第21話 僕と騎士と感情と
主は、これまで感じたことのない気配にあてられ、体調を崩しベッドで休んでいた。
我は少々用事があり、主のもとを離れていた。
その隙を狙われたのだろう。
用事を終え戻ろうとした時――感じたことのある、嫌な気配。
それが体を貫いた。
警鐘が頭に鳴り響き、即座に部屋へ向かう。
中に入ると、主の隣にはアザレア色の髪の人影があった。
薄暗く、姿ははっきりとは見えない。
だが、赤い瞳に睨まれただけで、体が拘束された。
動けない。
次の瞬間、右手を軽く前に出されたかと思うと、見えない力に吹き飛ばされた。
壁に叩きつけられ、意識が朦朧とし始める。
だが、それでも意識を失わぬよう必死に耐え、主のもとへ向かおうとした。
しかし当然ながら、人影の方が早い。
主の首を掴み、持ち上げる。
目を覚ました主は抵抗したが、力では敵わない。
再び睨まれ、我はまた壁へ吹き飛ばされた。
そこから先は……記憶が曖昧だ。
・
・
『おそらく、我が気を失った直後にぬしが来たのだろう』
話し終えると、部屋に静寂が落ちた。
リヒトは顎に手を当て、深く考え込んでいる。
「あの、リヒトさん」
「なんだ?」
「僕は大丈夫ですから、そんなに気にしないでください!」
笑って言ったつもりだった。
だが、リヒトさんは数回瞬きをしただけで、何も言わない。
――あれ。
僕、何かおかしなことを言った?
もしかして、
“心配してくれている”前提みたいな言い方になってしまった?
いやいや。
リヒトさんほどの方が、僕なんかを――
「す、すみません……出過ぎたことを……」
情けない。
というか、勘違いが恥ずかしい。
「……無理をしないでくれ」
静かな声。
「怖かっただろう。今は休め」
冷たい手が頭を撫でる。
優しい。
やっぱり、リヒトさんは優しい。
優しすぎるほどに。
「クリエント」
「は、はい」
「今回、あなたは狙われている。ヴァロワ家――悪魔を従える家に」
「え、あ、悪魔?」
悪魔って、あの悪魔?
『悪魔を従えているのか?』
「そうだ。ヴァロワ家の皇子、ケント・ヴァロワは“グラットニー”と契約しているはずだ」
病室で読んでいた本の中に出ていた名前だ。
グラットニー。
七つの大罪――暴食。
……そんな存在が、僕を?
『なるほど。今回我々を狙ったということは、悪魔を使い、主の魔法を自身のものにしようとしたのだろう』
「その可能性が高いだろう。創造魔法は、喉から手が出るほど欲しい力だからな」
……言われてみれば。
なんでも創造しただけで作れるなんて、確かに異常だ。
現実世界にも同じ魔法があるのなら、僕も欲しかったし。
「だから、今後は絶対に一人になってはだめだ。もしかしたら、また同じことが起きてるかもしれない」
「ひっ……」
体が強張る。
また来たら?
僕を襲った人が?
次は助からなかったら?
創造で何か作れないか。
防御用の何か。
武器とか。
でも、でも――
「クリエント」
………………っ!!
「だ、大丈夫です! 僕は、大丈夫ですから!」
顔が上げられない。
怖い。
でも、迷惑をかけたくない。
だから、僕は一人でも大丈夫だと伝えないと。
「大丈夫、ですから……」
沈黙。
そして――
「――安心してくれ」
リヒトが膝を折り、目線を合わせる。
顎に触れられ、顔を上げさせられた。
藍色の瞳が、真っ直ぐに射抜く。
「必ず、私が守る」
「で、でも、それは――」
唇に人差し指が当てられる。
「私が、守りたいんだ」
静かだが、揺るがない声。
「もし、迷惑になるなど考えているのならば、それこそ間違いだ。これは、私のわがまま。――守らせてください」
頬へ指が滑る。
冷たい指先が、熱を奪う。
視線から、逃げられない。
どうして、目が逸らせないんだろう。
胸が、変に熱い。
これは、なんの感情なんだろう。
『――ゴホン』
「ひゃっ!」
クニーの咳払いで我に返る。
一気に体温が戻る。
「これは、残念」
「……え?」
「いえ、何でもない」
リヒトはさらりと流す。
「これから他家に話をつけに行ってくる。すぐに戻る」
立ち上がる。
思わず、手が伸びかけた。
でも――掴めない。
その手を、逆に握られる。
「安心してくれ。必ず戻る」
「……はい」
不安は消えない。
でも、頷く。
「何かあれば、私の名を呼べ」
おでこを、軽く突かれる。
「必ず、駆け付ける」
そして今度こそ、創造館を出ていった。
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