表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢解く見習い除霊師と桜の鬼  作者: 結月てでぃ
夢解く見習い除霊師と桜の鬼
10/12

10.十年の想い

「この通りじゃ」

 チン、と刀を鞘におさめる音が聞こえる。草の上を歩く乾いた音が聞こえる。姿がこの目で見える。

 そしてなにより、鬼神さまに触れることができる。先程の、小さな手の感触は、夢でもまやかしでもない。現実のものだ。

「儂は守ってもらわんでも」

「鬼神さまあーっ!」

 両手を上げて、鬼神さまの元へ駆けていく。ぎゅうぎゅうと強く抱き締めると、鬼神さまは誉の腕の中で暴れた。

「鬼神さま、鬼神さまっ、会いたかったです! 俺っ、ずっと!」

 鬼神さまは頬ずりすると、ほんのりと甘い花の香がした。さらに激しく手足を動かし、逃げようとする。

「小さい頃から好きなんです!」

「ええい鬱陶しい! 離さんか!」

 顔を小さな手で押される。その手を優しく包むと、ぽっと誉の右手の甲が光った。

「えっ、う、うわ!?」

 慌てて鬼神さまを下し、左手で押さえてみても、光は消えない。それどころか、どんどん膨れ上がってくる。やがて光は収束していき、一つの光の塊になった。

「なんや……これ」

 触れても、感触はしない。勿論感電もしない。もう一度触ってみようと思い、手を伸ばす。だが、光の塊はふーっと誉から離れ、上空へ急上昇していく。そして高校のある山の方へ真っ直ぐに飛んでいってしまった。

「い、今のんが、先生の言ってたサイン?」

 光が向かって行った方を見ながら、誉は呟いた。鬼神さまは、目を丸くし、口元に袂を当てて見ていた。だが、すぐに我に返って誉から飛びずさった。

「あっ」

 猫のようにしなやかに離れた鬼神さまは、慌てて岩の中へ飛び込んでいこうとする。

「待って、鬼神さま!」

 誉は夢の中と同じように手を伸ばす。

「昨日の夜、僕の部屋に来てくれたのは、あなたですか?」

 夢の時とは違い、今度は手が握れる、触れ、止めることができた。

「教えてください、鬼神さま」

 夢でも幻でもなく、現実で鬼神さまと会うことができた。

「……そうじゃ」

 それだけでも、十分すぎる程に嬉しい。

「俺、あなたに憧れて、浄霊師になるために勉強してるんです」

「浄霊師になろうと思ったきっかけが鬼のう……おかしいないか?」

「おかしいないです。だって、俺っ、小さい時にあなたを見たんです! さっきみたいに、なんや白いふわふわしたものを切って、俺を守ってくれました!」

 鬼神さまの手を、両手で包みこむ。あの時、頭を撫でてくれた手だ。こんなに小さかったんだと、今になってから知った。

「鬼神さまのおる、この町が好きです」

 鬼神さまの指にそっと唇を寄せる。唇に当てた手は、冷たくなく、温かい。

「俺は、鬼が怖いとは思いません」

「そうか」

 風が吹き、木がざわめく。先程とは違い、白い花ではなく緑の葉が散る。春の柔らかい緑とは違い、夏の青々とした緑だ。鬼神さまの髪に落ちた葉を、指で摘まんで取る。

「俺のパートナーになってもらえませんか?」

 今まで、どんな女の子にもしたことがないような、優しい笑顔で話しかけた。すると、鬼神さまは驚いたように誉を見上げてきた。

「それは……できん」

「えっ、ど、どうしてですか!?」

 眉を寄せ、手をそっとはずさせられてしまう。

「儂は、この町を守らねばならんのじゃ。ここを離れるわけにはいかぬ」

「この町を、ですか」

「この町だけを、じゃ」

 首を振った鬼神さまは、誉の頭に手を置き、撫でた。

「どうしても、ダメですか?」

「大切な者と、約束をしたんじゃ。すまぬが、諦めてくれ」

 鬼神さまはそう言い切った後、黒い岩の中に入っていってしまった。そして、その日はそれっきり出てきても、話してもくれなくなってしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ