第八十八話 異様な雰囲気のダンジョン
今回俺達が配信に利用するのは九州の大分にある温泉ダンジョンに決めた。と言っても諸事情あって最初にお試しで潜る時には配信を行わない事にしている。
魔族対策とういうか、もしかしたら魔族をプチっとしなきゃいけないかもしれないし、配信だとモザイクがかけられないからね。
さて、温泉ダンジョンといえばこの辺りは昔から温泉街として有名だし、泊りがけで来る場合でも宿に苦労する事はまずないって事だね。
冒険者として活動してると割と問題になるのがこの遠征先での宿泊問題なんだ。
移動手段も結構問題だけど、ダンジョン周辺の旅館なんかは意外に冒険者お断りの宿も多い。
チェーンのホテルなんかは何処でも受け入れてくれるんだけど、割と粗暴というか態度の悪い冒険者も多いから冒険者の宿泊自体が断られる事も多いって話だ。
俺みたいに菅笠侍姿が有名で、どんな活動をしてるのか知られてると泊めて貰えるらしいけど、偽物だってわかったら即叩き出されるって聞いてたりする。
この辺りはチェーンのホテルの数が異常に多いから、流石に泊まれないって事は無いって話だけどさ。
「せっかくだから旅館を利用して地元の美味しい料理とかを楽しみたいって人も多いのにね。ホテルの料理が悪い訳じゃないけど、流石にチェーン店より食事に力を入れてる旅館の方が上って話も聞いてるし」
「仕方ないと思うよ。それだけの事をしてる冒険者も多いし、しつこく値引きを強要する人も多いって聞いてる」
「その上、旅館で夜遅くまで騒いだり、温泉とかに入って湯舟を汚したりする人もいるらしいよ」
ダンジョンに数日潜ると汗まみれだしね。
丁寧に身体を洗ったつもりでも汚れを落としきれてない事も多いし、不可抗力な部分もあると思うんだ。
ただ、ここで問題になる奴らはそんなレベルじゃなくて、身体を洗いもせずにいきなり湯船に飛び込む馬鹿野郎なんだけどさ。
数日ぶりに湯舟を見たらテンション上がるのは理解できるけど、そこはやっぱり常識を持って行動してほしい。
他の冒険者にも迷惑が掛かるし。
「そういえばさ、その菅笠の販売が中止になってるそうだよ」
「え? マジで!!」
「このまんまのデザインの巫女装束や猫仮面と猫耳も。玲奈のウサギ仮面とウサミミは流石にまだだけどさ」
それは今回から使うようになったからね。
俺の使ってる菅笠もそうだけど、巫女装束も割と種類があるから猫巫女と同じデザインだけ規制されたらしい。
桜輝さんは猫耳巫女だったから、話し合いの結果で玲奈はかわいいウサギの仮面とウサミミを付けて貰う事になったんだ。
桜輝さんたちが使っている巫女装束は俺が錬金術スキルで作った物だから、闇魔法無効は当然としていろんな能力をプラスしてあるよ。
今回は本当に何重にも闇魔法対策を施している。
掛かってるのは俺以外の誰かの命、万に一つの事態もあっちゃならない。
「偽者対策らしけどさ、それだけ菅笠侍の存在が世の中に周知されてきたって証拠なんだ」
「本当に聖人君子として名を轟かしていますしね。流石に偽者も減ったそうですけど」
「偽者が減るのはありがたい。ほんと、毎回本物かどうか確認されるのが面倒なんだよな」
いつも使ってる魔道展開式の太刀を見せたら流石に一発で本物だと理解されるけどね。
あのレベルの武器を持つ冒険者なんていないし、偽者はやっすい太刀でそれらしくしてるだけだから……。
「今までの功績だけでも国から表彰されそうな勢いだしね。正体はばらさないの?」
「面倒な事態になる未来しかない気がする。菅笠侍の正体は謎のまま。それでいいじゃん」
別に何かして欲しくて人助けしてる訳じゃないしね。
ヒーローってのはそんな存在だって、親父を見てたら理解できるしさ。あの親父も、誰を助けても一切報酬を要求しないんだぜ。
支援ヒールとかはしないけど、絶対に勝てそうにない魔物を引き受けたりはしてるし。
「その精神が本気で人なのか疑われる所以よね」
「そのうち何処かに祀る神社とか出来そう」
「ま、その話はまた今度で……。さてと、受付に行きますか」
「了解」
ダンジョン使用料の掛からないダンジョンでも利用する際には必ず登録する必要がある。
俺みたいに菅笠侍みたいな二つ名でもいいし、本名で登録する人もいる。
あまりにも長い期間戻ってこなかった時に死亡扱いにするかどうかの判定とかに使われたり、今ダンジョンを何人くらいが利用してるかって状況の把握に使われたりするんだよね。
魔力溜から強力な魔物が出た時は、この受付でダンジョンの利用を止められる時もあるって話だ。
「いらっしゃいませ。ダンジョンの利用ですか?」
「はい。三人パーティで利用します」
「了解しました。代表は菅笠侍さんですね」
「はい」
「……登録を完了しました。良い探索を……」
ダンジョン協会の職員だけど、受けつけの人の表情とか反応にかなり違和感を覚えた。
いきなりこれか……。
やっぱりここはかなり魔族の侵攻が進んでるって事で間違いないみたいだね。
玲奈達も流石に気が付いたみたいだ。まあ、ここまであからさまにおかしけりゃすぐに気が付くよな。
さて、何処で仕掛けて来る事やら……。
◇◇◇
この温泉ダンジョンは五階まではよくある鉱山型ダンジョンで、驚く事にここは地下二階の浅い階でも割と多くの冒険者が淡々と壁に向かってツルハシを振るい続けてたりしている。
一応邪魔にならないように少しは広くなってる場所を掘ってるみたいだけど、そんな所をいくら掘っても石以外は何も出てこないだろうに……。ん? 出て来るのか?
最下層は確か二十階。誰もそこまで下りたことは無いらしいけどさ。
「流石に不気味だよね……」
「やっぱり気が付くよな。あの受付の人もそうだけど、この辺りの冒険者も全員まともな状態じゃない」
「だよね~。菅笠侍が来たのにあの態度は無いし、本物かどうかの確認もしないなんて……」
「それで、今回は事前の話し合い通りに配信中止でいいの? この姿なのに……」
「流石に流せない内容になりそうなんでね。この格好にしたのは、こっちの方があいつらを釣りやすいからだし」
はっきりいえば灰色カードの俺より、菅笠侍の方が魔族を呼び込むにはちょうどいいんだよね。幹部を倒してるし……。
こうしてみると配信目的とはいえ菅笠侍で活動を始めたのは大正解だった訳だ。
「それでこの後どうするの? この辺りで襲って来るのを待つ訳?」
「いや、当初の予定通りに最下層に向かって攻略するよ。下までどうなってるのか確認したいしね」
「ん~。でも、ほんとに大丈夫かな?」
「この温泉ダンジョンも攻略されてないダンジョンだしね。この状況で攻略されてたらそれはそれで怖いけど」
魔族に支配されてるダンジョン。
どこで仕掛けて来るのか知らないけど、ここに足を踏み入れた冒険者の多くが魔族に襲われてるって事で間違いないだろう。
全員って訳じゃなさそうだし、どういった基準で魔族が獲物を選んでるのかは知らないけどさ。
「冒険者の数が減ってきましたね」
「流石に地下七階まで来たら魔物が強くなるし……。で、気が付いた?」
「はい。魔物が冒険者を襲わないんですよね……。たまに戦闘はあるみたいですけど、その……、あれは戦闘と呼んでいいのか」
「そこだよな……。ここにいる冒険者は既に魔物に敵として認識されていない。起こってる戦闘も見世物って感じだし」
これだけでもかなり異常な事態だ。
魔族が何処までダンジョンの魔物を支配できるのか知らないけど、この階層にいる魔物程度だったらどうにでもできるって事だしな。
って、このまま地下七階を探索をしていると見覚えのある部屋が姿を現した。って、これは。
「フロアボス用の待機室? しかも転移用ポーターがこんなにあるって事は地下八階が丸ごとボス部屋なのか!!」
いや、流石にこの情報が流れてないのはまずいだろ。
今まで攻略されてこなかった理由なのかもしれないけど、普通は珍しいフロアボスなんてダンジョン情報の最初に知られてもおかしくない事だよ。
こいつがいるかどうかでダンジョンの攻略難易度は変わるし、潜る際の準備なんかもかなり話が違って来るんだから。
俺とかは別に変らないけど、普通は回復薬の量とか数がかなり変わってくるからね。
魔力回復薬が少しは安くなったとはいえ、フロアボスがいるとなるとそれなりの数が必要だしさ。
「当然攻略していくけど、準備は良いかな?」
「今日の装備だったら問題ないよ」
「邪魔にならないように後ろに下がっておくけど、巻き込む系の攻撃はやめてよね」
「相手次第だけど、一太刀で倒すようにしてみるよ」
情報が何もないし、相手がどんなタイプかで攻撃方法は変わるからさ。
龍種だと楽なんだけど、厄介なのはメカゴーレム系?
ここはこの階まで鉱山型ダンジョンと遺跡型ダンジョンの複合型だし、メカゴーレム系が出る可能性も高いんだよね……。
「それじゃあ行くよ」
「了解!!」
三人で飛び込んだ転移用ポーターの先で待ち構えていたフロアボス。
それは竜種でもメガゴーレムでもなく、かなり珍しい雷獣系の魔物で光雷獣と呼ばれる強敵だった。
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