第18話 騎士と少年と青年
『ゴホン。えっと、座ってもいいかい? 長くなりそうだからね』
「構わない」
リヒトは当然のように、子供――ナナシの脇に手を入れて持ち上げた。
そのままベッドへ移動し、そっと下ろす。
自分も隣に腰を下ろし、向き合った。
「では、先ほどの続きだ。ここには、何の用で来た?」
目を合わせると、ナナシは目をぱちくりとさせる。
『……スムーズすぎて、何も突っ込めなかったよ。空気の揺れすら感じなかった。これは驚きだ』
意味が分からず、リヒトは首を傾げる。
ナナシは小さく溜息をつき、頭をがしがしと掻いた。
『調子が狂うなぁ』
「話を続けてくれ」
『ああ。僕がここに来た理由だね。お前さんに協力をお願いしたいからだよ』
「協力? 悪いが、こちらも急務を抱えている。長期に及ぶ話なら後回しだ」
『問題ないよ。僕の話は、その急務に関わっている』
――関わっている?
リヒトは目を細め、問いかけた。
「……なぜ、私が抱えている問題を知っている?」
聞くと、ナナシはクスクスと笑い、愉快そうに目を細めた。
『さぁ、なんでだろうねぇ。なんでだと思う?』
まるで、リヒトの反応を楽しむかのような言葉。
彼は眉を顰めつつも、顎に手を当てて考え込む。
――監視されていた?
――情報がどこかから漏れた?
いや、他にも可能性はある。
リヒトが思考を巡らせていると、ナナシが口を開いた。
『監視されていた、や。情報が漏れた、などと考えているね?』
「………………あぁ」
素直に頷くと、ナナシは両手を広げ、高々と宣言した。
『簡単さ。僕が凄いからだ!!』
満面の笑み。
リヒトは無言になった。
――何を言っているのだ、この餓鬼は。
心の中では悪態をつくが、それを口に出してはいけないことは本能が理解していた。
ナナシの事情は気になる。
だが、深く踏み込めば戻れない気がする。
直感が、警鐘を鳴らしていた。
リヒトの心中など気にせず、ナナシは話を続ける。
『今回動いているのは、ヴァロワ家で間違いない』
「……やはり」
『ただし、狙いはオルレアン家だけじゃない』
「……そうか」
『君たちは“またオルレアンが狙われる”という前提で調べていた。だから情報が掴めない。今は令嬢の直感を信じ、視野を広げているみたいだが、遅すぎるんじゃないかい?』
ナナシの言う通りだと、リヒトは肩を落とし頭を抱えた。
「……私の判断が遅かった」
『責めることじゃない。一度襲われ、勝っている。警戒するのは当然で、同じことを繰り返すと考えるの普通のことだ』
ナナシは言うが、リヒトは静かに首を横に振る。
「いや。偏った思考は失態だ。判断が遅いのは命取りだ。ここから修正する」
反省の言葉を口にしながらも、表情はすぐに引き締まる。
ナナシは目を丸くし、そして楽しそうに笑った。
『本当に真面目だね。気に入ったよ』
ぴょんとベッドから降り、リヒトの前に立つ。
『だから、特別に教えてあげよう』
「特別、とは」
リヒトの問いを、ナナシは華麗にスルーする。
『ヴァロワ家が今回狙っているのは――最近再起した“ある館”だ』
その瞬間、リヒトの脳裏に浮かぶのは一つ。
人々に癒しを与えるため、館を営んでいる青年。
そして、彼の住処である創造館。
血の気が引く。
次の瞬間、リヒトは立ち上がっていた。
「――失礼する!」
夜中であることも忘れ、部屋を飛び出す。
扉は開け放たれたままだ。
残されたナナシは、白い八重歯を覗かせた。
『……うん、いい反応だ』
小さな手を前に出す。
黒い霧が揺らぎ、そこから一人の男が現れる。
『――いかがなさいますか、主』
低く、艶を帯びた声。
艶やかな黒髪。
隻眼。
全身を黒で包んだ男。
その隻眼の瞳だけが、異様な存在感を放っていた。
ナナシは気にした様子もなく笑う。
『グリード、リヒトを見ていてくれないかい?』
『構いませんが……何をお考えで?』
『特に何も。いつも通り、自由に動くだけさ』
ナナシはにこりと笑う。
グリードは頬をわずかに染め、ローブで口元を隠した。
『では、姿を変えるために少し力を頂いても?』
その問いに、ナナシは溜息をつき、ローブを脱ぐ。
ワイシャツのボタンを外し、右肩を晒した。
「ほら」
グリードは表情を変えず、静かにナナシを抱き寄せる。
『主、なぜ名を偽るのです? あの騎士なら伝えてもよかったでしょう。あなたが――この世界最強の召喚士、サモス様であると』
サモス。
この世界で唯一無二の召喚魔法を持つ存在。
クリエントをこの世界へ呼び寄せた張本人。
サモスは横目でグリードを見る。
そして、再びにんまりと笑った。
『決まっているだろう?』
赤い瞳が細まる。
『楽しいからだ』
『……クスッ。あなたらしい』
グリードは白く鋭い牙を肩に当てる。
――ジュル。
赤い液体が付着した唇を舌で舐め、グリードは顔を上げた。
『……ご馳走様』
『お粗末様』
部屋には、夜の静寂だけが残った。
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