第九十七話 珍しい鉱石を購入してみよう
夏休み。
四十日を超える課題のない大型連休!! ただし、ダンジョン活動のレポートが必要。
ゴールデンウィークの時は姫華先輩たちがいたけど、今回は玲奈もいる時点で三人揃ってるんだよね。
先日の温泉ダンジョン攻略は流石に報告できないし、夏休みの活動報告用にどこか適当なダンジョンを攻略する必要がある。
「最近妙に仲良くなった玲奈と桜輝さんは、俺抜きでレベル上げのダンジョン活動を行っているって話だな。能力的には近いし、あの装備だったら問題ないだろう」
俺がいると魔物が逃げるし、レベル上げに向かないのは理解してるけどさ。
二人の装備も強力だし、この辺りの魔物相手に不覚を取ることは無いか。
「桜輝さんはそろそろ覚醒か。先日のボーナスもあるし、ポイント的には余裕だろう」
スキルポイントも異常に増えた訳だけど、ステータスポイントもかなり大きいからね。
しかも二人にはスーパーラッキーダイスの効果がある。
カンストするまで出目は六固定だ。
この前のバーベキュー大会でステータスポイントは全部運に振ったらしいし、全員最低でも運だけはカンストしてる筈なんだよね。
四色持ちが運をカンストすると一レベルで最低九十六。
五色持ちだったら百九十二か……。ってラッキーダイス持ちじゃないとそこまで良い出目は無いかもしれない。運をあげると五や六が出やすいって噂だけど……。
「例のボーナスがあるし、全員覚醒は確実だね。後は能力をどこまで伸ばせるか……」
スキルポイントはそこまで余らないけど、料理スキルを誰か五まで上げると嬉しいんだけどね。
ただ、スキルポイント四百は気軽に使えるポイントじゃないし、多分例のバーベキュー大会一回分のスキルポイントだ。
それだけあれば他のスキルがいくつもカンストできるしね……。
「流石に相手が玲奈でも、細かいレベル上げやステ振りまで俺が口出しするこっちゃないしな。他人のステ振りにこれ以上口出ししたら、何様のつもりだって言われるくらいだ」
俺だって多少ステータスが高いだけの冒険者に過ぎない。
色々言われてたりするけど、神様でも何でもないんだ。
全然えらい訳じゃないし、誰かにあれこれ指図できる立場でもないしさ。
「ダンジョンの探索をするには時間が半端だし、例の金鋼晶とかを漁りに行くか~」
あの手の鉱石や三流品は買取系列の一流どころの店はダメだ。
絶対に買い取りしてないし、店に並べる訳もないって事だしね。
ジャンクショップとかその手の店がいいんだけど、この辺りで大手のジャンクショップか。かなり矛盾した表現だけど、そういう事なんだよな。
「スマホで検索すると、例の商業ダンジョンの近くにあったよ。怪しい系列の店が」
言っちゃ悪いけど、いかにも三流冒険者御用達っぽい店。
武器とかは絶対に期待できないし、売ってるものも鑑定しないと買っちゃダメな店だ。
「この辺りから探してみるか。あまり期待できないけどさ」
後はその周りにある二流店舗?
買い取りで出禁食らった冒険者とかがよく利用するような系列の店。
品揃えも悪くないし、普通に買い物ができる店だけど結構割高。
その辺りは需要と供給のバランスだし、あの系列の店が使えない以上仕方がないんだろうね。
◇◇◇
冒険者界隈なんてかなり狭い。
今日の俺は普段着なんだけど、なんとなく怪しい視線を感じるんだよな……。敵対的な視線じゃないし、あまり気にしなくてもいいんだろうけど。
「おい、新人っぽいのがあのジャンク屋に行ったぞ。誰か止めろよ」
「何度か痛い目を見ないと目利きは鍛えられないよ。高い授業料になるかもしれないが」
「違いない。誰もが通る道だ……」
ああ、俺の心配してくれてたのか。
確かにこの時期は春先に冒険者デビューした奴らが小銭を稼いで、この手の店でお宝を探したりするって聞いてる。
ジャンク屋にお宝なんてある訳ないじゃん。でも、この手の鉱石はこんな場所じゃないと扱ってないんだよね。
「おおっ、金鋼晶がマジで売られてる。純度も十分だ」
一流店舗じゃ絶対に取り扱われない金鋼晶。
今まで異様に見ないと思ったんだよな。まさか、この手の店にしかないとは……。
「あんたまさかそれを買うのか?」
「そうですよ。この純度でこれだけ揃ってるなんていい店ですよね」
「マジか……。それが何なのか知ってるのか?」
「金鋼晶ですよね。魔力との融合率がものすっごい良い鉱石ですよ。他にも特徴はありますけど」
魔道展開式の武器を打たなけりゃ無価値な鉱石で、もし打てたとしても膨大な魔力が無いと無意味な鉱石。
しかもこいつは質が悪い事に魔銀や神銀との相性がわるくて、単独で使わないと真価を発揮しなっていう迷惑な鉱石なんだ。
「で、マジでその量を買うのか?」
「購入量の制限はないっポイみたいですので、当然あるだけ買っていきますよ」
デカい丈夫な箱五つ分の金鋼晶の鉱石。
これだけあれば最低でも五人分は武器が打てるぞ。
値段も格安で、この量を買っても十万円程度で済むって奇跡だよな……。
「誰か止めろよ」
「金鋼晶ってさ、見た目綺麗だから勘違いして買っていく鍛冶師初心者がいるんだよ。一度は通る道とはいえ、あの量はえぐいぞ」
「十万くらいか。駆け出し冒険者にとっちゃ安い額じゃないよな」
なんだよここ。いい人の巣窟か?
ケラケラ嗤いながら失敗を楽しんでる店もあるって聞いてるけど、ここはなんだかそことは違いうみたいだ。
「あ、これの力を引き出せる腕はありますんで、これだけ全部買っていきますね」
「そりゃ、こっちも商売だから売るが。ホントにいいのか?」
「むしろこの三倍くらいの量が欲しいですね。どの位で入荷しますか?」
「さ……。マジか?」
「はい。出来るだけ早めに手に入ると助かるんですが」
おそらく、純金鋼晶製の、魔道展開式の武器が出来れば魔道展開時の補正は軽く億を超える。
それ程までに凄まじい力を秘めているんだ、この鉱石は。
ただ、本気で俺以外には打てないし、何処まで高レベルな鍛冶師でも魔道展開式のナイフすら作れないんだけどね。ホントそこは厄介な所だよ。
「おもしれぇ。鉱石はすぐに用意できる。この三倍だな?」
「あるんですか!!」
「ああ。ぜんっぜん売れないからな、これは。裏の倉庫に山積みだよ」
マジか!!
やっぱり冒険者たるもの、一流の店ばかり利用してちゃダメだね。
いろんな店に顔を出して、直接商品を見たりしないといけない。今まで探してきた鉱石が、こんなに簡単に見つかるなんて……。
「全部で四十万ですよね。これで問題無いですか?」
「問題なく出しやがったな。新人だと思っていたが、もしかして一流冒険者様だったか?」
「一流かどうかは冒険者を引退した後で考えますよ。冒険者の格を決めるのはいつだってここだけです」
心臓を指さして答えてやったよ。
いざって時に躊躇することなく飛び出せる度胸、それと自分の心を偽らない行動。
外道以外はどんな行動をしてても冒険者として恥ずかしくないさ。
「本当に久しぶりに本物の冒険者にあったな。しかもこんな新人さんだぜ」
「すげぇな。もうちょい歳いってりゃ飲みに誘ってるんだがな」
「法改正のお陰で一応飲める歳だろうが、この辺りで呑むにゃ少し若すぎる」
治安は悪くないんだけど、この辺りの酒場で楽しめるようになるには俺の経験値が低すぎる。
あの雰囲気を楽しむには、もう少し俺自身がいろいろ経験を積まないと無理だろう。
でも、ホントにここの人は良い人ばかりだ。
「この辺りはいい人が多いんですね」
「ああ。昔はもう少し荒っぽかったんだがな、ある人に助けられてみんなあんな感じになっちまったのさ」
「へぇ……」
「俺の腕はひと月前までなかったんだ。それでも俺にゃこれしか無くてな。だましだまし冒険者をしてたんだが……」
「冒険者を長くしてる奴にはいろんな事情がある。当然長年の無理が祟って身体を悪くしてる奴も多いんだ」
十年やってると身体の何処かは悪くするってのが冒険者だしね。
確かに稼げる稼業だし、いろんな物を手にすることができるのは事実だけどさ。その陰でかなり多くの物を失う人だっている。
一番大きいのは自身の命だけどさ。
「ダンジョンでな、人を助けてる凄い人が居るんだ。しかもその人はこっちの差し出した代価を一切受け取らない」
「冒険者だったら分かると思うが、ひとたびダンジョンに潜ると魔力は黄金より勝る。僅か一の魔力が足りなくて、長年の友を失う奴だっているんだ」
「全ての冒険者を救うなんて無理だし、それを期待するようじゃ俺達は冒険者失格だ。でもな、地獄に仏じゃないが極限の状況で誰かに手を差し伸べるのがどれほど勇気がいる行為か、一度そんな状況になった者じゃなければ分からんだろう」
魔力残量の問題は結構深刻だからね。
一番最初のレベルアップの時、俺は無限の力を手に入れた気がしたけどあの時だって、魔法を三発程度打つだけで打ち止め状態だったしね。
普通の冒険者の感覚で言えば、いつだって似た状態なんだろうし……。
「それをな、普通にしてる人がいるんだよ。それから俺たちは考えた、受けた恩を返すのはどうすりゃいいかってな」
「あの人に受けた恩を返すには、他の誰かに優しく接するのがいいって気付いたのさ。多分、それがあの人が一番喜ぶ事だろう」
「そうするとな、ここらの治安も驚くほどよくなったし、新人冒険者も育つようになった。何より、大怪我をしたり命を失う冒険者の数が激減したのさ」
僅かな金で使えもしない装備を掴まされたら、そりゃ死亡率は上がるだろう。
しかも使うのは腕の無い新人冒険者。
次が無くなっちまう訳だからさ……。
「そんな事があったんですね……。金鋼晶は確かに受け取りました。ほんっとうに助かります」
「珍しい奴もいたもんだ。何に使うかは知らないが頑張りな」
「金鋼晶を使いこなせる冒険者か……。まさかな」
「お前も気付いたか。でも、言いっこなしだぜ」
「分かってるさ」
あのふたりの態度からして、絶対俺が菅笠侍ってバレてるよね。
でも、それを口にすることは無いだろう。
しっかしこんな所にまで影響が出てるなんて、意外に人助けって悪くないよね。
新しく冒険者を始める人には、少しでも楽な道を進んで欲しいじゃん。
苦労なんてさ、冒険者をやってりゃ幾らでも経験できる訳だしね。
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