第4話
デートってどうするものだっけ・・・?
卯月さんとの約束当日、休日で天気も快晴。
ディナーでなくランチに誘うあたり、彼は下心のない初手デートを心得てるのかもしれない。
俺はというと・・・身支度しながらも、姿見の前でファッションショーをしていた。
別に迷う必要もないか・・・
理人と会える時は、理人が好きそうなふんわりしてて、優しそうなイメージを抱く色味やファッションを心掛けている。
年上相手には心底甘えたい理人は、気心知れた俺相手だと、終始子犬のように可愛い。
けれどよくよく考えると、やっぱり親戚だからか似ているもんで、俺も理人も、年上相手だと甘えたいし、年下相手だと甘やかしたい、という精神の持ち主だ。
俺はどちらかと言えばMなので、イケメンで自分よりも体格の大きい男性を蹂躙したいなんて欲はない。
それに恐らく卯月さんは年上だろうし・・・
いくつか手に取って着替えたけど、白シャツに生地の薄いパンツという、シックだけどラフな着こなしに落ち着いてた。
まだまだ蒸し暑いし、通気性重視で・・・。
深夜のコンビニ、距離のある夜のホーム・・・いずれも薄暗い場所で遭遇したためか、卯月さんの綺麗なお顔を近距離でハッキリ見てない。
明るい昼間に会うとイメージが違う人も多いし、何よりファッションや髪型で人はだいぶ印象が変わる。
最初に拾った鍵を渡した改札口では、億劫な出勤時だったために気疲れしていて、正面にいたにもかかわらず彼を意識せず、見た目の印象をまったく記憶していなかった。
何度か短いやり取りを繰り返して、見た目以外で何となく受けた印象としては・・・
・礼儀正しくて、人並みの気遣いが出来る
・非常識な発言は特になく、こちらに合わせながら会話が出来る
・図々しさを感じさせず謙虚で、自分語りや自慢をする人でもない
それらは人としてかなり出来た人に思える点であるけど、そもそも知り合って間もない頃は、猫を被っている可能性もある。
というかそういう人が大半だろうと思う。
けど俺は建前での会話や気遣いが苦手なので、わかりやすく男性が恋愛対象になると発言していた。
デートに誘ってくれているのか、という問いに、彼はもちろんそうだ、と答えた。
しかもかなり自然に、恥ずかしげもなく堂々と。
ああいう質問に対して、そうだと率直に答えられる精神として、どういうことが考えられるだろう。
一つ、美男子だし、落とせない相手など存在しない、という驕りから。
二つ、単に聞かれたことに素直に答える性格の持ち主か。
三つ、少し天然なタイプの人で、同性愛に偏見もなく、誰にでも積極的に関わる人か。
恐らくはその三つの中のどれかであろうと思う。
個人的には三つ目だと非常に質が悪い。
本当に自覚のない天然タイプの人は、親しくなって距離感が近くなり、こっちがその気になっても、「え?最初から友達のつもりだけど・・・」みたいな拍子抜けた答えをされかねない。
けれど今回、卯月さんの場合だと、その線は薄いように思える。
彼はハッキリと、デートのつもりで誘っていると答えた。
それは、好意があってお誘いしているので、こちらのことも意識してほしいという意志表明だ。
軽い冗談を言う人にも見えないし、今までのやり取りからも、そんな意地の悪いことをするようには思えない。
もしくはただ単に、二人っきりで出かけることはデートだろうと、俺がお茶目に発言したと思い、そうだよ、と返したか・・・
予想が全て杞憂だったら・・・普通に仲良くなってただの友人で終わるな・・・
「ん~・・・それとも、かなり用意周到でじわじわ落としにかかる人なのかな・・・」
既に駆け引きは始まっているのかもしれない。
身支度を終えて家を出た俺は、そんなことをあれこれ考え巡らせながら、数駅先の待ち合わせ場所へと到着した。
デートプランは彼にお任せしているので、付近の店などは調べていないけど・・・
腕時計を確認しつつ、駅の出口を抜けた近くのカフェの前で、若干ソワソワした気持ちを抱えて待った。
すると程なくして着信が入った。
「もしもし」
「あ、月山さん、お待たせ。左の道路脇に停車してるから、こっち来れる?」
「・・・あ、はい、行きますね。」
パッと人並みの先に見えた車道で、以前コンビニで会った時に見た車から、さっと卯月さんが降りて来るのが視界に入った。
「こんにちは、お疲れ様です。」
開口一番どういう挨拶が適切かわからなかったので、会釈して何となくそう切り出した。
側に寄って見上げた彼は、奇しくも俺と似たような格好をしていた。
けれど何だろう・・・綺麗な顔立ちも相まってか、ファッションモデルのような佇まいだ。
というかなんか・・・キラキラしたものが周りに飛んでいるようにすら見える。
本物のイケメンはこう・・・眩しいという表現が適切なんだな。
「ふふ、お疲れ様。・・・月山さんそういうオーバーサイズなシャツ似合うね。今どきのファッションに詳しい?」
「え?いえそんな・・・特に興味ないジャンルの一つです。・・・卯月さんこそ・・・」
褒めてもらったので素直に褒め返そうと思ったけど、まるで恋愛シュミレーションゲームに出てくる二次元キャラのような卯月さんに、果たして素直に容姿を褒めていいもんだろうかと思った。
イケメンだの芸能人のようだの・・・きっとそんなの言われ慣れているだろうし、何だったら実はホストしてますって言われても何ら違和感がない。
それ程の人はきっと、見た目で判断されることや褒められることは、もはや自分のステータスではないと思っているだろう。(この間2秒)
「あ~・・・」
「?どうかした?・・・・・もしかして・・・服似合ってない?」
「えっ!?そんなわけないです。・・・えっと、素直に褒めても社交辞令だと思われてしまうかなぁと・・・」
「ふふ、そっかそっか。じゃあ本心で褒めようとしてくれてたんだね、ありがとう。さ、どうぞ。」
昼間に会っても変わらず爽やかな笑みを返す卯月さんは、スマートに助手席のドアを開けた。
「・・・ありがとうございます。」
キラキラした優し気な瞳は、ウインク一つしたらどんな女性でも落ちてしまいそうだ。
しなやかな手足が車に乗り込んで収まっても、白い肌が見える手元が気になってしまう。
外は残暑の残る気温、涼しい車内は居心地がいい。
シートベルトを締める彼に倣って、カチっとベルトを通した。
チラリと視線を向けると、ハンドルを握りながら卯月さんはニコっと微笑み返した。
う・・・・イケメンの笑顔って攻撃力すごいな・・・
「予約入れてるから、前に話してた店に向かうね。」
「はい、ありがとうございます。」
そうしてゆっくり安全運転で走行し始め、彼は気を遣うように言った。
「月山さん車酔いしやすいタイプだったりしない?」
「ああ・・・平気です。乗り物酔いは特に。」
「そっか、なら安心。気分悪くなったらすぐ言ってね。」
「はい。」
車の走行音と、僅かな振動を感じる助手席で、何を話そうか手をこまねいた。
「・・・月山さん」
「!はい」
「緊張してる?」
「え・・・いえ・・・あ~・・・」
これじゃあまるで、俺がコミュニケーション下手な感じが・・・
アワアワしててもしょうがないのに・・・
すると卯月さんはまた柔らかい笑みを落として言った。
「俺は緊張してる今。何だろうなぁ・・・あんまり助手席に誰かを乗せたりしないからかな・・・。あ、運転が苦手で緊張してるってことじゃないからね。」
そう言って少しおどけて見せる彼が、やっぱり気遣いを回せるいい人だと感じる。
俺は何となく応えるように笑みを返した。
「・・・どうして俺を誘ったんですか?」
「え・・・」
「卯月さんモテますよね、きっと。性別関係なく人に好かれやすそうですし。」
「・・・ふふ・・・そうかなぁ・・・」
「どうして俺なんですか?・・・・正真正銘男ですよ、俺。」
「もちろん男性なのは最初からちゃんとわかってるよ。」
「・・・・」
質問の答えを待つように俺が黙ると、彼は依然として前を見据えて、特にアクセサリーをつけているわけでもない、真っ白で綺麗な指を、ハンドルに持て余すようにトントンした。
「簡潔にどうしてか答えるとしたら、また会いたいなぁって何となく思ったからかな。ほら・・・直感が働いて、この人とは気が合いそうだなぁって感じるとさ、どうにかして仲良くなりたいなぁって思うでしょ?」
「・・・・いえ・・・そういう人と巡り合ったことなくて・・・」
「そっかぁ。俺も・・・今回は何か違う気がして・・・もしかしたら初めてのことかもしれないけど・・・。ん~~・・・語弊を恐れずに、もうちょっと率直に言ってもいい?」
「・・・はい」
卯月さんは赤信号で停車して、ハンドルに片手を添えたまま、またその綺麗な瞳を向けた。
「最初に駅の改札口で会った時・・・月山さんの表情を見て、なんか寂しそうな雰囲気だなぁって思ったんだ。」
「・・・・・・・寂しそう・・・ですか」
「うん・・・ごめん、上手く言葉で表現出来てないから適切じゃないかもしれないんだけど・・・。ん~・・・なんていうかなぁ・・・俺月山さんの言う通り、人から好かれやすくはあると思うんだ。でも、別にそれをどうも思ってなくて・・・自分がどうだとか、特に気にならずに生きてきたんだよ。」
やがて青に変わった信号を見て、彼はまたゆっくりスピードを上げる。
「それは他人に対しても同じでさ、あんまり興味を深く持って関わる友人もいないし、恋人がいたことは何度かあったけど、『思ってた人と違う』みたいなことを言われて、別れることが大半だったんだ。けどそれに対してもどうとも思わないというか・・・そこに関しては俺が悪いんだけど・・・。けどその・・・月山さんに会った時、何となく興味を引かれたというか、関わってみたいなって思ったんだ。具体的に説明出来ないけど・・・。」
空を掴むような彼の言い分を聞いて、本当に何となくで誘ってくれたのだとわかる。
この場合、手っ取り早いのはどういう対処だろう・・・。
「そうなんですか。フィーリングってことですね。」
「あ~!そうだね。」
仲良くしたいと感じたという理由は、寂しそうな人をほっとけないとか、側にいたいとか、優しさも含まれているのかもしれない。
それがそうなら、優しく保護して差し上げる程の人間じゃないと、わからせてやる必要がある。
「なるほど・・・。いいですよ、卯月さんが学者として、俺という生物に興味が湧いたっていうなら、存分に研究対象になってあげますよ。」
同じく前を見据えて言い放つと、流石に彼から狼狽える様子が伝わってきた。
「あ・・・いや・・・ごめんね、寂しそうとか言っちゃって・・・」
「いいえ。」
そっちがその気なら、俺だってゲーム会社のSEとして、卯月さんを恋愛ゲームの攻略対象キャラとして扱ってやろう。




