4.さ迷える魂
朝の読経は東堂へ、夕のお勤めは西堂へ。某は日、其方は月。我らはまるで、対のようだ。誰よりも近い存在であった。
それを羨んだ輩どもが、罠を仕掛けよった。嫌いあうように、憎みあうようにと。
某は輩どもを疑い、其方を信じた。だが、其方は輩どもを疑わず、某を信じてくれなんだ。
月光坊どのよ、どこにおる。某を置いていってしもうたのか、月光坊どのよ。
無念だ、無念だという声に、誉は目を開けた。
「夢、かな」
だが、目覚めた場所は自分の部屋ではなく、全く知りもしない場所だった。上半身を起こし、辺りを見渡す。
「今世さまー?」
口の横に手を当てて叫んでみても、優しい微笑みをした鬼神さまは姿を現さない。自分の体を探ってみても、いない。
「変やなあ、いつもいはるのに」
繰り返し、繰り返し同じことを言う声が聞こえるばかりだ。恐ろしげな声だったが、このまま座っているだけにもいかないのだろうと、誉は立ちあがる。なだらかな坂を上がっていくと、そこには枯れた草木に、朽ち果てた二つの社だけがあった。
その内の、右側から声が聞こえてくる。中には、目じりの垂れた、優しそうな目をした僧侶が座っていた。
月光坊、月光坊どのよと嘆き悲しむ僧侶の姿に、誉は首を傾げる。
「どないしたんですか?」
と声をかけてみても、当然伝わらない。ただただ泣くばかりである。
「鏡もないし、よう分からへんなあ」
もう一度首を傾げると、視界が回り、暗転した。




