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とりあえず、磨いておくことに損はない 〜二話目にしてセクシー? 入ります〜

 ひょんなことから、顔が良いとしか評価をされない(他の理由も納得できない)ことを知った私は、そう評価を下した者たちを見返すために、ある行動に打って出た。


「あ、そこ……。あ……、気持ちいいなぁ」

「大した運動もしていないくせに、なんでこうも、ほっそりとしているのか」


 忍者に恨みを持たれながら、エステと洒落込んでいるのであります。趣味は甘味を食べること。ライフワークは寝転びながら漫画やテレビの鑑賞。気晴らしのテレビゲームは三度の飯より優先する。そんな私の美ボディを観よ。


「不思議だよねぇ。なんで私って、こんなにも太らないんだろう。あー、やっぱり思考にエネルギーを使っているんだなぁ。私ってば頭が良いもんなぁ。ねぇ(ひいらぎ)、どう思う?」

「平方根って、分かります?」

「知ってる。秘密兵器だよね。兵法棍」


 ツッコミはさせない。本気で忘れてた。


「そんなことよりもさ、ピッカピカに磨かれた私の身体を見て、城下の人たちはこう思うんじゃない? 姫を超えて女神になった! と。その過程をドキュメンタリーとして撮影して公開したら、女神すらも超えると思う!」

「失笑」


 失笑とは! 思わず笑ってしまう、みたいな意味なのである! どうか勘違いをしないように!


 ……いやいや、どっちにしろ何故笑う!?


「話しかけられると集中出来なかったり?」

「そんなこともないですけど、エステを受けながら喋り倒す人も珍しいかと」

「ふーん。初めての体験だからよくわかんない。でもさ、こういう時って会話に困らない? 美容室なんかでもそうなのだけど、私、こういう時のスマートな会話って全然分からないの」

「笑えば良いと思いますよ」

「うつ伏せ状態の私の笑顔が見えるとでも?」


 などとツッコミを入れる私の顔は、とても蕩けているだろう。ただいま、ふくらはぎが揉まれている。気持ち良くて、日頃の疲れがどこかへ飛んでいきそうだ。


 例えば、どこへ飛んでいくのだろう。私は常々考えていることがある。たんこぶが出来たりしたときに、私はよく『痛いの痛いの飛んでけー』、なんてお父様に言われていた。トキメイて胸が痛いの、なんて言ったら変態にジョブチェンジしたので、引っ叩いたりもした。そんな時にふと、痛いのはどこに飛んでいくのだろう、と思うのだ。


 少し考えてみよう。『痛いの』は身体から追い出されて、一人、旅に出た。独りきりは寂しいから、お供が欲しい。そう思って、『疲れ』を誘って二人旅になった。

 

 ――なぁ、疲れ。俺たちは何処へ行けば良いのだろうな。

 ――こっそり戻ってもバレないのでは?


 だから人間は、いつもどこかが痛いし、疲れているのだ。


「足の裏をこちょこちょしないでよ」

「姫様の足の裏って綺麗ですよね。バカみたいに歩き回っているくせに」


 あ、散歩も趣味ではあったっけ。日中は大抵、城下や城の中を歩き回っているからなぁ。それなのにぷにぷにした足裏を誇っているのは、優秀な靴を履いているからだろうか。


 そんな性能に身を包まれているのだ。ちょっとくらい言葉に棘があっても痛くはない。


「なんか棘があるなぁ。連れ回して申し訳ないと思っているよ? 護衛の忍者さん。でも私の足は止まらないの。前へ進めと訴えるの。明日へ走れと訴えるの」

「歩いてばかりですよね?」

「揚げ足を取らないで」


 危ないから走らないように、と怒るくせに。私は急に雨が降っても走ったことはない。どこからともなく、この人が傘を差し出してくれるから。


「あー、なんか眠くなってきた。気持ちよすぎる。それになんかいい匂いもするしー」

「リラックス効果のあるお香を焚いていますからね。眠いのなら寝ても大丈夫ですよ。終わったらカンチョーして起こしますから」

「無防備な尻を!?」

「ではコブラツイスト」

「子供を真似しないでね!?」

「ではどうしろと」

「いや、普通に起こしてよ。変なとこ触らないでよね」

「まぶた、ですね」


 そんな、死亡確認じゃあるまいしー。なんてツッコミを零しながら、私のまぶたはしっかりと落ちた。


 ※


 起きたら誰も居なかった。私は下着姿である。扉は閉まっていて開かない。


「なんでー!?」


 とりあえず、どうしよう。寝起きでぼーっとして頭が働かないから、枕元にあった浴衣を着て踊ってやろう。タップダンス〜からのタップダンス〜からのヒップホップヒップホップヒップステップジャンプ! 


 なんて、お尻でステップ踏んでジャンプなんて出来るものかよ! そこまでの運動神経はないよ!


 とまぁ、それはともかく目が覚めた。でも、なんで扉に鍵がかかっているのだろう。それも外側から。だからどうやったって、開けることは出来ない。上目遣いをして頼んでも駄目かな? 可愛いよ? こんな私を閉じ込めたら世界の損失だよ? ……鍵が開いたらこのドアを処す。


 とりあえず、一度、落ち着こう。落ち着いて状況を整理して、この部屋を探っていこう。


 先ず、広さとしては八畳くらいだろうか。真ん中には施術台が置かれていて、入り口から右手に四つのロッカーと姿見が置かれている。姿見の奥には洗面台があって、こちらにも鏡が付いている。


 入り口から見て正面の壁には大きなモニターがかけられていて、お昼のワイドショーが映し出されている。お笑い芸人の人が真面目なコメントをしようとして、大いにスベっているのが印象的だ。司会者の方が上手にボケている。上部に表示されている時刻は十二時十分。施術開始が十時頃だったから、二時間のシエスタということになる。……せめてお昼ご飯を食べてから寝たかった。


 左手には棚が置かれ、施術する際の道具やアロマを焚くためのものだろう器具が置かれている。私が着ていた服もそこに入れておいたはずなのだが、見当たらない。まぁ、どうせ自身で着付けは出来ないのだから、あったところで着ることは出来ない。自慢じゃないが、自力で着物は着られない。


 ここで唐突なファッションチェック! 普段の私のファッションについて語っていこう。


 私の着物は特注品で、裾の長い、ブレザーを模した様なデザインになっている。ボタンはなくて、帯で留める形だ。袖は振袖のように垂れていて可愛い。インナーは裾の短い浴衣と、その中に首までを覆う黒い吸湿性のあるシャツ。ピッタリと密着しつつも、ストレッチが利いて着心地がいいのだ。それに気分によって様々なスカートを合わせている感じか。外に出る時はブーツを履くことが多い。スカートを短めにして、ニーソックスを穿くのも好き。こんな私を知ってもらえて嬉しい。


 以上で、現実逃避は終了である。平日の昼間から現実逃避だ。ゴロゴロしている余裕はないけれど。


「だけど、甘いな。些か甘すぎる! 服を隠したということは、服を着てもらっては困るということ。つまり、私の身体に何らかのヒントが書き残されたと見ていいのだよ!」


 バサリと浴衣を脱ぎ捨てて、姿見で自身の身体をくまなく調べていく。……自慢じゃないが、忍者の言う通りスラッとしている。間食上等おかわり自由が信条なのに、なんでこうも太らないのか。この城に伝わる七不思議の一つだ。


 他に私が知っている七不思議と言えば、お母様の逸話と、城に巨大ロボが隠されていることくらいか。巨大ロボはお母様が拾ってきたらしい。……あ、それもお母様の逸話か。


 宇宙に旅立ったお母様は、今頃何をしているのだろう。


「なんで何もないのー。なんでこんなことになったか、の理由くらいは書いてあると思ったのに」


 ともあれ一応、全身を調べ上げた。足の裏も見た。髪をかき上げて後頭部も見た。念の為、コンタクトレンズが入っていないかも見た。うん、何かを書き残せるようなもの、自身の肌にも何の変化もない。いや、変化はあるよ? めっちゃ艶々。あの人、エステの腕は完璧だった。


 ……いっそコンタクトレンズが入っていれば、そのせいで観察眼が曇っていたと言い訳できたのに。


「じゃあ、先ずは何をすればいいのかなー。とりあえずもう一度浴衣を着て、そんで、ロッカーでも開けてみようか」


 四つのうち、二つは鍵がかかっていた。開いた二つのロッカーの中には、それぞれ一つづつ箱が入っていて、ダイヤル式の鍵がかかっている。私の誕生日――、は駄目。柊の誕生日――、も駄目。恋のダイヤル――、は分からないし、城の電話番号も関係なかった。


 他に、ピンとくる番号はないかなぁ。というか、何桁の数字を合わせれば良いのだろう。全部で四桁なのだけど、うーん、語呂合わせかな? とりあえず、柊が好きそうな下ネタ系の番号でも入れてみよう。それが駄目なら、私の一押しの語呂合わせだ。


「八、八、一、八」


 つまり、パパイヤ。一つ目の箱が開いた。お父様、こんなに嫌われているの? ただの子煩悩なオジサンだよ? 娘と一緒に入浴がしたいという理由だけで、こっそり忍び込めるように城のワンフロア全てを風呂にしたような人だよ?


 うん、嫌うわ。


『パンパカパーン! 見事この箱を開けることができた姫様に、ルールを説明したいと思います。ルールはとても簡単です。隠された数字を探し出し、それを順番通りに足して引いた回数だけ、ドアをノックすれば脱出することが出来ます。外見だけでなく、内面も磨けるようにと企画してみました。この柊、五分で思いついた渾身のゲームに胸が高鳴っております。なお、このメッセージが再生し終わった時には――』


 まさか、爆発!? 箱に入ったテープレコーダーが勝手に再生を始めて、一方的に要求を告げたら爆発してしまうという映画でよくある、あのオチ!?


 まいったなぁ、こういう時の対処法、私はまだ勉強していないのだけど。こういうのって、家庭科の授業で教わるんでしょ? 私は知っているんだ。卵は電子レンジに入れると爆発する。その対処法と同じだって。だってあのクソ執事が今度教えてくれるって言ってたもん。


「あれ絶対嘘だ!」


 教えてくれることも、その内容も、絶対に全部嘘だよそれは! そのぐらい私でも解るっての。だいたい家庭科の授業だったら、電子レンジに入れる前に教えてくれるでしょ。入れた時点でもう終わりだよ。そして、このテープレコーダーも箱を開けた時点でもう終わりなのだ。対処法なんて、窓から放り投げるくらいしかない。


 そして、この部屋に窓はない。おわた。


「――逆再生されます」


 長い沈黙からの、それに何の意味があるのパターン!


 耳障りな音声を遮るように、そっと箱の蓋を閉めた。なんかもう、面倒くさくなってきた。泣いたら許してくれないものか。私はいつだって、どんな時だって泣けるよ。喚くようにだって泣けるよ。姫の涙は軽いから。お父様には通じるから、若干調子に乗ってます。


 ……でもまぁ、誰も居ないところで泣いたって、虚しいだけだからなぁ。仕方がない。これは厚意だと受け取って真剣に取り組んでみよう。


 先ずは――、山勘で三回ノックするところから始めよう。何故三回なのか。これが、私の一押しのポイントである。


「いちにいさん! いちにいさん! イノシン酸は、美味しいな!」


 明らかに三回以上はノックしているけど、この際全く気にしない。どうせ開かないと思っているから。リズム感重視の選択をしてみたのだ。それは何故かって? それはね、私は知っているのだ。……鍵のかかったロッカーの一つから、息遣いが聴こえることを!


 そりゃ、見られているんなら、テキトーな事をやったって開かないよね。


「こうなったら、私の桃色脳細胞を活性化させ、忍者に対して色仕掛けを行うしかないのではないか。灰色の脳細胞なんて搭載されてないのだから、いくら考えたって無駄だと思うの。……そこんことろ、どう思う?」

「……」


 返事がない。ただの覗き魔のようだ。


「まぁ、いいや。仕方がないから真面目にやろー。えっと、棚にはー、何もない。ロッカーの二つは相変わらず開かないし、もう一つの箱の番号は何だろう?」


 ガチャガチャと、鍵をいじって探る姫。気付いたことは、これ鍵じゃない。ゆる姫、呆然の短歌。


「これ知恵の輪じゃん! 上手くやったら簡単に取れたんだけど! こういうのは最初っから言ってよ!」


 返事はない。やっぱり覗き魔のようだ。


「……つまんないなー、反応がないと。で、いったい何が入っているのか――、あれ? 紙? 書いてあるのは、『一五◯三◯一四◯四』か」


 ……え、これに別の数字を足すの? この桁、お金に直すと一億円超えだよ? 両手の指では数え切れないよ?


「姫、まだこの桁の算数は出来ないと思う」


 せめて紙とペンが欲しい。暗算は無理。甘やかされて育った姫の計算力を舐めないで欲しい。自慢じゃないが、忍者が思っているよりも甘やかされているんだからな!


「――丸に注目するのです」


 あれ、なんか声が聞こえる。


「――三つある丸に、注目するのです」

「もう一声」

「――丸の中に記号を入れるのです」


 訂正、忍者もだいぶ甘やかしてくれている。


 しっかし、答えは四、かぁ。めちゃくちゃ惜しかったじゃん。私、よく三って数字を出せたよね。あと一つ上だったら完璧だったじゃん。


「おっけー。じゃあ、後はノックすれば良いわけだね。そしたら出られる。……でも、中にいるのにどうやって外から鍵をかけたの?」

「……」


 返事はない。ただの覗き魔に戻ったようだ。


 まぁ、そんな忍者に付き合っている義理はないし、私もそろそろお腹が空いてきた。さっさとノックして、お小遣いをもらって城下町へご飯を食べに行こうかな。艶々になった肌を、見せびらかしに行くのだ!


「こん、こん、こん、こんっと」

「おめでとうございます!」


 そうして開けたドアの先には、忍者が居た。


「……あれ、ロッカーに居たんじゃないの?」

「え? この部屋には、姫様以外は誰も居ませんよ? 外から警護していたので、誰も中には入れていません」


 ……あれ?


 念の為、忍者が持っていた鍵でロッカーを開けると、当然のことのように中には誰も居なかった。


「……あぁ、把握。またお母様の陰陽術だ」

「あの人、恐ろしいですよね」


 宇宙に旅立ったお母様は、規格外の存在である。憶えておくように。 

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