


「うん、大丈夫。ありがとう」


 頭を撫で、そのまま抱き上げる。

 震えていた足を無理やり動かし、二階へ向かった。


 何か準備をするべきだ。


 でも、何を?

 自分を守るために――やっぱり大砲? それとも砲弾?


『主、何を考えている』


「大砲とか、砲弾とか……」


『相手は悪魔だぞ』


「……ですよね」


 さすがに通じないか。

 でも、何かしたい。


 守られるだけは、嫌だ。

 僕だって、この能力でなんでも作り出せる。


 リヒトさんは、自分のわがままだと言っていた。

 けれど、それは僕が気を使わないように言ってくれた言葉なんだと分かる。


 せめて、自分の身は自分で守れるようにしたい。


「そういえば、僕の創造って……どこまで可能なんだろう」


 物は作れる。

 だが、生き物は作ったことがない。


 作ってはいけない。

 そう思っていたから。


「あの、クニー」


『なんだい?』


「僕のこの能力って、生物は作れるの? 動物とか、モンスターとか」


 聞くと、クニーは少し考え、再び顔を上げた。


『理論上は可能だ』


「え?」


『だが、その先に何が待つかは保証できん』


 ……やめよう。

 やっぱり、命を弄るのは違う。


 相手は、悪魔。

 悪魔にも、弱点は必ずある。


 今まで読んできた本の中でも、悪魔が弱点なしという描写はなかった。


 神様でも、よほどの存在でなければ弱点は描かれていた。


 フィクションだろうけど、それでも今は、それを信じたい。


 悪魔の弱点としてよく聞くのは、聖水、銀、聖書、呪符、退魔術式。


 伝承だけでも、無数にある。


 この世界の悪魔にどれが効くかは分からない。

 分からないのなら、全部だ。


 図書室へ移動し、悪魔関連の本を全て引き抜く。


 これは僕が創造した本。


 知識の穴もある。


 曖昧な部分もある。


 ならば――補強する。


 読み返し、矛盾を洗い出し、再構築する。

 足りない部分は創造で補完する。


 骨が折れる作業だ。

 だが、今できることはこれだけ。


「少しでも、自分の身は自分で守りたい」


 小さく呟く。


 じゃないと。

 リヒトさんの隣に立てない気がする。


 ――守られるだけの存在では、いけない気がする。


 クニーが小さくため息を吐いた。

 だが、何も言わなかった。


 ※


 リヒトは馬を駆り、城へと急いでいた。


 ――嫌な空気だ。


 空が重い。

 森が静かすぎる。


 何かが、起きる。

 そう確信できるほどの違和感。


 その時。


 視線。


 見られている。

 だが、姿は見えない。


 ――隠蔽魔法か。


 だが、気配は残っている。


 未熟か。

 それとも、わざとか。


 このまま城へは行けない。


 そう判断した瞬間――前方の森が揺れた。


 咄嗟に馬を止める。

 飛び出してきた人影に、リヒトは思わず声を上げた。


「っ!? サグラモール!?」


 森から現れたのは、息を切らし、傷を負ったサグラモールだった。


 普段ならあり得ない状態。

 それだけで異常だと分かる。


「何があった」


「ヴァロワ家が動いた……! 大規模だ!」


 その瞬間、空気が変わる。

 森の奥から、ゆっくりと現れた影。


 男とも女とも取れるような中性的な顔立ち。


 アザレア色の髪。


 赤い唇は横に引き伸ばされ、笑っている。


『――――やはり、気づいていたのね』


 ねっとりとした声。


 胃が掴まれるような感覚。


 サグラモールが低く構える。

 リヒトも剣に手をかける。


「お前は、何者だ」


 男はくすりと笑った。


「暴食の悪魔――グラットニー」


 名を告げられた瞬間。

 周囲の空気が、重く沈んだ。

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