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【完結済】夢解く見習い除霊師と桜の鬼  作者: 結月てでぃ
夢解く見習い除霊師と桜の鬼

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6.試験開始

「さて皆さん」

 軽やかな音を立てて、山茶先生が教卓に学級簿を置いた。すると、元々静かだった教室がさらに静まりかえる。沈黙が耳に痛い程だ、と騒がしい教室に慣れていた誉はそう思う。もうすぐで夏休みに入ろうかという頃になった今でも、まだ慣れることができない。

「そろそろ期末試験の時期ですね」

 期末試験。今日三度目のその単語に、誉の心臓が跳ねた。

「除霊学を学んでいる皆さんには、実践課題を行っていただきます」

 木々がざわめくような、微かな声が教室に広がる。だが、先生が片手を上げた途端、静まり返った。先生は教卓の右側に置いたプリントの山を手に取る。

「うちの学びを教わろうと思い、来られた方には必ずやり遂げることができます。焦らず、普段通り、自然体で行ってください」

 一枚一枚、生徒にプリントを配っていく。その際、生徒の手の甲に判子を押しているようだった。

「今回、初めて行う方も頑張ってくださいね。落ち着き、自分が信じるものの教えに従えば、必ず成功します」

誉の手にも判子が押された。近くで見てみると、微かに光を放っている。テーマパークに再入場する時に押される判子に似ているように見えた。

自分の机の上に滑るように置かれたプリントを手に取る。そして、三行目まで読んだ誉は思わずえっと声を出してしまった。

慌てて口に手を当て、周りを見渡す。プリントが行き渡った右側は涼しい顔で無視をするか、苦笑している。行き渡っていない左側はなんだ? と不思議そうな顔で誉を見ている。

「あ、あの……」

 自分のアホ! と誉は心の中で叫んだ。だが、誉に続くように言葉を発する者がいた。自分の列の一番後ろにいる岸辺だ。

「質問は説明の後で受けますので、今はお静かに」

「…………はい」

 先生がプリントを配る微かな音以外は許されない、限りなく無音に近い時間。多分、この教室の中では誉と岸辺の二人だけが焦っている。早くこのプリントに書いてあることを説明してほしい、少しでも安心させてほしい、そう思っていた。

「それでは、説明します」

 誉は、汗ばんだ手を強く握りしめ、耳を澄ませる。

「プリントに書いていますが、今回の試験内容は実技です。幽霊、妖怪、狐狸、この中のどれか一つを祓ってくること。できる限りでいいです。自分の実力をよく考え、怪我のないよう、周りの迷惑にならないように行ってください」

「はい」

 皆の自信満々に返事をする中、誉は無言で先生の顔を見上げ続けていた。誉よりも後ろの席なので、岸辺がどうしているのかは分からなかったが、声は聞こえてこなかった。

「方法はどのようなものでも構いません。初めての方は周囲の方々に相談してもいいです。ですが、最終的には自分自身で考え、自分に合ったやり方を見つけてください」

机の上でゆるく握った手に汗が滲む。教室の中がだんだん暗くなっていく気がする。

「尚、期間は二週間です」

 不安がこめかみから頬を流れ、胸に落ちた。

「それでは、質問のある方はどうぞ」

 何を訊けばいいのか、誉には分からなかった。本格的な授業は、きっと二学期からなのだろう。一学期では、除霊学も民俗学的な話ばかりだった。

 手に嫌な汗が滲んできた頃、

「先生」

 と一人の生徒が手を上げた。

「どうぞ、三和くん」

「はい」

 先生に促され、三和は椅子から立ち上がった。

「この試験には合格、不合格があると聞いています。どういった判定で審議されるのか、教えていただけませんか。私は除霊しました、と口だけで報告する人がいた場合、その人は合格することになるのでしょうか」

 誉の胸が跳ね上がった。口だけで報告する人。名前は言っていないが、それは岸辺のことではないのだろうか。この教室で学んでいる者は皆、三和の発言に内心穏やかではいられなかった。隣の席の生徒と顔を見合わせる者、三和を見上げる者、岸辺を振り返る者までいた。

「先程皆さんの手の甲に、判子を押しましたよね?」

「はい」

 全員、微かに光を帯びている判子が押されている手を見る。

「その判子が、貴方たちの監視員のようなものです。無事除霊することができたら、何らかの印が出るはずです。ですので、私たち教員を誤魔化すことはできません」

この小さな判子に、なにか仕掛けがしてあるのかな、と誉は凝視した。だが、分かるはずもなく、すぐに見るのを止めた。

「他に質問はありますか?」

 先生は、静まり返った教室を端から端まで見渡す。

「ないようなら、これで終わります。もし、後で訊きたいことができた方は、私の方に直接来てください」

 そう言うと、名簿を持って教室から去っていってしまった。誉は、誰もいなくなった教卓を、一限目の教員が来るまで、ぼんやりと見つめ続けた。

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