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第八十九話 解放!! 温泉ダンジョンに囚われていた人たち


 温泉ダンジョン八階のフロアボス、光雷獣(ライジング・ビースト)


 確かレベル百二十を超える魔物で、少なくともこんな場所でフロアボスをしていていいような魔物じゃない。って、絶対おかしだろ!!


 いや、こんなのがいるの知らずに足を踏み入れたら確実に死ぬよ。


光雷獣(ライジング・ビースト)ですか……。初めて見ました」


「そうだろうね。こいつは魔素溜(まそだまり)辺りから出てこない限り、滅多にお目にかかれる魔物じゃない」


「これも罠ですか?」


「だろうね。本当のフロアボスはなんだったのやら」


 部屋の状況とか雰囲気から考えて、メカゴーレムっぽい気がするんだよね。


 部屋の隅にあるメカメカしい設備とか、どう考えてもメカゴーレムの強化パーツだろうし。


「さて、取り合えずコイツを倒すよ」


「お気をつけて……。って、はやっ」


「もう首を斬り落としましたね。光雷獣(ライジング・ビースト)も光の魔獣って呼ばれるくらい速いのに……」


「それでもよけようと反応したからね。やっぱりこんな所に居ていい魔物じゃない」


「あ、レベルがカンストしました」


「私も……」


 このレベルの魔物を倒せば、流石に残り五つ分の経験値位埋まるか。


 レベルアップに必要なあれだけの膨大な経験値が入るのもすさまじいけど、あの光雷獣(ライジング・ビースト)の元々の経験値が凄いうえにレベル差ボーナスがデカいんだよね。


 ホント、何度も言うようだけど、元々こんな所に出るような魔物じゃないしな。


「レベルリセットをしました~」


「私もです。でも、これでラッキーダイスの効果は切れたみたいです」


 元々レベル五個分しか効果が無いからね。


 流石に四色とか五色になるとラッキーダイスの恩恵がデカいんだよな……。


 最低十六と最大九十六の差はマジで大きい。ラッキーダイスが発動してれば、その九十六が保証される訳だしね。


「例の飴……、ん? ちょっと色が違うのが混ざってるな」


 ラッキーラビットのお礼ってフォルダの中にラッキーダイスの飴がいくつかあるんだけど、玲奈(れいな)達にあげた飴の外に色違いの飴が……。


 えっと、スペシャルラッキーダイスの飴? 使用回数一回限りで、レベルカンストまで効果が継続……。


 マジか!! あの飴の上位バージョン!! ってこんなの貰えるくらいラッキーラビットが喜んでくれてたの?


 確かに、ラッキーラビットって意外にダンジョン産の野菜とかをあまり好まないというか、ダンジョン外で獲れる野菜や果物なんかを喜んで食べる傾向があるんだよ。それでおれが京野菜とか地方限定の野菜なんかを仕入れて倉庫に収めた時は、ほんとものすっごく喜んで食べてたしな……。


 地域限定の金時人参とか大好物なんだよね。あとは、割と有名な牧場の新鮮な牧草とかさ。量は食べないけど、偶に出すと喜ぶ的な感じ?


「スーパーラッキーダイスが発動する飴があるんだけど……」


「一応効果を聞いてもいいですか?」


「レベル一からカンストするまで六固定。ただし使用制限で一回限り有効」


「それがある事を知られたら死人が出ますよ。確実に……」


 覚醒したらラッキーダイスは発動しっぱなしになるから、問題はそこに至るまでなんだよな。


 このスーパーラッキーダイスが発動する飴はあと一回レベルリセットを残している上に五色の桜輝(さくらぎ)さんには凄まじい恩恵となるだろうね。


「俺には不要な物だし、二人とも食べといてもらえるかな?」


「ホント、普通の飴玉でも渡すように……」


「私はありがたく頂いておくね。もうレベルリセットできないし、六固定は大きいから」


「そうですね。私も貰っておきます」


 これでしばらく二人の能力が上がりやすくなる。


 桜輝(さくらぎ)さんは間違いなく覚醒するだろうけど、あれでも玲奈(れいな)はギリギリの筈なんだよな……。


「ステ振りが終わったら部屋から出るよ。たぶんそこで待ち構えてるんだろうし」


「魔族ですね」


「このダンジョンをこんな状態にしてる元凶さ」


 ここにいた光雷獣(ライジング・ビースト)もそいつの仕業なんだろうしな。


 俺じゃなかったら死人が出てるぜ。


◇◇◇


 九階へ続く転移用ポーターの先で待ち構えていたのは、ちょっとケバイ女というか魔族だった。魔族って事を考慮しても肌の色はものすっごく悪いし、まるでマネキンか何かが動いているみたいだった。というか、そういうカラクリか?


 その魔族さんはまさか無傷で出てくると思ってなかったのか、俺たちの姿を見て割と驚いてるみたいだけどさ。


「まさか光雷獣(ライジング・ビースト)をそこまで簡単に倒せる冒険者がいるとは思いませんでしたわ」


「ああ、あの獣をそこで遊ばせてたのはあんたか? で、元々いたフロアボスはどうした?」


「あのガラクタは光雷獣(ライジング・ビースト)のいい玩具でしたわ。十回ほどリポップした後、なぜか出てこなくなったみたいですけど」


 フロアボスの資格を奪った?


 そんな事が可能なのか? それが出来るんだったらフロアボスをより強力な魔物への切り替えが可能になるし、そんな事をされたらダンジョンの攻略難易度が全然変わってくるんだけど。


 それにしても、こいつが魔族なのは間違いないんだろけど、こいつはそこまで強いのか?


 おそらくティムとか名乗ってたあいつの方がはるかに強い筈……。


「お前が魔族なのは分かっているが、聞きたい事がふたつある。このダンジョンの冒険者や一階にいたダンジョン協会の職員。彼らは生きてるのか?」


「あら。アレに気が付きましたの」


「気が付くさ。彼らはよく言って半死人。ただ、死人にしては状態がおかしいし、生きているにしては精気というか覇気が無い」


 ホントにどう表現したらいいのか悩む状態なんだよね。


 ゾンビやグールの様なアンデッドでもない、けど生きてるっていうには弊害がある。


「闇魔法、マリオネット。このダンジョンに存在するのは、生きながら人形に変えるこの魔法の産物。特殊なお人形さんって感じかしら?」


「という事はあの状態でも一応生きている? で、そのマリオネットとやらはあれで全部なのか?」


「ええ、この後三つ増える事になりますけど」


「残念ながらそれは無いぞ。探してた人は見つからなかったけど、お前にはここで消えて貰う」


 流石にこの状況でこいつに降伏勧告なんてしない。


 この場で殺して、おかしな闇魔法に囚われてる冒険者たちを助けないといけないしな。


「あれ? わたしに勝てるとでも?」


「ああ。その程度の魔族だったら殺した事もあるしな」


 ……ただ、こいつの余裕な態度は何かわけがある。


 魔族だから肌の色が悪いと思ってたけど、もしかしてこいつもゴーレムか何かなんじゃないか?


 魔族独特のぬるっとした黒い気配。


 へその上あたりが異常に濃くて、それ以外の場所は結構薄い気がする……。


 なるほど、そういうカラクリか。普通は喉を狙うし、それ以外の場所だと頭だ!!


「かかってきませんの?」


「いわれなくても……、これで終わりさ」


「っ!! どうして正確に……」


「それがあんたの本当の姿って訳か。ずいぶんとコンパクトじゃないか」


 全長十センチ程度の小さなフィギュア。


 その姿こそがこの魔族マリオネットの本体で、ちょっとケバメなあの姿は魔力で作り上げた偽のボディだったって訳だ。


「この本体は禍々しき魔素の濃縮体。傷をつける事など不可能なはず」


「この武器は特別製だしな。その程度の魔素だったこの通りさ」


「やっ……、やめっ!!」


「お遊びが過ぎたなクソ魔族!! 人の人生を弄ぶ様な奴はそろそろ退場して貰おうか」


 魔道展開型特殊太刀を展開させ、高出力な魔力の刃で魔族の身体を焼き尽くした。


 なんというか、今までの奴より血とかが飛び散らない分マイルドというか、これだったら配信してもよかったかもしれないな。


 とはいえ、この後にやらなきゃいけないことが山ほどあるし、流石にそのあたりを流す訳にはいかないんだよね……。


「あっけなかったですね……」


「自分の能力を過信して侮りまくってたからね。実際に戦ったらこいつは大邪竜ファフニール並みに厄介な敵だと思うよ。あれだけ小さかったし、もしかしたら攻撃力に特化した別ボディもあったのかもしれない」


「そんなになんですね……。でも、経験値は入ってませんよ」


「ああ、流石に今はレベル差が開いてるから、俺が倒しちゃうと二人に経験値は入らないか」


 ふたりともさっきレベルリセットかけてるから、レベル一の状態だしね。


 レベル差が四十九あるし、流石に俺が倒した分の経験は入らない。


 仕方が無いけどさ。


「さて、上に戻って冒険者たちを元に戻そうか。術式は一応解析したから、パーフェクト・ヒールで元に戻せるよ」


「そんな事も出来るんですか?」


「ある程度魔法作ってると、いろいろできるようになるよ」


 普段俺がつかってる魔法。治癒系以外はよく似た何かにしか過ぎないからね。


 ロックバレットクラスの魔法でも俺が使おうとすると警告が出るし、結局使ってるのは俺が構築した似た感じの別の魔法にしか過ぎないんだよな。


 おかげで今回みたいな時には重宝するけど。


「魔法って作れるんですね……」


「魔力を正しく扱えるようになるとね。さて、助けに行こうか」


 とりあえず六階にいた冒険者から元に戻していく。


 みんな驚いているというか、なんで自分がこんな場所にいるのかさえ覚えてないみたいだね。


「あんたが助けてくれたのか。すまないな」


「とりあえず全員で一階を目指そう。途中にいる冒険者は全員助けるよ」


「了解。助けた奴はこうしてかたまりゃ何とかなるだろ」


「みんな装備が酷いからな……。マシなのはツルハシだけか」


 どのくらいここにいるのかは知らないけど、全員装備がものすっごい事になってる。


 年代物でボロボロの装備に、多少マシなのは毎日採掘に使ってたツルハシだけ。


 ダンジョン内では錆びたりしないけど、元々ボロボロな武器はボロボロなままだしね。


「何故か魔物が逃げていくから何とかなるが、何とか無事に上がれるかどうかだな」


「そうだな。で、なんで魔物が逃げるんだ?」


「なんでだろうな……」


 そりゃもう、全力ダッシュだよ。奇妙な亜人系の魔物が武器をぶん投げて全力で反対方向に向かって走り去っていくし、相変わらず虫タイプの魔物は死んだフリだよ。


 虫タイプ以外でも死んだフリが得意な魔物は視界の端の方で死んだフリしてるけど、絶対に視線を合わせようとしないから偶に動くんだよね。


 流石に周りの冒険者も笑って見逃してるけど……。


「この調子だと、何とか全員無事に上まで戻れそうだ」


「こっちから手出ししない限り大丈夫だろう」


「そうだな。こんな装備で手出ししようなんて馬鹿はいないだろう」


 武器は役に立たないし、ツルハシでぶんなぐってもそこまでダメージは期待できない。


 何故かみんな割といいツルハシを装備してるんだよね


 あの魔族、ツルハシに拘りでもあったのか?


「無事に一階まで到着!! でも、まだやる事がるんだよな」


「たすかった~」


「マジ感謝するぜ」


「パーフェクト・ヒール!!」


 この階にいる冒険者とダンジョン協会の職員たち。パーフェクト・ヒールの効果で全員が肌に生気を取り戻して闇魔法の視界から解放されていく……。


 ついでにここまで登ってきた周りの冒険者もパーフェクト・ヒールで回復してるけどね。


 特にダメージは受けていない気がするけどさ。


「あれ? わたし今まで何を……」


「おいみんな!! ダンジョンリングのインベントリを確認してみろ!! それとダンカカードもだ、凄い事になってんぞ」


「ダンカが一千万ダンカも溜め込まれてる……」


「俺のダンジョンリングのインベントリにはレア鉱石が山ほどあるぞ」


「あ~、いつからあの魔族の闇魔法に囚われてたのか知らないけど、その間に稼いだお金はダンカカードとダンジョンリングのインベントリに貯め込まれてたのか」


 個人が獲得した財貨は全部個人のダンジョンリングに保管してくれていた。その点に関してはありがたいけどさ……。


 今から無一文で再建を始めるよりはマシだろうし、知らないうちに何年も稼いだ額が突然目の前に出されると驚くよね。


 さて、ダンジョン使用者のリストと照らし合わせて、ここにいる冒険者の身元を確認しないと……。


「これで全員ですね……。一番長い方で十五年近く闇魔法に囚われていたんですね……。確認できる限りですが」


「半死人状態だったんで加齢は無いみたいですが、十五年ってのは長いですね」


 そのひと十五年分の稼ぎが貯まってる状態なので、ダンカカードの残高を見て固まってんじゃん。


 そっか、半死人状態だと生活に必要な金なんて掛からないから、独身の冒険者だったらすっごい額が貯まってるよな。


「おおおおおっ、ダンカが億超えてんぞっ!! いいのか? これ、ほんとに俺が使ってもいいんだよな?」


「状況から考えて、魔宝石とかレア鉱石以外の採掘物は売りに出してたみたいだね。ここって割と魔宝石の原石も獲れるんだな」


「レア鉱石も凄いぞ。こんなに市場に流れたら大混乱だろう」


「地下五階くらいまででもレア鉱石は一日に入手できる量が米粒ひとつくらいだが、それが十年分くらいあるからな」


 毎日二粒くらい入手できたとして、十年あれば一合のカップいっぱいの鉱石が貯まる。


 それだけだと剣一本に少し足りないが、地下五階までだったら仕方がない。


「あの、これをお礼に……」


「いえ、それは皆さんが頑張った証です。今から生活の再建もしないといけませんし、お金に変わる商品は持っておいた方がいですよ」


「しかし」


「何かが欲しくてこんな活動をしてる訳じゃありませんし、報酬はもういただいてますよ」


 あの魔族の首をな……。


 玲奈(れいな)達にはスーパーラッキーダイスの飴玉で十分だろうしね。


「おおっ、すげぇ!! あそこにいるの菅笠侍だぜ!!」


「俺初めて見たよ。って、巫女さん増えてね?」


「今度から猫巫女さんに加えて、ウサギ巫女さんが増えたんだ。そのうち配信するからよろしくね」


 新しくダンジョンに入ってきた冒険者たちが俺達に気付いたみたいだ。


 運が悪けりゃ、彼らも闇魔法にとらえられてたんだろうな……。


「これからどうするの?」


「ん~、せっかくだし今日は近くの旅館に泊まって、明日また攻略する?」


 バーベキューは明後日だし、明日戻れば問題ない。


 最下層まで潜って軽く採掘する程度だったら午前中位には終わるし。


 今からもう一回潜ってもいいんだけど、この状況だと潜りにくいしな。


「賛成!!」


「旅館か~。でも大丈夫なの?」


「ああ、身バレか。……ん~、やっぱりやめておく?」


 流石に旅館を利用する時は本名書かないといけないし、そのタイミングでこの衣装を脱ぐかって問題がある。


「ちょっと待ちな。恩人がこのまま旅館に泊まらずに帰るなんてさせる訳にはいかないぜ」


「そうだな。……あそこがいいんじゃないか? 隠し旅館『迷宮』」


「迷宮か!! 確かにあそこだったら身バレの心配をしなくて済む。……おい!! 誰かあそこの予約を頼んでくれないか!!」


「お、俺が行くよ。一番話が早いだろうし」


 あの冒険者さん、確か十年位闇魔法に囚われてた人じゃなかった?


 十年ぶりに外に出るとかなり混乱すると思うんだけど……。


 待つこと三十分。どうやら何か動きがあったみたいだね。


「あいつから連絡がきた、無事に宿泊は大丈夫みたいだぜ。ちょっとわかりにくいが隠し旅館『迷宮』の場所はここだ」


「えっと、このダンジョンがここで旅館の場所がここですか。……ありがとうございます」


「いいって事よ。あんたがここに来なけりゃ、俺達は永遠にこのダンジョンの中だ」


「こんなことしかできねぇが、あんたはお礼を一切受け取らないらしいな」


 ああ、俺の事を知ってる冒険者たちから聞いたのか。


 ヒーローってそういう存在だしね。


「いや、すっごく助かるよ」


「あそこは飯も旨いからな。楽しんでくれ」


 隠し旅館『迷宮』か。


 いったいどんな旅館なんだろうね?


 ……個室を三つも取れるかどうかも問題だけどさ。




読んでいただきましてありがとうございます。

楽しんでいただければ幸いです。

誤字などの報告も受け付けていますので、よろしくお願いします。

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