第一章 1-1 序章 影に追われて
世界と世界を繋ぐもの。
平凡な日常を送る高校生 神居ゼンは
ある日、非日常の摩訶不思議な光景と出会う。
「はぁ、はぁ、はぁ」
夜風が冷たい。葉のこすれる音が遠くの闇に響き、何かが潜んでいる気配が肌にまとわりつく。
ゼンは息を切らせ、深い森の中をひたすら走っていた。足元の小枝が音を立てて折れるたび、後ろを振り返るが、追手の姿は見えない。それでも、確かに「何か」が近づいてくるのを感じていた。
「くそっ、どこまで逃げればいいんだよ…!」
ゼンの手には使い慣れない木の棒が握られている。何度も手汗で滑り落ちそうになるそれは、何かの拍子で拾ったものだが、こんな状況では頼りになりそうもない。
突然、背後から獣の咆哮のような音が響いた。闇を裂くような鋭い叫び。ゼンは思わず足を止め、振り返る。
こめかみをスゥーっと汗が流れる。
犬。いや、野犬と表現した方が合っている気がする。ゼンが今まで見たことのある【犬】という動物は、
もっとこう、毛並みが美しい生き物だ。
目の前のそれは、とてもじゃないが誰かに飼われて
身なりを整えてもらっているそれではない。
荒々しく今にもこちらに飛びかかってきそうにこちらを見つめていた、その異様な存在感に、ゼンの全身が凍りつく。
「なんだ、あいつ…?」
声を絞り出すも、身体は震えて動けない。気づけば異形は一歩、また一歩とゼンに近づいてきていた。その瞳には怒りとも憐れみともつかない感情が揺れているように見えた。
そのとき――
「ゼーン、こっちや! 逃げるんやで!」
どこからともなく、軽快な声が響く。次の瞬間、ゼンの目の前に猫の姿をした小さな影が飛び込んできた。
「はいはい!野良犬は、解散!
良い子やから大人しいしときやー!」
しゃ、喋る猫……………………?!
ゼンの目の前で起きている事、その全てが
理解の範疇を青天井に振り切って思考を遠く引き離していく。
さっきまで当たり前に謳歌していた日常と
切り離され、見知らぬ夜の森で立ちすくんでいた。
茂みから気配を感じ、道端に落ちている木を握りしめる。
気配の正体は、先程説明した興奮した野犬。
無我夢中で逃げていたところを今度は、
喋る猫だ。冷静でいれるわけがない。
「お前…誰だよ? てか、なんで俺の名前を知ってるんだ?」
柔らかな笑みを浮かべる猫は、質問に応える。
「色々と後で説明するニャ。ワイはロキ。
今は落ち着いて会話を楽しめる状況やないやろ?」
確かに【ロキ】と名乗る喋る猫の言う通り、
今は悠長に質疑応答している場合じゃない。
「ど、どうすれば…」
再び、笑みを浮かべる猫。
思考がぐるぐると巡る………
思えば、この不可思議な状況は少し前から
始まっていたんじゃないか?
思考は、ぐるぐると巡る………
ーー数日前――平凡な高校生
物語は数日前に遡る――。
高校二年生の神居ゼンは、平凡な日々を送っていた。学校、家、スマホゲーム、そんなありきたりな日常が続く日々。しかし、あの夜に見た「流星群」が、彼の人生を大きく変えることになるとは、夢にも思っていなかった……。
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