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【完結済】夢解く見習い除霊師と桜の鬼  作者: 結月てでぃ
凍える雷と茨の鬼

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22/26

1.雷光と呼ばれた人

 室内が光った後にすぐ、雷鳴が轟く。朝から降り続いている雨は、止みそうになかった。

「こんなに降ったら、本当に農作物が痛みそうですね」

「そうじゃな」

 夕飯に清水を飲んだ鬼神さまは、カゴいっぱいの大きさになっていた。

 もう一度雷が落ちる。鬼神さまは、小さく息を吐いてカゴの中から出てきて、誉が横になっているベッドの上に跳びのってきた。顔の近くに下りてきた白い猫に、誉は目を丸くさせる。

「雷は嫌いですか?」

 だが、自分の胸辺りで丸まった姿を見て、目を細めて微笑む。背中を撫でてから、ブランケットを少し上げた。

「らいこうは嫌いなんじゃ」

 その言い方に、そういえばそういう名前の人がいたような気ぃする、と誉はうつらうつら思った。

「明日、岸辺くんに訊いてみよ」

 ***

「それなら、源頼光じゃないかな。古い読み方をすれば、らいこうになるから」

 ハードカバーの小説から顔を上げた岸辺が、そう教えてくれる。

「岸辺、おはよう!」

「あ、三和。おはよう」

 珍しく、騒々しく入ってきた三和が、ドアを閉めることもせずに岸辺の元に一直線に向かっていく。

「試験合格したんやってな!」

 挨拶をさせる間もあげず、机に手を置いて訊く。慣れてきたのか、岸辺は本を机から上げただけで、背を反らすことまではしなかった。

「ち、小さいやつだよ。手が触れただけで消えちゃったし。もしかしたらやっちゃいけないやつだったんじゃないかって……」

「いいやつだったら、成仏させたのかもしれへんなあ。でも、ちょっとコツをつかめたやろ?」

「え、いや、そんな、全然……」

 照れたように言う岸辺を、三和は笑顔で見つめる。本当に、浄霊師マニアだ。自分の時は信じられないという対応しかしなかったくせに、誉は頬を膨らませた。

「岸辺も夏、一緒に稽古せえへん?」

「稽古?」

「俺、毎年夏は山で稽古してんねん。でも一人だと味気ないさかい」

「じゃ、じゃあ……行く」

 岸辺が頷くと、やっと三和は誉の方も向いた。

「日諸祇も行くよな」

「行ってほしいんなら行ってあげるで」

 という言い方をすると、三和はなに拗ねてんだよと眉を曇らせたが、すぐに厭な笑顔に変わる。

「あ、伊瀬先輩と多谷先輩も参加してくれるらしいから」

「嘘! さっ、先にそれ言ってや三和ー!」

 伊瀬の冷ややかな顔を思い出した誉は、情けない声を出した。

 ***

 夏だというのに、吹雪が降っている。

「お前もか」

「はい」

 そう誉は思った。

 夏だというのに、伊瀬は全身真っ黒だった。男は黙ってブラック! といったところなのだろうが、こちらからすると喪服だとしか思えない。

「あの、他の人は……?」

「まだだ」

 人を誘っておいて遅いなどとのたまっているが、まだ約束の時間の二十分前だ。

「今日はええ天気ですね」

「そうだな」

 あの事件以来、会話をする機会もなかったため、誉は気まずい思いを感じていた。

「おはよーさーん。どないしたん二人共。地蔵さんみたいやで?」

「地蔵さんですか」

 ベンチの隣で二人して立っていたら、三和と岸辺を連れた多谷が茨木駅の方からやって来た。後ろの三和と岸辺の顔が引きつっている。

「お前、なんだその服は」

「ジャージ」

「……まあ、ジャージだが」

 左胸の辺りに多谷と刺繍された、小豆色のジャージだ。世間的に芋ジャーと呼ばれる類のジャージなのだが、恥ずかしくはないのだろうか。

「男は黙ってブラック! ですね、先輩」

「あ、ああ」

 小さな声でそう言うと、額に手を当てている伊瀬は頷いた。

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