第19話 騎士と謎の男
リヒトは城を飛び出し、馬へと飛び乗った。
手綱を強く握り、夜道を駆ける。
――早く。
この事態を、早くクリエントに伝えなければ。
雲が月を隠し、風は冷たい。
気温も低く、頬が赤くなる。
暗闇の中でも、リヒトは迷わない。
アマダの森へ続く道を一直線に駆け抜ける。
森に入れば視界は悪く、普通なら足を止めるだろう。
だが、この道は何度も通った。
速度を緩めることなく、ただ前へ。
やがて、見慣れた館が闇の中に浮かび上がる。
――間に合え。
馬を止め、飛び降りる。
扉を開け、中へ。
館内は真っ暗だった。
人の気配がない。
嫌な汗が背を伝う。
「クリエント……」
焦りが胸を埋め尽くす。
だが、そこで冷静さを失うほど、リヒトは未熟ではない。
目を閉じ、気配を探るために集中する。
――奥だ。
一階の奥、普段は入らない扉の向こうから気配を感じる。
躊躇が一瞬よぎる。
だが、ここで退くわけにはいかない。
怒られても、仮に嫌われても構わない。
クリエントの無事を確認できるなら、何を言われても構わない。
リヒトはドアノブを握り、勢いよく開け放った。
バンッ!
「――――っ!? 貴様!!」
視界に飛び込んできたのは、最悪の光景だった。
クニーは壁際に倒れ、気を失っている。
ベッドの上では――クリエントが、男に首を絞められ苦しんでいた。
「やめろッ!!」
反射的に間合いを詰め、男を蹴り飛ばす。
そのままクリエントを抱き寄せ、後退。
「ゴホッ……ゴホッ……!」
「大丈夫か、クリエント!」
必死に空気を吸う細い体を支えながら、闇に立つ男を睨み据える。
アザレア色の短髪。
隻眼。
口元が、愉しげに歪む。
何も言わず――男は闇に溶けた。
「……っ」
追うべきか。
だが、腕の中の温もりが現実に引き戻す。
「……リヒト、さん……? どうして……」
かすれた声。
「胸騒ぎがしたんだ。無断で入ったことは、許してくれ」
金色の瞳が、涙に滲みながらこちらを見上げる。
こんな視線を向けられて、リヒトがその場を離れられるわけがなかった。
今の男の正体も気になる。
だが、今はクリエントの保護を優先する。
そう考えていたところで、クリエントが口を開く。
「僕は……大丈夫、です」
弱々しく笑う。
そのまま、瞼が閉じた。
寝息が聞こえる。
気を失っただけだ。
リヒトは、首に残る赤い痕をそっと撫でる。
白銀の髪が顔を隠す。
部屋は静まり返る。
その時。
『っ、主!!』
クニーが目を覚ました。
痛みを堪えながら駆け寄る。
だが、リヒトの表情を見た瞬間、足が止まった。
凍りつく。
藍色の瞳に、怒りが燃えていた。
普段は冷静沈着な騎士。
その彼が、今は明確な殺気を纏っている。
拳が震えている。
息が荒い。
『……リヒト?』
クニーの呼びかけに、ようやく我に返る。
「………………ふぅ」
大きく息を吐き、怒りを押し込めた。
表情は、いつもの無機質なものへ戻る。
クリエントをベッドへ静かに横たえる。
「……悪い、取り乱した」
『いや。問題ない、少し驚いただけだ』
――自分でも驚いている。
ここまで感情を露わにするとは。
失態が続く。
守れなかった。
その事実が、胸を抉る。
だが、眠るクリエントの顔を見ると、不思議と呼吸が整う。
額にかかる金糸雀色の髪を払い、そっと撫でた。
無意識に、クリエントがその手にすり寄る。
その仕草に、リヒトの瞳がわずかに揺れた。
ほんの僅か、口元が緩む。
――絶対に守る。
相手が、誰であろうと。
クリエントは、私が守る。
私は――人々を守る剣。
騎士なのだから。
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