第九十五話 第二回 高級バーベキュー大会
七月二十四日の月曜日。
前回のバーベキュー大会からひと月経って、高級バーベキューセットの力が再び解放されるようになる日。
今回はバーベキュー大会というよりはステーキ大食い大会になりそうな予感はするけど、どうなる事やら。
「はい!! 皆様お待ちかね、第二回バーベキュー大会という名のステーキ祭りの会場。高難易度ダンジョン地下九階の特設会場で~す」
「……ちょっと地形が変わってる気がするんだけど」
「高級バーベキューセットが安定しにくかったんで、この辺りをちょっと地面を固めたりしました~。この方がいいでしょ?」
グラビティブラストと同じ要領でえいやっとね。
水平を取りつつ地面を平らにするのは意外に大変だった。
「神域を展開してるのは分かるんだけど、この辺りの魔物ですら近付いてこないんだね」
「流石にこの神域を突破するには、ここの魔物だと無理ですね」
「ここの魔物で無理だったら、何処のダンジョンに出る魔物だと可能なんだ?」
「レベル二百越えの魔物しかいないダンジョン?」
「存在しないダンジョンっぽいな」
そこっ!! 一斉に頷かない。
そうだ、ついでに遠征土産を渡しておくか。
「先日、九州の温泉ダンジョンを攻略しましてね。今回は珍しく泊りがけになったんでお土産がありま~す」
「ありがとう。これはお饅頭かな?」
「生徒会の人で食べて貰う分もありますから量は多めですね。で、こっちは虎宮夫妻に夫婦湯飲みセットだ」
「……ありがたく使わせてもらうが」
「わたしたちからは、夫婦箸と夫婦茶碗。デザインが良さそうなのを選んだんだよ」
「みんな攻めるね~」
「うん。二人とも笑顔で手渡してるよ」
この程度の事で影響がある奴らじゃないからな。
同棲した時に本気で使いそうな気がする。
「実用的な土産だし、デザインも普段使いできる物を選んでくれたみたいで助かる」
「うん、これなんか大きさもホントちょうどいいよね。この湯飲み、使いやすそうだし」
装備を作ってるから手の大きさとかどのくらいのサイズがいいかなんて割と分かるからね。
からかう目的なんてほぼ無いし、茶碗類はある程度あっても困らないだろ。
「さてと、今回は先にある程度部位とグラムを決めて焼き始めたいと思います。前回はヒレでしたけど、サーロインとか他にもありますし」
「あ~、ちょっと質問。赤火竜の雌の肉とかある?」
「ああ、あのドラゴン肉の雌雄で効能が違うとかいう情報の検証ですか? ありますよ雌赤火竜の肉も各部位」
未確定情報の中にこんな物がある。
雌赤火竜など上位種の竜種の胸部の肉には豊胸効果があるって噂だ。
実践するにはハードルが高く、しかもこの高級バーベキューセットが無いと調べられない噂なんだけどね。
後、雄赤火竜の肩ロースでステータスの方の筋力が上がったなんて噂もある。これが何故か雌赤火竜の肉だと駄目っぽい。
豊胸効果は男性に効果が無い事も知られてるって話だ。試したんだ……。
「限られた時間は三時間。まだカウントは始まってないよね?」
「最初に肉を焼き始めるまでスタートしないみたいです。まだ待機状態になってますし」
「さて作戦会議だね。あの二人は必要ないだろうけど、私たちには譲れない物もあるんだよ」
「事前の取り決め通り、メインのステーキを食べた後だろう? それを考えて肉を焼かないとな」
焼く前にそれぞれ指定した肉を指定されたグラムで用意し、それが全部揃ってから焼き始めるって作戦だ。
三時間って時間を最大限まで活用し、焼ききれませんでしたって事が無いように可能な限り事前に準備を済ませる手筈となっている。
だからまず焼き始める肉のグラム数と、どれだけ食べられるか個人的な自分の胃袋との相談が重要で、流石に頼んでおきながらお残しなんてしたら次からは呼ばないって宣言してるからね。
「今回のメインは古龍のサーロインにする予定だ。俺は三百で行こうと思う。これだとヒレも二百くらいはいけるからな」
「真ちゃんはそれでいいかもしれないけど、わたしたちには調べなきゃいけない事もあるの」
「百で我慢する?」
「何処まで増えるか分かんないしね。確実にステータスポイントを狙うのが正解なんだろうけど」
雌赤火竜の豊胸効果に期待してるのは割とスレンダーな姫華先輩と依理耶先輩。それと、意外な所で紫峰田さんがお悩み中って感じだね。
元々スタイルがいいというか、その辺りに自身のある玲奈や桜輝さんは雌赤火竜の肉を頼もうと考えてもないだろう。
ある意味、色数以上に格差があるしな……。
「それじゃあ、注文が確定した人から焼き始めるよ~」
「りょうか~い」
「楽しみにしてるぜ」
「美味しく食べさせていただきます」
うんうん、美味しく食べるのが大切だからね。紫峰田さんはいろいろと考えた結果、雌赤火竜の胸肉。正確には牛で言う所のバラ肉を百グラムと古龍のサーロインを百五十グラム注文した。
バラ肉の方は色々と食べやすいように事前に加工してある、いってみれば雌赤火竜のチャーシューなんだよね。最後に高級バーベキューセットであぶり焼きにして仕上げた感じだけど、これで効果があるのかは謎だ。
虎宮は古龍のサーロイン三百グラムとヒレ二百グラム。最初にサーロインを食べてからヒレ肉を焼いてほしいって事なので注文通りにする。
出来るだけ美味しく食べて貰いたいしね。
「は~い、どんどん焼いていくからね。並んでる注文書の肉から焼き始めるよ~」
「ありがとうございます。……うわぁ、すっごくおいしい」
「ダンジョン肉の最高峰だからな。いろんなタレを用意してくれてるのも助かる」
「量を食べると飽きるからね。味変は正義だよ」
ダイコンおろし醤油、ガーリック醤油など様々なステーキソースを作って、それぞれ専用のソースポットに入れて並べてある。それを各自で小さめのソースポットに移し替えて食べるって寸法になっている。
あれも全てダンジョン産の野菜なんかを使って錬金術で仕上げた最高のソースだ。
あのソースも売れば相当な額になるだろうな……。いや、市販のソースもものすごくおいしんだけどね。
「噂の検証開始……、頼み込んで例のコテージ用意して貰ってよかったよ」
「あ~、なんであれがいるのかと思ったけど。そういう事だったのか」
さっきも何人かこそこそとコテージの中で何かしてたからね。
でもさ、調理したのは俺だし雌赤火竜の炙りチャーシューも悪くないけど、アレだけ脂を落としても最低百グラムは結構きついと思うよ。
「古龍のサーロインステーキの威力が凄まじい!! ただ俺は三百グラムで増えたステータスポイントとスキルポイントが四百ずつなんだが……」
「私は二百グラムなのに同じだけポイントが増えてるんですよね」
「という事は、古龍のサーロインステーキは摂取量のマックスが二百グラムって事か。検証ありがとう。あ、この先は最大二百にするよ」
こうしてどこまで食べればいいのか、最適な数値が調べられていく。
これで次回から注文される量が変わるんだろうな。
「私はヒレ肉を三百グラム挑戦したが、上がったのは各二百ずつ。これも最高二百グラムで二百ポイント確定だ」
「赤火竜のサーロインは二百グラムでわずかに五十。古龍とここまで差があるとはな」
「赤火竜のヒレステーキも同じく五十です。こいつ、部位でほとんど効果が変わらない」
「うわぁぁっ。これっ、絶対効果あったよ!! ちょっとコテージ行って来る」
「確かにこれは凄い効果。ステータスに変化は無いけど……」
「うむ。確かに違和感を覚えるな。これは単品の炙りチャーシューとしても絶品だが」
雌赤火竜のバラ肉を使った炙りチャーシューを食べた一部の女性陣はコテージに駆け込み、そしてにっこにこ顔で戻ってきた。
という事は十分な成果があったんだろう。
「この情報はやばいよ。でも、絶対口外無用だね」
「そうですね。まさかここまでとは思いませんでした」
「真ちゃんが喜んでくれるかな……」
紫峰田さんまでにっこにこで成果を確認して来たみたいだ。
いや、ここで面白くもなさそうに成果を確認して、ひたすら肉を食い続けてる依理耶先輩も凄いけどね。
自分で確保して来たのか、ダンジョンアワビを地獄焼きにし始めたし……。いや、下拵えしなくてもおいしいけどさ。
「前回効果が打ち止めになった食材も、ひと月後にはまた効果を発揮するみたいだ」
「ん~。ステータス自体が上がるのは本当に条件が厳しいみたいだね。赤火竜のタンをこれだけ食べても効果なしだよ」
「竜種全体で上限がある可能性もある。各自食べた物は正確に報告を……」
確かに食事会ではあるんだけどさ、内容が結構堅苦しくなってるんだよね。
一部の人は何かの希望が見えたっぽいし、玲奈や桜輝さんはそんな連中を横目に好きな物を焼いて食べたりしていた。
ステータスポイントとかスキルポイントも大切だけど、やっぱり好きの物を焼いて食べなきゃね。
ただ、玲奈は牡蛎も好きな筈なのにアレには手を出してない。
牡蛎は美味しいけど焼くと匂いが凄いからね。海鮮焼き専門の時は良いだろうけど。……牡蛎とか焼くと後でこの高級バーベキューセットの掃除も大変だしね。
「海老には効果なしか~。結構食べたよね?」
「これだけ食べて変化が無いと、効果なしで決まりかな?」
「何でも効果がある訳じゃないしね。効果があった物は報告って事で」
キノコ類が意外に効果が無いんだよな。
もしかして他にも謎調理機器とかあるのか?
怪しいのは鍋なんだけど、ありそうで怖いんだよね……。
「効果があるかもっ、って思う物ほどなかったりするよね」
「やはりドラゴン肉が正義だ。最強の組み合わせは古龍のサーロインとヒレを各二百。それと赤火竜のサーロインとヒレだな」
それで八百グラムあるから、ほとんどの人は限界みたいだね。
依理耶先輩はそれをキッチリ食べた後でアワビと科に手を出してるからね……。氣力にどれだけ振ってるのやら。
「後可能性があるとしたら今回も食べなかった水龍系かな? あれは次回にしますね」
「そうだね。次回に赤火竜の肉の代わりに検証してもいいかも」
赤火竜の肉の効果が発揮されるのは最低百グラムからで、最大二百グラムほど。それで効果はステータスとスキルポイントがそれぞれ五十。百グラムだと二十五だ。
やっぱり効果が圧倒的なのは古龍の肉か。同じ竜種でも強化種の赤火竜ですらあそこまで効果が落ちる訳だし……。といっても、ステータスポイントとスキルポイントが五十上がるのも凄まじいんだけどね。
今回は食べられなさそうだったから古龍の肝焼きとかも試せなかったけど、その辺りの効果の検証は次回に持ち越しだね。
「まだまだ検証できそうな食材は尽きないか……。水龍種も古龍種がいるという話だが」
「流石にリバイアサンクラスはみた事が無いよ。深海型ダンジョンで相当に何度が高い場所じゃないんですか?」
「これまでの流れからして、やっぱり竜種だよね~。しかも古龍種以上」
「狩るのが大変ですけどね」
「狩れる人間がほかに居ない件について……」
あの古龍を狩れるのは俺か親父くらいだろう。
親父も冒険者としては、そこまでやる気ないからな……。
あくまでヒーローだし、困った人を助けたりする為には結構活動的になるけど、自分の名誉だとか名声なんかは求めないしね。
「そうだ!! 今日はちゃんとお礼というか、眩耀君に渡せるものがあるんだよ」
「金銭も普通のアイテムも殆ど受け取らないだろうが、今回は受け取りそうな物が用意出来たぞ」
「えっと、なんでしょうか?」
確かに毎回タダでこれに参加するのは心苦しいだろうし、食材の殆どを俺が提供しているからね。
金銭で払うにしても莫大な額になるし、そんな額の金を渡されても処遇に困るからさ。
既に換金してない財宝が山ほどあるのに……。
「まずその一。眩耀君が各地で地物の野菜を買ってるのを知ってるから、いろんな場所のご当地野菜を取り寄せてみました~」
「ありがとうございます。いい野菜ですね」
野菜にうるさいウサギがいるからね。
果物に関しては俺も相当にご相伴にあずかってるけど、野菜に関してはあのウサギが意外に好まないダンジョン産の野菜を食ってるからな。
俺はダンジョン産の果物も食べるけどさ。
「いろいろあるから、欲しい物があったら言ってね」
「ありがとうございます」
「さて、第二弾!! 残念ながらフルセット揃えられなかったんだけど、せめてブレス部分だけでも……」
「これ、ブレイブのブレスじゃないですか!! こんな物が手に入るんですか!!」
しかもこれ最終世代ブレスで、ブレイブフュージョンフォーム対応型だ。
残念ながら、ブレスだけだと初期登録もできないな。
でも、このブレスは俺を呼んでる気がする……。これは間違いなく俺用のブレスだ。
「なんでも二十年くらい前からこの手のアイテムもダンジョンからドロップするらしいんだ~」
「灰色カードの出現と同時って事ですか。なるほど、色々あるんですね」
「偽物も多いけど、色々探して何とか本物が手に入ったんだよ。私たちが触っても反応すらしないけどさ。なんとなく呼ばれてる気がしたから、珍しく生徒会でちょっと遠征したんだ~」
「ヒーロー専用アイテムですからね。本当にありがとうございます」
俺以外には役に立たないアイテムだけど、あると便利なアイテムで間違いない。
俺も探すか?
今でも十分強いけど、やっぱりヒーローだしこういったアイテムも欲しいからな。
「喜んでもらえてよかった~。ホント、わたしたちもして貰うばっかりで悪いからさ」
「今もいろいろその手のアイテムの情報を探している。また入手したら渡すからな」
「ありがとうございます」
ありがたい。
確かに姫華先輩たちの精神衛生上、ずっとタダで食べさせ続けて貰うのは抵抗があるんだろう。
玲奈達に関しては、既に夫に出された物を食ってる感覚なんだろうし、割と抵抗が無さげに見える。
いや、割と正しい認識だけどさ。それに関しては開き直ってる桜輝さんもいい度胸だけど……。
「もしこれが揃えば、本物のヒーローになれる訳だね」
「そうですね……」
俺に親父程ヒーローの覚悟が持てているかは疑問だけどさ。
親父は正しくヒーローだ。
ホント、眩しい位にね。
「さてと、今回はこれでお開きですね」
「次回の開催場所もここにしないか? あの牧場型ダンジョンは流石に今は近付けない」
「すんごい事になってるらしいですよね。あのダンジョン周辺にも結構な数のホテルが建設され始めたらしいよ」
「それはもう凄い数でな。マンションも建設ラッシュだ」
街ができ始めてる?
今の状態をネットの映像で見た。元々割とにぎわってたけど、これはもうにぎわってるとかいうレベルを超えてるよ……。
「勇者パーティの協力が終わった後も、浅い階層組と地下九階以降組でわかれて採集が続くだろう」
「やっぱりあそこでこんな物は使えないか……」
やってる内容もヤバいからね。
この情報も流すとまずい。
人類側が強くなるのは良いけど、魔族も同じ方法で強くなれる可能性もある訳だしさ。
この、高級バーベキューセットが無いと意味は無いけど。
「他にも同じ能力を持つ調理器具があるかもしれない。そっちも探してるからね」
「その時は具材位供給しますよ」
「ありがとう~。助かっちゃう」
そんな調理器具が増えまくって、毎日何かしら能力が伸びる状況とか恐怖でしかないけどな。
流石にチート……、と言っても俺に比べたら大した事ないか。俺の今の状態で一レベル分であがるステータスポイントは八百七十九億六千九十三万五千四百二十四。
数百程度を気にするほどじゃない。
さて、第二回ほぼステーキ祭りのバーベキュー大会はこれに無事終了。
次回会場もここになったけど、ダンジョンボスである古龍の真上の部屋でその古龍の肉を焼いて食ってるなんて、シャレが効き過ぎてるよな……。
読んでいただきましてありがとうございます。
楽しんでいただければ幸いです。
誤字などの報告も受け付けていますので、よろしくお願いします。




