第九十六話 魔族のやめられない習性
魔族サイドトレジャー。
とうとうあのマリオネットが倒された。
しかも長年水面下で進めて来たあのダンジョンまで解放され、とらえていた冒険者にかけていた闇魔法すら無効化されたって話ね。
信じられない。相手はたかが人間よ。
直接戦闘してもマリオネットに勝つなんて不可能だし、ましてやあのダンジョンを開放するなんて魔王様でも不可能だったはず。
だってあそこは、魔王様が降臨した後で私たちが隠れ家にする予定のダンジョンだったんだから……。
「労働力の数も万全。人類が滅んだ後で、わたしたちが快適に暮らせる空間。あの後で幾重にも結界を張って仕上げる筈だったのに……」
「言っただろう? あの人間を放置しすぎた」
いつの間にか最後の仲間であるシアターが近くに来ていた。
こいつも何を考えているのか分からない奴なのよね。
不気味というか、なんとなくわたしたちでも近付きがたいのよ。
正直、こいつが仲間ってのもかなり怪しいわ。
「菅笠侍。ホント忌々しいわね」
「そいつだけじゃないんだがな。いや、中身は一緒か」
どういうこと?
菅笠侍以外にも誰か警戒しなくちゃいけない相手がいたの?
「情報はあいつから入っていた。掲示板にもその情報をあげてくれていた。その上で万全の態勢で奴をあそこに呼び込む事に成功した。俺は確実に仕留めたと思ったが、まさかあんな短期間であんな化け物に成長するとはな……」
「よくわからないわね」
「そうだろうね。俺も奴がここまで危険な人物だとは見抜けなかった。その成長速度も……」
シアターは菅笠侍の正体を知っている?
もしかして、既に何か手を打っているのかもしれない。
「あの菅笠侍を何とかする策が?」
「無理だ。奴は既に魔王様より強い。魔王様がどれだけ強く成長してきても、もうすでに奴には勝てないレベルなんだ」
「そこまで言うの?」
「いうさ。奴をあそこまで成長させたのは、あのダンジョンで仕留められると思っていた俺の怠慢だ。まさかあれを攻略した上に、あれほどの力を手に入れるとは……」
あのダンジョン?
たしか十年くらいかけて成長させた、勇者とヒーロー殺しのダンジョン。
いっけん低ランク向けのダンジョンにみえるけれど、その裏でダンジョン内に様々な初見殺しの仕掛けが施されてるってあれ?
そういえば、先日そのダンジョンを廃棄したって聞いたけど。
「例のダンジョンはもういいの?」
「元々そろそろ完成予定で、解放する筈だった。俺の正体がバレないように慎重に進めてきた策だったが、まさかこんな形で終わるとは……」
「ホント、あなたってこうして直接会っても人と勘違いしそうな位に擬態するのが上手いわよね。私も擬態は得意だけど……」
「そりゃ、僕の得意技だしね。こっちの姿も長かったけど、もう二度とこの姿になる事は無いっスよ。もう一つの趣味の方も、かなり得意だけどな」
人を跡形もなく溶かしたり、その姿を配信して楽しむ異常者。
魔族の私でもその趣味は理解できないわ。
あまり人を殺しすぎると勇者の力が増して魔王様が苦しむことになる。それをわかっていてこいつは人を殺し続けているんだから。
「それで、今日は何の用なの?」
「挨拶だ」
「挨拶?」
「そう。別れの挨拶だよ。この組織はもう終わり。もう少し大きく成長するかと思ったけど、期待外れもいい所だったさ」
他の魔族の組織もあるが、あまりも拙すぎて勇者の手によって軒並み壊滅させられている。
奴らは加減を知らない。
いきなり冒険者たちに直接手出しをするから、即座に見つかって勇者たちの手で討伐され続けて来た。
今となってはもう、わたしたち以外に魔族の組織は無い。
「このままだと我々魔族は人類に勝てないわ」
「ん~、そうだろうね。人類側には俺たちに近い種族もいるが、今この世界にいる勇者の力はそれを上回る」
「魔族側に寝返った人類で数を補おうとしても無駄みたいね」
「そうだ。だからお前も、自分専用の切り札を隠し持ってるんだろう?」
本当に食えない奴ね。
わたしが持つ最後のカード。
生き残る為に勇者と交渉できる唯一の切り札まで見抜いてるなんて……。
「それを俺にくれないか? 悪いようにはしないぜ」
「渡す訳ないでしょ。何の為の切り札だと思っているのよ」
「……仕方がない。今回は諦めてやる。本当はてめぇを殺してでも奪うつもりだったが、そのままそれを持たせておくのも面白そうだ」
食えないし読めない奴よね。
直接戦えば、おそらく奴の方が数段強い。
お互いに魔族同士、闇魔法は効かないし戦闘をするにあたって魔族としてのアドバンテージは何一つないわ。だから、実力勝負になるんだけどその場合は私に勝ち目なんてないから……。
こいつはわたしの持つシャドーバジリスクですら相手にならない。
「それで、ここを離れていく先はあるの?」
「前の拠点がダメになった。またほかの場所を探すさ」
「他の場所?」
「そうだな。魔王が復活する時まで、またしばらく遊べる場所をな……」
遊べる場所ねぇ。
あのダンジョンにも色々細工をしていたみたいだけど、あなたがいなくなったらその辺りはどうする訳?
配置した魔物はそのままだし、特に変わりはないかもしれないけど。
「それじゃあお別れね。一応聞いておくけど、魔王様が復活した時はどうするつもりなの?」
「気分次第か? 魔族の最高位が無残に殺される姿を見に行くのも悪くない」
「そこは疑わないのね」
「疑わないさ。彼に勝てる訳がない」
彼?
この世界にいる勇者雄三はもう彼って歳じゃない。
こいつだったら爺さん呼ばわりしてるはず……。
それが彼? ほんと、わけわかんないわ。
「あんたはどうする? また趣味を続けるつもりか?」
「そうね、それもいいかもしれないわ」
「あんたも好きだな。しかも、保身も忘れちゃいない」
「もう少し状況がこっちに傾けば自由に動いたんだけどね」
魔族の敗北はすでに決定事項だ。
保身位考えるわよ。
「それじゃあ、これで」
「そうね」
同じ魔族でも、もう二度と会う事は無いわ。
こいつはそういう奴だし。
さて、わたしはどうするべきかしら?
……。
◇◇◇
さんざん悩んだ結果、わたしはあるダンジョンに足を運んでいた。
結局私は自分の欲望をおさえられなかった~。というか、こんな状況でもう魔王様とか魔族の世界とかもうどうでもいい。
わたしはただ美しい子を宝石に変えて自分の物にする事だけが好きなだけの魔族なのよ。
元々魔界でも美しい他の魔族の娘を宝石像に変えて飾ってたしね。こっちに送られる際、あの忌々しい魔界の神に全員元に戻されちゃったけど。
……私は目を付けた娘がダンジョンに潜るまで待った。この子は何故かいつも一人でこのダンジョンに潜り、そしてたいして戦闘もしないままに再びダンジョンを後にする。
何かの儀式?
だけど、その姿はとても美しかった。
「ようやくかかったわね。姿を見せない?」
「あら? 私に会う事が目的なの」
「そうよ。五年前、私の姉を此処で襲ったあなたを誘い出す為、同じ時間にずっとここで待ち続けていたわ」
いるのよね、こういうタイプの娘。
私は別に同じ時間や同じダンジョンに拘っている訳じゃない。
いろんなしがらみがあって、たまたま同じような時間になっているだけ。
「それで、わたしと戦って勝てるとでも?」
「五年間。研鑽を繰り返した私の剣技。思う存分味合わせてあげますわ!!」
和服姿に長い黒髪。そして手には薙刀。
この子のクラスはおそらく巫女。三色持ちの中でも当たりのクラスみたいね。
でも、その程度で魔族に勝てるとか思わない事だわ。私はまだ優しいから殺さないけど、あのシアターの奴だったら生きながらにして毒で溶かし殺したでしょう。
「しまっ……」
「はい、これでおしまい。その懐の短剣も、わたしには通用しないわよ」
「これもバレてたの?」
「いい神銀製の短剣だけど、わたしたち魔族を殺すには少し足りないわね」
手を捻り上げて短剣を地面に落とす。
当然それは回収できない場所に蹴り飛ばして、最後の希望は奪っておく。
「ここで私を……」
「美しいわ。その顔、わたしが永遠に残してあげるわ……。宝石像に変えて、ね」
「ああっ……」
闇魔法宝石化。
治癒魔法も兼ね備えているそれは、足元からすべての傷を癒しながら対象を宝石へと変えてゆく。
この魔法に苦痛は無い。だけど治癒魔法で癒される最中にほんの少しだけ気持ちがいいかもしれないわね。私は魔族だから人族のその辺りの事は知らないけど。
「あの場所に飾って揚げるわ。きっとそのお姉さんとやらもあなたを待っているから……」
美しい巫女の宝石像。
これを増やす事はわたしの寿命を縮める行為だけど、この魔族の衝動だけは押さえられないわ。
やっぱりこの身に滅びの時が訪れるまで、この趣味だけはやめられないわね……。
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