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繰り返す日常の中で。  作者: 理春


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第7話

「建前の会話が嫌いなんです。」


そこそこの関係値を築けていないと言えないような個人的意見を、彼に言い放った。

受け止めてもらえるはず、という甘えではなくて、どう思われようと構わないという、投げやりな気持ちだった。


「そっかぁ・・・。俺は嫌いという程でもないけど、手っ取り早くお互いを知りたいなら不要かもね。」


イチャイチャするのをやめてから、引き続きソファにお互いだらけながら会話していた。


「・・・けど基本的な質問が必要だってことも、わかってるつもりです。」


「ふぅん・・・というと?」


「例えば・・・どういう職業の人なのか、とか。」


「ああ・・・まぁそれはそうだね。」


「卯月さんがある程度良識ある人だとやり取りで解りましたし、何で俺と関わりたいのかは謎だったので、デートして見極めるしかないなぁと思ってました。」


「そっかそっか。・・・結局何となく関わりたいなぁと思ったっていう、ふわっとした答えしちゃったけどね。」


「・・・ええ。」


卯月さんは俺の話を淡々と聞きながら、同意したり自分の意見を話したり、終始穏やかに時間を過ごしてくれた。

その後またゲームの話になって、仕事の話になり、小腹が空く時間になったので、コーヒーを飲みながらおやつをつまんだ。


「灯はお酒強い?」


「ん~・・・晩酌は時々しますけど、強いのかどうかはわかんないです。うちの会社、半強制的な飲み会とかもないですし。」


「そうなんだ。・・・今度居酒屋か、バーにでも飲みに行く?」


「酔わせてどうするつもりですか?」


「ふふ、何もしないよ。今だって二人きりなのに何もしてないでしょ?」


そう言いながら、また俺の髪を少し撫でる。


「キスは何もしないに入るんですか?」


「・・・だってしてほしそうだったから・・・。」


「俺が要求したらするんですか?」


「ふふ・・・どうかなぁ・・・。さっきも言ったけど、エッチはしないよ。」


「・・・」


じっと見つめ返すと、彼はまた堪えるように口元に手を当てた。


「好きな人の代わりになる程、お人好しじゃないよ。」


悲しそうでもなく、悔しそうでもなく、卯月さんは当然のように表情を変えずに言った。

推し量れない人だ・・・。


「灯の個人的な話が色々聞きたいなぁ・・・」


お菓子を一口放り込んで、ポリポリ咀嚼音をさせながら、卯月さんは頬杖をついた。


「個人的・・・」


「うん。生い立ちとか、何でも。」


「生い立ち・・・・」


「・・・・・そんな悩む?」


恵まれて生きてきたが故に、何のドラマ性もない20数年を、面白く語るべきだろうか。


「どこにでもある平凡な家庭、月山家の長男として生まれた少年は、ある時自分の本当の出自を知ってしまう・・・実は養子で、自分は裏社会で有名な海外マフィアの息子だったのだ・・・」


「・・・・・ほう!笑」


卯月さんは笑いを噛み殺しながら続きを待った。


「そして平凡な日常が或る日を境に一変してしまう・・・。謎の組織から狙われた月山少年は、マフィアのボスの正当後継者であったがために、ヒットマンに日夜命を取られそうになるのだ!・・・・そしてその最中、不思議な少女と出会う・・・」


「・・・・灯、シナリオライターにもなれそうだね。」


「そんな・・・・こんな設定二番煎じ、三番煎じですよ・・・。」


「ワクワクしたけどなぁ・・・」


「目の肥えてる業界の人たちは、こんな設定で一本作ろうなんて言ってくれませんよ。」


「ふふ・・・」


しょうがなくコーヒーに口をつけると、彼は尚も頬杖をついて俺を覗き込むように見た。


「俺も特にドラマティックな人生じゃないから、面白い話にしようっていう思い付きが好きだった。」


一つため息をついて、彼を満足させるかどうかはわからないけど、正直につまらない生い立ちを語ることにした。


「・・・・冒頭でも言った通り、ごくごく普通の一般家庭の長男として生まれました。

両親と、3つ離れた妹がいます。

さっきチラっと話した従弟は、母の妹の息子で、今は大学生です。

小さい頃は近所に住んでいたので、3人兄弟のように毎日過ごしてました。

本当に語る程のことなんてないですけど、これでも幼少期から勉強は出来る方で、優秀だと言われてきましたけど、T大を受験して落ちたところから、少しずつ精神的にずれていく感覚を覚えたと思います。」


「T大・・・」


「・・・卯月さんはT大卒って言ってましたっけ」


彼とのやり取りを思い出して尋ねると、静かに頷き返した。


「そうだね。生物学専攻してて、卒業後高校の生物の先生になったよ。」


「・・・俺はそんな優秀じゃありませんでした・・・。

滑り止めで受かった私立に通って、自分が思い描いていたようなキャンパスライフが送れなくて、贅沢にも時間を無駄にするように、惰性で大学に通ってました。

そして当時、結構な人数の飲み会に誘われて、まだギリ未成年だったんですけど、先輩方にだいぶ飲まされたのか、ほぼ記憶飛んでて曖昧なまま

気付いたら先輩のどなたかの家にいて、3、4人くらいの男性にまわされてました。」


「・・・・・それは・・・・」


「何となくしか記憶にないので、襲われてるなぁっていうのがわかるくらいでしたけど・・・。

翌日無事帰宅して、その後も特に何もなく過ごしてたんですけど、ある時から、俺が男を喰いまくってるっていう噂が、学部内で流れるようになりました。

不本意ではありましたけど、学内の人でないにしろ、男遊びはそこそこしてた方なので、まぁ仕方ないかな、くらいに思ってました。でも何となく居づらくなってきて・・・

その後はまったく別件ですけど、知らないおじさんにストーキングされて、被害届を出すハメになったり、いとことそういうことしてたことが親にばれて、家の中でも気まずくなって、その年は本当に悪運に飲まれてました。

それで引きこもるようになって、学費ももったいないし中退して・・・

これじゃあ流石に家族からしたらお荷物だと思い至って、プログラミングの勉強始めたんです。

ゲームは好きだし、携われる仕事につければ御の字だなぁくらいで・・・。

それから2年間くらい勉強して、就活して、運よく今の会社に拾ってもらえました。

それから数年程SEとして何とかやってます。」


俺が話し終えると、相変わらず表情を変えずに聞いていた卯月さんは、少し口元を上げて微笑んで見せた。


「ありがとう、聞かせてくれて。大まかだけどよくわかったよ。」


「そうですか、良かったです。」


またカップを手に取ると、もうコーヒーが尽きていることに気付く。

ソファを立ってすぐ側のキッチンに入ると、彼はポツリと呟いた。


「・・・俺も大して話せる内容の生い立ちじゃないんだよなぁ・・・」


「・・・別に自分が話したんだから、話してくれなんて強制しませんよ。」


「そう?」


彼の人となりが掴めないと思っていたけど、今までの言動で、まぁまぁ強かな人かなとは思っていた。


「灯は妹がいるお兄ちゃんなんだねぇ。」


「そうですね。」


「妹さんと似てる?」


紅茶を淹れて戻ると、卯月さんは少しウェーブがかった髪の毛を揺らして小首を傾げる。


「・・・・まぁ・・・どうですかね・・・・。ん~・・・・たぶん似てる方かと。」


「そっかぁ・・・。俺はね、双子の弟がいるよ。」


「・・・え・・・卯月さんみたいなイケメンが二人いるってことですか?」


「ふふ・・・そうだね。」


彼はスマホをポケットから取り出して、さっと写真を見せてくれた。


「こないだ幼馴染が帰ってきた時に、一緒に撮った写真。」


そこには何となく見覚えのある外国人女性と、卯月さんが二人分写っていた。


「・・・へぇ・・・」


「弟はちょっと苦労が多くてドラマ性のある生い立ちだけど・・・俺は至って普通なんだよねぇ。普通に好きなことを頑張って勉強してきて、まぁ運が良かっただけかもしれないけど、それから数年教師して、その後縁あって大学に呼んでもらって、つい最近准教授になったよ。」


「・・・そうですか・・・。あの、卯月さんっておいくつですか?」


「28だよ。」


「そうですか。」


やっぱり少し年上だった。


「んでもあんまり普通じゃないところを上げるとしたら・・・そんなに誰かとお付き合いしてこなかったことかなぁ・・・。彼女がいたことあんまなくて・・・ついにこの間、母親からさ、『あんたいい人いないの?』って聞かれちゃったんだよ。」


卯月さんはバツが悪そうに頭をかいた。


「まぁ・・・20代後半って、男女問わずそういうことを親から聞かれる年頃かもしれませんね。」


「だねぇ・・・。」


「・・・いい人・・・・。いい人いないんですか?」


世間話の延長のように尋ねたけど、卯月さんは小さく息をついて、背もたれに体を預けた。


「弟ともそういう話をしたんだけど・・・自然と結婚したいなぁと思える人と巡り合うって、かなり奇跡的なことだから、早々に出会えるもんじゃないよねぇ・・・。」


「確かにそうですね。」


シン・・・とそれから少し黙って、お互い何かを悶々と考えながらも、俺はまたテーブルのお菓子を口に入れた。

しばらくモグモグしていると、いつからかまた彼は俺を盗み見るようにじっと眺めていた。


「・・・何ですか?」


「ふふ・・・ううん。モグモグしてる姿、可愛いなぁと思って。」


からかうように微笑みながらも、嬉しそうにまた俺の頭を撫でた。



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