第九十八話 地方ダンジョンを攻略してみよう
次に攻略するダンジョンを調べているんだけど、苦労の割に実入りの良いダンジョンは大体ダンジョン使用料を取られるって事に気が付いた。
うちの学院の様に幾つも生徒用にちょうどいいダンジョンを確保してくれている学校は珍しく、大体はどの学校でも旨味の少ないダンジョンの中から比較的マシなダンジョンを選んで利用しているって話だ。
とはいえ、うちの学院で抑えてるダンジョンでまともなのは初心者用ダンジョンだけで、あの超絶不人気な過疎ダンジョンに至っては本当の姿が初見殺し山盛りの地獄の様なダンジョンだったしね。
あの過疎ダンジョンは本気でヤバかった。
「全部あいつの仕込みとはいえ。よく気付かれずにあんな状態に仕上げたもんだ」
極端に偏ったレッサーゴブリンの配置。
レベルも強さもバラバラな魔物が闊歩する遺跡型ダンジョン。
対策をしていないと即死な闇魔法。部屋にいる魔物の強さもバラバラで、しかもリポップが異常に遅いから情報を共有しにくい。
何から何まで初見殺しの塊だった……。
「邪魔をされないように超強力な人払いの結界を張りつつ、俺だけを誘き寄せる様に特殊な結界を築き上げる。俺が灰色のカード持ちじゃ無けりゃ、割と面倒だったんだろうね」
それを十年前から仕込む魔族の執念。
あれ、玲奈が勇者だったら一緒に処理するつもりだったんだろう。
のほほんとしてたが、本当に恐ろしい奴だった。
「あそこは良いとして、何か特徴のあるダンジョンだよね」
いろいろ面白いというか、不人気なダンジョンってのはいくつもある。
不人気ランキング堂々の一位!! 九州の地獄ダンジョン!!
不人気な訳はそこに出る魔物の殆どがアンデット系で、深層にはレイスなんかの悪霊系が山ほど出るって話だ。
ただ、ドロップはかなり美味しく、太古の孤王クラスとまではいかなくても強力な死霊を倒せば、そこそこ純度の高い魔宝石を確実にドロップ出来るって話だね。
魔物とはいえ人型をしている物を斬るのが抵抗があるというか、魔銀製や神銀製の武器が無いとダメージを与えられないってのがかなりキツイそうだ。
それに、割と低階層に出る魔物たちの多くはそのダンジョンで命を落とした元冒険者などの犠牲者の成れの果てって事もあって、地元の冒険者たちは決してそこには近付かないって言ってるね。
昔の仲間を自分の手でもう一回殺すのは抵抗があるって話だ。しかも、特殊な方法で成仏させるまで何度でもリポップしやがるしな。
「あのダンジョンは日本でも有数の救いの無いダンジョンだ。玲奈達も絶対に遠征に選ばない事って何度も釘を刺してきたしね」
舞莉愛さんが出てきたらってのは、いつでも玲奈の心の奥にある絶対に現実として表れて欲しくない事だ。
舞莉愛さんは生きてるから、アンデット化してる可能性はゼロだけどね。
そして不人気ダンジョン二位!! 京都にある和風ダンジョン!!
この辺りは割と変動するし、ダンジョン内部でスペシャルドロップがあるとあっという間に人気のダンジョンになるんだよね。
和風ダンジョンってのは特殊タイプ遺跡風ダンジョンの一つで、言ってみれば江戸時代とか室町時代なんかの街並みを組み込れた特殊タイプのダンジョンだったりする。
不人気な理由の一つが、中層より下に出る侍型の魔物。
いるんだよ!! ここにも菅笠侍がさ……。地味なボロボロの着物を着ているから俺とは別だって分かるけど、それでも俺にいろいろ恩がある人は斬り付けたり魔法を打ち込んだりするのを躊躇うらしい。
アメリカには西部劇風の遺跡型ダンジョンがあるし、イタリアにはローマ風の遺跡型ダンジョンがある。
ご当地ダンジョンは何故かどの国でも不人気で、放置されてる国が多いって話だね……。
「なんかさ、下の階に行けば行くほど各国の黒歴史というか暗部を見せつけられるって話だね。ダンジョンはその国しか潜れないからいろいろ精神的にきついらしい」
京都にある和風ダンジョンのダンジョンボスは将軍様らしい。
江戸時代じゃなくて、もっと前の将軍が出るそうだ。
江戸時代とか戦国時代のダンジョンはもう一ヶ所あるらしいけど、そこにも菅笠侍が出るから最近は人気が無いって話だ。
不人気ダンジョン三位。東北にある登山ダンジョン。
場所がかなり山の上というか、マジで登山が好きな人じゃないと近付かないレベルにあるんだよね。
冒険者だったらたとえダンジョンが山の上にあってもいけよって意見もあるけど、俺たちゃそこにダンジョンがあるから攻略に行くって程暇じゃないんだよ!!
そんな場所にあってもあの牧場型ダンジョンみたいにほかから宝の山だったら企業や国が動いてそこまでの道と街を建設するんだろうけど、残念ながらあまりドロップの美味しくない普通の遺跡型ダンジョンでしたとさ。そりゃ不人気にもなるし放置もされる。
やっぱり近場に街があって宿があるダンジョンが人気って事だね。
ドロップがある程度美味しけりゃ、あのダンジョン内部は馬鹿みたいに過酷な九州の火山ダンジョンですら人気なんだから……。l
「そこそこ行きやすくて、ある程度実入りがあるダンジョンには人が集まるし、そこには自然に街が出来る」
牧場型ダンジョンみたいに超大当たり状態になると違うけど、普通はそこそこ大きな街に発展するもんな……。
街中にできたダンジョンで、ほとんど誰も手を付けてないダンジョンってのは、大体中がどうなってるのか知れてるよね。
「過疎でも一部の人間には人気のダンジョンがある。というか、ここはダンジョンより近くにあるホテルが人気んだけどさ。俺もここで売ってる商品には興味がある」
広島にあるホテル秋紅葉。
特撮好きにはたまらない様々な特撮グッズが山ほど売られている凄いホテル。
そして他と違ってここには本物が混ざっていて、ここで売られている特撮グッズはすべて本物価格で取り扱われているって話だ。
チップやコインが一枚数十万円で売られているのは当たり前。
全部厳しい防犯対策が取られているから、コイン一枚盗み出せたら凄いって話もある。
「このホテルはオーナーの趣味で、全国からこれ系のアイテムを集めてるって話だ。多分姫華先輩もここから入手したに違いない」
でも高いんだよね……。
ブレスだとかバックルクラスになると億って値が付いてる事が珍しくない。
だからマジの特撮好きでも本物には手を出さないし、特撮好きの間では本当のヒーローの力を持つ人の為に購入を控えようって運動をしている人もいる。
ありがたい。
マジありがたいんで、夏休み期間中にここに行って変身アイテムを探してみたいと思う。
ついでに近くのダンジョンを攻略して夏休み中の実績にするとして、問題は二人をホテルに誘うかどうかだよな。
俺がまだ手を出してこない事くらい理解しているだろうし、そこは理解してくれると思うんだけどね~。
俺が玲奈に手を出すときは、ちゃんとその前に必要な事は全部済ませるよ。
出会ってから十年以上。
俺の抱える想いだってさ、結構長いんだぞ。
あの日、俺は玲奈の為に茨な灰色の道を選んだんだから……。
◇◇◇
今回は配信無しで広島にある割と人気の無いダンジョンを攻略する事にした。
夏休みの活動報告用のダンジョン攻略なんだけど、このダンジョンを選んだのは幾つか理由がある。近くにホテル秋紅葉がある事もその一つだけどさ。
このダンジョンが不人気の理由として全エリアに雪が降っており、その為にいろいろと準備が必要って面があげられるんだよね。
ただ、雪が降っているといってもそこまで豪雪状態じゃなくて、精々足首から膝までの範囲が雪に埋もれる程度でしかない。
だけど多くの冒険者はその準備を嫌ってこのダンジョンを避ける傾向にある。魔物からのドロップがおいしい訳でもないし採集で手に入る物もそこまで高くないしね。
「という訳で、今回はこのダンジョンを攻略するにあたって上から下まで専用装備を用意する事にしました~。顔は隠れるんだけど今回は夏休みの実績用の攻略なんで配信はやめています」
「毎回思うんだけどさ、こうやっていろいろ用意して貰えるのはありがたいんだけど、事前に言って貰えば装備位用意するよ」
「そうだよ。眩ちゃんってさ、偶に過保護になる事があるよね」
ほほう。俺が用意したこれと同じレベルの装備が用意できると?
とりあえず足元。完全防水で蒸れない特殊加工済な靴下と、どれだけアイスバーン状態でもミリも滑らないスペシャル使用のブーツ。当然防御力も最強だ。
同じように完全防寒対策済なタイツ。どんな色がいいか分からないからサイズと色を各十色用意。多少のサイズは自動調節してくれる便利機能付きで脱線防止対策も施されている。
当然防御力も凄まじく、赤火竜の爪程度じゃ糸一本切れやしないよ。
幾つかのデザインのスカートとキュロット。性能はブーツやタイツと同様かそれ以上。
肌触りのいいシャツと、薄くても防御力も防寒性能も最高な上着。当然二人の好きそうなデザインに仕上げてあるぞ。
首元を守るマフラーと、耳を守る柔らかくてモコモコな耳当て。外部の音声はキッチリ拾うし、いざって時の会話も安心。
雪焼け対策のおしゃれサングラス。邪魔にならない重さに調整してあるし、頭全体を守る魔法も付与してあるぞ。
そして最後に帽子。サングラスと一緒に装備したら本気で無敵なバフ付きだ。
さて、装備の説明はこの位だけど、結構二人とも不満そうな顔をしてるんだよね……。
なんでだ?
読んでいただきましてありがとうございます。
楽しんでいただければ幸いです。
誤字などの報告も受け付けていますので、よろしくお願いします。




