第20話 僕と騎士と安心と
体が軽い。
宙に浮いているような感覚。
なのに――落ちている。
浮いているのに、下へ落ち続けている錯覚。
目が、開かない。
瞼が重い。
でも、開けないと。
ここがどこなのか、確かめないと。
――体が動かない。
――瞼が開かない。
なんで。
……やっと、少しだけ開いた。
映ったのは、赤い瞳。
苦しげな表情を浮かべている。
「……誰?」
呼びかける。
けれど、応答はない。
瞬間、相手が動き出す。
相手の両手が、自分の首に――……。
・
・
・
「――――わあああああ!!」
首、首は大丈夫!?
僕、襲われた?
首を触ってみるが、痛みはない。
「………………包帯?」
咄嗟に触った首には、なぜか白い包帯が巻かれている。
困惑していると、安心した声が隣から聞こえた。
「大丈夫か?」
「はぁ、はぁ……え、り、リヒトさん……?」
見慣れた顔。
本を片手に、こちらを見ている。
『主、どうした。何があった?』
クニーもベッドの上から、心配そうに見上げている。
ここは……僕の部屋。
ベッドの上。
リヒトさんは椅子に座っていて、クニーは隣。
あれは、夢……だったのか。
汗で服が体に張り付き、気持ち悪い。
頭もズキズキするし、心臓が激しく波打ち、息が浅い。
「……怖い夢でも見たみたいだな。無理もない」
「い、いえ、あの……」
いつの間にか、リヒトさんがベッドに腰を下ろしていた。
そのまま、そっと抱き寄せられる。
低く、落ち着いた声。
背中を撫でる、大きな手。
リヒトさんの手は冷たいはずなのに、不思議と安心する。
冷たいのに、温かい。
呼吸がゆっくり整っていく。
リヒトさんの心臓の音を聞くと、自然と頭痛も落ち着いてきた。
「あ、ありがとうございます……」
「無理しなくていい。落ち着くまで、このままで」
起き上がろうとすると、優しく制される。
安心する。
安心、するけど――
――ち、近い……!
胸が、さっきとは違う意味でうるさい。
この音が、リヒトさんに聞こえないかが心配だ。
「……? どうした? 体温が上がっているみたいだが」
咄嗟に顔を上げてしまった。
藍色の瞳と、真正面から目が合う。
一気に頬が熱くなる。
心臓が跳ねる。
苦しい。でも、不快じゃない。
むしろ――恥ずかしい。
「……ふっ。元気そうで何よりです」
わずかに口元を緩め、頬を撫でられる。
ひんやりした指先が、火照りを冷ます。
それでも、鼓動は速いまま。
「クリエント」
「は、はい」
「首元に痛みは? 他に不調はあるか? 一応、痕が残っていたから包帯は巻かせてもらったが……」
不安を隠さない声音。
再度首を触ってみるが、痛みはない。
この包帯、リヒトさんが巻いてくれたんだ。
「大丈夫です。今は、どこも痛くありません」
リヒトさんが、ほっと息を吐く。
眉がわずかに下がる。
「それなら良かった」
「ご心配をおかけして、申し訳ありません」
「私が勝手に心配しているだけだ。気にしないでくれ」
そう言って、リヒトはそっと離れる。
距離ができた途端、少しだけ寂しいと感じてしまった自分に驚く。
「あの、もし話せるようであれば……」
リヒトの表情が引き締まる。
「なぜ襲われていたのか、覚えている範囲で教えてもらえるか?」
――あ。
現実が戻ってくる。
赤い瞳。
歪んだ口元。
揺れるアザレア色の髪。
体が、動かなかった。
気づけば、首を絞められていた。
思い出した瞬間、指先が震える。
喉が締まる。
言葉が出ない。
嫌な汗が滲む。
「……すまない。焦らせてしまったか」
リヒトの声が、柔らかくなる。
「無理に思い出さなくて大丈夫だ」
「……すいません」
「気にするな。私の方こそ、すまなかった。少し、焦ってしまった」
また、頭を撫でられる。
優しい。
守る、という手。
『では、こちらが説明しよう』
「クニー……」
クニーが前に出る。
「お願いしてもいいか?」
『問題ない』
クニーが、昨夜の出来事を語り始める。
途中、空気が一瞬だけ凍った。
リヒトから、抑えきれない殺気が漏れたのだ。
だが、それもすぐに消える。
最後まで、黙って聞いてくれた。
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