第九話 レベルアップで手に入った物は……
とりあえず少し移動して一階に戻るポーターの前でステータスカードを確認する事にした。
この辺りにはレッサーゴブリンはいないし、いざって時はポーターでいつでも逃げれるしな。
ポーターの近くで狩りをするのはあまり歓迎されないというか、一般的にポーター狩りって呼ばれてる禁止行為だけど、今の俺の状況はそれとは違う。
ポーター前でのスキル調整はよく見かける光景だし。
「しっかし、レベル二に上がる為の必要経験値が二百とかバグってるだろ!! 色々あって何とか一日で溜まったけどさ」
じゃじゃぁ~んと取り出した俺のステータスカードは燦然と輝かない灰色。
ちょっとラメが入ってる気がするけどたぶん気のせいだろう。
「たかがレベル二、されどレベル二。この瞬間をどれだけ待ちわびたか」
レベル一からレベル二へのレベルアップは他と違う。
まずレベル一の時は表示されていない職業や称号などが開放され、ここで初めて各種スキルなどの恩恵を得る事が出来る。
逆に言えばレベル一の時はどれだけ色数の多いスキルカードを持っていても全員スキルなしで頑張るしかないって事だな。裏技はあるらしいけど。
だから本当の意味での冒険者としてのスタートはレベル二からって思えばいい。残酷だけどレベル二以降は色数の差が如実に表れるから、レベルが上がれば上がるほどその差はどんどん開いていく。
その理由としてレベルアップ時のステータスポイントやスキルポイントのボーナスの存在が大きい。
単色がレベルアップ時にもらえるポイントは、ステータスポイントが一から六とスキルポイントが二。たったこれだけだ。
これが四色持ちになるとステータスポイントが八から四十八、スキルポイントが十六も手に入る。ステータスポイントはどうやら色数に応じて倍々で増えていくサイコロの数っぽいんだけど、それだけに運が悪いとそこまでステータスが上がらない事もある。
一色増えるごとに倍々になるからその差は本当に歴然だ。
「それで俺は何ポイントかな……って、ちょ」
カードに表示されてる今回入手したステータスポイントは三百八十四、そしてスキルポイントが百二十八。
三百八十四? さっきのラッキーダイスの効果か!! 六で割ると六十四だけど、これっておかしくないか? 灰色は白黒の二色……。サイコロの数は二個の筈、普通は十二だ。
それにスキルポイント百二十八? 俺灰色だけどなんでこんなにポイント……。七色? 赤・青・黄・白・黒・金・銀で七色。レベルアップ時のスキルポイントは倍々で増える筈だから一応計算は合ってるな。
「まてよ、以前全部の色を混ぜたら灰色になるって話を聞いた事がある。少しラメが入ってる気がしたけど、これ灰色だけどやっぱり金と銀のラメ入りだったのか!!」
しっかし、この数値はやべぇよな。
俺はレベル二の時点で百二十八もスキルポイントを貰えている。単色の人がカンストのレベル五十になった時以上の数値だぞ。
ステータスに至っては単色はおろか、二色の人でもここまで稼いでる人は学院でいないんじゃない?
サイコロ二つを何回振れば三百八十四も稼げるんだ?
「とりあえずステ振りだけど、これだけあるんだったらまずは運だよな。とりあえず八十三ポイント突っ込んで百にあげる」
百を超えると必要なポイントが倍になるんだよな~。
次に優先するのは筋力っと。
いろいろ考えた結果、こんな数値になった。
◆◆◆
【名前】 神崎眩耀
【性別】 男
【種族】 人間
【レベル】二
【クラス】ヒーロー(冒険者)
生命力 二百五十/二百五十
魔力 百九十七/百九十七
筋力 百
氣力 五十
知力 四十九
賢力 四十八
速力 百
運 百
【次のレベルまでの必要経験値】三百
◆◆◆
生命力が二百五十になった。これはこれで異様な数値だよな。魔力も百九十七ある。
魔力がこれだけあれば魔法は使いたい放題だぜ。まだ覚えてないけどさ。
……って、そうでもないか。消費魔力五とかの魔法だったらそこそこ使えるけど、物によっちゃ百オーバーの魔力を要求してくる魔法もあるって聞くしな。
【筋力・氣力・速力のステータスが各二十を超えたので【剣術】を習得しました】
【知力・賢力・速力のステータスが各二十を超えたので【魔術】を習得しました】
「こういう隠しスキルもあるのか!!」
まだスキルポイントを使ってないからスキルとかは剣術と魔術以外は使えないみたいだね。魔法もポイントを振るまでお預けだ。
スキルポイントは百二十八もあるから色々取り放題だけどね。
クラスに合わせたスキルを選びたいんだけどって、なんだこれ?
「えっとクラスは、ヒーロー? 英雄とは違うのか?」
英雄ってのは四色でたまに出る超レア職種。身体強化系と攻撃力に優れた前衛の職で赤・青・黒・銀の組み合わせが一番多いんだったかな? いぶし銀と呼ばれるカードだ。
ただ、俺に表示されてるヒーローってのとは別物の筈。獲得できるスキルが完全に別だしな。
しかもタップすると、【本人以外には冒険者と表示される】って出るけど、冒険者って中位クラスの平凡クラスなんですけど!!
「魔法職だったらここでスキルを覚えて威力とか使い勝手を試したかったけど」
とりあえずこのヒーローって職が分からない。
習得可能なスキルの中に聞いた事もないようなのがいくつもあるし、とりあえず寮に戻って調べてからだ。
……これだけポイントがあれば適当に振ってもかなり強いだろうけど、貴重なスキルポイントはよく考えて振りたいからね。
「現在時刻は夜の十時。こんな過疎ダンジョンだと受付にはたぶん誰もいないかな?」
ポーターを使って一階に戻ると、予想通りに本日の営業は終了しましたって看板が置かれていた。
いや、二十四時間営業のダンジョンも多いんだけど、流石にここみたいな過疎ダンジョンにそこまで人員なんて配置しないか。
こんな予感はしてたしな。
常夜灯みたいなのが設置されてるから真っ暗って訳じゃないけど、こんなに静かで薄暗いとちょっと不気味だよね……。
「バスはもう動いて無いけど、このダンジョンからだったら走っても帰れるからいいか……」
とりあえず入手したレッサーゴブリンの魔石は明日換金するとして、今日はこのまま帰るしかない。
ステータスが上がってるから徒歩で帰っても多少は楽だろう。
晩飯を買う金が心許ないけど、帰りに深夜まで営業してるスーパーで買えば何とかなる。
ん? あまり金がない?
「という事はアプリの購入も明日以降か。チッ、命拾いしたな」
無料であのクズアプリの代わりを落としてもいいんだけど、どうせだったらいい物に変えたいしね。
というか、なんか異様に頭が冴えるし、身体も軽いんだけど……。
「って、はやっ!!」
少し力を入れただけで物凄い加速!! っていうか、ステータスの影響ってここまで出るのか!!
確かに速力を百にする奴なんていないだろうしな。
「これ、力加減とかも考えないとえらい事になるぞ。石とか簡単に握りつぶせるし……」
普通の人間が筋力換算で最大十八とか言われてるからな。
俺は百にあげたから、既にその五倍以上の力がある。ゴリラどころの話じゃないぞ。
「なんとなく筋肉も付いた気がするし、こんな所にも影響するんだな」
明日……、学校でいろいろ気を付けないといけないな。
俺と同じ様にレベルが上がった奴は、同じ様に手に入れた力に戸惑ってるかもしれないけど……。
俺はまだ魔法の方は試してないけど、そっちの方も衝撃だろうしね。